デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

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ここ数日、なかなか文章がまとまらず時間がかかってしまいました。
というのも、カオスドラモンがなかなか話に絡んでこないので、いっそ『エピソード、オブ、カオスドラモン』的な物でも書いて、そっちに今まで考えていた彼の設定を物語的に書いていこうか、結構真剣に考えていたのが原因です。

彼が何故"過去の子供達を"殺そうとしたのか
彼が何故ミキとアキラのバックアップを破壊できたのか
そして彼の目的

そこら辺の話を中心に書いていきたいな、なんて思ったり。まあ本編でもその内出す予定なのですが、結構先になるのでどうしようかと。





お前が真に牙を向ける相手は私ではない……

デジタルワールド、ヴァンデモンの城。

 

メタルティラノモンの暴走によってまるで廃墟のような風貌へと変わった大広間、崩落した天井から月が顔を出す夜、ヴァンデモンは一人傷一ない玉座へと腰を掛けて思案していた。

内容は、昨日ピコデビモンが報告してきた『選ばれし子供達の動向』についてのある一つの疑問点。

ピコデビモンの話によれば、散り散りになっていた子供達は次々に合流を果たし、友情、そして知識の紋章が光を取り戻したという。ヴァンデモンにとってこれは放置出来る問題ではないが、彼が今気になっているのはそこではない。

なんと、ピコデビモンはその際"7人の子供達とそのパートナーの姿を確認した"というのだ。

 

「……おかしい……数が合わん……」

 

誰に語るでもなく彼は呟く。

ピコデビモンの話を総合して考えると、選ばれし子供達は既に7人共無事に揃っており、"それぞれのパートナーの確認も取れている"。なら、ついこの間叩きのめし、今この城の一階に首を繋いでいるあの灰色の恐竜は一体何者なのか。

 

(……8人目のパートナーか……?いや、だが……進化に必要なタグと紋章は今は私が持っている……どういう事だ……?)

 

当然ながら『未来から来た』などと言う突拍子もない考えなど浮かぶ訳がない。

 

(……ヤツが特殊なのか、それとも別の要因か、直接聞き出すのが確実だが…………ふん……恐らく話にならんだろうな……)

 

先日圧倒的な力を持ってメタルティラノモンを叩きのめしたヴァンデモンであるが、それでも尚自身に対して従順になる事はなく、床に倒れ付しながらもギラついた視線を彼へと向けていた。

それ以降退化する事のなかった彼を、ウィザーモン以下数匹のデビドラモンの監視の元、この城の一階、吹き抜けの修練場へと縛り付けているのだが、口を開けば『マァマの居場所を教えろ』の一点張りなのだ。勿論偽の情報を彼に与えてもいいのだが、あの様子では情報を手に入れた途端パートナーを探すため無理矢理にでも逃走する事が目に見えている。ならば、それはヴァンデモンにとって面白い話ではない。

 

(……ふっ……まあ良い……どちみち考えた所で答えは出まい……ヤツが何者であろうと……協力する気がないのならば消すだけの話…………)

 

最終的に、彼は思考をそうまとめる。

何時するかも分からない心変わりを悠長に待っているほど彼は優しくはない。ヴァンデモンは椅子から立ち上がり、自らの手で彼に引導を渡そうと階段を下り始めた。

 

その時、

 

「ヴァンデモン様ー!」

 

丁度彼の真正面、崩壊した巨大な扉の奥から声が上がる。

 

額に一筋の汗を流したピコデビモンが、バサバサという音を立てながら慌てて彼の元まで文字通りに飛んできたのだ。ヴァンデモンは階段上で足を止め、見下すような視線を彼へと向ける。

 

「騒々しいぞ……ピコデビモン」

 

「も、申し訳ありません……ですが、その……ヴァンデモン様にご報告が」

 

「報告……?お前の失敗談ならば、既に飽きる程聞いている」

 

「ひっ!も、申し訳ございません」

 

威圧感の籠ったその目にピコデビモンは震える。

実際、子供達の紋章が次々と輝きを取り戻しているのは、一重に彼の作戦が裏目に出続けた結果なのだ。ピコデビモンは地に足をつけ、両羽で頭を覆い隠しながら震える声で言葉を続けた。

 

「で、ですが、今回の報告は……その……"ヤツ"のパートナーの事でして……」

 

「……何?……詳しく話せ」

 

