「まずは彼の手当を頼む。どうやら、最後に飛び降りる際、足を挫いたらしい」
「解りました。枢木さん、こちらへ」
「はい、お願いします」
扇とカレンがネリマダイコンの本拠地へブラックとスザクを連れて帰ると、待っていたのは大歓声の嵐だった。
特に『仮面ライダーブラック』の信奉者である南に至っては、『ブラボー! ブラボー!』と叫びまくってのはしゃぎまくり。
挙げ句の果て、玉城の『こんな時の為に用意しておいたぜ!』というかけ声と共に日本酒の酒樽が現れ、宴会へと突入しかけたが、それをブラックが待ったをかけた。
何故ならば、ブラックは大型ダンプへ飛び乗って以来、気になっていた事があり、それを解決しないまま、宴会気分になど到底なれなかった。
「それと……。君」
「は、はいっ!?」
「突然だが、君に兄弟はいるかね?」
「……えっ!?」
まさか、真っ先に話しかけられるとは思ってもおらず、カレンは焦り戸惑うが、行方不明の兄についてを尋ねられ、戸惑いを増しながら言葉を失う。
本日は水曜日、あのナイトメアフレーム強奪作戦より3日間が既に経過しているが、ネリマダイコンリーダー『紅月ナオト』の行方は依然と掴めていなかった。
カレンは兄の手掛かりを捜そうと、昨日、一昨日と兄が最後に確認された地下鉄線路跡へ行き、ブリタニアの警戒網をやっとの思いでかいくぐり、近づく事に成功したが、そこにあったのは残酷な光景だった。
大爆発があったらしく、地下鉄線路跡は天井を完全に崩落。その線路沿いを東西に約300メートルほどの溝を走らせて作ってしまい、手掛かりを捜そうにも、その現場自体が無くなっていた。
それでも、カレンは兄がきっと生きていると信じていた。何らかの事情で連絡が出来ないだけだと諦めていなかった。
その事実を一時でも忘れようと、今日の作戦参加に志願したが、やはり兄の事を忘れるのは無理があり、皆が先ほど騒ぐ中、1人表情を暗くしていた。
「居ます! 紅月ナオトと言って、カレンの兄です!
俺達、ネリマダイコンのリーダーでもあります! あいつの居所を知って居るんですか!」
「そうか。君達のリーダーだったのか」
「あの……。ブラック?」
そんなカレンに代わり、扇が興奮して応える。
だが、ブラックから返ってきたモノは期待していたモノとは大きく違っていた。
その沈みきった声に嫌な予感を感じ、扇はまさかと考えながらも首を左右に振り、ブラックへ言葉の続きを恐る恐る求める。
「なら、これは君へ渡そう。彼の形見だ」
ブラックはカレンを暫く見つめた後、右腕をシャツの襟首へと入れ、首にかけていたネックレスを引きちぎると、そのネックレスに通してあった指輪をカレンへ差し出した。
そう、ブラックが気になっていたモノとは、あの地下鉄線路跡で息絶えた赤毛の青年の面影をカレンが強く持っているという事だった。
「か、形見っ!? ……だ、だってっ!?」
ソレを引ったくる様に受け取り、カレンは指輪の装飾を確かめて、目を愕然と見開く。
兄のモノで間違いなかった。ドクロを模しており、右眼にサファイヤ、左眼にルビーの模造宝石を填め込んだ指輪。縁起が悪いから何度も捨てろと言ったにも関わらず、決して捨てようとせず、常に兄が身に着けていたモノだった。
だが、『しかし』とカレンは考える。あの日、カレン自身もナイトメアフレーム強奪作戦に参加しており、その目で見ていた。
兄の後を追い、地下鉄線路跡へ向かったバイクの運転手が女性だったのを。その時の衣装から、自分と同じくらいの年齢だとカレンは予想していた。
ところが、目の前のブラックは正体不明ではあるが、明らかに男性。とても女性には見えない。
「ああ……。先日、君達と共に逃走劇を演じたバイクの彼女は私の手の者だ。
彼女から、その指輪を渡される時、強く言われたよ。
自分を逃がす為、彼はブリタニア軍へ果敢に立ち向かい、誇り高く散っていった、と……。」
「お、お兄ちゃん……。」
その視線に察したのか、ブラックが指輪を所有していた経緯を説明する。
たちまちカレンは涙を溢れさせると、指輪を両手で包み持ちながら胸に抱き、その場へ力無く崩れ落ちて項垂れた。
「今更、謝るつもりはない。
しかし、君達へあの作戦を提案したのは私だ。だから、私にコレを持つ資格はない」
「……ブラック」
先ほどとは一転して、暗いムードに包まれる廃工場。
ブラックは先ほど手渡された紅白のテープが貼られた鏡割り用の木槌を扇へ渡すと、スザクが治療の為に向かった大型キャンピングカーへ足を向けた。
******
「相当、手荒い扱いを受けた様だな。
だが、これで奴等のやり方は解った筈だ?
