デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

61 / 76

対ヴァンデモン戦。

ある程度構想を纏めていたつもりでもいざ書くと「あーでもない、こーでもない」となってしまいます。
気づけば前回の投稿から二十日ですか……もう少しペースを上げねば……


私は……もう……この世界で"本当に一人ぼっち"……

「来るぞっ! メタルティラノモン!」

 

ワーガルルモンのその声と同時に、ユラリ宙を舞う魔王が行動を開始した。

その両手に持つ赤い光の鞭が、振るわれると共に一気に伸び、地上の二体へと向けて放たれる。

 

「さあ、どう動く? ブラッディストリーム!」

 

中距離戦において絶大な力を発揮するヴァンデモンの主力攻撃。 先程、成熟期の状態であった彼らを瞬く間に叩き伏せた一撃である。

変則的な動きで伸びる光を二つも同時に操るその技量は恐ろしいが、ただ、そうそう何度も同じ手を受ける二体ではない。

 

「ふっ! はっ!」

 

「なめるなっ……!」

 

飛来するそれを、ワーガルルモンは身軽になった身体を最大限に利用して、冷静に、まるでボクサーが相手の攻撃を見切るかのようにギリギリでかわしていく。

対象的に、耐久力が向上したメタルティラノモンは、その強力な一撃を真っ向から受け止め、ガブリと、魔王の武器を噛み千切った。

 

それだけではなく、

 

「ふっ!、ふっ! 行くぞ、カイザーネイル!」

 

「今そこから引きずり落としてやる……ヌークリアレーザー!」

 

反撃。

真空波ともいえる空気の刃と、一閃の閃光が、地上からヴァンデモンへと放たれたのだ。

最も、その反撃自体はヴァンデモンにとって予想の範疇内ではあるが……

魔王は攻撃を中断し、ポツリと呟く。

 

「成る程……」

 

そして、二匹の攻撃が届く直前、その身体がフワリと消え、目標を失った彼らの必殺はそのまま真後ろにあった高層ビルの一室をドカンと吹き飛ばす。

 

「くっ! 外したか……」

 

「……ちっ……」

 

そしてモクモクと立ち上る土煙の中、再度同じ場所へと姿を表したヴァンデモンは、二体を見下ろしながら更に言葉を続けた。

 

「……確かに、デジタルワールドに居た頃よりは力をつけているようだ……だが……やはりそんなものか……」

 

余裕。

今の一連の攻防で、彼は相手の力量を見抜いたとも言うようにニヤリと口許をつり上げる。

しかし、メタルティラノモンはそんな彼の様子には一切動じず、再びその副砲を相手へと構えた。

 

「……次こそは吹き飛ばす……オレはお前を絶対に許さない……」

 

そう。彼にとってこの魔王は許しがたい存在。

偽の情報を刷り込まれ、仲間達へと牙を向けさせた憎むべき敵なのだ。

勿論、沙綾の目的が"進化したヴァンデモンのデータ"である以上、"仮に出来たとしても"彼は此処でヴァンデモンに止めを刺すことは出来ない。

たがせめて一撃、あの余裕ぶった鼻っ柱を叩き折らねば、好戦的な恐竜の気が収まらないのだ。

 

「その通りだ! これ以上お前の好きにはさせない。お前の野望は、ここで終わりだ!」

 

そして共に戦う仲間も、そんな彼に続くように声を張り上げる。

だが、

 

「……ほう……ではやってみるがいい……最も、その前に"自分達の背後に意識を向けるべき"だと思うがな……」

 

「…………!」

 

ヴァンデモンのそんな忠告に、地上の二人は同時にハッとした表情を浮かべた。

そう、この戦いは一体二の勝負ではない。始めから二対二の戦いなのだ。

戦闘開始時には全く動いていなかったファントモンの姿が、此処に来ていなくなっている事に彼らは気付く。

 

「くっ! まさかっ!」

 

同時に、ワーガルルモンは自身の背後から突如放たれた殺気に急いで振り返った。

 

「ちっ!」

 

すると当然、そこにいたのは大窯を真横に構える死神の姿。

 

「ヒヒっ……ソウルチョッパー!」

 

「 くっ!」

 

ブオンと風を切りながら振るわれるその大窯を、ワーガルルモンはその脚力で後方に大きく宙返りする事で間一髪で避ける。

 

「コイツっ……!」

 

誰もいない空間を鎌がすぎる中、メタルティラノモンが仲間の隙をカバーするかのように左手の標準を死神へと向け、回避に成功したワーガルルモンもすかさず体制を建て直して死神へと向き直った。

