デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

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小説を書き始めた頃に比べて、最近の一話辺りの文字数が倍以上に増えています。
その分時間も倍以上掛かっていますので、成長したのかはなんともいえませんが………




「メタルティラノモン! お願い!」 「任せろマァマ!」

混乱する人込みに逆らいながら、沙綾はマンモンを追い、光が丘の街を全力で駆ける。

全身に回る痛みは既にピーク、彼女の整った顔立ちに玉のような汗が幾つも浮かんでは流れていく。

 

(はぁ……はぁ……うっ……足が痺れてる……身体も……痛い…………でも……)

 

軋む身体に鞭を打ち、彼女はそれでも速度を落とそうとはしない。

この先に、彼が居るかも知れないのだ。

押し寄せる人々と接触し転倒しようが、足の感覚が無くなろうが、『邪魔だ! 退け!』と罵声を浴びせられようが彼女には関係ない。

 

「……はぁ……ふぅ……待っててね……アグモン」

 

そう、全ては、我が子のように大切に思い、そして、自分を想って泣いているであろうパートナーを安心させるそのためだけに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がっ! かはっ!」

(……はぁ……はぁ……くそっ……このままじゃ……)

 

マンモンの渾身の一撃。更に続く強烈な踏みつけ。

まるで土下座のような姿勢で襲いかかる前足を受ける中、ティラノモンはそれに耐えながら、この状況を打開する手について思考していた。

 

その間にも、ドゴン、ドゴンと彼の身体はアスファルトを突き破ってその下の地面へとめり込んでいく。

 

(……うっ、な、何とか……何とかしないと……!)

 

とは言え、実際は追い込まれつつある今、成熟期である彼が完全体であるマンモンに逆転する手段など"一つ"しかない。ティラノモン自身もそれは十分に理解している。

ただ、過去の経験が彼を躊躇わせるのだ。

 

(……怖い……もし、また暴走しちゃったら……もし、またみんなを傷付けちゃったら……)

 

 

そして、

 

「━━━━━━!」

 

マンモンが吠える。

恐らく止めを刺すつもりなのだろう。今までの片足による踏みつけではなく、まるで馬の嘶きのように後ろ足で一瞬立ち、勢いを付け、両足でティラノモンへと襲いかかったのだ。

 

だが、

 

「くっ!」

 

その一瞬の隙をついて、彼は身体を横に転がしながら間一髪でそれをかわし、マンモンの両足が大地を揺らす中、力を振り絞るように一気に後方へと跳んだ。

 

「……はぁ、はぁ……危な……かった……」

 

二体の間に距離が開く。

それでも、仕切り直しと言う訳にはいかない。

今だ体力の底が見えないマンモンに対して、肩で息をするティラノモン。録に動き回れない市街地で、このまま戦闘が続けば敗れるのはどちらか、それはもう火を見るより明らかである。

 

(……くそっ……ボクは何を考えてるんだ……もう、他に方法なんてない。なら……)

 

『ここは任せて』、そう言ったのは他ならぬ自分自身である。勿論、それは生半可な覚悟で口にしたわけではない。

暴走の恐怖と"同じ程に"、彼は子供達の信頼に答える事が出来ない自分がイヤなのだ。

心の中に"暴走する自分の影"が写っては消えていくが、ティラノモンはそんな雑念を振り払うかのように首を左右にブルブルと震った後、覚悟を決める。

 

「━━━━━━!」

 

マンモンが鼻を高く上げて威嚇する。

その中で彼は目を閉じ、乱れた息を調え、そして敵の咆哮に答えるかのように声を上げた。

 

(そうだ、やるしかないんだ!)

