デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

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そういえば、沙綾のアグモンが右手に巻いている包帯は、進化と同時に消えて、退化すると元に戻ります。

セイバーズのアグモンが腕に巻いているベルトと同じような感じでしょうか。






一応…出来る限りの事はしてみよう

ピッコロモンによる修行を終えた沙綾は、複雑な想いを胸にしながらも、彼の魔法によってすぐに子供達と合流を果たす事が出来た。

 

悩みながら砂漠を歩く彼女だが、今考えたところで何も出来る事はないと、ひとまずこの葛藤を心に仕舞い込み、目の前の事に集中することを決める。

 

 

 

そして次の日、何時もと同じく眩しい太陽が照りつける中、光子郎のパソコンに一通の宛名のないメールが届く。

『助けてくれれば紋章の在りかを教える』と書かれたそのメールの指示に従い、道中、タケルの紋章とこの世界の成り立ちについて情報を手にいれた子供達は、メールの送り主が囚われているという砂漠のピラミッドへと足を伸ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回はあくまでメールの送り主を助けて空君の紋章を手に入れるのが目的だ。余計な戦闘はしないように 」

 

エテモンが先にピラミッドの内部へと向かった事を確認しているため、丈達はいつもより危機意識を高く持っている。しかし、

 

「分かってるよ。まあもし見つかっても沙綾がいるんだ、何とかなるさ 」

 

皆とは違い、太一は沙綾を見ながら楽観的な軽い口調でそれに答えた。

"デジタルワールドがデータの世界"という情報を得たことで、この時点の彼は"死んでもやり直せる"という間違った結論にたどり着いている。それを後悔する事も、今の太一はまだ知らない。

 

「エテモンは強力なデジモンだよ。メタルティラノモンでも勝てるかどうかは分からない、気は抜かないで」

 

今の沙綾に出来る忠告などせいぜいこの程度である。

最も、太一の様子を見る限りこのくらいの忠告では何も変わらない事は、彼女が一番分かっているのだが。

 

ため息を着きながら、沙綾は前方にそびえるピラミッドを見る。

小説では、太一、光子郎、空、丈、そのパートナー達で内部へと潜入するのだが、『エテモンに遭遇した場合』を考慮した結果、今回は丈に変わり、完全体を扱える沙綾がそれに抜擢されているのだ。

 

(空ちゃんには待ってて貰うのが一番安全なんだけど…昨日断られちゃったし……うーん…どうしよう…)

 

今回沙綾が変えたい歴史は、"愛情の紋章を手にいれるまでの過程"である。

 

歴史通りに進めば、この後メールの送り主であるナノモンによって空は一度捕らえられてしまう。

一応無事に助かる事は分かっているのだが、出来る事なら捕まらずに済むのが一番である。しかし空は、『自分の紋章のために沙綾達だけを危機な目に合わせるわけにはいかない』と、この場に残る事を頑なに拒否しているのだ。

 

(困ったなぁ…)

 

そう言われてしまうと、沙綾としてはこれ以上何も言うことは出来ない。太一や光子郎も空を連れていく事には賛成しているため、彼女が我を通すのは不可能だろう。

 

 

(…仕方ない…一応…出来る限りの事はしてみよう)

 

「よし、行こうぜみんな!」

 

「僕も行きたかったな」

 

「タケル、ワガママを言うんじゃない」

 

「気を付けてね」

 

「何度も言うけど、余計な事はするなよ」

 

待機する子供達の声を背に、太一を先頭に沙綾達はエテモン配下のデジモンに見つからない様注意を払いながらピラミッドを目指して動き出す。障害になるものは特にはなく、ひとまず全員がその前に到達した。

 

「この側面に隠し通路がある筈です」

 

光子郎がパソコンを広げて隠された入り口を探す間、太一はピラミッドの門から正面の入り口の様子を探る。すると、

 

「どうしたの太一?」

 

「エテモンだ!こっちに来る!?」

 

その言葉に、皆は慌て壁に張り付くようにして息を殺すが、そんなものは除かれればすぐに見つかってしまう。

 

「マァマ!ボクいつでも戦えるよ!」

 

