デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

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うーん、1年も間を空けていると、伏線なんかを忘れてないか若干不安になりますが、一応読み返しながら書いてるので大丈夫……だと思います。




二人旅

スパイラルマウンテン第2層 森エリア 

 

木漏れ日が指すジャングルの中を、少女と一匹のアグモンがテクテクと歩く。

アグモンが先に、その数歩後ろを少女がついていくような形である。

比較的歩きやすい道を選択しているが、このエリアは巨木が立ち並ぶために死角が多い。先頭を歩くアグモンは常に警戒を怠らないように首をキョロキョロ左右に降りながら歩いていた。

 

「どうアグモン…敵はいない?」

 

「うん、大丈夫そうだよマァマ」

 

後方を歩く少女、沙綾が声を掛けると、アグモンは振り返りながら手を上げてそう答えた。

 

「そっか…はぁ…はぁ…じゃあ、いったん此処で休憩しよっか」

 

パートナーの元まで歩みよってそう言った後、巨木を背もたれにして沙綾は木陰にゆっくり腰を下ろす。

メタルシードラモン撃破から約一日が経過し、早朝から歩き続けた彼女の体力は、怪我の影響もありそろそろ限界だったのだ。

 

(……みんな今頃どうしてるのかな…心配してなきゃいいんだけど……)

 

額を伝う汗を拭きながら、沙綾が思い出すのは昨日の出来事。

そう、メタルシードラモンを撃破した直後の話である。

 

 

 

 

 

 

 

「なぜだ!……どうして撃った…君はそんなデジモンじゃなかった筈だろう!」

 

突然とも言えるホエーモンの死。

膝から崩れ落ちる者

泣きじゃくる者 

理解が追い付かず、口を空けたまま固まる者

海岸沿いの浜辺、皆が何も言えず呆然とする中で、まず最初に口を開いたのは、ホエーモンが撃たれる直前、再び進化を果たしたウォーグレイモンだった。

僅か数秒の差で間に合わず、悔しさを滲ませながら彼は地上から飛び上がり、この状況を作り出した張本人、ラストティラノモンと正面から対峙したのだ。

 

『…どうしてだと……逆に聞くが…お前は何故あの時攻撃しなかった…?』

 

「そんなの決まってるだろ!そこに仲間がいたからじゃないか!」

 

圧倒的な体格と戦闘力を身に付けた同族に怯むことなくウォーグレイモンは声を上げるが、対するラストティラノモンの反応は冷ややかなものだった。

 

『成る程…ならヤツの言う通りにしていれば、あのデジモンは助かっていたと……そう言いたいのか?』

 

「そ、それは……だけど、やってみなくちゃ分からなかった!」

 

感情的な威勢は何処へやら、ウォーグレイモンは言葉を濁すが、更に追い討ちは続く。

 

『…茶番だな……元よりヤツにその気がない事ぐらい見てとれた筈だ……お前がヤツなら、あの要求の後にまず何をする…?重りでしかないホエーモンを先に消すのではないか…?』

 

「っ!」

 

図星。

一番手痛いところを突かれ彼は言葉に詰まる。

分かっていたのだ。メタルシードラモンの要求を飲んだところで、ホエーモンが助かった可能性はほんの僅かしかない。パートナーに退化を命じ、子供達にデジヴァイスを捨てさせたなら、次に行うべき事など簡単に想像がつく。

ラストティラノモンの取った行動は非情だが、ある意味では最善と言えなくはない。

 

「それでも…」

 

ただ、頭ではそれを理解出来ていても、簡単に納得できないのが人間だ。

 

「それでも…全員が生き残れる道だってあったかもしれない!なんでそんな簡単に割り切れるんだよ!」

 

ウォーグレイモンが言葉に詰まる中、二体の会話に地上のヤマトが割って入った。友情に厚い彼は、例え利にかなっていたとしても今しがたの出来事を受け入れる事など出来ないのだろう。拳を握りしめ、彼は巨竜を激しく睨む。

 

「仲間だったじゃないか!…それなのに…ちょっとピンチになったくらいであんなにあっさり見捨てるのかよ!そんなのってないだろ!」

 

『…愚か者が…それが戦いなのだ……判断を渋れば、そのツケが自分の身に返ってくると理解しろ……』

 

ヤマトの怒号にも巨竜は全く動じない。

結局、感情論では何を言ってもこのデジモンには届かないのだ。

 

「……クソッ…じゃあお前は、沙綾を人質に取られてもそんな事が言えるのかよ!」

 

『…ふざけた事を……それとこれとは話が別だ…この一件が"そうならないための処置"だという事も分からんのか…!』

 

