サイバースゥルース攻略に時間が掛かってしまいました。
いや、思った以上に楽しくて、ついつい時間をそっちに回している自分がいました。すみません。
話は長いけどのめり込めるし、グラフィックも綺麗で登場人物も個性豊か、声優も豪華と、デジモン好きにはたまらないゲームですね。
それではヴァンデモン編、ラストです。
「ね……ねえマァマ……あ……あれが、ヴァンデモンの究極体なの!?」
時刻は6時20分。
ビックサイトの入り口から、遥か遠方でがむしゃらに暴れる巨大な悪魔を見上げ、アグモンはポカンと呟いた。
当然だ。ビルをも越えるその大きさも去ることながら、本能のままに暴れ狂う姿にかつての知的な魔王の姿など欠片も残っていないのだから。
しかし唖然とするアグモンとは対照的に、小説の知識を持っている沙綾は、比較的冷静に口を開く。
「うん、これが"ヴェノムヴァンデモン"……選ばれし子供達が初めて戦う究極体のデジモンで、私達が絶対にロードしなきゃいけない相手だよ」
太一を始め、ヤマト、空、光子朗、タケル、ヒカリは、ヴェノムヴァンデモンの出現と同時にこの会場を飛び出した。残っていた丈とミミも、今しがた彼らの元へと援護に向かったところである。
そしてその際、負傷している沙綾では危険だという丈の判断もあり、彼女達は今回文字通りの"留守番"を任されたのだ。
「……」
沙綾は小さくため息をつく。
(結局、目が覚めてからも空ちゃん以外とはほとんど話せなかったな……太一君にもちゃんとお礼出来てないし……でもまぁ……今回はこの方が都合はいいんだけど)
ロードをするなら誰にも見られない方がいい。
皆の力になれないのは残念ではあるが、先のヴァンデモン戦での失敗もある。それになにより、究極体相手に今の彼女とアグモンが行った所で皆の足手まといにしかならないだろう。
(今は動かずに、私の役目を果たさなきゃ……)
先程は感情を押さえきれずにアグモンの背中で大泣きしてしまった沙綾だが、事態が動きだした今、既に気持ちは切り替わっていた。
「わわっ!」
そんな中、彼女のパートナーは目の前で繰り広げられる戦闘にあたふたしている。
「マ、マァマ! アイツもの凄く強いよ! 太一達の攻撃が全然効いてない……」
戦況は劣勢の一言。
メタルグレイモンを始めとする完全体達の怒濤の攻撃すら、あの悪魔には全く効き目はない。
それどころか、ヴェノムヴァンデモンが本能のままに振り回す長い両腕が、一匹、また一匹と子供達のデジモンを弾き飛ばしていく。
歴史を知らなければ、それは最早絶望的とさえ思えるだろう。
そんなアグモンを落ち着かせるように、沙綾はその黄色い頭をそっと撫でる。
「心配しないでアグモン……今は我慢だよ。 大丈夫、みんなは無事だから」
「う、うん……マァマがそういうなら……」
「もう少し……もう少しだから、ねっ」
沙綾自身もそうやって自分に言い聞かせる。
圧倒的力の前に徐々に追い込まれていく皆のパートナー達。何体かは戦闘不能になり完全体の姿を保てなくなっていく。
結果は分かっていても、やはり不安にはなってしまうものだろう。
そして、選ばれし子供達のデジモンの半数が倒れたそんな時、
追い詰められていく中、不意にヴェノムヴァンデモンの足元から激しい光が巻き上がったのだ。そして、
「来たっ!」
いち早くそれを見つけた声を上げる。
そう、この立ち上る光こそが反撃の合図。小説内において、選ばれし子供達の"切り札"とも呼べる二体の究極体デジモン誕生の瞬間なのだ。
「見て見てアグモン!」
「えっ?あれは……進化の光!?」
沙綾に促されたアグモンも目を丸くする。
同時に、光の中からその"切り札"が姿を表す。
一匹は黄色い装甲を纏う竜の戦士、そしてもう一匹は、全身を機械化した蒼い狼。
「す、すごいマァマ!これならいけるよ!」
立ち上る光の中から現れたのは、ヴェノムヴァンデモンと比べればは米粒ほどの大きさでしかないが、その戦闘力は究極体としても申し分ない。
これだけ離れていてもアグモンにはあの二体の強さが伝わっているのだろう。彼は沙綾の隣で両手を上げ、跳び跳ねるようにはしゃいでいた。
