ふと物語の前半部分を読み返したりしてみたのですが、やっぱり文章力が弱いなぁと改めて感じました。
今もあまり変わりませんが、それが分かるようになっただけ成長はしているという事でしょうか。
この小説を書き始めて早3ヶ月、最初は50話くらいで終わるだろうとか思っていましたが、うん、不可能ですね。
ヴァンデモンが段上から見下ろす中、互いを目掛けて一気に加速した両者。ティラノモンは片腕を振り上げ、初撃となる攻撃を仕掛けた。
「いくぞっ!スラッシュネイル!」
今や並のデジモンならば一撃で引き裂く程の鋭い爪を、高速で足元のテイルモンへと奮う。だが、
「甘いわね……」
「!」
彼女はそれを確認するや、そこから更に速度を上げ、自身の小さな身体を生かして、ティラノモンの股の間を滑り抜ける事でそれをかわした。攻撃を避けられ、逆に背後を取られた彼は、一瞬の動揺の後すぐさま尻尾を使おうとするが、テイルモンの動きはそれよりも早い。
「ネコキック!」
「ぐっ!」
小さな身体からは想像できない威力の跳び蹴りが彼の背中に命中する。とっさに足に力を入れた事で、何とか転倒だけは避けたティラノモンだが、振り返った所を更なる追撃が襲う。
「ネコパンチ!」
「うおっ!」
脳に響く程の拳を頭へと受け、ティラノモンはゆらゆらと後退する。それでも、"殺すつもり"で向かってくるテイルモンの追撃の手は止まらない。
「ネコパンチ!ネコキック!」
ドゴッ、ドゴッと、ティラノモンの防御をすり抜けるように、小さな身体を駆使した連撃が飛び交う。
「く、くそっ……ファイヤーブレス!」
彼女の攻撃はことごとく彼の身体へと命中するが、ティラノモンががむしゃらに放つ炎は、的が小さいく素早い事からなかなか当たらない。
勝負開始からものの数分で、流れは完全にテイルモンへと傾いていた。
「へぇ……なかなかしぶといのね……」
「うっ……がっ……」
(このままじゃ……)
止まない攻撃を受け続け、徐々にティラノモンは防御姿勢を崩せなくなる。
いくら耐久力があろうともこのままでは不味いと、ティラノモンは一度距離を取るべく、部屋の壁まで大きく後ろへ跳んだ。
二体の間に距離が開く。
「……はぁ……はぁ……」
(……このデジモン……かなり強い……ボクだって相当強くなってる筈なのに……すごく戦い慣れてる………)
乱れた息を整えながらティラノモンは考える。
(マァマ……ボクは………)
「何?もう終わり?」
肩で息をするティラノモンとは対照的に、テイルモンは息を乱す事なくゆっくりと歩いて距離を詰めていく。このまま戦い続ければ、恐らく自分は敗北するだろう。それは即ち、自らの死を意味する。
だが、打開策がない訳ではない。ティラノモンの脳裏に二つの選択肢が浮かぶ。
まず一つ目は、この場から逃走する事。
この城に入ってから通った道は、既に彼の頭に記憶されている。"逃げる事"が得意な彼ならば、敵の目を欺いて逃走する事は不可能ではない。勿論その場合、せっかく手に入りそうな沙綾の情報を諦める事になるのだが。
そしてもう一つは、完全体へと進化する事。
進化さえすれば、テイルモンを力押しで倒すことが出来るだろう。しかし、それでは逆に、今度はテイルモンの身の安全は一切保証できない。彼女がもし『本来死ぬ運命にないデジモン』なら、それは歴史を変えてしまう可能性を孕む危険行為である。もし歴史が変わり、未来に帰れなくなれば、例え沙綾を見つけたとしても彼女は絶対に微笑まない。
「……諦めたのか?なら……」
いつの間にか、取った筈の距離が再び埋まっていた。
「……悪いけど、これで終わりっ!」
テイルモンが鋭利な爪を構えて飛びかかる。ティラノモンはまだ動かない。
沙綾が消える以前の彼ならば、間違いなく前者を選ぶ。
彼は沙綾の意思に背く事など絶対に行わない。もしもの時も、それを止めてくれる"仲間"がいた。
ゴツモン達への思い、打倒カオスドラモンを忘れた訳でもない。
だが今は、
「……ごめんマァマ……それでもボクは……マァマに会いたい……」
涙混じりに、ティラノモンは小さくつぶやいた。
そして、あわやテイルモンの爪が届こうとした時、彼の雰囲気が一気に変わる。瞬間、薄ぐらい室内の中、ティラノモンの身体はまるで爆発するかのごとく輝き、飛び掛かるテイルモン吹き飛ばした。
『沙綾のため』という最後のリミッターが音を立てて外れる。
「な、何!?」
「……ほう」
テイルモンは勿論、今まで沈黙を続けていたヴァンデモンも、その予想外の変化に驚きの表情を見せた。そして、光の放つティラノモンが、今までとは違う目付きで口を開く。
