デジアド続編キターー!!
すみません、遅れました。
ていうか、もう50話まできたんですね。
文字数にして22万文字、ようやく半分過ぎたぐらいでしょうか。
「━━━━━━━━━!」
金属同士がぶつかり合う甲高い音と共に、完全体へと進化を果たしたメタルグレイモンと、暴走するメタルティラノモンが、灰色の空の下で衝突する。
襲いかかる強靭な顎を左腕のアームを盾に防ぐその構図はこの前の再現のようであるが、太一のアグモンの心境は全く違う。
彼の豹変に唖然としながら攻撃を食い止めていただけのあの夜とは違い、今の彼はその瞳に宿る強い意思と共に、一切怯む事なく次の動作へと移行した。
「それっ!」
「!!」
ギリギリとアームを噛み付けてくる凶竜の両足を、メタルグレイモンは片足を勢いよく振って足払いを掛ける。
やはり足元に意識など向けていなかったのか、メタルティラノモンはそのままドスンという重い音を上げてその体制を崩した。
そこへ、
「うおぉぉぉぉ!!」
彼を腕に噛みつかせたまま、メタルグレイモンは雄叫びを上げながら自身の体を軸に"力任せ"にグルグルと回転を始める。
すると、
「ぐぅおおぉぉ!」
「━━!!」
始めはズルズルと引きずられていた凶竜の身体が、遠心力によって徐々に浮きがって行く。
そう、『一度食らい付いたらなかなか離さない』という彼の習性を利用した"ジャイアントスイング"である。
勢いが付き、高速でブンブンと振り回され始めた凶竜は、やがて自身の全体重に比例して外側へと掛かる強烈な引力に耐えかね、投げ飛ばされる形でその顎を開いた。
「━━━━━━━!」
野獣のような叫び声と共に、そのままドゴンとメタルティラノモンの身体は城の外壁を突き破り、瓦礫と土煙を盛大に舞い上げた後停止する。
しかし、
「━━━━━━━━━!!」
「……やっぱり、この程度じゃ元には戻らないよね……」
流石の防御力。
派手に城壁を突き破ったにも関わらず、即座に起き上がってギラついた目で吠える彼に、メタルグレイモンは呟いた。
やはり、もう簡単にはあの"凶竜"を元に戻す事は出来そうにない。
ならば、メタルグレイモンが取るべき行動は一つ。
(進化出来ないくらいまで、エネルギーを使わせるしかない)
エネルギーの枯渇。
かつての自分がそうであったように、ワクチン種である成熟期以下にまで彼を退化させれば、恐らく暴走は終わる。
しかし、それを行うには問題も幾つかある。
そもそも、自力での進化であるメタルティラノモンを退化にまで追い込む事は簡単ではない上、逆に自身は完全体の姿を維持出来る時間に限りがあるのだ。
それに加え、先程のように暴走する凶竜はためらいなく自身の必殺を放ってくるが、メタルグレイモンとしては彼に致命傷を与えかねない必殺の使用は避けねばならない。いや、それ以前に子供達を巻き込む可能性が強い。
不可能ではないが、目に見えて分が悪いのはいうまでもないだろう。それでも、
「━━━━━━━━!」
「来るぞ!メタルグレイモン!」
「君が心を取り戻してくれるのが先か……それとも、ボクの体力が底をつくのが先か……勝負だっ!」
出来る事がある限り彼らは諦めない。
城の中から瓦礫を蹴り飛ばしながら荒々しくコチラを目掛けて突き進んでくる凶竜を前に、メタルグレイモンは再度それを真っ向から受け止めるべく左手を前に防御姿勢を取った。
だが、
「━━━━━━━━━━!!」
「!なっ!」
再び噛みつくのかと思いきや、一直線にメタルグレイモンへと迫るメタルティラノモンが、急に頭を下に向け、転びそうになりながらも勢いを殺さずそのまま突っ込んできたのだ。
「ぐっ!」
「━━━━━━!!」
頭突き。
それも下から掬い上げるように強烈な一撃が強竜の防御をすり抜けてその腹部へと直撃する。
ガンっという音と共にオレンジの身体が宙を舞い、今度はメタルグレイモンが城の二階付近の外壁へと勢いよく叩きつけられた。
「がはっ!」
ガラガラという音を立てて壁の一部を崩し、その身体が半分城内へとめり込む。
「メタルグレイモン!」
後方に控える太一達の表情が曇る。そんな中、
「━━━━━━━━!」
「ひっ!太一!あいつ"こっちにミサイルを撃つつもりだぞ"っ!」
「!まずい!」
暴走する凶竜は本能的に一番近い物を狙う。
メタルグレイモンが弾き飛ばされた事で、それは"破壊対象"を修練場入り口付近にまで後退した子供達とそのパートナーへと変更し、即座に主砲である右腕を彼らへと向けたのだ。