「っ!」

 

ラストティラノモンが語尾を強めた。

恐らく、この拉致の空かない問答にいい加減イライラしはじめているのだろう。戦闘時よりかはましだが、その巨体から放たれるプレッシャーは一介の少年を黙らせるには十分過ぎる。

ヤマトはもちろん、今まですすり泣いていたミミやタケルすらも、彼の一括の前に静まりかえった。

 

『……話は終わりだ……母よ(マァマ)、すまなかったな……』

 

「えっ……う、うん」

 

それはホエーモンを殺めた事に対してか、それとも今の不毛な言い争いに対してか。

沙綾に視点を移してそう言い残すと、ラストティラノモンの身体が目映い光に包まれた。

巨体はみるみる萎んでいき、元の幼いアグモンへと変化を遂げていく。

皆が釈然としない思いを抱えているのは分かっているが、それでも沙綾は内心ホッとしていた。

 

(はぁ…とりあえず、これでいつものアグモンに戻ってくれる…)

 

これまで順当に成長してきたパートナーも、今回ばかりは沙綾予想を遥かに越えて"大人"になり過ぎていた。

最早彼女の指示すら要らない程に。

 

(ラストティラノモンか……これから大丈夫かなぁ)

 

新たなパートナーの形体に不安を感じる中、ラストティラノモンの姿を隠していた輝きは徐々に収束し、その中から何時もの幼いアグモンが姿が見え始めた。だが次の瞬間、

 

「お、おい沙綾!アイツ大丈夫なのか!?」

 

「えっ!」

 

太一が指差す方を見て、沙綾は唖然とした。

何故なら、そこにいたのは普段の元気なパートナーの姿ではなく、今にも倒れそうなほどボロボロに弱った子竜だったのだから。

 

「ア、アグモン!」

 

沙綾は急いでアグモンの元まで駆け寄り、その小さな身体を抱き止める。

 

「アグモン!大丈夫!?」

 

「あ……マァマ……ごめん、ボク…ちょっと疲れちゃった…」

 

「…そっか…さっきまで一人で戦ってたんだもんね…お疲れ様……今はゆっくり休んで」

 

「……うん」

 

考えてみれば当然である。

究極体に進化する前の段階で、彼はメタルシードラモンから相当なダメージを受けていたのだから。その上であの大立ち回りである。疲労が出ない筈がないのだ。

寄りかかるアグモンは、彼女に抱かれて安心したのか、もう既に静かな寝息をたてていた。

 

(もしかしたら、かなり無理してあの姿をずっと維持してたのかな…ごめん…気付いてあげられなくて)

 

腕の中で眠るアグモンは小さく、沙綾には今起こった事全てが嘘のようにさえ感じる。その一方で、

 

「太一さん…あの…ミミさんもこんな状態ですし、今日は此処でキャンプを張りませんか?テントモン達も相当疲れてると思いますから…」

 

「そうだな…ヤマト…言いたい事はあると思うけど、ひとまずアイツを休ませようぜ…」

 

「…クソッ…俺は絶対に認めない…認めてたまるか…」

 

肩に置かれた太一の手を気にも留めず、ヤマトはただ静かに震えていたのだった。

 

 

 

結局、当人であるアグモンが倒れた事によって、その場で彼の取った行動の是非がそれ以上問われる事はなかった。

しかしヤマトを始め、皆が大なり小なりアグモンに対する不信感が増した事は言うまでもなく、彼が目を覚ました時に再び衝突が起きる事は疑い用がない。

只でさえこの先々で選ばれし子供達同士での衝突が増えていく事が彼女には分かっているのだ。このまま沙綾達が何食わぬ顔で皆と共に行動すれば、それを更に大きなものに変えてしまう可能性が非常に高い。

何より、決戦に向けてラストティラノモンの事を彼女自身がよく理解する必要がある。そのためには、皆の前では触れにくい話もしなければならないだろう。

 

故に、

 

「"ちょっとアグモンと話しをしたいので、一足先に進みます。後で合流するから、探さなくても大丈夫だよ。今日はごめんなさい。沙綾より"……と、これでよし」

 

沙綾はここで一度皆と離れる事を選んだ。

明け方、皆がまだ眠っている頃にアグモンを強引に起こし、そのまま彼をつれて、一足先に次の階層へと向かったのだ。

 

それが今から約半日程前の事。

彼女達はそれからひたすら歩み続け、今は此処、ピノッキモンが支配するスパイラルマウンテン第二層までやって来たのだ。

 

(一応光子朗君のパソコンに書き置きは残してきたから、たぶん大丈夫だよね)

 