「……君を殺してでも……ボクはマァマに……覚悟しろっ! ティラノモン、超進化ァァァァァ!」
彼は今、親愛のパートナーに会うため、ウイルスの本能に身を任せる事を決意した。
「おいっ!沙綾!くそっ!どうして……」
混乱が広がるお台場の交差点で、血だらけの沙綾を抱き上げ、太一は必死に彼女に呼び掛けるが、反応は返ってこない。
原因を作ったオーガモンは、今はコロモンが引き付けながら歴史通りの戦闘を繰り広げていた。
「なんで避けなかったんだよ……お前なら出来た筈だろ……」
大声で呼び掛けていた声が、徐々に涙声へと変わってゆく。
「……くそ……俺がもっとしっかりしてれば……」
「……お兄ちゃん……」
太一は自分の不甲斐なさに涙が溢れてくる。
何度も彼女に助けられながら、自分は妹を守ることしか出来ず、彼女は今この有り様なのだから。
「………ちくしょう………」
沙綾を強く抱き締めながら、太一はボロボロと涙を流す。
しばらくした後、恐らく通行人の誰かが連絡したのだろう。遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。太一はハッとしたように涙を拭う。
「お兄ちゃん!救急車が!」
(!くそ、泣いてる場合じゃないだろ!……俺にも……出来ることがある筈だ)
この時期、都会のアスファルトは高熱を帯びている。
何時までも沙綾を此処に寝かしておく訳にはいかないと、太一は慎重に彼女を背負い、夏の日差しが遮れるビルの影へと移動するために歩き出した。
(戻りたくないなんて……そんな事言ってる場合か)
「……沙綾……お前、アグモンの事が気になって仕方なかったんだよな……頭ん中一杯で……逃げるどころじゃなかったんだよな………」
背中で小さく呼吸をする沙綾に向けて太一は呟く。
いつも冷静な沙綾が、オーガモンの襲撃に一歩も動けない理由など、彼にはそれしか思い付かない。
(コロモンもさっき言ってた……デジヴァイスの力を使えば……)
彼女を背負ったまま、彼はポケットからデジヴァイスを取り出す。すると、
「うわっ!………あ、あれは……」
彼の意思に反応したのか、はたまた唯の"歴史の流れ"か、デジヴァイスの画面から空に向かって一直線に光が昇ったかと思うと、その一部分が捻れて歪み、調度その真下で戦闘を行っていたオーガモン、進化を果たしたアグモンを、たくさんの瓦礫と共にゆっくりと吸い込み始めたのだ。
それは正に、太一達がこの世界へと戻ってきた時と同じように。
(……間違いない……あそこに行けば……)
それを見た太一は確信を持つ。同時に彼の中で、歴史にはないある一つの決意が生まれた。
涼しい風が通り抜けるビルの合間にゆっくりと沙綾を下ろした彼は、振り替える事なく後ろを付いてきたヒカリへと声をかける。
「……ヒカリ……沙綾を頼む……」
「お、お兄ちゃんはどうするの……」
「……決まってる……待ってろ……俺が必ず、お前のアグモンを連れてきてやる……だから……お前も頑張れ」
意識のない沙綾にささやくように言葉を残した後、太一はゆっくりと立ち上がる。そして、今度は妹の頭に手を当て、申し訳なさそうに口を開いた。体の弱い妹に無理を強いている事を、彼自身が一番理解しているからだ。
「ごめんな、ヒカリ……でも、お前にしか頼めないんだ……」
「…………」
勿論、彼女としては引き留めたい所であるが、彼の決意が籠った眼差しを見れば、それを口にする事などできる筈がない。故に、
「……絶対……帰ってきてね……」
「……ああ……約束する……こんな事頼んどいてなんだけど……風邪、治せよ……」
妹にしばらくの別れを告げ、今、彼は歴史以上に強い想いを胸に、アグモンと共にデジタルワールドへと帰還する。
場所は再びヴァンデモンの城、
「ふふふ……素晴らしい……予想以上の力だ……」
ティラノモンの身体が光を放ってから数分後、そのものの数分の間に、この広い部屋の雰囲気はガラリと変わっていた。
壁にいくつも開けられたレーザーの穴、
貫かれた天井と、瓦礫が散乱するヒビだらけの床、
そしてその中心、唯一無傷のまま残っているヴァンデモンのいる椅子の階段下で、傷だらけのテイルモンを片足で踏みつける灰色の恐竜。
「ひ、ひぃぃ」
そのあまりの光景に、ピコデビモンは恐怖におびえている。
「あぁ……ぐっ……」
「どうした……もう終わりか……?」
形勢は一変し、メタルティラノモンは片足に更に力を込め、テイルモンは悲鳴を上げる。既に彼女の体力は底を付き、これ以上の追い討ちは最早無意味であるが、自らのブレーキを取り外し、ウイルス種の破壊衝動に身を任せた今の彼に、そんな事は一切関係ない。