その予想外の言葉に、ヴァンデモンは一瞬驚きの表情を見せた後、彼を睨み付けるのを止める。それに若干安心したのか、ピコデビモンはふぅ、と一息ついた後語り始めた。

 

「……はい、ヴァンデモン様の言い付け通り、今日も子供達を監視していたのですが、そこでその内の一人が話しをしているのを聞いたのです。」

 

「…………」

 

「話によると、ヤツのパートナーは今は人間世界に居るようです……それも重傷を負った状態で……どうも二人で向こうの世界に渡り、片方だけが戻ってきたようなのです……怪我を負った理由は、詳しくは分からないのですが、その子供が言うには『自分がしっかりしてなかったからだ』と……残念ながらどうやって向こうの世界に渡ったかまでは話していませんでしたが……」

 

 

そして、彼のの報告を聞いた途端、彼は口許を大きく吊り上げ、まるで笑いを堪えるかのように不気味な笑みを浮かべた。正にその情報は、彼にとって吉報以外の何物でもないのだ。

 

「ほう……成る程……不明な点もあるが……そうか、やはり8人のパートナーで間違いない……それに…クク……これは面白い……予定は変更だ」

 

「ヴァ、ヴァンデモン様?」

 

「……ピコデビモン、子供達は今何処にいる?」

 

「え!?……は、はい……えと、少し東の森林地帯に……その……全員……います……」

 

ヴァンデモンの問いに、ピコデビモンはバツが悪そうに小さな声で答える。それも当然。彼の話す事は即ち、バラバラになっていた子供達全員の合流を許したと言うことなのだから。やはり、彼は今日も失敗を繰り返していたのだ。だが、

 

「それなら都合がいい……ピコデビモン、先程の情報に免じて、今回のお前の失敗は不問にしてやる……さあ、行くぞ」

 

ヴァンデモンの返事はあっさりとしたものであった。

『制裁』を恐れ、再び羽で頭を覆うピコデビモンの隣を、彼はスタスタと歩いていく。

 

「えっ!?ヴァンデモン様、何処へ?」

 

「決まっている……ヤツに教えてやるのだ……望み通り、"今パートナーが何処で"何を"しているのか"をな……」

 

再び立ち止まり、彼は企みを含んだら怪しげな横顔をピコデビモンへと向けた。彼の中で新たなる作戦が組上がっていく。

 

「ピコデビモン……今宵、私自らが選ばれし子供達に襲撃を掛ける……その場に"真実を知った"ヤツがいたなら、さぞ面白い事になるだろうな……」

 

アグモンは元々パートナーに会いたいがために子供達から離れたデジモン。そんな彼が、『沙綾を守れず、一人でのこのこ戻ってきた太一』を目にした時に取る行動など一つしかない。今の彼の精神状態ならば尚更である。

 

(少し此方が後押ししてやれば、間違いなくヤツは仲間にさえ牙を剥く)

 

ピコデビモンが背中を追いかける中、彼は真っ直ぐにメタルティラノモンが囚われている一階、吹き抜けの修練場へと移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァンデモンの城、一階

 

ヴァンデモンに打ちのめされたあげく、ウィザーモンの魔法によって体の自由を奪われたメタルティラノモンはその後、身を一階へと移され、デビドラモン達が上空を舞うこの修練場とも呼べる場所へと監禁されていた。

 

(……クソ……こんな所で……オレは……)

 

力付くで魔法を解除しようと、彼は幾度となく腕に力を込めてみたが、どうにも上手く動かない。彼は理解していないが、恐らく神経に細工をされているのだろう。起き上がる事さえできず、メタルティラノモンは倒れ込んだ姿勢のまま、時間だけが過ぎていった。

 

 

そして彼がヴァンデモンに敗北して三日目となる現在。

 

 

 

今だ動けず、倒れ込んだままの彼の耳に、コツコツという何者かの足音が聞こえる。時刻は夜、月の明かりだけが唯一の光となる薄暗い闇の中、その姿が徐々に彼の目に映る。

 

「ヴァンデモン………」

 

「どうだ、少しは協力する気になったか……?」

 

「なら……早くマァマの居場所を教えろ……」

 

力の違いを見せつけられても一切衰えない鋭い眼光を向け、メタルティラノモンは口を開く。最も、既に三日間同じ問答を繰り返しているのだ。簡単に答えてくれるとは思ってはいない。だが、詳しい詳細は分からないが、何時終わるかも分からない彼の"計画"付き合う程、今の彼の心に余裕はない。