枢木スザク……。どうして、そもそも貴様がブリタニア軍に居る?
父の無念を晴らしたくはないのか? 悔しくはないのか?
もし、それを望むなら、私の仲間となれ! お前がそれを望むなら、私は力を貸してやろう!」
ブラックはネリマダイコンの移動本拠地である大型キャンピングカーの中へ入って驚いた。
外装は古く、所々を錆び付かせていたが、それは偽装。内部は豪華絢爛な二階建て。
普通に立っていてもストレスを感じさせず、天井は頭1つ分の余裕が有り、出入口から見て、右側にバス、トイレ、キッチン。左側の広々としたダイニングは、180度回転した運転席と助手席が内側へ向けられて、両脇に柔らかなソファーがあり、10人以上は軽く座れる。
当然、そのまま目の前の階段を上って、二階の様子も知りたくなってくるが、他人の家を勝手に歩くはさすがに不作法。
ブラックは湧いてくる好奇心をグッと我慢して、ダイニングのソファーで井上の治療を受けているスザクの様子を見守りながら説き、スザクへ右手を差し出した。
「申し訳有りません……。
せっかく助けて貰いましたが、やはり軍へ戻ろうかと考えています」
「何故だっ!? 死ぬだけだぞっ!?」
「そうかも知れません。でも、僕に残された手段はこれだけなんです」
「残された手段だとっ!? 何の事だっ!?」
だが、その手を受け取らず、スザクは首を左右に振り、ブラックが思わず激昂して叫ぶ。
真実、ブラックの中の人はスザクの気持ちを全く理解する事が出来なかった。てっきり、自分と心を同じくして、ブリタニアを憎んでいるとばかり考えていた。
ところが、現実は逆だった。ブラックの中の人はスザクが逮捕されたと知った時もショックだったが、それ以上にスザクが名誉ブリタニア人となった上にブリタニア軍へ入隊している事実がショックだった。
『僕は許さないぞ!
ナナリーを泣かせたブリタニアを絶対に許さないぞ! 僕がブリタニアをぶっ潰してやるんだ!』
約10年前のあの時、京都駅で日本とブリタニアの開戦を知り、恐怖に震える自分の手を握り締めて、言ってくれたあの言葉は嘘だったのか。
例え、ブリタリアどころか、世界中が敵になったとしても、スザクだけは絶対に味方で居てくれるとばかり思っていた。差し出した手を受け取って貰えない現実が信じられなかった。信じたくなかった。
「ずっと捜している人が居るんです。子供の頃、分かれ離れになった女の子を……。」
「っ!?」
しかし、スザクが自虐的な笑みを漏らしながら、そう弱々しく告げた途端。
ブラックはマスクの中で目をこれ以上なく見開き、心臓を痛いほどにドキリと高鳴らせると共に憤りも、何もかも、全ての感情が吹き飛び、頭が真っ白になった。
「今まで色々と手を尽くしました。
形振りを構わず、枢木家の力だって使いました。
だけど、見つからない。彼女がブリタニア人のせいか、見つける事が出来なかった。
だから、僕は家も、立場も、全てを捨てて、名誉ブリタニア人となり、軍へ入ったんです。
勿論、名誉ブリタニア人の出世が難しいってのは知っていました。
でも、僕はそれに頼るしかなかった。
いつか、部隊を動かせるくらいに出世して、権力を握れば、彼女を捜し出すくらいわけない筈だと……。でも、結果はご覧の通りです。笑って下さい」
スザクは視線を伏して、酷く疲れた様に溜息を深々と吐き出すと、肩も落とした。
だが、そのやるせない態度とは裏腹に膝の上に置かれた握り拳は強く握られており、スザクの哀しみと悔しさ、苛立ちと怒りを物語っていた。
「……枢木さん」
約10年前の戦いを経験している元日本人なら、何処にでもあった有り触れた生き別れ話。
それでも、治療を終えた井上は耐えられなかった。涙を瞳に溜めながら、言葉を何かかけようとするが、名前を呼ぶのがやっと。口元を右手で覆い、泣き出しそうになるのを懸命に堪える。
そう、スザクは同情をされたくて、身の上を語った訳ではないと知るからこそ、絶対に泣いてはいけなかった。
「済まないが、彼と2人っきりにさせてくれないか?」
