「あ、神田先輩こんちはー。」
「よう、山本。」
今週はテスト期間で、先週から部活が休みになっていて、珍しい人物と遭遇した。彼女、山本ミキはソフトボール部に所属していて、一年生のホープであるとか。
「先輩、部活なくて退屈っすよ。」
「世界は平凡。未来は退屈。 現実は適当。 生きることは劇的なのだろうか。」
「あたしは現状で退屈しているんすけどね。」
「いやすまん。ところで勉強の方は進んでいるのか。」
「えっ、あははは。」
「進んでないのか。山本はやれば出来ると思っていたんだがな。」
「始めの方はいいんですけどね。だんだん集中が切れて、素振りや投球の練習したくなっちゃって。」
「そんなんじゃ将来困るぞ。」
「はい、はい。わかってまーす。そんなことより、先輩。最近、うちのクラスに転校生が来たんっすよ。」
「それで。」
「あ、興味あります。」
「ないけど、話したいんだろ。」
「まあ、はい。それでその転校生ってのが、獄寺って言う名前で、イタリアから帰ってきたらしく、綺麗な銀髪をした女子の帰国子女、見た目はとてもクールでかっこ良かったんです。でも自己紹介のときすごく目つきが悪くて、なんだか誰かを牽制してる目でした。その後なんか沢田さんの机を蹴っ飛ばして、とっても感じわるかったっす。」
「はあ。」
「ところがその翌日なんっすけど、沢田さんにだけ急に態度が軟化していて、十代目とか沢田さんのこと呼んでいるんです。」
「十代目ってなんだ、歌舞伎の関係者なんだろうか。もしかして極道沢田は舎弟でもできたんだろうかね。」
「さあ、その辺はよくは知らないっすね。で、それに関連することで、今日は一足先に理科のテストだけ帰ってきたんですけど、この時の担当が例の根津先生で、いつものように点数の悪い奴を蔑んでいたんす。そこに、ちょうど遅刻してきた獄寺が遅刻してきて、沢田の悪口を聞くや否や、根津に食って掛かったんですよ。その場はどうにか収まったんすけど、今ふたりとも校長室に呼び出されてクラスのみんなが退学じゃないかなんて話しているところっす。」
(東大出身だとする、一教員のままなんてある意味すごい経歴だよな。)
「なんか言いました。」
「いや何でもない。」
ドーン、ドーン。
「グラウンドが騒がしいな。」
「行ってみますか。」
「そうだな。」
「あれが例の転校生とまた沢田か。」
「え、煙の中見えるんすか。」
「まあな。」
「何をやっているんすかね。」
「さあな。」
「あ、先輩、獄寺に見とれているんですか。」
「そんなことはないが。」
「本当ですか。まあ、いいっす。今日はこれで帰ります。」
「おう、じゃ。気をつけてな。」
この日学歴詐称で根津先生は教師を解任、沢田達は退学を免れたのだとか。あれだけグラウンドを壊したのに退学じゃないのかという感想。
後日。
「ちょっと待てよ。」
「いやっす。もう我慢できないっす。」
「ちょ、そんなことするな。」
「でも。」
「おい、腕を折ったくらいで一生ソフトが出来なくなるわけじゃないだろ。」
「それだけじゃないんす。」
「なに、なんの。」
「先輩に関係してるんす。」
「いや、そうだろうけど、だからって学校の屋上ですることじゃないだろ。」
「これがあたしの覚悟なんです。」
「しらんがな。」
腕の骨折のために部活を休んでいると聞き励まそうと思い、山本譲を探して最後に屋上に来たのだが、話をしていると山本嬢が急に飛びかかってきた。曰く、もう永久就職するしかないとか。
こいつはどこか頭のねじがおかしい。そも、中学生で結婚は出来ないし、交際期間もなしに結婚ですか。確かに彼女が中学に入学してからの付き合いではあるが、自分はこんなに早く人生の墓場とやらには行きたくないです。
とりあえず今は彼女の片腕が折れているために押さえ込んでいられるが、何をしでかすかわからない。彼女の都合良く行かない場合に、他の人を大声で呼び自分の社会的終わらせることも出来てしまうかもしれない。仕方なく無力化するために気絶させようとしたところ、何かが近づいてくる。こ、この気配は。
「全力で助ける。」
で、出た、怖い沢田。しかもこっちに向かってくる。拳を振り上げこっちを殴ってきた。とりあえずかわしておく。山本からはなれてしまうが。
「何すんだ。」
「全力で山本を助ける。」
そうだろうけど、自分何もしてないじゃん。暴走しているのは彼女と君なんだけど。
「自分は無実だ。」
解放された山本嬢は多少痛そうにしながらも立ち上がる。
「先輩にはまだ何もされていません。」
「その言い方に非常に語弊があると思うんだが。」
この場をどう切り抜けるか。三十六計逃げるに如かずとは言うが、これは逃げた方がまずい。うまい言い訳を考えるしかない。と今度は山本嬢が沢田を押さえる。
「これはあたしと先輩の問題だから邪魔しないで。」
二人はもみ合いになって次第にフェンス際に移動していく。すると沢田の額の炎が消えた。
「あぶない。」
そう叫んだが手遅れだ。舌打ちをしつつも落ちた二人を追いかける。壁を駆けて一息で二人に追いつき抱いて減速する。靴底がぼろぼろになったが、二人が助かったので問題ないだろう。どうやら混乱しているようなので、自分はこの場に居らず、自殺しようとした山本嬢を怖い沢田が助けたということにしておこう。
「沢田いや、ツナ助かったよ。」
「え。」
「あなたのおかげで命が助かったし、死ぬ気でやってみることの大切さがわかった気がする。ねえ、これからいてくれる。」
「うん、友達ね。」
(なにかもっとあった気がするんだけど思い出せない。)
「おまえ、やっぱり面白いもん持ってんな。」
「それほどでもない。」
「もう一度みせろよ。」
「嫌だ。」
ズガン
「撃つぞ」
「もう撃ってるし。」
「避けただろ。」
「たいしたことではない。」
「...言ってくれるな。」
「この後用事があるから帰るわ。」
「仕方ねえな。チャオ。」
「ちゃおちゃお。」