『見つかる前に奇襲を掛けよう』と、歴史をあまり知らない沙綾のアグモンは進化しようとするが、彼女はアグモンの頭に手を置いてこれを制止した。

 

「落ち着いてアグモン…光子郎君、隠し通路の場所は?」

 

「えーと……ここです!この壁にだけデータが入ってない、みなさん早く!」

 

光子郎の指示に従い、皆は駆け込むようにピラミッドの壁をすり抜けて中へと入る。ほんの一瞬の間をおいて、エテモンがピラミッドの側面を除き混むが、既にそこには誰もいない。

 

「あら?誰かいると思ったんだけど…あちきの勘違いかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

「危なかったわね…」

 

間一髪、エテモンに見つかることなく内部の潜入に成功した沙綾達だが、危機感が薄れている太一は壁から手を出してみたりと何処か楽しんでいる様子であり、空に厳しく注意を受けるが聞いている風には見えない。

 

「見つかったらどうするの!」

 

「なーに、大丈夫だよ。沙綾もそう思うだろ?空は心配しすぎなんだよ」

 

「太一!」

 

「はあ…とにかく、早くメールの送り主を探そうよ」

(まあ監視カメラがあるって本には書いてたしね…この隠し通路にはないだろうけど、ピラミッド周辺とナノモンの部屋には間違いなくあるだろうから、何もしなくても歴史通り見つかっちゃうとは思うけど…)

 

「そうだな。行こうぜみんな」

 

太一が先に細い通路を歩き出し、沙綾、光子郎、アグモン二匹、テントモンが続く。釈然としない表情を見せながらも、空とピヨモンが最後尾を歩く形となった。

 

通路を歩く最中、沙綾はこの先の行動について頭を悩ませる。

 

 

(ナノモンの居る部屋までは特に敵はいない筈…でもその後は…)

 

子供達に気づいたエテモンと戦闘になり、その際、助けたナノモンに空とピヨモンが拐われる。

空達を助けるには、一時的とはいえ、エテモンとナノモン、二匹の完全体の相手をしなくてはならない可能性があるのだ。

その上、必然的に室内での戦闘になるため、身体の大きいメタルティラノモンはその性能を発揮しづらい。

グレイモン達がサポートしたとしても、正攻法では厳しいものがあるだろう

 

(どうにかしてエテモンの目を眩まして、ナノモンの封印を解いた直後に天井を突き破って逃げるしかないかな…愛情の紋章はこのピラミッドの地下にある筈だから、もう一回来ることに変わりはないし…無理そうなら、ここは大人しく歴史に従おう…)

 

デビモン戦のように、下手に動いて被害を増やす事は得策ではない。今回の場合、敵に捕まっても空の身の安全は約束されている。"絶対に変えたい過程"というわけではないのだ。

 

 

そう結論付けたのち、沙綾は再び前を向いて歩き出す。

 

一行は段々とピラミッドの地下へと潜っていき、やがて目的の部屋の一歩手前、今までとは違う広い通路へと辿り着いた。しかしその通路全面を塞ぐように電流の流れた金網が張り巡らされている。

 

「これ、高圧電流ちゃいまっか?」

 

「そうですね…でもこの中の何処かに入り口と同じようにデータがない箇所がある筈です。」

 

「どこだよ光子郎」

 

光子郎は手持ちのパソコンを開き、軽快に操作する。

 

「ちょっと待って下さい…………あっ、ここです」

 

「そっか、よし」

 

彼が指を指すと同時に、止める間めなく太一はそこを潜り抜けた。歴史を知っている沙綾でさえ、そのあまりにも軽率な行動に背筋がゾッとする。空に至っては、最早憤りの表情を隠そうとしない。

 

仮にバックアップがあっても、普通は躊躇いの一つは覚えるだろう。

 

(太一君って、たまにホントにとんでもない事を平気でするよね……)

 

「何してんだ、早く来いよ」

 

太一の真後ろに続いて沙綾達もそこを通り抜け、今までとは違う、明るく広い地下の一室へと入る。

 

周囲を見回す一行は、その部屋の中心で囚われているナノモンを発見し、彼の話を聞く事になる。

 