「あれが、ウォーグレイモンとメタルガルルモン……太一君とヤマト君の最強のデジモン」
各言う沙綾も、宙を舞いながらヴェノムヴァンデモンと戦闘を繰り広げる二体の究極体に心なしか目が輝いている。
穴が空くほどタケルの小説を読み込んだ彼女にとっては、あの二体はある種の目標のようなものだ。
いや、彼女だけではない。未来の世界において、選ばれし子供達と共に様々な激戦を潜り抜けてきたウォーグレイモン、そしてメタルガルルモンは正に多くの冒険者達の憧れなのだから。
ウォーグレイモンが両手のドラモンキラーを合わせ、そのまま身体をまるで竜巻のように回転させてヴェノムヴァンデモンへと突撃した。
ドラモン系デジモンへ特に効果的な技、ブレイブトルネードだ。
「━━━━━━━!!」
意図も容易く相手の胸を貫通し、魔王の絶叫が沙綾達の位置にまで響いてくる。
「ガブモン達、かっこいいなぁ……」
その隙を付くように、メタルガルルモンが身体中に搭載された冷気のミサイルを一斉に射出した。その一発一発がとてつもない威力である事は遠目からでも分かる。
グレイスクロスフリーザー、彼の得意とする技の一つである。
あっという間に巨大な悪魔さえ氷付けにする友の活躍を見ながら、アグモンはポツリとつぶやいた。
「ねえマァマ……ボクも、あんな風になれるかなぁ?」
ヴェノムヴァンデモンが自身を拘束する氷を破る、貫通した穴を容易く修復し、再度咆哮と共にいくつものビルをなぎ倒しながらその両腕を振るった。
ガシャン、ガシャンと、まるで積み木を崩すかのように、建物の倒壊する音が鳴り響く。
「アグモン……」
究極体同士の戦闘。
そのあまりのレベルの高さに、アグモンは少々面喰らっているのだろう。
そう、カオスドラモンとまともに戦うには、少なくともあれ以上の戦闘力を身に付けなければならないのだ。
実際に戦っている彼らを見ると、それがいかに遠いのかを思い知らされる。
しかし、不安そうに見詰めてくるパートナーに沙綾はニコリと微笑んだ。
「心配しないで……きっと、アグモンはまだまだ強くなれる。そのために私が居るんだからね!」
アグモンに抱きついて泣いていた先程とは逆。今度は沙綾がアグモンを勇気付ける。
「私がアグモンをサポートする……だから、絶対に二人で"アイツ"に勝って、二人揃って未来に帰ろ!」
ポンポンと、子供をあやすかのようにパートナーの頭を軽く撫でる。
アグモンにとって、沙綾の一言は何にも勝る魔法のような力を持つ。今までの不安はどこへやら、彼は無邪気に沙綾へと笑顔を見せた。
「うん! やっぱり、マァマに言われると自信が出てくるよ!」
「フフ、その調子だよ。 アグモンなら、直ぐにあの二体にだって追い付けるから! ……っと、そろそろ終わりが近付いてきたみたいだね」
二人が話しをしている間に、子供達の戦いも佳境に入ったようだ。
ヴェノムヴァンデモンの"核"と言うべき腹部の"本体"が姿を表したのだから。
同時に、沙綾も自身のデジヴァイスをシャツの胸ポケットから取りだしたのだが、それを操作しようとしたところで、不意に思い出したかのようにその手が止まった。
「あっ……そうだアグモン、体力はもう回復してるよね。 一応、完全体にまで進化してもらいたいんだけど……」
「えっ?此処で進化するの?」
「うん、一応……ね」
苦々しい反応を見せる沙綾にアグモンは首を傾げながらも、言われた通り、周囲の建物に気を使いながらその身体を巨大化させた。
「ふう……これでいいのか……?」
「うん、ありがとうメタルティラノモン」
「なるほど……ファイル島での二の舞を避けるため……だな」
そう、これは言わば保険なのだ。
かつてファイル島でデビモンをロードした時、ワクチン種のティラノモンは自身に流れてくるあまりに強大な闇の力に一度暴走した事がある。ならば、予めウイルス種であるメタルティラノモンにしておけば、そのリスクはなくなる筈。
"自身を遥かに越えた相性の悪いデータを一気に取り込んだための副作用"
あの暴走を、今の沙綾はそう結論づけている。