 

だが、

 

「邪魔をするな……! ヌークリア……」

 

「ヒヒヒ……」

 

いざ反撃と、メタルティラノモンが左腕からレーザーを発射しようとした途端、ファントモンはあっさりと、不適な笑みを残してフワリと都会の景色に溶ける。

まるで始めから"追撃の意思はない"とでもいうような不自然な行動に恐竜は困惑するが、すぐにその真意へとたどり着いた。

 

「そうか! しまった……ワーガルルモン! ヴァンデモンから目を離すな……!」

 

「えっ!?」

 

そう、始めから今の攻撃は囮でしかないのだ。その理由は二つ。

並んでいる"二体の分断"と"意識の移動"である。

気配なく相手に忍び寄るのは、何も死神だけではないのだ。慌ててワーガルルモンへと声を上げるメタルティラノモンだが時は既に遅く、

 

「……フフ……今言ったばかりではないか……"背後には気をつけろ"とな……」

 

拳を構える獣人の背後に、魔王は悠然と立っていた。

突如真後ろから響くその声に、ワーガルルモンの瞳孔が開く。

 

「なっ……!」

 

「まずは貴様のデータから頂くとしよう……」

 

つり上がった口許から凶悪な"牙"を覗かせ、ヴァンデモンが囁いた次の瞬間、

 

「ぐぅあああぁぁぁ!」

 

「ワーガルルモンっ……!」

 

ガブリと、獣人の首元に魔王の鋭い牙が突き刺さる。

 

"吸血"

相手の体内から血液やデータを奪い自分の糧とするヴァンデモン特有の簡易的な"戦闘データのロード"である。

 

「がぁああっ!」

 

「貴様っ……!」

 

振りほどく事が出来ず絶叫を上げる仲間にメタルティラノモンは援護をしようとするが、何せ二体は完全に密着しているのだ。主砲も副砲も使えない。それどころか、この場に置いて圧倒的巨体であるメタルティラノモンは、完全に密着されると逆に近接攻撃ですらヴァンデモンだけに範囲を絞ることは困難になる。

ヴァンデモンもそれを分かっているからこそだろう。使用中ほぼ無防備となるこの行動を敵の目と鼻の先で行っていながら、その表情は余裕そのものなのだから。

 

「……フフ……どうした? 打ちたければ何時でも打つがいい……」

 

「クソっ……!」

 

ただ、親友のピンチに呆然と立ちすくんでいる訳にはいかない。

ドスンドスンと、メタルティラノモンは二体との僅かな距離を埋めるべく、とにかくその巨体を動かす。

 

だが、走り始めたその直後、

 

「ぐおっ……!」

 

彼の後頭部に強烈な衝撃が走り、その身体がアスファルトへと勢いよく叩き伏せられた。

いつの間にか自身の真後ろへと移動していた一体の死神の手によって。

 

「ぐっ……ファント……モン……!」

 

「ヒヒ……ヴァンデモン様の"食事"、邪魔させる訳にはいかん」

 

「……チッ……! 引っ込んでろっ!」

 

地に片手をついた状態から、メタルティラノモンは上空を漂うファントモンに向けて無数のレーザーを乱射するが、ヒラリ、ヒラリと瞬間移動を繰り返す彼に攻撃が当たる事はなく、その全ては密集するビルを煙と共に蜂の巣へと変えるのみである。

 

「おぉ怖い怖い」

 

「……っ!」

 

好戦的な性格のメタルティラノモンは、挑発を繰り返しながら逃げるファントモンに苛立ちを隠せない。

だが、放置して進もうにも今しがたのような不意打ちを受ける事は目に見えている。

 

「クソが……! まともに勝負も出来ないのか……!」

 

「ヒヒヒ……」

 

結果、彼は罵声を上げながらも当たる兆しのないレーザーを打ち続ける。

幾つかのビルは倒壊し、瓦礫の塊が街の一角を廃墟のように変えていく。

 

「チッ!」

 

そして、

 

まんまとファントモンへと意識を裂かれたその一瞬の間、

 

「がっ……はっ……」

 

遂にワーガルルモンの身体が痙攣と共にずるり崩れ落ちた。

まるで口許の"血"を拭うかのような仕草と共に、魔王の食事が終了したのだ。

 

「クッ……しまった……!」

 

「さて、私の役目は此処まで……後はヴァンデモン様に……」

 

同時に役目を果たしたとでも言うように、ファントモンはゆらりとヴァンデモンの隣へと瞬時に移動する。

 