「はい」
それ故、このブラックの提案は渡りに船だった。井上は外へそそくさと出て行く。
そして、ブラックとスザクがキャンピングカーに2人っきりとなり、沈黙だけが漂う。
一拍の間の後、ブラックがキャンピングカー内のカーテンを全て閉め始め、その音に興味を惹かれるが、スザクは顔を上げられなかった。
命を助けてくれた恩人とは言えども、泣き顔を見られるのが嫌だった。
「笑いません……。笑いませんよ! 笑えるはずがないじゃないですか!」
だが、カーテンを閉めきったブラックがスザクの前へ立って、そのマスクを外した途端。
ブラックとスザクの2人だけしか居なかったキャンピングカーに第三者の声。それも女性の声が現れ、スザクは好奇心に負けて、泣き顔を上げると、その涙を目一杯に溜めた目をこれ以上なく見開いた。
「う、嘘だろっ!? ……ま、また僕はリフレインを吸ったのか?
ち、違うよね? こ、今度こそ、本当にナナリーだよね? ま、間違いないよね?」
約10年間、ずっと探し続けて、追い求めてきたナナリーが目の前に居た。
つい先日、自分の願望がリフレインの影響で見せた幻だとばかり思っていたナナリーが今度は暗視ゴーグルの白黒ではなく、総天然色カラーで目の前に居た。
たまらずスザクはナナリーへ右手を伸ばすが、触れた途端にまた幻となって消えるのではという恐れが湧き、その直前で触れられない。
「はい……。ナナリーです。
ナナリー・ヴィ・ブリタニア、貴方の婚約者です。間違いありません」
そんなスザクの右手を取り、ナナリーは自分の左頬へあてがう。
ナナリーはスザク以上に泣いていた。スザクの独白を聞いている時から泣いており、今や鼻水まで垂らして、100年の恋も冷めてしまいそうな酷い泣き顔となっていた。
「ああっ……。あの時、僕は君を守れなかったのに……。
そんな僕をまだ……。ずっと、ずっと逢いたかった! ナナリー!」
「スザクさん! 私もです!」
しかし、スザクは冷めるどころか、燃え上がって立ちあがり、ナナリーをきつくきつく抱き締めた。
******
「何をしてるんだろうな?」
「そりゃ、説得だろ? 何と言ったって、枢木ゲンブ首相の息子さんだからな」
「でも……。彼、応じるかしら? さっきの様子だと無理っぽいけど」
「無理って、何がだよ?」
井上がキャンピングカーから出てきて、既に約30分が経っていた。
カーテンを閉めきって、男が2人っきりで何をしてるんだと興味津々な南、杉山、井上、玉城のネリマダイコン幹部。
ちなみに、カレンは居ない。その理由は言うまでもなく、兄の死を哀しむ為であり、そんなカレンを慰めるべくイイ男の吉田もこの場を外している最中。
「みんな、集まってくれ!」
キャンピングカーの出入口をずっと見守っていた扇が、ドアの磨りガラスに人影が浮かぶのを見つけて、慌てて号令をかける。
各々、腰を下ろしていたネリマダイコン幹部達や構成員達はキャンピングカー前にすぐさま集合。指示されずとも、作戦前にリーダーのナオトを迎える様に整列する。
「むっ……。
諸君、今回は世話になった。後日、少ないやも知れないが、礼を届けさせよう。
そして、私は恩を忘れない。君達が望むなら、これからも情報提供を続ける事を約束しよう」
圧縮空気の抜ける音と共に開くキャンピングカーの出入口ドア。
ブラックはドアを開けた途端、目の前に整列していたネリマダイコンの面々に驚き、キャンピングカーから地面へ下ろした右足を一旦は戻しかけ、気を取り直して再び下ろす。
そして、左から右へ、右から左へ、一緒に戦ったネリマダイコンの一人、一人の顔を確認しながら挨拶をする。
「あの……。この先、枢木さんはどうするおつもりですか?」
「僕は彼と共に行きます。それが僕の望みだから」
その区切り、井上が堪らず挙手をする。事情を知っているだけに、どうしてもソレが気になっていた。
スザクは隣に立つブラックと顔を見合わせて頷き合うと、ニッコリと微笑み、その穏やかなスザクの様子に一安心。井上は心をほっこりと暖かくする。