最も、ウイルスの力を上手くコントロールしている今の彼なら、ワクチン種の姿でも恐らく問題はないだろうが、これは念のためだ。
遠方では、今正に本体の"核"に向けて、二体の究極体が己の必殺を打ち込もうとしている。
「さあ、もう決着が付くよ! メタルティラノモン、準備はいい?」
「ああ……とは言っても……オレが何かする訳ではないが……」
直後、
「━━━━━━━━━━━!!!」
魔王の断末魔が東京の空へと響く。
メタルティラノモンにとっては長かったヴァンデモンとの因縁に終止符が打たれる時。
それを合図に、沙綾はデジヴァイスのロード機能を起動させた。
「気持ちの問題! さあ、究極体のロード……行くよ!」
「ああ……!」
「……これが……究極体のデータ……」
自身へと流れる膨大なデータを処理し、メタルティラノモンは取り込んだその力に思わずそう口を開いた。
「うん、どう……強くなった感じはする?」
「……ああ……身体の底から一気に力が沸いてくる……今なら、何だって出来そうなくらいだ……」
多少の高揚感はあるようだが、沙綾の読み通り、やはり以前のような暴走をする事はない。純粋なパワーアップを果たす事が出来たのだろう。
「そっか! えーと、じゃあ、究極体にはなれそう?」
「………」
万を辞して問いかけたその言葉に、メタルティラノモンは集中するかのように目を閉じる。しかし、やはり現実はそう簡単にはいかない。しばらくそうしていた後、彼は少しがっかりしたかのように肩を落とした。
「…………すまないマァマ……それは……まだ無理みたいだ……」
「うーん……そっか……やっぱり一体だけじゃちょっと届かないのかな……」
「……分からない……純粋にまだ力が足りないのか……それとも、完全体に進化した時のように、何か"切っ掛け"が必要なのか……」
「……まあ、今は気にしても仕方ないね。 残り3体をロードすればきっと進化出来るようになるよ……それより、今はみんなの所へ急ご! 早くしないと、私達だけ置いてかれちゃう!」
「……そうだな……」
最早彼女が"選ばれし子供"ではなく、今まで嘘を付き続けていた事はもう皆も知っているだろう。果たしてそんな自分を子供達が受け入れてくれるのか、沙綾は不安に思う。だが、
(それでも……行かなきゃ)
例え信じて貰えなくても、彼女には選ばれし子供達に着いていく以外の選択肢はないのだ。
はぁ、と息を吐き、沙綾は気持ちを落ち着かせる。
「……どうする……? 退化しておくか……?」
「ううん。 背中に乗せて貰いたいし、別にそのままでもいいよ 」
「了解だ……」
メタルティラノモンは地べたに伏せるように腰を低く落とし、負傷した少女を自身の背中へと乗せて立ち上がった。そして、
「さあ、行くぞマァマ……しっかり掴まってろ……」
「うん!」
ドスンと地面を蹴り、一気にトップスピードまで加速する。機械化され"速さ"が大幅に落ちたメタルティラノモンの状態でさえも、究極体をロードした今は前のティラノモンの時よりもまだ一回り速い。究極体に進化出来ずとも、その速度だけみれば彼が如何に強化されているのかは一目瞭然である。
歴史通り、日が落ちた東京の空にデジタルワールドが映し出される中、彼女達は皆のいる崩壊した街中へと進んだ。
「……僕達がこっちの世界に帰ってきて数日になります……てことは、向こうの世界では、もう何年も経ったことになる……」
遥か上空、おぼろげに映し出されたデジタルワールドを見上げ、光子朗がポツリと呟いた。それに続くように、今しがた究極体から退化したばかりのコロモンが、不安そうに口を開く。
「……きっと、ボク達が向こうの"歪み"を正さないままこっちの世界に来ちゃったから、あっちが大変な事になってるんじゃないの……?」
「その影響が……こっちにも現れたって事ね……」
「行ってみよう! もう一度、デジタルワールドに!」
「確か、最初に向こうに行った時は、デジヴァイスに導かれるように飛ばされたから、今回も同じようにすればいいんじゃないかい?」
「そうだな……よしみんな、デジヴァイスを!」
太一のその言葉で、八人の選ばれし子供は輪になりながら各々のデジヴァイスを取り出す。