昔エテモンに挑んで敗れた事、

思考を奪われて封印され、エテモンのネットワークのホストコンピューターにされていた事

ある日記憶が戻り、子供達に助けを求めた事

 

 

ナノモンの語る『エテモンが共通の敵』という言葉を信じ、彼の言葉通りの手順を踏んで太一と光子郎がその封印を解こうと、周囲の機械の操作を始めた。

 

『よーし、いいぞ、もう少しだ。』

 

かくいう沙綾はその様子をパートナーと共に眺め、これから取るべき行動を頭の中にイメージし、隣に居るアグモンへと小言でそれを伝える。

 

「アグモン…」

 

「なあにマァマ?」

 

「もうすぐここにエテモンが来る筈なの」

 

「えっ!?ホントに!」

 

「しー!…私が合図したら、まずはティラノモンに進化して炎でエテモンの目を眩まして…その後でもう一回進化して、逃げるために今度はメタルティラノモンで天井を撃ち抜いて…」

 

「うん…分かったよ…」

 

「それからナノモンは信用しないで。あのデジモンは私達を利用してるだけだから…」

 

アグモンは頷き、これから始まる戦いに備えて心の準備をする。

 

 

そして、

 

 

太一がナノモンの封印を解くため、壁に設置された最後のレバーを操作しようとしたその時、

 

「待ちなさい。選ばれし子供達!」

 

「エテモン、もう気づいたのか!?」

 

「あれだけ動き回れば誰でも気付くわよ。監視カメラもあるんだから」

 

配下のガジモン二匹を連れ、エテモンが部屋の入り口を塞ぐように立ちはだかる。そのままこちらに向かって走り出そうとした時、間髪入れずに沙綾はパートナーに攻撃の指示を出した。

 

「アグモン!」

「アグモン進化ー!ティラノモン!」

 

事前に示し合わせた通りに、ティラノモンはエテモンに向かって全力の炎を放射する。進化から攻撃までの速度はかなりのもので、まるで一種の奇襲のようである。取り巻きのガジモン二匹は驚き、慌てて入り口から部屋の外へと非難する。

 

 

 

 

 

だが

 

「そんなんであちきを止められるとは思わない事ねー!うらあぁぁ!」

 

エテモンは一切怯まず、なんと雄叫びと共に炎をその身に受けながらぐんぐんとティラノモンに向かって直進して来たのだ。少なくとも防御するか、ガジモンのように一度部屋の外に出て攻撃を回避する筈と踏んでいた沙綾は、彼のその破天荒な行動に度肝を抜かれた。

 

(!…嘘でしょ!ちょっとぐらい怯んでよ!)

「ッ!下がってティラノモン!」

 

沙綾はティラノモンに飛び乗りそう指示を出す。

まるで炎など聞いていないかのように詰め寄ったエテモンのパンチが当たる直前に、ティラノモンは沙綾を乗せたまま大きく後ろへ跳び、彼の拳が空を切る。

 

「ふん!……あら?なかなか素早いのね…炎の威力も強いし、ウチのティラノモン達とは大違い。まあ、あちきの敵じゃないけど」

 

(なんてデジモンなの…)

 

「今のうちに、行けっ!アグモン!」

「分かった太一!」

 

ティラノモンの後退と入れ替わるように、進化を果たしたグレイモン、カブテリモン、バードラモンがエテモンに迫り、その間に太一は最後のレバーを操作する。

沙綾にとってこの流れは良くない。いや、最初の目眩ましが失敗に終わった段階で彼女の作戦は瓦解している。

 

(……エテモンの行動が予想外だった…悔しいけど…ここは"歴史の流れ"にまかせよう…こうなったら強引な突破はリスクが高すぎる…)

 

「マァマ、進化すればいいの?」

 

「……ううん…ごめん作戦変更だよ、進化はもうちょっと待って、今は少し様子を見るから」

 

悔しそうな表情を見せながらも、沙綾は皆の安全を第一に考え、背中からティラノモンに作戦の変更を伝えた後、しばらくこの状況を見守る事を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔よ!退きなさい!」

 

「ぐっ!」

 

接近戦を挑んだグレイモン、カブテリモンが共に殴り飛ばされ、その隙をついたバードラモンがエテモンの背後を取った時、ナノモンの身に自由が戻る。

 

『エテモン!貴様の作った封印の威力、思い知れ!