ここが城のど真中であろうと、彼には関係はない。
「━━━━━━━!!」
凶竜の右腕が一瞬光る。しかし、やはりそれはもう一匹の強竜が許さない。
「っ……トライデントアーム!」
メタルグレイモンが吹き飛ばされた"位置"が、城の二階相当の高さであった事が幸いした。高い位置から、彼は強固なワイヤーによって着脱可能な左腕の先端部分を射出。それはメタルティラノモンの腕へとグルグルと絡み付き、彼が必殺を放つタイミングで、素早くワイヤー共々彼の腕を引っ張り上げたのだ。
「━━!?」
ドゴンと打ち出されたミサイルは検討違いの遥か上空に向けて打ち出され、厚く暗い雲の下、閃光と轟音を上げて爆散した。
「た、助かった…」
「サンキュー、メタルグレイモン!」
「太一達には手を出させない!」
次はこっちの番だと、メタルグレイモンは凶竜の右腕にワイヤーを巻き付けたまま、それを手繰りながら城の壁から勢い良く飛行した。そして、
「うおりゃ!」
「!!」
メタルティラノモンの前へと再び降り立ち、空いている右腕で彼の左頬を思い切り殴り付ける。
一撃で吹き飛ばせそうな衝撃ではあるが、ワイヤーによって互いの身体が結び付いているため、凶竜は吹き飛ぶ事なく、逆にメタルグレイモンがそれを引き戻す事で、彼を逃がさずに更なる追撃を仕掛けた。
「もう一発っ!」
「━━!」
ガツンと、メタルティラノモンの左頬に再度強烈な拳が入る。身体を引き寄せられながらのクロスカウンターのような一撃に、灰色の身体は地面を滑るように転がった。
最も、その程度ではやはり暴走する凶竜は止まる事はなく、
「━━━━!!」
「うっ!」
次はメタルティラノモンの方が右腕に巻き付いたアームを力一杯に引き寄せる。すると勿論、今度は先程とは逆にメタルグレイモンがそれに引き寄せられ、
「━━━━━━━━━!!」
「ぐっ!」
蹴り。
"ティラノモン"の得意とする全体重を乗せた飛び蹴りが、メタルグレイモンの頭部へと命中した。
鋼鉄化した頭故にダメージは少ないが、その衝撃に彼は思わず転倒してしまう。そこへ、
「━━━━━━━━!」
「!」
拘束されていない左腕を向け、凶竜が吠える。
"ヌークリアレーザー"。この至近距離で放たれれば、転倒しているメタルグレイモンでは避けることも、頭部による防御も不可能だろう。もし直撃すれば、制限のある体力を根こそぎ持っていかれかねない。
そこで、
「メガフレイム!」
「━━!?」
それはグレイモンの必殺技。
猫だましのように口から素早く発せられた火炎弾は、凶竜の副砲の発射よりも早くその頭部へと命中し、爆炎と共に彼の体勢を大きく崩した。光を集めていた副砲から色が消え、攻撃がキャンセルされる。
強竜は素早く身体を起こすと、続け様に火炎弾を更に三発、一瞬怯む凶竜に向けて放ち、最後に、
「うおぉぉぉぉ!」
彼の腕へと絡み付かせていた左手のワイヤーを元へと戻した上で、雄叫びを上げて爆炎の上がるメタルティラノモンの身体へと渾身の体当たりを仕掛けた。
「━━━!!」
ガシャンという機械同士が擦れる音が響き、撥ね飛ばされた凶竜の身体は勢いよくゴロゴロと転がった末、城壁に激突する形で静止する。
やはり、暴走しているとはいえ生物。一連の攻防により体力は消費しているのか、メタルティラノモンは先程のように即座に反撃に出ることはなく、その身を壁に付けたまま沈黙した。
「はぁ……はぁ……」
乱れた息を整えるように、メタルグレイモンは肩を上下に動かす。
戦闘が始まってまだ僅かな時間しか経過していないが、息つく間もない戦いは確実に強竜の体力を奪っていっているのだ。
「大丈夫か!メタルグレイモン!」
「……太一……」
戦闘に一つ区切りがついたからだろう。
入り口付近に避難していた太一が、一人パートナーの元まで走りより、その背中へと声を掛けた。
「……今のところは、何とか……でも、まだ勝負はついちゃいない……危ないから下がってて」
「くそ、ごめんな……お前に全部任せちまって……」
申し訳なさそうに見上げてくるパートナーに、メタルグレイモンは首を横に振る事で返事を返す。
余計な会話をすることは出来ない。何故なら、目の前の凶竜は既に膝をついて起き上がってきているのだから。
後退するように太一を促し、強竜は再び凶悪と正面から退治する。
「━━━━━━━!!」
(あんまり時間は掛けられない……君は必ず、ボクが元に戻して見せる!)