「ふう……行くぞっ! 覚悟しろっ!」

 

"灰色の凶竜"へと、その身を進化させるために。

 

だが、

 

「……あれ、えっ……どうして……!?」

 

何時もならば、『進化をする』と決めた瞬間に、彼の身体は次の世代へと変化を遂げられる。先程成長期から進化した時もそうだ。

しかし今、いくら身体に力を込めても、その身が完全体へと昇華する気配はない。

 

「早く、早く進化しないとっ!」

 

自らの身体の異変に焦りながら、何度も進化を試みるが、やはりその身は輝かない。

やがて、『これ以上の進化が出来なくなっている』という事実を悟ったティラノモンは、衝撃からか、敵を前にしたまま、自身の手を呆然と見つめて固まった。

 

(く、くそっ! ………怖がってる場合じゃないのに)

 

頭では理解している。

進化しなければこの場はもう乗り切れない。皆の期待を裏切る事になると。

しかし、彼の"心"がそれについていけないのだ。

かつて太一のアグモンがそうであったように、無意識に働く"トラウマ"が、彼の進化にブレーキをかける。

 

そして、

 

ティラノモンが行動を辞めたその絶好の隙を、相手が見逃してくれる筈がない。

 

「━━━━━━!」

 

「っ!? しまった!」

 

雄叫びと共に長い鼻から発せられる猛烈なブリザードが、夏の日差しを物ともせず、瞬く間に道路を凍結させながらティラノモンへと突き進む。

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

それに対し、不意を突かれた彼は避ける事は出来ず、咄嗟に防御の姿勢を取ったものの、襲いかかる猛吹雪はティラノモンの身体を氷付かせる勢いでぶつかっていき、やがて、

 

「……ぐっ……あっ……」

 

激しい冷気が過ぎ去った後、ティラノモンはガクンと、その場に膝から崩れ落ちた。

既に何度となく完全体の攻撃を受け続けたのだ。体力が限界をむかえたのだろう。

辛うじて意識はまだ保ってはいるが、視界はぼやけ、気を抜けば飛んでいきそうなものである。

 

"進化"が出来ない以上、最早勝敗は決したも同然であろう。

 

「……うっ……はぁ…………はぁ……」

 

遠くなった陸橋の上、子供達が此方に向かって叫んでいる姿がぼやけた視界に映るが、意識は既に途切れる寸前、その声は聞こえない。

 

「━━━━━━!!」

 

敵を追い詰めたマンモンが甲高い鳴き声を上げて地面を踏み鳴らす。

 

その二本の象牙から繰り出される一撃を耐える体力も、まして、それを避ける体力も、もう彼には残されてはいない

 

(……ああ……ボク、負けちゃうのか……ごめん、みんな……ごめん……マァマ……)

 

ふと思い出すのは自分に微笑みかける彼女の顔。

もうずいぶん前に別れ、ただひたすらその無事を祈り続けたパートナーの面影。

必殺の構えに入るマンモンを前に、そんな幻想を胸にして、ティラノモンは前のめりにバタリと倒れ、その意識は暗く沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、その"声"が彼の心に届くまで。

 

 

「負けないで! ティラノモン!」

 

(えっ……この声……)

 

倒れたのも束の間、もう聞こえなくなっていた耳を無視して、必死に叫ぶその懐かしい声が、ティラノモンの意識を現実へと引きずり戻す。

それとほぼ同時に、マンモンがその牙を奮い立たせて止めの突進を開始した。

 

「……マァ……マ……」

 

「そうだよ! 私は此処! 負けないで! 貴方は勝てる、貴方は……私のパートナーなんだからっ!」

 

抵抗なく頭へと直接届くような声。

震える手で四つん這いになるように身体を起こして、迫るマンモンを無視して彼は右へ左へと首を回した。

 

 

そして、

 

「あ……あぁ……」

 

遂に、見つけたのだ。

 

自分のすぐ近くに。

 

大量の瓦礫が転がり、人一人いなくなった大通り。その中において、ビルの外壁に体を預け、肩で息をしながら叫ぶ少女の姿を。

全身の至る所に包帯がまかれ、服装も変わっているが、間違いはない。いや、どんな姿になろうとも、彼がパートナーを見間違うことなど"有り得ない"。

 

「マァマ! マァマ!!」

 

ティラノモンの意識が一気に覚醒する。

全てはこの時のため、彼女の無事を信じて彼はここまで進んできたのだから。

溢れる感情が涙となって頬を伝うが、今は再会を悠長に喜んでいる場合ではない。

 

「話は後だよ! 今は前を見て! 」

 

