デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

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気がつけば前回の投稿から一週間が立っていました。

楽しみにして下さっていた方がいましたらすみません。
文章を書くのに、何故か今までで一番時間がかかりました。
話の構成は出来ているのに、筆が進まないのはもどかしいですね。







邪魔を……するなァァ!!

深夜、

 

(待っているがいい、選ばれし子供達……今夜が、お前達の最後だ)

「行くぞ……」

 

ヴァンデモンの合図と共に、デビドラモンが彼を乗せた馬車を引いて宙へと飛び上がる。あっという間に彼の城は小さくなっていき、そのまま、彼等は選ばれし子供達を目指して一直線に進行を開始した。

 

「…………」

 

その真下を、彼に続くように強烈な怒りを宿した一匹の灰色の恐竜が進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デジタルワールドにある、とある森林地帯。

 

パチパチと焚き火の音だけが聞こえる満月の夜、皆が寝静まる中、太一は横になりながらも一人だけ目を開けていた。

 

(……沙綾のアグモン……何処に行っちまったんだ……?空は『ピコデビモンに連れていかれた』って言ってたけど、今まで全然姿を見なかったし……)

 

 

再びこの世界へと戻った彼とアグモンはその後、ピコデビモンによる様々な妨害を受けながらも、タケル、ヤマト、丈、ミミ、光子郎と、無事に合流を果たし、最後の一人である空とも、この森にて再開を果たしたのだった。

 

しかし、

 

一緒にいる筈と聞いていた沙綾のアグモンの姿はそこにはなく、太一が事情を聞くと、空は涙ながらに今までの出来事を話だした。

 

 

アグモンがピコデビモンと共に姿を消した事

その際に耳にした、ヴァンデモンという存在と、紋章の持つ意味、

その後、ピコデビモンの妨害をしながら、空なりにアグモンを探してはみたものの、発見には至っていないという事。

 

太一を始め、ピコデビモンがどのようなデジモンかを知っている一行は、彼女の話す内容に、驚きと共に表情を曇らせる。

 

空の話を一通り聞いた後、今度は太一が『現実世界で起きた出来事』を彼女へと話したのだが、沙綾が負傷した話を聞いた後、空は顔を青くし、『ごめんなさい』と、ここにはいない沙綾に謝りながら、崩れ落ちるように涙を流し始めた。

 

そんな彼女を何とかなだめ、彼等は次の方針を『アグモンの奪還』へと切り替え、その日の夜を向かえたのだった。

 

 

 

(ピコデビモンの事だから、どうせ録でもない事を企んでるだろうけど……沙綾……ごめんな、もうちょっと時間がかかっちまいそうだ……)

 

目をつむりながら、太一は現実世界に残してきた彼女の姿を思い浮かべる。

果たして彼女は無事なのだろうか。

沙綾の事を考えると、嫌が応にも最後に見た血だらけの姿が彼の脳裏に浮かぶ。

 

(……くそっ……全然寝むれねえや………)

 

そろそろ眠ろうと考えている太一であるが、一度思い返してしまうと、その姿が頭から離れず、なかなか眠気は襲ってはこない。

 

(仕方ない……眠くなるまで……一応見張りでもするか……)

 

太一はムクリと体を起こし、消えそうな焚き火に木を足して、一人見張りを始めるのだった。

 

この後に起こる、『衝撃の再会』など、この時の彼は考えもせずに。

 

 

 

 

やがて、

 

 

深夜、そんな彼にようやく眠気が襲ってきた頃、バサバサという小さな羽音が遠くからゆっくりと此方に向かって響いてくるのが聞こえ始めた。

 

(……ん……なんだ……?)