「き、貴様らぁ! 」

 

「フッ……やはり獣の血は不味いな……だが……」

 

足元に倒れ伏す人狼をまるでゴミのように見つめた後、ヴァンデモンは視線を前へと写す。

 

「絶対に……ぶちのめしてやるっ……!」

 

親友たる仲間を倒され、今にも飛びかかりそうな恐竜へと。

 

「貴様を葬るにはこれでも十分だろう……さて、では"凶竜"よ……増幅された我が力、その身を持って体感するがいい!」

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

仲間が倒された怒り。

邪魔する者がいなくなり、怒濤の勢いで突進を再開したメタルティラノモンだが、そんな彼を嘲笑うかのように魔王は止めの一撃を容赦なく放った。

 

「散れ……ナイトレイド!」

 

「なっ!」

 

凶化された漆黒の弾丸が、恐竜の視界を黒く染める。

無数のコウモリの雨が、まるで竜巻のように道路を削りながら一直線にメタルティラノモンへと直進し、そして、

 

「ぐっ! がっ! かはっ! ぐうあああぁぁぁ!」

 

濁流のごとくその巨体を飲み込み、突き進んでいた彼の身体を一気に押し返す。

多段的に命中するコウモリ達に防御は意味がなく、全快に近い体力をガリガリと削られ、ただ流されながら攻撃を受け続ける。

 

「がぁあああ!!」

 

永遠に続くような黒い旋風。

 

しかし最後、轟音と煙を上げてメタルティラノモンは突き当たりの建物に衝突、それを倒壊させた所でようやく黒い波は停止した。

 

「フッ……即席にしてはなかなかの威力だ」

 

ガラガラと崩壊音が響く中、それを放ったヴァンデモンが呟く。

しばらくして立ち上る土煙が晴れると、そこに居たのは瓦礫の中で沈黙する傷だらけのメタルティラノモンの姿。

 

「………………」

 

「フン……」

 

勝利を確信した魔王が笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその一方。

 

「メタルティラノモン!」

(な、なんとかしないと! このままじゃあの子が消えちゃう!)

 

完全体四匹の戦いを少し離れた建物の影から見守っていた沙綾は、予想以上の劣性に顔を青ざめていた。

今の一撃。いくら耐久力があろうとも並大抵で受けられるものではない。

ヴァンデモンの力を侮っていた訳ではないが、沙綾の小説の知識よりも遥かに敵の実力は高かったのだ。

それはもう、"決着"までの僅かな時間稼ぎすらも許さない程に。

 

「ワーガルルモン! 頼む! 起き上がってくれ!」

 

ヴァンデモンの足元で今だ動かないパートナーにヤマトは祈るように声を上げるが、勿論その叫びは届かない。

最もワーガルルモンに限って言えば、"歴史の流れ"がある以上ここで消滅する事はないだろう。しかし、

 

(私の判断ミスだ……)

 

メタルティラノモンは違う。歴史にとっての"イレギュラー"である彼に命の保証はない。

負ければそれまでなのだ。

 

(もっと近くで、ちゃんと指示を出すべきだったのに……)

 

"ヴァンデモンが自分を狙っている以上、今は近付くべきではない"。

そう判断し、戦いをパートナーだけに任せてしまった事を彼女は後悔した。

今まで数々の強敵と渡り合えてこれたのは、一重に沙綾とアグモンが二人揃ってこその結果なのだ。

 

(アグモン一人に全部任せて……私は何してるの? あの子が頑張ってるのに、私は!)

 

直後、沙綾は信じられない事を小声でポツリと呟く。

 

「……行かないと……」

 

「「えっ……」」

 

ヒカリも含め、その場の全員がその発言に固まった。

当然だ。こんな状況でのこのこ戦場に出るなど、最早無茶を通り過ぎて唯の自殺行為に他ならないのだから。

それでも、呆気に取られる空とヒカリを無視して進もうとする沙綾だが、その腕をヤマトがすんでの所で引き留めた。

 

「待てよ! 行くってお前……そんな体で何言ってんだよ! アイツらはお前を狙ってるんだぞ!」

 

「そうよ! 今出ていったら、それこそヴァンデモンの思う壺だわ!」

 

ヤマトに続くように、空も必死に彼女を引き留める。

しかし、今の沙綾はその程度では決して引き下がらない。皆の前では滅多に流さなかった涙をその大きな瞳に浮かべながら沙綾は感情を露にして叫ぶ。

 