 

何時もならば、ヴァンデモンはここで直ぐ様踵を返して去っていくのだが、今日は少し様子が違った。

彼は怪しい微笑を浮かべながら、ゆっくりと口を開く。

 

「ウィザーモン……監視は終わりだ……下がるがよい……」

 

「………分かりました」

 

見張りに付けていたウィザーモンを城内へと戻す。

最も、彼が消えたからといって魔法の効力まで消える事はなく、依然メタルティラノモンの体の自由はないのだが。

 

「……何のつもりだ……」

 

何時もと違うヴァンデモンの行動に、彼は警戒心を強める。だが、その次の言葉は、メタルティラノモンにとってある意味予想だにしないものであった。

 

「……気が変わった……やはり先にお前のパートナーが今どうしているかを教えてやろう……」

 

「!!どういう……事だ……?」

 

ピコデビモンを引き連れてやって来たヴァンデモンのその言葉に、メタルティラノモンは目を見開く。今までそれを教えようとしなかった彼が突然口を割ったのだ。普通は疑問の一つでも浮かぶだろう。たが、

 

「聞きたかったのだろう……なら、教えてやる……フフ、此方もこれ以上お前に付き合っている暇はないのでな……」

 

「何処だ!マァマは何処に居る!」

 

そのような疑問は直ぐに彼の頭からは消えて無くなる。

 

メタルティラノモンはまるで食らい付くかのように声を荒げ、それに対し、ヴァンデモンは得意気に口許を歪ませた後、話を始める。

自身に都合のいいようにねじ曲げた、彼にとっては最も残酷なその答えを。

 

「お前のパートナーは今は此処とは違う世界、"人間世界"にいる……が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう死んでいるかもしれんな……」

 

 

静寂、メタルティラノモンがヴァンデモンの言葉を理解するのには時間が掛かった。

 

 

それは、彼が最も恐れていた答え

それは、彼が最も聞きたくなかった結果

それは、彼が最も許せない回答

 

「なっ……嘘……だ……」

 

「嘘ではない、共に消えたもう一人の子供の"判断ミス"に、お前のパートナーは巻き込まれたのだ……」

 

ヴァンデモンは語る。確かに彼は"嘘"はついていない。一部の表現を大きくしただけなのだから。

 

「……違う……マァマは……いい加減な事を……言うな!」

 

だが、"沙綾の無事を否定"する者を、このパートナーは許さない。まともに動かない右腕をヴァンデモンへと向けようと、メタルティラノモンは体に力を込めるが、目の前の吸血鬼は全く動じる事はなく話を続ける。

この恐竜に止めを刺す、決定的な証拠を突き付けるために。

 

「お前が信じようが信じまいが結果は変わらん……何より、共に消えた筈の『もう一人の子供だけがこの世界へと戻ってきた事』が何よりの証拠……」

 

「……な……に………」

 

メタルティラノモンは硬直する。

 

『太一一人が帰ってきた』、それが事実ならば、最早反論のしようがないのだ。

 

「!………うっ……そん……な……マァ……マ……」

 

途端、灰色の恐竜の目からは大粒の涙がボロボロとあふれ、告げられたその結果だけが彼の心を支配する。今の彼にとっての全て、大切な光がゆっくりと音もなく消えていく。

 

「お前が真に牙を向ける相手は私ではない……」

 

 

 

 

そして、

 

 

 

「━━━━━━━━━━━━━━━━━━」

 

 

声にすらならない、悲しみを帯びた爆音の咆哮が、周囲一体へと響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本文では特に触れていませんが、メタルティラノモンがずっと完全体の姿を維持しているのは、一重に、『成長期へと退化する理由がない』からです。
プロフィールにも書いていますが、元々彼が成長期の姿で行動するのは、『沙綾のため』という部分が大きいので。


さて……次回は子供達視点でのヴァンデモンの襲撃。原作でのガルダモン初進化回ですね。
子供達にとっては久々の総力戦になりそうです。

何と言っても完全体"2体"を同時に相手する訳ですから……原作のように"全員成長期で突っ込んであっさり敗北"なんて事にはなりません。

ご意見、ご感想等お待ちしています。


追記…………前書きにも書きました『カオスドラモンの物語』について、活動報告の方に詳しく書いていますので、一度目を通して頂けると幸いです。

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