本来の歴史ならば、このまま彼らはデジタルワールドへと帰還し、待ち受けるダークマスターズとの戦いに身を投じる事になるのだが、
「ちょっと待ってぇー!!」
そんな大声と共に、ドスン、ドスンという地鳴りの接近に、太一達はデジヴァイスを掲げるのをやめて音のする方向へと目をやった。
「あれは……メタルティラノモン!」
「おいっ! なんかものすごいスピードで向かってくるぞ!」
「……沙綾ちゃん……」
怒濤の勢いで廃墟を直進する恐竜にヤマトは顔を引き吊らせ、空は最早溜め息を吐いている。
そして、
「……到着だ、マァマ……」
数秒と経たない内に皆の前まで前までやって来たメタルティラノモンは、そう言いながらパートナーを下ろした後、その身を成長期へと退化させた。
皆の視線が集まる中、背中から降りた沙綾が静かに口を開く。
「お願いみんな……私も連れていって!」
「一緒にって……貴方その怪我で着いてくるつもりなの?」
「うん……どうしても……みんなに着いていかなきゃいけないから……」
「貴女って人は……どうしてそんな無茶ばかりするの!?」
あくまで付いていくという沙綾に対して、空は最早呆れながら一歩詰め寄る。当然だ。先程沙綾が目を覚ました時も、空は彼女に対して散々"無理な事はするな"と言っていたのだから。
しかし、そんな二人の会話に割って入るように、ヤマトが口を開いた。
「その前に沙綾、お前に聞きたい事がある……」
「うん……」
「まず始めに、お前は"選ばれし子供"じゃないんだよな?」
(やっぱり、追求されちゃうよね……)
「……うん」
「でも、それなのにお前はデジタルワールドにいた……俺達と同じデジヴァイスも持ってる……その上、ヴァンデモンと戦う前に言ってたよな……"私は最初からみんなの事を知ってた"って……それは一体どういう事か、説明してくれ」
ヤマトの口調は少し厳しい。
要するに、彼は沙綾に対して不信感があるのだ。
いや、本人自体は沙綾を信用してはいる。沙綾が"敵"に回るなんて事は流石に考えてはいない。しかし、デジタルワールドは弱肉強食の世界だ。"もしも"という事もある。
「全然分からないんだよ……お前の事が……」
弟タケルの命を守らなければならない立場であるヤマトは、不安要素に対して納得のいく説明が欲しいのだろう。
しかし、
「……ごめん……詳しくは"まだ"言えない……ただ、私達には私達の目的があって……そのためには、どうしてもデジタルワールドに戻らなきゃ行けないの!みんなと一緒にいなきゃいけないの!でも、私は選ばれた子供じゃないから、自分の力じゃあの世界に戻れない……だから……」
沙綾に言える事は、せいぜいこれが限界だ。
しかし、それに対するヤマトの追求は厳しい。
「じゃあ……お前は最初から俺達を"利用する"つもりで近付いてきたって事か?」
「……始めは、確かにその通りだよ……アンドロモンの工場でみんなに会った時は……言い方を悪くすれば……みんなを"利用する"だけのつもりだった……でも、みんなと一緒に旅をしてみて……私の事を"仲間"だって言って貰えて……本当に嬉しかった……私もみんなを助けたいって……心の底からそう思った……」
ファイル島でのデビモン戦以降、沙綾は自分の目的に加えてただひたすらにそれを考えて行動してきた。
時には裏目に出る事もあったが、これが彼女の本音である事に間違いはない。
今までの嘘を詫びるように、沙綾は頭を下げる。
「お願い……信じて……みんなの足を引っ張るような事は絶対にしないから! 私も……もう一度みんなと一緒に旅をさせてください……」
「…………」
必死に頭を下げてそう頼み込む沙綾に、ヤマトは少し困惑しているのか目を反らしたままなかなか返事が返せない。
そんな時、そこに助け船を出したのはやはり、
「まぁいいじゃねーかヤマト……連れてってやろうぜ」
太一である。
彼は困っているヤマトの肩をポンっと叩きながら、頭を下げる沙綾の前までコツコツと近づいていく。
そして、
「なぁ……顔上げてくれよ沙綾」
「太一君……」
「こうやってちゃんと話すのも、なんだか随分久しぶりだよな……」