「そう言う事だ。
今後、連絡員として、彼を君達の元へ送る事もあるだろう。その時はよろしく頼む」
「皆さん、これからよろしくお願いします」
ブラックも嬉しそうにウンウンと頷き、スザクが頭を深々と下げて、ネリマダイコンの面々も頭を下げ返したその時だった。
ネリマダイコンのリーダー『紅月ナオト』が死んだと聞かされ、この約30分の間、仲間の輪に加わらず、ずっと一人静かに考え事をしていた扇が、何度も、何度も迷いながら決断を下した衝撃の胸の内を明かしたのは。
「待って下さい! ブラック!」
「んっ!?」
「俺達の……。俺達のリーダーになって頂けませんかっ!?」
それは申し込まれたブラックのみならず、スザクも、ネリマダイコンの面々も仰天させる事となり、廃工場に轟き木霊した驚き声は、廃工場外に居るカレンと吉田をも驚かせた。
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『歴史の修正力』と言う概念をご存じだろうか?
とあるSF小説を発端とした『親殺しのパラドックス』から派生した様々な概念の1つである。
例えば、とある世界にて、Aと言う人物が引き金となって、大規模な世界大戦が起きたとする。
その悲劇を回避する為、タイムマシンで過去へ遡り、悲劇を生む原因となったAを生む事となる両親を別れさせて、その存在そのものを消したとしても、今度は別のBという人物が似た過程で世界大戦を起こしてしまい、Bを排除すれば、次はCが、Dが、Eがという様に結局は違った形で世界大戦が起こり、人類が紡ぎ出す歴史は決して変えられないというもの。
つまり、未来を知る者が過去へ遡ると、その時点で世界は大凡の未来を確定してしまうという概念。
さて、これを踏まえて、ある世界とこの世界のここ10年における人類史を比較してみよう。
10年前から4年前までは大した差異は見られない。
強いて挙げるなら、神聖ブリタニア帝国が各国へ仕掛けている戦争の侵攻路とその進み具合くらいだろうか。
ある世界では、神聖ブリタニア帝国はEUを攻めるに辺り、大西洋からポルトガル州を足がかりにして、版図を広げている
この世界では、神聖ブリタニア帝国はEUを攻める前段階として、アラビア海からオマーンを足がかりにして、まずアラビア半島を版図に加えている。
だが、ある世界では1年前に起きた中華連邦での革命。
これがこの世界では革命軍に中華連邦内でも元々犬猿の仲であったインド軍区が味方した事によって、4年前に起きている。
その革命の立て役者は『黎星刻』と呼ばれる若者だが、彼曰く、とあるインド人医師が居なければ、今も病床の身であったらしい。
そして、これを皮切りとして、2つの世界の歴史に良く似た差異が次々と生まれ始める。
ある世界では、ある兄妹の兄が神聖ブリタニア帝国に反逆を企てて、黒の騎士団なるレジスタンス組織を作り、エリア11を舞台に活動を始めた。
この世界では、ある兄弟の兄が神聖ブリタニア帝国に反旗を翻して、聖ミカエル騎士団の団長の座を乗っ取り、EUを舞台に活動を始めた。
ある世界では、黒の騎士団が反ブリタニアを旗印に日本、中華連邦を基礎として、諸国の力を集めて、超合集国を造り上げるが、ブリタニアとの決戦を前にして、指導者を失っている。
この世界では、聖ミカエル騎士団がローマ法王より『十字軍』の称号を賜り、エルサレムと世界解放を旗印に国境の枠を超えて、超巨大軍を造り上げるが、ブリタニアとの決戦を前にして、指導者を失っている。
ある世界では、予想外の第三勢力が現れ、その者達が使用した戦略兵器『フレイヤ』によって、ブリタニアの帝都『ペンドラゴン』が消滅している。
この世界では、開発通称『G弾』と呼ばれる戦略兵器を開発していた研究所が実験の失敗によって、グレートブリテンの首都『ロンドン』が消滅している。
そして、今日という日は、ある世界で『ゼロレクイエム』と一部で呼ばれる儀式が行われたその日だった。