選ばれし子供達の中で一番冷静な彼の事だ。恐らくすぐに気づく事だろう。唯一心残りがあるとすれば、それはヤマトの事である。

 

(結局あれから一回も喋ってくれなかったし…あんなに怒ったヤマト君って、今まで見たことなかった)

 

あの日の夜、沙綾が皆に今回の謝罪をして回った時も、彼だけは無言のままそっぽを向いていた。

ただ、どのみち今の沙綾にはどうする事も出来ないのだ。時間を掛けて再度信用してもらうしかないだろう。

 

(……流石にちょっと疲れちゃったな…風も気持ちいいし…じっとしてると眠くなっちゃいそう)

 

「マァマ大丈夫?辛いならボクが進化しておんぶするよ?」

 

時刻は昼下がり。今までの疲れがどっと出たのかウトウトしそうな沙綾の顔を、アグモンが何時も通り心配そうに覗き込んだ。

 

「ふふ、少し休めば大丈夫だよ。進化すると目立っちゃうでしょ…それよりアグモンの方こそ大丈夫?」

 

「ボク?うん!全然大丈夫だよ!」

 

昨日の疲労は何処へ行ったのか、アグモンは元気よくそう答えた。恐らく彼自身のレベルが大幅に上がっている影響だろう。回復力がこれまでとは桁違いである。

 

「そっか…」

(…ホントに無理してる訳じゃなさそうだけど…それにしてはやっぱりちょっと不自然だよね…)

 

アグモンのレベルが急速に上昇しているのだとすると、それは敵データのロードが理由ではないだろう。

冷静に考えてみれば、ヴェノムヴァンデモンを一体ロードしただけで、昨日のようにメタルシードラモンを圧倒出来る程の力を得れたとは彼女にはとても考えられない。何か別の要因が必ずある筈なのだ。

 

そして沙綾は確信していた。その"要因"と"あの技"には、必ず深い関わりがあると。

 

(…もうかなりみんなと距離は離れた筈だし、一度この辺りでアグモンとちゃんと話をしておいた方がいいかな)

 

実は今朝から今まで、沙綾はアグモンとあまり会話が出来ていないのだ。彼女自身、ケガの影響で長距離を移動するのが辛かった事、そんな彼女を守るため、アグモンが周囲の警戒に全力を注いでいた事が主な原因であるが、昨日の今日という事で、お互いに何となく内心ギクシャクしていた部分もあったのだろう。

休息を取りたがっている頭をシャキッとして、沙綾はアグモンに声をかけた。

 

「ねえアグモン、貴方に話があるの…ちょっと此処に座ってくれる?」

 

「えっ…は、話しって…何の?」

 

沙綾の呼び掛けに、アグモンは少しビクっとした様子でそう口を開く。

 

「大事な事なの。いいから座って…」

 

「…う、うん」

 

躊躇いながら、アグモンは沙綾の正面に小さくチョコンと腰かけた。

"話し"の内容についておおよそ理解出来るのだろう。今しがたの元気さは鳴りを潜め、その様子はまるで、説教を受ける前の子供のようである。

 

「昨日の事…覚えてるよね。貴方が進化した後の事」

 

「……うん」

 

「…メタルシードラモンを倒した時の事は?」

 

「……うん……ちゃんと…覚えてるよ」

 

アグモンは小さく二回頷く。

今まで努めて何時も通りを装っていたが、やはり彼の中でもあの出来事に対して後ろめたさがあったのだろう。

叱られる事は簡単に想像出来る。先程まで何時も通りに接していたのはその不安の裏返しである。

少しだけ気まずい。そんな空気の中、アグモンはゆっくりと口を開いた。

 

「……ごめんなさいマァマ…ボク、マァマを守りたくて…これ以上…マァマにケガして欲しくなくて…だから……」

 

話している内に、子竜はだんだんと涙声になっていく。

 

「…ホエーモンが死んじゃうって事より……マァマに危ない目にあって欲しくなくて…ボク…ボク…」

 

「そっか…」

 

アグモンの場合、成長期と究極体ではその精神年齢の触れ幅が他のデジモンよりも格段に大きいのだ。いくら沙綾を守る決意が固かったとは言え、退化した今彼の中で罪悪感が溢れだしたのだろう。

沙綾もそれを理解したのか、アグモンの頭を優しく撫でた。

 

「よしよし、泣かないでアグモン。私別にその事を怒ってる訳じゃないから」

 

「ホントに…?ボク、ホエーモンを…殺しちゃったんだよ…」

 

「仕方ないよ…ホエーモンの事は…アグモンが何もしなくても最終的にはその……同じようになってたから…それよりありがとう……そこまで私の事を想ってくれてたんだね」

 