「う、うん!」

 

「 構えて……貴方なら、受け止められる!」

 

待ち焦がれた沙綾の声。

その声を前に、"出来ない"などと口にする訳にはいかない。

いや、それ以前に、彼女はパートナーの事を誰よりも深く理解している。故に、沙綾が"出来る"というのであれば、そこに間違いなどある筈がない。

 

彼女のたった一声が、ティラノモンにとってはこれ以上ない力へと変わるのだ。

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

赤い恐竜が咆哮を上げて再び立ち上がり、腰を落としてドッシリと身構えた。その姿は先程まで力尽き、倒れていた事など嘘のようである。

 

直後、

 

「━━━━━━━━━!」

 

先程と同じく、マンモンが突進の威力をそのままに、巨大な二本の牙でティラノモンを掬い上げるように力強く頭を震う。

完全体が繰り出す渾身の一撃だ。手負いの成熟期が受けきれるものではない。

 

だが、

 

「絶対に……負ける、もんかぁぁぁぁ!!」

 

ドン、という衝突音を上げ、ティラノモンは振るわれる象牙を両腕でガッチリと捕まえた。

巨体の突進の衝撃により、踏ん張りをみせる彼の両足が道路を削りながら二歩、三歩、と後退したが、それでも、彼は沙綾の指示通り、今の一撃を見事止めて見せたのだ。

 

「━━!!」

 

まさか今まで瀕死状態であった格下の相手に、己の必殺を止められるなど考えてはいなかったのだろう。表情こそ分からないが、マンモンは明らかに動揺しているようだ。

 

「ぐっ、ぐぐ……」

 

それでも、まだ終わりではない。まだその巨像にはこの状況でも使える技がある。そう、鼻先から放出出来るブリザード攻撃である。

ティラノモン自身は、巨体の突進を受け止める事で頭がいっぱいなのだ。まずこの攻撃はかわせないだろう。

 

マンモンは突進の姿勢を保ったまま、その鼻先だけをティラノモンへと向けようとする。

 

しかし、今の彼は一人で戦っている訳ではない。

 

「ティラノモン! さっきの攻撃が来るよ!マンモンの鼻を踏みつけて!」

 

「!」

 

ティラノモンは沙綾の指示に対しては殆ど反射で動く事が出来る。つまり、そこには指示を理解するタイムラグも、片足を上げる事でバランスが崩れるかもしれないという躊躇いも一切存在しない。

 

「ふあっ!」

 

頷くよりも早く、彼は右足を一歩伸ばして、持ち上がろうとするマンモンの長い鼻を踏みつけた。

 

「━━━━━!!」

 

最も、元々ティラノモンの体重はマンモンに比べれば遥かに軽いのだ。

両足を使って踏ん張ったために突進を防げたが、片足を前へと出した今、左足一本では当然力負けを起こす。

 

「━━━━!!」

 

二度も攻撃を封じられ、更に呼吸を阻害されたマンモンは頭に血が昇ったかのように、猪突猛進の勢いで前進を始め、体制をそのままに、ティラノモンの身体は更に後退する。

このままでは、いずれ押しきられてしまう事は間違いない。

 

「ぐっ!」

 

「ティラノモン!」

 

 

 

だが、それは"ティラノモン"であった場合の話。

 

 

 

 

 

「今だよ! 進化して!」

 

「!!」

 

その言葉に、ティラノモンは目を見開く。

沙綾は彼が進化出来なくなっている事など微塵もしらない。彼の抱えるトラウマも、沙綾がいない間に、デジタルワールドで何があったのかも。

 

しかし、彼女は今まで、不可能な指示を彼に下した事など一度もない。

 

それはつまり、

 

(マァマが……出来るって言ってくれてるんだ……マァマがそう言ってくれるなら、ボクに"出来ない事"なんて何もない!!)