場所はトウキョウ租界、時間は正午近くと条件が合致。十字架、パレード、沿道を埋め尽くす人々、TV中継、黒ずくめ、単騎、剣、符合は次々と重なってゆく。
では、役者はと言えば、重要人物であるナナリーとスザク。この2人が本人で合致する。
ところが、最重要人物たるルルーシュの存在が居らず、犠牲となった者も居ない。これでは『ゼロレクイエム』と成らないのだが、その実は居た。
そう、ナナリーの心の中に居たのである。
ナナリーが元々考えていた黒ずくめの名前『ゼロ』、それこそがある世界で『ゼロ』を演じていた『ルルーシュ』と重なり、ナナリーが自分自身を『ブラック』と呼んだ瞬間、『ゼロ』とイコールで結ばれていた『ルルーシュ』もまた死んだ。
これ等の条件が合致して、この世界での『ゼロレクイエム』は成り、それは世界を欺く革命となった。
その結果、本来であるなら、世界の理から外れているC.Cを除き、関係者が全て息絶えるまで目覚める筈が無かった魔王が遂に目を醒ます。
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「んっ……。ここは……。」
午後9時半過ぎ、他の後宮がまだ煌々と明かりを灯して賑やかな中、今日もアリエス宮だけは既に暗闇と静寂に包まれていた。
そんなアリエス宮の約10年間の毎日が今夜を境にして変わる。それはエリア11にて、『ブラック』と呼ばれる存在が高らかに産声をあげたその時だった。
「……アーニャ・アールストレイム?」
ルルーシュは自身へのし掛かる重さに気付き、思わず頭を起こすと、その正体はアーニャ。ルルーシュが寝ているベット左脇の椅子に座り、ルルーシュのお腹を枕にしながら俯せとなって寝ていた。
既に水色のネグリジェを着ており、普段は結っている髪を解いているところから察すると、入浴後にルルーシュの世話をした後、そのまま疲れて眠ってしまったのだろう。
その微笑ましい光景に思わず頬を緩めて、ルルーシュはアーニャの髪を撫でようと、右手を伸ばそうとするが、右腕自体がピクリとも動かない。
「ふみっ……。」
それでも、身体は少し身じろぎ、その僅かな揺れに目を醒ますアーニャ。
寝ぼけ眼を擦って、大欠伸。現状把握に左右をキョロキョロと見渡して、今一度の大欠伸。
「ああ、済まない。起こしてしまったか」
「……えっ!?」
「ところで、ここは何処だ?」
「えっ!? えっ!? えっ!?」
しかし、ルルーシュが声をかけた途端、アーニャは意識を一気に覚醒。
勢い良く立ちあがるが、慌てるあまりにつんのめり、ルルーシュのお腹の上へ思いっ切りダイブ。
「ががーりんっ!?」
おかげで、ルルーシュも愉快な悲鳴をあげて、意識を一気に覚醒。
すぐさまアーニャを怒鳴ろうとするが、既にアーニャは身を翻して、駆け出していた。
この事実を伝える為に、この喜びを伝える為に、アリエス宮の主であるマリアンヌの元へ向かって駆けていた。
「マ、マリアンヌ様っ!? ル、ルルーシュ様がっ!? ル、ルルーシュ様がっ!?
……って、痛っ!? あぅぅ……。きゃんっ!? ル、ルルーシュ様がぁぁ~~~っ!?」
よっぽど慌てているらしい。転んだらしい音と悲鳴に続き、花瓶か、壺でも割ったっぽい音が開け放ったまま放置されているドアの向こう側から聞こえてくる。
ルルーシュはここで現状をようやく理解。身を起こそうと、身体に力を入れる。
「そうだっ!? 俺はっ!?
ぐっ!? ま、まるで動けん。な、何だ。これは……。」
だが、主の意思に反して、身体は首が持ち上がった程度。ルルーシュは全く動かない体に驚き、戸惑うしかなかった。
注意)
『歴史の修正力』の概念に関して、鋭い突っ込み禁止でお願いします。
また、『あの人は原作だと既に死んでいる筈だけど?』という質問に関して……。
例えば、シャーリーの場合、この世界では原作のルルーシュ周辺の出来事がEUで起きた事件を中心に起こっています。
つまり、そのEUを舞台とした反逆劇の中、シャーリー相当の方がお亡くなりになっています。