言いながら、彼女はアグモンへと以前と変わらない優しい笑みを浮かべた。

聞きたかった話とは少し違うが、先程のアグモンの言葉が沙綾には純粋に嬉しかったのだ。

 

「マァマ……うぅ……マァマアァァ!」

 

「わわっ!ちょっとアグモン!」

 

彼女の言葉に感極まったのだろう。アグモンはボロボロと涙を流しながら彼女の胸へと飛び込んだ。

"嫌われても構わない"と"嫌われたい"は全く違う。

不安な気持ちを感じていたのは沙綾だけではなかったのだから。

 

(うん…やっぱりアグモンはアグモンだ…私の、大切なパートナー)

「よしよし、ほら、鼻水出てるよ」

 

「うぅ…グスン…マァマァ」

 

「もう、何時まで経っても仕方ない子だね」

 

ラストティラノモンとアグモン。

一見進化によって大きく変わってしまうように映るが、その本質は同じ。究極体の扱い方に不安を感じていた沙綾だったが、腕の中で涙を流すパートナーの姿を見て、彼女の中の不安感は鳴りを潜めていた。

 

 

 

 

暫くして、

 

「ねえアグモン、話しがそれちゃったけど、聞きたい事っていうのはホエーモンを死なせちゃった事じゃないの」

 

一頻り泣き散らしたアグモンが落ち着いたのを確認し、沙綾は再度アグモンへとそう声を掛けた。 

 

「?…それじゃあ何なの?」

 

アグモンはポカンと沙綾を見つめる。

そう、ここからが沙綾が聞きたかった本題。

 

「うん…あのさアグモン、貴方あの時…技を出す時に言ってたよね……ムゲンキャノンって…」

 

「うん…えと…それがどうかしたの?」

 

アグモンはポカンと沙綾を見つめる。

何も知らない彼にとっては、パートナーが何を聞きたいのかがさっぱり分からないのだろう。

 

「アグモンは知らないかもしれないけど……あれってね、ムゲンドラモンの技と同じ名前なんだ…分かるでしょ…カオスドラモンの昔の姿の……だから、どうしてアグモンがそれを使えるのかなって…」

 

「?」

 

どうやら、沙綾の説明を受けても尚、幼い彼には理解出来ていないようである。頭に?マークを浮かべ、"同じ技を使えちゃまずいの?"とでも言いたげなその顔が証拠だ。

 

「…よく分かんないんだけど、あれはメタルティラノモンの頃にも使えたよ?ヴァンデモンと戦って、マァマが気絶してる時に一回だけだけど」

 

「えっ!そうなの!?」

 

「うん…一回使うだけで凄く疲れるんだ。あっ、でも昨日使った時は全然大丈夫だったよ。やっぱり進化出来たからかなぁ?」

 

「ちょ、ちょっと待って。その、なんで使えるようになったのかちゃんと説明して」

 

余りにもサラリと衝撃的な発言をするアグモンに、沙綾は若干取り乱しながらそう聞き返した。

すると、アグモンは少し難しい顔をした後で、ゆっくりと口を動かし始める。

 

「えと…なんかね、最近夢の中にボクそっくりのアグモンが出てきてね、その子が使ってたんだ…あっ、使ってた時はその子もメタルティラノモンだったんだけど…それで、ボクとその子ってそっくりだったから、もしかしたら同じように出来るんじゃないかなって思って、あの時やってみたら」

 

「ホントに出来ちゃったって事?」

 

「うん」

 

これには沙綾も空いた口が塞がらない。

何せ、話が突拍子もない上に、アグモン本人ですら使えた理由がいまいちハッキリしないのだから。

 

(どういう事だろ…夢で使えたから現実でもって事……デジモンにあるのかな…)

 

沙綾は頭を捻る。

デジモンの必殺技というのは基本的にインスピレーションでは修得出来ない。要は使えない技はどうやっても使えない筈なのだ。進化後のデジモンが進化前の技を一部継承出来るなどの例外を除いては。

 

(メタルティラノモンの隠された必殺技に"ムゲンキャノン"が初めからあったのかな…それで、その夢をヒントに使えるようになったとか?あっ、でもそれだとアグモンの急速なレベルアップが説明出来ないし…)

 

現状ではヒントが余りにも少なすぎて判断が出来ない。

沙綾は更に話を続ける。

 

「その夢っていうのは他にはないの?もうちょっと詳しく聞きたいんだけど」

 

「えっ…うん……ボクも細かくは覚えてないんだけど…最近よく見るんだ…なんだか懐かしい感じの夢で、さっき言ったボクそっくりのアグモンと、もう一人…えと、マァマに似た感じの女の子が二人で冒険してるんだ…」