同時刻、ヴァンデモンの城、地下
「ふっ……選ばれし子供達め……思いの外早かったではないか……」
照明の無い暗く巨大な部屋の中、支配下にある無数のデジモン達の先頭に立ち、ヴァンデモンはポツリとそう呟いた。それに対し、彼のすぐ後方へと着くテイルモンはその場で膝を折り、ヴァンデモンへと進言する
「……いかがいたしますか……?ヤツらが既にこの城に到着しているのなら、今からでもこの兵達と共に私が掃除をして来ますが……」
「……いや、構わん……先程から響くこの戦闘音、私の思惑通り、子供達はヤツによって足止めされている……最早我々が出ていく必要はない……それより……」
そう言いながら、ヴァンデモンは目の前に聳える巨大な両開きの"扉"へと目を移した。
(此処を潜れば、また一つ、私の計画が進む……)
今の彼にとって優先すべきは自らの野望、『人間世界征服』の実現。疲弊した選ばれし子供達など、仮に追ってきた所で向こうで捻り潰せばいいだけなのだから。
ヴァンデモンは自身の後に続く無数の僕達(しもべたち)へと振り返り、いつも通りの威圧感がこもった低い音で短く声を上げた。
「行くぞ……人間共に、我等の力を見せてやるのだ!」
「はっ」
「「「うおぉぉぉぉ!」」」
自らを鼓舞するかのように、ヴァンデモンのカリスマ性に見せられた兵達が一斉に声を張り上げ、彼に続くかのように"扉"へと押し寄せていく。
「ふっ……去らばだ……選ばれし子供達……」
"本来の歴史"とは少し異なり、夜の王たる吸血鬼は誰の妨害も受ける事なくその一歩を踏み出し、今、長きに渡って閉ざされてきた現実世界へと続く扉を、ゆっくりと開いたのだった。
一方場所は移動し、一階の修練場。
「━━━━━━!!」
「うおっ!」
ガシャンと、凶竜の鋭いテールスイングを横腹へと受け、オレンジの身体が修練場の床を滑るように転がる。
「くっ!」
左手の爪で床を削りながらブレーキを掛け、なんとか城壁へと激突することなくメタルグレイモンは立ち上がった。が、
「━━━━━━━!」
「!」
距離が開いた所を、今度は副砲のレーザーが襲いかかる。
それに対し、咄嗟に機械化された左腕を前に出し盾にすることで、メタルグレイモンは何とかその身を守った。
しかしその様子は、戦闘開始直後程、余裕があるものではない。
「……ふぅ……はぁ……」
弾んだ息も、先程に比べればまた一つ荒くなっていた。
先の一時的な区切りから数分が経過し、再度近接戦闘を行っていたメタルグレイモンであるが、以前として相手の体力の底が見えず、また、いよいよ自分の残りの体力が半分を大きく下回ってきたのか、肩を上下に動かしながら険しそうな表情でメタルティラノモンを見つめた。
「くそっ!このままじゃ……」
「━━━━━━━━!!」
パートナーの劣勢に、再び後方へと下がった太一が声を絞り出す中、メタルティラノモンは、更なる追撃を仕掛けるために大顎を開いて突撃を開始した。
「くっ、メガ、フレイム!」
それに対し、メタルグレイモンは疾走する彼の両足に向けて連続で火炎弾を放つ。
だが、エネルギーの低下が原因だろう。それはドカン、ドカンと命中しているものの、凶竜の突進を止めるには至らない。
「━━━━━━━━━━━━!!!」
それどころか、むしろ彼のその妨害に闘争心が煽られたかのように、メタルティラノモンは今まで以上の強烈な眼光と共に彼へと迫っていく。
それは正に、獲物を食い殺す野獣のような目。
「なっ!」
そして遂に、
「━━━!!」
「がっ!」
ガブリと、凶竜の鋭い牙がメタルグレイモンの喉元を捉えた。