 

ティラノモンの心に更なる火が灯る。

 

他ならぬ彼女が、自分を信頼して"出来る"と言っている。

ならば、"暴走の恐怖"がなんだというのだ。"トラウマ"がどうしたというのだ。

そんな物は、"沙綾の信頼に答えられない自分"に比べれば、いくらであろうと噛み潰せる。

彼女のためならブレーキなど意図も簡単に破壊する。それがこのデジモンの在り方なのだから。

沙綾が隣に居てくれるのであれば、もうティラノモンに恐れるものなど何もない。

 

「……見ていてマァマ、 ボクは、負けない! 行くぞ!ティラノモン、超進化ァァァ!!」

 

「━━━!」

 

大気を轟かせる程の咆哮。

心に灯った火が、爆発のような光へと変わる。

"マンモンの牙を掴み、その鼻を踏んだ状態のまま"、彼の身体はその輝きに包まれた。

 

全てはパートナーの信頼に答えるために。

 

ウイルスの血が身体を巡る。

 

赤い身体は、くすんだ灰色へ。

 

体格は一回り大きくなり、全身が隈無く機械化されていく。

 

トラウマも恐怖も踏み潰し、やがて、拡散した光の中から、一匹の機械竜がマンモンを睨み付けながら、進化する前と同じ体勢で姿を表した。

しかし、牙を押さえつける握力はティラノモンの比ではなく、ギリギリと音を上げて象牙が軋んでいる。更に、一気に跳ね上がった重量はマンモンの突進を容易く受け止め、微動だにしない。

押さえつけられた鼻は最早ぺしゃんこであろう。

 

「…………」

 

「━━━━!!」

 

痛みからか、マンモンは一心不乱に暴れまわるが、時は既に遅い。

力は敵わず、武器である二本の牙も、そして鼻も、完全に固定されているのだ。出来ることは何もない。

 

ここに、形勢は一気に逆転した。

 

「可哀想だけど、そのデジモンは此処で倒さなきゃいけない……メタルティラノモン! お願い」

 

「任せろマァマ……今までの分……きっちりと返させて貰う……」

 

本来の歴史に置いても、このマンモンはこの場所で空のガルダモンによって倒される事を沙綾は知っている。ならば、その運命を変えるわけにはいかない。

沙綾の指示に、灰色の機械竜が闘志の籠った低い声で答える。沙綾がいる今、それはもう"破壊"意外を考えられない凶竜などではない。

 

「うおらぁぁ!!」

 

「━━!!」

 

そして、停滞していた戦闘がメタルティラノモンの渾身の頭突きによって再開された。鉄の塊と同等の衝撃が頭部へと直撃したのだ、マンモンは短い悲鳴の後、前進姿勢を崩し、千鳥足のようにヨタヨタとふらつく。

 

「時間はかけないで! 被害が大きくなっちゃうから」

 

「了解だマァマ!」

 

沙綾の指示に素早く答え、メタルティラノモンは勢いの無くなったマンモンの半ば潰れた鼻から足を上げ、同時に、捉えていた牙からもその手を離す。

頭突きが効いている今、相手は強引な攻めが出来ない。

 

その隙を見計らい、彼は近接戦最大の武器である大顎を開き、ガブリと、マンモンの鼻のつけねへと噛みついた。万力のような圧力で、その牙が食い込むが、まだこれで終わりではない。

 

「ぐうぅおぉぉぉぉ!!」

 

なんと、彼は進化により発達した顎と首の全ての筋力をフルに使い、マンモンの巨体を広い道路にそってブンブンと振り回し始めたのだ。

そして、十分な加速と勢いが突いた状態から、メタルティラノモンはマンモンの身体をまるでハンマー投げをするかの如く、上空へと思いきり投げ飛ばした。

自身の最高火力を被害を出さずに使用するために。

 

「━━━!!」

 

悲鳴と共に、巨大な象は子供達がいる陸橋の真上を、物凄いスピードで通過する。

そんな中、メタルティラノモンは一瞬沙綾へと目配せした後、その右腕を遥か上空に向けて構えた。

 

彼の主砲が開かれる。

 

「これで止めだ……ギガ……デストロイヤー!!」

 

バシュンと、白い煙を上げて放たれるミサイルが、音速に迫る速度で打ち出され、そして、

 

「━━━━━━━!!!」

 