 

「うんうん」

 

「最初はあんまり喋らなかったんだけど、海とか山とか、色んな所をただボーッと旅して、アグモンと女の子はだんだん仲良くなっていくんだよ……でも」

 

「でも?」

 

「……最後はアグモンを残してその女の子が死んじゃうの……ただの夢なのに、それがすっごく悲しかった……その子のお墓を立てて、アグモンがそのお墓の前で"寂しい"って話しかけてるところで、夢は終わっちゃったんだ…」

 

「………」

 

まるでおとぎ話に出てきそうな切ない夢の内容。

話し終わるとアグモンは寂しそうに一度その目を一度伏せるが、その後思い出したかのように再び沙綾へと向き直った。

 

「ただね、この前夢の中で初めてそのアグモンと会ったんだよ」

 

「?…夢の中でいつも会ってるんじゃないの?」

 

「ううん、何時もはボクがそのアグモンの中に入ってるような感じだったから、会った事は一度もなかったんだ」

 

「ああなるほど。それで、会って何か話したの?」

 

「うん。夢の中でその子が言ってたんだ…"お前はオレ"とか"オレの記憶を覗いたんだろ"って……あんまり時間はなかったんだけど、他には、"オレが力を貸せば究極体になれる"とか……」

 

「!」

(ていう事は、アグモンのレベルアップはその夢のアグモンが力を貸したからって事?)

 

余りにも想像の斜め上だが、この短い期間の中ではそれ以外に考えられない。アグモンにそこまでの作り話が出来る筈もない以上、恐らくこれが答えなのだろう。ただ、新たな疑問も同時に生まれる。

 

(でも"お前はオレ"とか"記憶を覗く"っていうのは一体どういう事だろ…アグモンは生まれた時から私と一緒だからそんな記憶なんてないし……て事は、他に考えられるのは……アグモンの前世…とか…?)

 

デジモンは消滅すると、その後デジタマに生まれ変わり始まりの街へと帰る。タケルのパタモンなどが良い例で、その際に前世の記憶を保持している事があるのは有名な話である。しかし

 

(イヤイヤ……流石にそれはないよ!)

 

沙綾は思い切り首を横に降った。

前世、そしてムゲンキャノン。

この二つのヒントを元にすると、嫌が応にも一つの"仮説"を想像してしまうからである。それは沙綾にとっては最悪の結論。しかし、ムゲンドラモンの転生先がカオスドラモンである以上、その仮説は矛盾している。

 

(……良かった……そうなら私……もうどうしていいのか……) 

 

沙綾はホッと胸を撫で下ろした。

ある意味彼女が今程(かたき)の存在を嬉しく思ったことはないだろう。その存在こそ、アグモンの前世が"ムゲンドラモン"ではない何よりの証拠になるのだから。

 

「ねぇマァマ、ねえったら!」

 

ただ、無言のまま表情が二転三転するパートナーに、アグモンは少し困惑しているようだった。

 

「あっ!ごめんごめん…ちょっと考え事しちゃって」

 

「そうなの?……それで、結局ボクがなんで"むげんきゃのん"を使えるのか分かったの?」

 

「ううん……今のところハッキリ分かんないね…まあアグモンがなんでいきなり強くなったのかは一応分かったし、今はそれでいいかな…もしまた夢でそのアグモンに会ったら、その時こそ何か分かれば良いんだけど」

 

「そうだね。ボクも気になるし、今度会ったらもうちょっとちゃんと聞いてみるよ」

 

「うん。お願いね」

 

"ムゲンドラモンの技を使う夢の中のアグモン"

結局肝心な部分は分からないまま、沙綾にとっては新しい疑問が増えただけとなってしまった。

しかし悪い事ばかりではない。

 

「さあ、休憩は終わり!久しぶりにゆっくりアグモンと話せた気がするし、そろそろ行こっか」

 

「うん!任せてよ、マァマの事はボクがちゃんと守るから!」

 

「ふふ、頼もしいよアグモン」

 

抱えていた蟠りは消え、出発する二人の絆は以前よりも強くなっていた。

 





以上、二人の情報交換回でした。
これで一応、アグモンはムゲンキャノンの意味を、沙綾はアグモンの夢について認識しました。
勿体ぶった割にはサクッとした感じですが、まあ大丈夫でしょう。あんまり考えすぎると前みたいに更新が止まるので。
そういえば、作者はtryをまだ1話もみてないんですよ。どうせ続きが気になって仕方なくなるので、見るなら一気に見ようかなって思っています。

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