「そんな事分かってるよ! でも行かないと! あの子までいなくなったら……私はもう……本当に……"この世界で一人ぼっち"……」

 

「えっ……!?」

 

「沙綾……ちゃん……?」

 

その真意を、ヤマト達は知らない。

ただ、告げられた言葉だけが重く、そして寂しく彼らの胸に響く。

その一言だけで、"仲間"だと信じていた沙綾との間に、どうしようもない距離があるのではないかと、そんな気さえ起こる。

 

「あっ……」

 

気付けば、ヤマトはいつの間にか掴んだその腕を離していた。

そして、

 

「……ごめん……ヤマト君……空ちゃん」

 

動けないヤマト達に背を向け、沙綾は一言だけ申し訳なさそうにそう呟いた後、足を引きずるようにしてビル陰から出た。

 

「大丈夫……まだ、手は残されてるから……」

 

最愛のパートナーの元へと向かうために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン……他愛もない……」

 

一部盛大に破壊された廃墟のような街の一角でヴァンデモンは呟く。最早決着は着いたも同然だが、その声色は何処と無く不服そうである。

 

「が……まだ死んではいないか……」

 

限界までデータを"吸血"されたワーガルルモン。そして、その吸収した力を上乗せした必殺を受けたメタルティラノモン。ヴァンデモンとしては両者とも"殺す"つもりで攻撃したのだが、微かにでも生きていた事がその原因だろう。

 

「如何致しますか?」

 

「……"コレ"は残しておく……残りの選ばれし子供達への"脅し"には使えるだろう……」

 

武器を下げ、背後をフワフワと漂うファントモンに視線は向けず、魔王は片足で人狼の頭を踏みつけながらそれに答えた。

 

「では、ヤツの方は?」

 

「"人質"は一匹で十分だ……ヤツと隠れている子供達は、このまま私自らが引導を渡してやる……お前はバケモン共を指揮して街の巡回にあたれ……」

 

「御意……」

 

今回の戦闘に大きく貢献したファントモンは、主のその命令に小さく頭を下げた後、周囲に溶けるようにフワリと姿を消した。

 

 

そして死神の気配がその場から消えた後、ヴァンデモンは遥か遠方、今や瓦礫の山にもたれ掛かるように沈黙する恐竜へと目を移し、そのままゆっくりと歩き始める。

 

しかし、沈黙するメタルティラノモンまで後10メートル程の距離まで迫った所で、不意にその足が止まった。

 

一人の少女の登場によって

 

「待ってっ!」

 

「ほう……隠れていたのではなかったのか?」

 

そう、沙綾である。

今まで姿を隠していた彼女が両手を広げて仁王立ちし、魔王とパートナーの間に割って入ってきたのだ。

それはまるで、決死の覚悟で母が子を守るかのように。

 

「……なんのつもりだ? イレギュラー……」

 

ヴァンデモンは目を細め、"退け"と言わんばかりに沙綾を威圧するが、彼女とて此処で引くわけにはいかない。

 

「お願い……もうこれ以上、この子を傷つけないで」

 

放たれる威圧感に震えそうになる体を押さえて沙綾は声をあげるが、そんな願いを簡単に聞き入れるデジモンではない事くらい彼女は最初から知っている。

 

「フッ……そんな戯れ言を私が聞くと思うか?」

 

予想どうりの魔王の答え。

 

「……じゃあ……取引だよ」

 

だからこそ、彼女は用意した"作戦"を素早く行動に移した。

 

(一か八か……でも、もうこれ以外に方法は思い付かない)

「約束してくれるなら、私達が何者なのか……隠さずに全部貴方に話す……目的も……どうして選ばれし子供達を知っていたのかも……」

 

「……ほう?」

 

それを聞いたヴァンデモンの表情が僅かに変わる。

 

そう、"それ"は正に沙綾達にとっての最後の砦。

ヴァンデモンは"それ"を知りたいがためにここまで足を運んだのだ。ならば、この交換条件ならばこの場を乗り切れる可能性がある。いや、乗り切らなければならないのだ。

彼女の旅は、パートナーが消えればそこで全て終わるのだから。

 

緊張の一瞬、沙綾は思考を回転させる。

 

(この距離ならヤマト君達に聞かれる心配はない。例えヴァンデモンに正体を知られても、後一、二時間以内には倒されてる筈……なら……)

 

証拠はすぐ隠滅され、子供達に情報は漏れず、恐れている歴史の改編は起こらない。

仮に今更ヴァンデモンが近未来を知った所で、ここまで来ればもう"歴史の流れ"は変わらない。それを沙綾は自身の体験で深く理解している。

問題はただ一つ。ヴァンデモンがこの提案に乗るかどうかである。

 