「……太一君からすればそうだね……私にとっては……ほんの3日4日だけど……」
「ははっ、それもそうだな」
それは太一なりの気の使い方か、張り積めた空気を気にしていないかのように、彼は何時もと変わらない軽い口調で話す。
「……ずっと嘘をついてたんだもん……簡単に信用して貰えるだなんて思わない……でも、私がんばるから!」
「心配すんなって。 誰もお前の事を疑ってる訳じゃないんだ……そりゃあ、俺だってお前が"選ばれてない"って知った時は信じられなかったけど……それでも、やっぱりお前は俺達の大切な仲間だ」
いつか聞いたようなそんな言葉を、躊躇うことなく口にした。
「目的が言えないっていうのも、きっと何か理由があるんだろ?」
「……うん……」
「なら、それだけ言ってくれりゃ十分だ。 今までお前に散々助けられて来たんだからな……今度は俺達がお前を助ける番だ……そうだろヤマト」
「……はぁ……分かったよ……」
太一に促され、ヤマトは溜め息を吐きながら"渋々"とそれを了解した。
「怪我してるってんなら、俺達で沙綾を守ってやればいい……いや……今度こそ、俺がお前を守ってやる! 」
「!!?」
太一のその一言に、沙綾の心臓がバクリと跳ねた。
同時に、その綺麗な白い顔が徐々に赤みを帯びてくるのが分かり、彼女は思わずそれを悟られないように下を向いた。
ただ、それでは逆に、下から彼女を見上げている何も分かっていないパートナーに思いきり見られてしまう結果になるのだが。
「ん?どうしたのマァマ? 顔が赤いよ?」
「な、何でもないから!」
「えっ……でも……顔が」
「だ、大丈夫だから!」
(……もう……前々からそうだけど……なんで貴方はそんな不意打ちをしてくるのかな……)
首を傾げるアグモンにヒヤッとしながらも、沙綾はそんな事を思う。太一としては、以前彼女を守れなかった事に対する責任からの発言だろうが、 狙っていないにしても、今の言葉は質が悪い。
(……こんなタイミングでそんな事言われたら……ドキッとしちゃうじゃない……バカ……)
ただ、彼女の言う太一の朴然人ぶりは、間違いなく自身にも当てはまっているのだが、当の本人はそれに気付くことはない。そして彼女が内心でそんな事を考えてる中、皆の話は進んでいく。
「空もそれでいいだろ?」
「……はぁ……もう、別にいいわよ……"誰かさん"と一緒で、どうせ言ったってきかないんだから……」
「"誰かさん"って誰だよ!」
「さあ……自分に聞いてみれば?」
「……ちぇっ……なんだってんだよ……」
少し不貞腐れた様子で空はぷいっとそっぽを向く。
だが、態度こそ突き放してはいるものの、彼女も既に沙綾が来ること自体には頷いていた。
「……みんなも、それで問題ないか?」
太一が皆にそう問いかける。
「僕は問題ありません。沙綾さんが居てくれた方が、戦力としては心強いですから」
「うんうん! 私も女の子は多い方が嬉しいし!」
「まあ……そこまで頼みこまれちゃしかたないよな」
「辛かったら言ってね。僕達も沙綾さんの力になるから!」
「あの……よろしくお願いします……沙綾さん……」
「みんな……」
素性や目的を隠しているにも関わらず、光子朗達は以前と変わらない笑顔で沙綾を迎え入れた。
ヤマトと空も"態度"こそ不満そうだが、最早反対はしていない。皆の暖かさに、沙綾の瞳が潤む。
そして、それを満場一致だと判断した太一は、元気よく声を上げた。
「なら決まりだな……さあ、あんまりもたもたしてられない!行こうぜみんな!」
その声を合図に、ヤマト、空を始め、沙綾以外の全員が、先程と同じようにデジヴァイスを天へとかざした。
すると直後、遥か上空に映るデジタルワールドから帯状の光が彼らを包み込む。今度こそ帰還の時である。
その中で、
「沙綾、行こうぜ!」
太一はデジヴァイスを片手に、もう一方の手を沙綾へと差しだす。そして、彼女はその伸ばされた手を少し恥ずかしそうに見つめた後、
「うん!」
そう嬉しそうに彼の手を握り返したのだった。
いや長かった。
次回からやっとダークマスターズ編に突入です。