 

こんな真夜中、それを不自然に思った彼は、目を開いて周囲を見回す。満月の光と焚き火の火によって、周囲は夜にしては明るい方だが、今のところ彼の目に写るのは闇の景色だけである。

 

「おい、アグモン……起きてくれ」

 

「……う……ん……どうしたの、太一……まだ朝じゃないよ……」

 

「音がする……何かがこっちに飛んできてるような……」

 

「えっ?」

 

眠そうに目蓋を擦るアグモンを起き上がらせ、彼等は再度音のする方向へと意識を傾けた。

 

すると、やがて一匹のデジモンの輪郭が闇の中にぼんやりと浮かび上がってきたのだ。

 

それは小さな翼に、コウモリのような容姿、加えて、沙綾のアグモンの居場所を知っている数少ないデジモン。

何やら独り言を呟きながら此方に向かって飛んできたそのデジモンは、二人の姿を見つけた後驚きの表情を浮かべた。

 

「ヴァンデモン様が到着する前に、少しでも手柄を立てておかないと……!って、お、お前達、何でこんな時間に起きてるんだ!?」

 

「ピコデビモン!」

 

「お前、俺達が寝てると思って襲いに来たのか、そうはいかないぞ!おいっ!みんな起きろっ!」

 

一人焦るピコデビモンを無視して、太一は声を張り上げて皆に呼び掛けた。

 

「や、やめろっ!」

 

彼の焦りは更に加速するが、今更どうしようもない。

 

「……どうしたんだ……太一……こんな夜中に」

 

「……何かあったんですか……?」

 

子供達の寝込みを襲う積もりであった彼の計画が、"たまたま"起きていた太一によって脆くも崩れ去る。

他の子供達も、彼の呼び掛けに眠そうな反応を示したが、彼と対峙するピコデビモンの姿を見た途端、意識が覚醒したようである。

 

「あっ!ピコデビモン!ピヨモン起きて!」

 

本来の歴史とは異なり、彼は空に奇襲を欠ける間もなく、あっという間に子供達とそのパートナーに取り囲まれた。

 

「あわ…あわわ…」

 

「丁度いいぜ、お前に聞きたい事があったんだ」

 

じりじりと、まさに袋のネズミというように、回りの子供達と連携を取りながら、太一は徐々に彼を追い詰めていく。

 

「く、くそっ!」

 

そこまで追い詰められてようやく手柄を諦めたのか、彼は四方八方からにじりよってくる子供達をかわすため、真上へと飛び上がって逃げようとする。

 

だが、その行動は既に彼等には読めていた。

 

「逃がすな!アグモン!」

 

「分かった太一! アグモン進化ァァ……グレイモン!」

 

太一の指示の元、アグモンは素早くその体を巨大化させ、闇に紛れて逃走する彼の体を片腕でガッチリと捉える。

 

「うっ、は、離せ!」

 

勿論成長期のピコデビモンの力でそれを振り払える訳もなく、精々体をばたつかせるのが関の山。

グレイモンは手の中で暴れる彼を睨み付け、威嚇を込めた低い声で問いかける。

 

「さあ……いろいろと話して貰おうか!」

 

「ひっ! お、お前達なんか、ヴァンデモン様が到着すれば一捻りだぞ!」

 

「ヴァンデモンって……貴方がアグモンに会わせるって言ってたデジモンね」

 

「そ、そうだ……ヒ、ヒヒ……ヴァンデモン様は偉大なお方……もうすぐお前達を始末するために、ここにやってこられる……それに、"ヤツ"だって……」

 

額に冷や汗をかきながら、絶体絶命のこの状況でピコデビモンは声を震わせて怪しい微笑を浮かべる。

子供達が彼のその様子にただならぬ悪寒を覚えたその直後、彼らのいる森の中に、低く、威圧の籠った"その声"が響き渡った。

 

「口が過ぎるぞ……ピコデビモン……」

 

「!?……誰だ!」

 

突然何処からともなく聞こえてきた声に驚いたのか、グレイモンはピコデビモンから視線を外して叫ぶ。

底知れぬ不気味な雰囲気子供達を襲い、彼等は慌てて周囲の森を見渡すが、その声の主は見当たらない。

 

「ヴァンデモンってヤツか!?クソ、何処だ!…………はっ!」

 

その時、太一は気づく。

 

ピコデビモンを捉えて尚、"かすかな羽音"が止まらず響いている事に。

直後、不意にヤマトが遥か上空を指差して声を上げた。

 

「太一!みんな!あれを見ろ!」

 

彼らの真上、満月を背景に、一匹の悪魔のようなデジモンがまるで馬車を引くかのように飛行していたのだ。そして、その馬車の上に佇み、マントで体を覆い隠しながらも、威圧的な目で子供達を見下ろす存在が一人。

 

「……あいつが、ヴァンデモン!?」

 

「ヴァ、ヴァンデモン様!」

 