「交換条件……という事か?」

 

「この子にはもう闘う力は残ってないし、私の知ってる情報には貴方に有益な物も沢山ある……悪くないでしょ? 」

 

「成る程……"有益な情報"、か……」

 

「そう……この世界を支配したいなら、知っておいた方がいい事だよ……」

(まあ、知ったところでどうにもならないけどね)

 

「ほう……」

 

提案に興味を持ったようなヴァンデモンの様子から、"上手くいった"と沙綾は若干の安心を覚える。

 

だが彼女のそんな期待は、次の一瞬で脆くも崩れ去るのだった。

 

「フフ、ハハハハッ!」

 

「な、何がおかしいの!」

 

ヴァンデモンが突如として不気味な高笑いを上げたのだ。それは"あまりにも馬鹿馬鹿しい事"を聞いたとも言うような侮蔑を含んだ物。

彼のイメージにはあまり似合わない盛大な笑い方に、思わず沙綾の背筋が凍る。

一通り笑ったその後、魔王の表情は再び冷淡な物へともどった。

 

「……生意気な小娘が……この私に交渉だと……?」

 

「え……!?だって、貴方はそれを知りたいんでしょ! さっきも言ってたじゃない! "目的を教えろ"って!」

 

「フン……勘違いをするな……あれは"命令"だ。"貴様の意見など誰も聞いてはいない"……!」

 

そう、ヴァンデモンにとっては沙綾の交渉自体に意味を感じない。話すことこそ当然と感じているからである。

むしろ格下の"人間"からの意見など、例えイレギュラーであろうと彼にとっては不快以外の何物でもないのだ。

 

「そん、な……」

 

結果、ヴァンデモンは沙綾の話に耳など貸さず、コツコツと再びその足を進める。そして、黒髪の少女に手が届く距離まで詰め寄った後、その右腕が容赦なく白い首筋へとのばされた。

 

「……きゃっ!」

 

抵抗する事も許されず、小さな体が宙へとつり上げらる。

 

「どうだ、苦しいか? イレギュラー……?」

 

「うっ……あ……」

(い、息が……!)

 

呼吸を止めらた沙綾は必死に足をバタつかせるものの、魔王は一切気には止めない。

それどころかより一層残虐に口許を歪ませる。

 

「この凶竜は此処で消す……"命令"に背くなら貴様も同様だ……お前達が何者であろうと、共に消えされば私の"計画"に支障はないのだからな……!」

 

「きゃっ!」

 

そして、まるで小石でもなげるかのように、ヴァンデモンは沙綾の体を無作為に放り投げた。

 

包帯だらけの体が宙を舞い、次の瞬間

 

「っ!」

 

固い地面へと叩きつけられ、彼女の全身に刺すような激痛が走る。その上、投げ飛ばされた勢いから道路を滑るようにころがり、やがて、沈黙するメタルティラノモンの足下で停止した。

 

「……あ……う……」

 

両足に巻かれた包帯から血が滲む。

 

同時に頭も打った事による脳震盪から、彼女はうつ伏せの体勢から起き上がる事さえ出来ない。

 

冷淡な魔王の声だけが、その耳へと届く。

 

「直ぐに他の子供達も"そちら"に送ってやる……さらばだ……イレギュラーよ」

 

最早パートナーを守る手段も残されてはいない。

逃げる事も出来ない。

 

(……失敗した……まだ何もやり遂げてないのに……私……ここまでなのかな……)

 

絶対絶命。

ヴァンデモンが必殺の構えに入る。

先程メタルティラノモンを迎撃したあの黒いコウモリ達を召喚するために。

 

(……勝手にみんなの"物語"に介入して……あげく勝手にしんで……はは……これじゃ、まるでお笑い草だ……)

 

万策は尽きた。

沙綾は悔しさを噛み締めながらその目を閉じる。

 

(ごめん……ミキ、アキラ……それからアグモン……結局私、何も出来なかった……)

 

恐怖ではなく、謝罪の涙がその頬を伝う。

 

そして、

 

「ナイト……レイド!」

 

止めの一撃、必殺を告げる魔王の声が街へと響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














絶対絶命の主人公。
さあ、この後の展開を三択です。

1、沙綾のピンチでメタルティラノモン復活!
2、土壇場での太一&メタルグレイモン登場!
3、現実は非常である……

正解は来週……ぐらいになるかな……?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。