「……なら、これで終わりだ……」
「……う……」
自身の全体重をもって彼女を踏み潰すため、メタルティラノモンは片足を高く上げる。最早逃げる体力さえ残っていないテイルモンは、拘束が解けても動く事は出来ない。
壇上のヴァンデモンも、部下の危機に腰を上げることはせず、彼女は絶命を覚悟し目をつむる。
そして、
ブオンと、まるで風を切るかのような音と共に、ためらいなく彼の足が降り下ろされたその時、
「待てっ!」
滑り込むように、一体のデジモンが杖を構えてテイルモンの隣に立ち、周囲を透明な結界で包む事で彼女を守る。
降り下ろされた彼の足は、今度はガキンという音と共にその結界によって停止した。
「!?……誰だ……お前は……?」
「ぐっ!」
メタルティラノモンは突如現れた謎のデジモンへと問いかけるが、そのデジモンも彼の体重が乗った足を防ぐ事で一杯なのだろう。その言葉に答える事はなく、早々に壇上のヴァンデモンに視線を向けて口を開いた。
「……く……ヴァンデモン様、もうテストは十分でしょう……このデジモンの力は、既に証明された筈だ!」
「ほう……ウィザーモン、盗み聞きとは感心せんな……だが……ふん……まあいいだろう」
見下すような視線をウィザーモンと呼ばれたデジモンに向けながらも、ヴァンデモンは今まで座っていた椅子からゆっくりと立ち上がった。
「お前の力は分かった……テストは合格だ……」
「………」
"合格"、その言葉を聞いて、始めて彼はゆっくりと足を元に戻す。しかし、それは慈悲からくるものではない。単純に"興味がなくなった"だけなのだ。彼の目には既にテイルモンなど映ってはいない。
ウィザーモンは結界をとき、テイルモンを抱き抱える。
「大丈夫か、テイルモン」
「……うっ……ウィザー……モン……」
「……なら、早くマァマの居場所を教えろ」
「それは出来ん……始めに言っただろう。まずは私の計画を手伝うのが先だ……心配せずとも、全てが終った後で約束は守ってやる……」
口許をつり上げてながらヴァンデモンは言う。
実際の所、ヴァンデモンは沙綾の行方を知ってなどいない、いや、知りようがないのだ。そもそも、今しがたのテストすら、9割方彼を処刑するつもりで始めた物。彼が想像以上の力を見せたが故に合格としたが、生半可な勝利ならば、ヴァンデモンは容赦なく不合格の烙印を押していただろう。
だが、性格が攻撃的になっている今の彼が、その提案に納得する筈がなく、
「いいや……今すぐだ……」
副砲であるを左腕を階段上のヴァンデモンへと向けて、威圧するような声を出した。それに対し、彼の纏う雰囲気が変わる。
「ほう……誰に牙を向けているのか、分かっているのだろうな?」
「お前が誰かなんて興味はない……」
その場に緊迫した空気が流れる。
この場に居るのは危険だと判断したウィザーモンは、傷だらけのテイルモンを抱き上げ、じりじりと後退を始め、ピコデビモンはオロオロと両者を見る。
先に動いたのは、やはりメタルティラノモンであった。
「ヌークリアレーザー!」
左腕から放たれる光の光線が、ヴァンデモンの直ぐ隣を通過し、その壁に風穴をあける。
「次は外さない……」
威嚇を込めたその一撃にも、ヴァンデモンは一切動じる事はなく、沈黙を続ける。
やがて痺れを切らしたメタルティラノモンは、副砲の位置を彼へと修正し、再度声を上げた。
「黙りか……なら、お前を叩きのめして聞き出すまでだ!ヌークリア……」
だが、
「ブラッディストリーム!」
それよりも早く、ヴァンデモンは伸縮自在の赤い光の鞭をその手に出現させ、それを彼の腕に向けて素早く奮う。それは見事にメタルティラノモンへと命中し、バチンという高い音を上げ、その腕の軌道をずらした。
検討違いの方向にレーザーが打ち込まれ、またしても部屋の壁に大穴が開けられる。
「なっ!」
「いささか面倒だが……まずは力の違いと言うものから教えるとしよう……果たして叩きのめされるのは誰か、その身を持って知るがいい……」
崩壊した天井から満月が顔を覗かせ、月明かりにヴァンデモンの顔が照らし出される。
ぞっとするような黒い笑みを浮かべながら、今、彼の一人舞台が幕をあけた。
ということで、
沙綾ちゃんは現実世界に置いてきぼり、アグモンは……まあこの後ヴァンデモンにボコボコにされるでしょう。
それから一人デジタルワールドに戻った太一、無事に沙綾のアグモンを説得できるのか?
嫌な予感がプンプンしますね。
それから、ここ数話、視点がいったり来たりとややこしくなってしまい申し訳ありません。次回からはオリジナルの話を挟みつつ、原作はサクサクと進めていきます。