さながら吸血鬼を連想させるその姿に、子供達の視線が集まる。

すると、彼はそのまま上空で馬車から飛び降り、高度に比例しない軽やかな音と共に、子供達の前へと着地を決めた。そしてグレイモンの手に捕らえられたピコデビモンを見て、彼は口を開く。

 

「……失態だな、ピコデビモン……」

 

「も、申し訳ございません!」

 

ピコデビモンの怯えようと、ヴァンデモン自身の佇まいから、子供達はこのデジモンの強さを感じとる。

ヤマトはガブモンと共に、タケルを守るように彼の前に立ち、他の子供達もいつでも戦闘に入れるようデジヴァイスを強く握りしめた。

そんな中、太一は先程ピコデビモンにしようとした質問を、彼の主であるヴァンデモンへと投げかる。

 

「おいっ!お前がピコデビモンのボスか!俺達の仲間をいったいどこにやった!」

 

「……ん……」

 

ヴァンデモンはグレイモンの隣に立つ太一へと視線を移し、一瞬の思案の後、静かな、それでいて威厳のある口調で話す。

 

「ほう……お前が"戻ってきた子供"か……ふん……お前達の『仲間』など、私は知らん……」

 

「そんな筈はない!」

 

ヤマトの隣に立つガブモンが、睨み付けるような視線で珍しい怒声をあげる。そこには恐らく、友達を支えると誓いながら、その役目果たせなかった自分への怒りも含まれているのだろう。

 

「アグモンがピコデビモンに付いていく所を空が見てるんだ!お前が知らない筈がない!」

 

今にも飛びかかりそうな勢いでガブモンが捲し立てる。

 

が、丁度その時、

 

 

「きゃっ!こ、今度は何!?」

 

「じ、地震か!?」

 

再びこの暗闇の森に異変が訪れた。

 

それはドスン、ドスンと、いう地面を揺らす振動と、それに連動するようにバタバタと倒れる木々の音。

まるで"大きな何か"が、子供達に向かって歩いてくるような。

始めは小さかった振動が、徐々に大きくなっていく。

音が間近くまで迫ってきた頃、ヴァンデモンは邪悪につり上がった笑みを浮かべた。

それはまるで、これから起こる事に期待を寄せるように。

 

「来たか……フフ、選ばれし子供達よ……実は今日、お前達に贈り物を用意してきた……今までの長旅の"最後"を飾るには、絶好の代物だ……」

 

 

 

遂にその瞬間がおとずれる。

 

 

 

子供達から見える正面、ヴァンデモンの後方の木々が、何者かに踏み倒され、それは姿を表した。

 

「!……メタル……ティラノモン……」

 

見覚えのあるその姿。

太一が今最も会いたかったデジモン。

沙綾の最愛のパートナーの進化形態。

 

ただそれが纏う雰囲気は、太一の知っている彼ではない。

まるで捕食者のようなギラついた目で、彼はゆっくりとヴァンデモンの隣を通り過ぎ歩いてくる。

他の子供達は、彼のその目に全員が共通して過去の出来事を思いだし戦慄が走る。

 

「ちょっと……これってまさか……」

 

「ヴァンデモン!お前アグモンに何をした!」

 

ミミは顔を青くして呟き、ガブモンはヴァンデモンへと声を張り上げるが、彼は何も答えない。

変わりに、子供達を見てからも無言であったメタルティラノモンが、この場で始めて口を開いた。

 

 

「…………見つけたぞ…………」

 

「おい……どうしたんだ……お前、沙綾のアグモン……だよな……?」

 

かつて丈に向けたような、いや、それ以上に強烈な敵意を持った目に、思わず太一は後ずさる。

 

 

 

「"元"、お前達の仲間……それが私からのプレゼントだ……」

 

 

 

 

「太一ィィィィ!!」

 

瞬間、今までの静寂を切り裂き、怒号と共にメタルティラノモンが地面を蹴る。その目は真っ直ぐに太一だけを捉え、他の子供達には目もくれず、強靭な顎で彼を仕留めるため一直線に突き進む。

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

突然の再会に加え、急襲を受けた太一は、何がなにか分からず一歩も動けない。だが、

 

「危ない太一! グレイモン超進化ァ!」

 

「う、うわぁぁ!」

 