マンモスを巻き込み、光が丘の上空にて、閃光と共に爆散したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……はぁ……よかった……まさかアグモンが戦ってるとは思わなかったけど……無事に此方に来てくれて、ホントに……)

 

一部道路が吹き飛んでいる大通り。ビルの外壁へと体を預けていた沙綾は、戦闘の終了と共に、へなへなっと、その場に崩れるように座り込んだ。

タクシーを降りた瞬間から、バクバクとしている心臓が、安心感からかようやく落ち着きを取り戻していく。

 

だが、張っていた気が抜けると同時に、今まで"ツケ"が彼女へと一気に襲いかかってきた。

 

「っ……うっ……あっ……い、痛っ……あ、うっ……」

 

突如として全身を巡る痛みに、沙綾はそのまま身体を丸めて苦悶の表情を浮かべる。

何せ、全身が、擦り傷、切り傷、打撲、捻挫だらけなのだ。そんな状態で無理をすれば、この結果は当然であろう。

余りの痛みに目の奥がチカチカと光り、意識が途切れそうになるが、まだ、彼女は気絶する訳にはいかない。

 

何故なら、

 

「うわぁぁん!! マァマァァァ!!」

 

顔をグシャグシャにしながら駆けてくるパートナーを前に、『一人でよくがんばったね』と労いの言葉も掛けずして倒れる事など出来ようか。

 

「うっ……はぁ、はぁ……アグモン」

 

沙綾は気力を振り絞りながら何とか体を起こし、ビルの壁を支えに懸命に立ち上がる。

そして、ペタペタと、此方に向かって両腕を振って向かってくるパートナーに向かい、出来る限り平静を装って声を掛けようとしたのだが、

 

「ごめんね……アグモン、今まで、よく頑張っ……」

 

「会いたかったよぉぉぉ! マァマァァァ!」

 

沙綾が言葉をかけ終わるよりも早く、激情のままにアグモンは彼女へと"ダイブ"するように飛び付いてきたのだ。

3ヶ月という長い期間の寂しさが噴火したのだろう。

戦闘時とは違い、今の彼は完全に『親を見つけた時の迷子』である。

恐らく、今アグモンは『沙綾がケガをしている』という事さえ頭からは抜けているのだろ。そして、

 

「ちょっ! ちょっと待って! アグモン!」

 

「マァマァァァァァ!!」

 

「きゃっ!!」

 

ガバリ、と、彼は疾走の勢いを一切止める事もなく沙綾へと飛び付いてしまったのだ。

勿論、今の彼女にはそれを受け止める程の力はなく、全身に痛みが走る中、沙綾はアグモンに押し倒される形で、背中からドスンとコンクリートへと倒れ込む。

 

(……あっ……まずっ……意識……が……)

 

先程から気力のみで意識を繋ぎ止めていた所へ、追い討ちを掛けるように背中を強打したのだ。

沙綾の意識はスゥーと、溶るように白く染まっていく。

 

(……アグモンの……ばか…………)

 

「マァマァ! ボク、頑張ったよ……マァマがいない間も、ずっとマァマの事探し……」

 

最も、そんな様子にアグモンが気付くことはなく、目を回している沙綾の胸に顔を埋めながら、グシャグシャの顔でその胸に貯めた想いを語っていたが、残念ながら、彼女の耳には殆ど届く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感動の再会という訳にもいかず、沙綾の意識がなくなっている事にアグモンが気づいたのは、それから一、二分後、選ばれし子供達がそこへと到着してからの事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回でアグモンメインの物語展開は一応終わりです。
いや、長かったですね。

ちなみに、今のアグモンの皆に対する信頼度を、図にするとこんなかんじでしょうか。

沙綾>>>>>>>>>>ガブモン>>太一、太一アグモン>他

はい、やはり沙綾だけ露骨にぶっ飛んでいます。
次点で、一番パートナー達の中でアグモンを励まし続けていたガブモン、暴走からを救ってくれた太一達と続きます。
ですが、図では一番低い子供達やパートナーの事も、勿論全面的な信頼と好感を持っています。
あくまで、沙綾が飛び抜けているだけですね。

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