強竜の表情が一気に引き釣り、それから、
「ぐぁぁぁああ!」
修練場全体へと絶叫が響き渡る。
メタルティラノモンの顎の力は生易しい物ではない。凄まじい圧力が、メタルグレイモンの太い喉元にガリガリと食い込んでいく。
痛みからか、彼はがむしゃらに両腕を使ってそれを引きはなそうとするが、万力のような力の前にそんな抵抗は無駄に等しい。その上、
「かはっ!があぁぁ!」
その凶悪な顎に彼は呼吸が出来ず、手足が徐徐に痺れ始めていくのだ。
(うっ……まずい……力が……)
残されたエネルギーが急激に体内から抜けていく。早くこの状況から抜け出さなければと考えるメタルグレイモンだが、そのための手段がない。
いや、胸部のハッチを開き、至近距離から必殺を撃ち込めば打開は出来るだろうが、"助ける"と誓った相手の命を消しかねない行動は取れない。そして、
(…………目が……霞む……意識が……)
思考が纏まらないまま、メタルグレイモンの身体からガクンと力が抜けた。
「メタルグレイモン!くそっ!もう見てられるかっ!」
「っ!太一さん!危険です!」
後方に控える子供達の中、光子朗の言葉を振りきるように、太一が絡み合う二体に向かって一直線に走り始めたのだ。
「待ってろ!俺が今行くから!」
「太一!」
後ろから呼び止める空の声も無視して、彼は持ち前の俊足で一気に加速した。
勿論、戦力的な意味で彼が出ていった所でどうにもならない事は、太一自身が一番理解している。
最悪、スカルグレイモンの暴走時のように唯の足手まといになってしまう可能性もある。
しかしそれでも、『沙綾の事をパートナー一人に全て任せっきりにしているこの状況』に、太一は我慢の限界を迎えたのだ。
そして、それに続くように
「ピヨモン、お願い!メタルティラノモンを止めて!」
「ガブモン!後の事はいい!お前も頼む!」
空、ヤマトがそれぞれのデジヴァイスを強く握りながらパートナーに視線を移す。
最早この状況、彼らも太一と同じく後々のヴァンデモン戦を気にしている場合ではないと判断したのだろう。そしてそれは、この場に置いて一番冷静な光子朗も同じ。
「テントモン!貴方も!」
「ええんでっか、光子朗はん?」
「はい」
「よっしゃ!ほな、行ってきます!」
飛び出した太一も危険ではあるが、何よりも、声を上げる力すらないメタルグレイモンを、今助けずして何時助けるというのだろうか。
「……それに……もしかすると、ヴァンデモンはもう此処には……」
テントモンが光子朗へと背を向ける最中、既に穴だらけとなった城壁を見回し、彼は誰にも聞こえない程の小声で、ポツリと呟いた。
そして、
「ピヨモン進化ー!バードラモン!」
「……今行くぞ……"アグモン"!ガブモン進化ァ!ガルルモン!」
「ワテもいきまっせぇ!テントモン進化ァ!カブテリモン」
成熟期への進化の完了と同時に、赤い巨鳥と蒼い狼、鋼のオオカブトは、太一を追うように、一斉に修練場内へと飛び出していく。
すみません。
前回、「次で三章終わる」とかいっときながら、結局文章が延びに延びて終わりそうにもなく、何時も通りの構成になってしまいました。いや、次こそは終わる筈……
それと、何分複雑な物語ですので、ここまで読んで下さった方で、作者の表現的に「此処が分からない」という感じのご質問があれば、遠慮なく感想欄に書き込んで下されば幸いです。
勿論、それ以外の「もっとこうした方がいい」というご指摘や、「ここのシーンが良かった」というご感想もいつでも受け付けております。
読んでくださっている皆様への返信を考える時が、作者的には本分を考えるよりも楽しいです。