彼のアグモンが成熟気へと既に進化していた事が幸いした。グレイモンは握っていたピコデビモンを放り投げ、太一とメタルティラノモンの間に割って入った後、即座にその身を完全体へと進化させる。

 

「メタル……グレイモン!」

 

メタルティラノモンの合金の顎に対し、メタルグレイモンも同じく合金の左腕を盾にして防御の構えを取る。

直後、ガキンという金属同士がぶつかる音と共に、メタルティラノモンはその左腕へと容赦なく噛みついた。

 

「ぐうっ!……」

 

突進の勢いを全体重を持って殺し、間一髪で後方の太一を守る。左腕のアームがギリギリと軋むが、持ちこたえる事には成功したようだ。

 

しかし、

 

「落ち着くんだ!メタルティラノモン!」

 

「邪魔を……するなァァ!!」

 

既に彼は正気など保ってはいない。

噛みついたまま、あろうことかそのまま右腕の主砲をメタルグレイモンへと突きだして来たのだ。

この超至近距離、相殺などは不可能。

引き金を引くだけで、回りを巻き込んだ大爆発がおこるだろう。

自身の身の安全すら度外視したその行動に、彼は慌てて後方に向けて強く叫ぶが、既に時は遅い。

 

「逃げろ!太一!みんな!早く!こいつは今正気じゃない!」

 

「ギガ……」

 

今のメタルティラノモンに躊躇いなど一つもない。

彼はそのまま、右腕の標準を彼の頭へと合わせ、その引き金を引く。

 

「デストロイヤー!」

 

衝撃にそなえ、メタルグレイモンは目をぎゅっと瞑る。

 

ドゴンと打ち出された有機体ミサルは、彼の頭を撃ち抜く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事はなく、

 

その頭のギリギリ横を通過し、暗い森の中にて大きな音と共に赤々とした爆炎を上げた。勿論、後ろの太一にも被害はない。

メタルグレイモンはゆっくりと目を開ける。その目に写るのは、今だ腕に噛みつきながらも、視線だけを下げる灰色の恐竜の姿と、その視線の先、彼らのほぼ真下で、一匹の獣人型デジモンが足を踏み込み、拳を突きだした姿勢で立っている姿。

 

 

「君に、そんな事はさせない……」

 

「ワーガルルモン!」

 

獣人型デジモン、完全体へと進化したガブモンが静かに口を開く。

 

進化した彼はまるで疾風のように二体へと詰めより、数日前にヴァンデモンがしたように、その鋭い爪から放たれる衝撃波をもってその右腕の軌道を僅かにずらしたのだ。

 

彼に遅れるように、ヤマトを始め、全員が急いで太一の側まではしりよる。その様子をヴァンデモンは動かずに静観する。

 

「太一!大丈夫か!」

 

「あ、ああ……悪いヤマト、助かった……」

 

「とにかく、今はあいつを止めよう……きっとヴァンデモンに何かされたんだ……」

 

「僕もそう思います……太一さんとヤマトさんでメタルティラノモンを抑えておいてください……僕とテントモンでヴァンデモンに挑みます……ミミさん、丈さん、サポートをお願いします!」

 

「分かったわ!」

 

「任せてくれ!」

 

「タケル、お前は後ろに下がっていろ、空、タケルを頼む」

 

「え、ええ……みんな、気をつけて……」

 

『僕も戦う』と声を上げるタケルを抑え、空は彼と共に後方へと避難する。

丁度その時、ワーガルルモンの助けを借りた事で、メタルグレイモンは腕に食らいつくメタルティラノモンを振り払い、両者の間に僅かな距離が開いた。

 

「作戦会議は終ったか……?なら、試してみるがいい……」

 

余程の余裕があるのだろう。先ほどから手を出すことなく戦いを見ていたヴァンデモンが、そこでようやく口を開く。

 

「みんな、用意はいいか……行くぞ、俺達の仲間を取り返すんだ!」

 

子供達は一斉に手に持ったデジヴァイスを掲げ、今、本来の歴史とは違う、突然訪れた文字通りの"総力戦"が幕を開けた。

 

 

 

 




次回はほぼ戦闘だけとなりそうです。

追記、活動報告にも書いていた、エピソード オブ カオスドラモンを投下しました。
もしよければ見てみてください

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