 

ナノモンを封印していたガラスのようなデータの塊を、彼は自在に動かし、敵味方問わず無差別に放つ。勿論それはエテモンの背後にいたバードラモンにも命中し、手痛い一撃を受けた彼女はピヨモンに退化してしまった。

 

「何するんだ!味方じゃなかったのか!?」

 

『お前達はもう用済みだ!』

 

「こう言うヤツなのよ。ナノモンって…」

 

『ほざけ!プラグボム!』

 

ナノモンの必殺がエテモンに向かって放たれ、それに対抗するため、エテモンも自らの必殺を放つ。

それは部屋の中心でぶつかり合い、激しい爆炎が上がるが、両者の力は互角ではなく、最終的にナノモンが押される形で幕を閉じた。そして、

 

「今回もあちきの勝ちね!」

 

『おのれ…戦闘力だけのサルめ…だが!』

 

自身の不利を悟ったナノモンは、歴史通りに空とピヨモンを拉致して逃走する。

 

「待てナノモン!空を返せ!」

 

「待つのはあんた達よ!」

 

ナノモンを追って部屋から出る太一と光子郎を、更にエテモンが追いかける。だが、太一達が部屋を出たその直後、横から滑り込むように立ちはだかる赤い恐竜を前に、彼の足は一度止まるのだった。

 

「チッ…あんた達だけであちきを止める気?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティラノモン!入り口を塞いで。エテモンを足止めするよ」

(せめてグレイモン達の負担は減らしてあげないと、着いてきた意味がない)

 

奇襲が失敗して以降沈黙を続けていた沙綾は、ナノモンが逃走してすぐティラノモンにそう指示を出す。

 

「オッケー!」

 

沙綾を乗せたまま、彼は風のように走る。

先程とは逆に、今度はティラノモンが入り口を塞ぎ、エテモンの進行を防ぐように立ちはだかった。本来はグレイモン達の役目である"エテモンの足止め"を、ティラノモンが代わりに行う。理由は勿論、彼らの負担を減らすためだ。

 

「みんなは空ちゃんを追いかけて!エテモンは私達で食い止めるから!」

 

「悪い、任せた。行くぞグレイモン!」

 

「気を付けて…無理はしないでください。」

 

背中から飛び下り、沙綾は皆に先に行くように促す。

ティラノモンの戦闘力を知っている太一、光子郎は頷いた後、それぞれのパートナーを連れ、ナノモンを追いかけて通路を走り出す。最も、電流の流れる金網によって、その足はすぐに止まることになるだろが。

 

 

 

「チッ…あんた達だけであちきを止める気?」

 

「さっきはまんまとしてやられたけど、次はそう上手くはいかないよ!」

 

「ハッ!生意気な小娘ね!確かに他の子供達のデジモンよりはちょーとは強いみたいだけど、あちきには敵わないわよ」

 

先程ティラノモンの攻撃を受けきったエテモンは自信ありげにそう声を上げる。

 

そう、彼は知らないのだ。

 

「勝てるかどうかは別だけど…時間稼ぎはさせてもらうよ!進化して、ティラノモン!」

 

目の前のデジモンもまた、自分と同じ完全体へと昇華出来ると言うことを。

 

「任せてマァマ!行くぞ!ティラノモン、超進化!」

 

「えっ?何!ちょっと!進化?聞いてないわよ」

 

エテモンにとって沙綾達のこの行動は完全に予想外であり、明らかな動揺を見せる。光に包まれたティラノモンがその姿を変えていき、

 

「メタル…ティラノモン!」

 

進化の完了と共に片足で床を踏み鳴らして、沙綾とメタルティラノモンは今、エテモンと対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





沙綾ちゃんはいろいろ考えていましたが、今回は最後の方以外は丈が沙綾に代わっただけで原作と同じです。むしろ変わらなさすぎてどうしようかと悩んだぐらいで…




あと2話ぐらいでエテモン編が終了すると思います。

その後はクロックモンパートを挟んでヴァンデモン編ですね。

一体後何話ぐらいでダークマスターズ編にたどりつけるんだろうか…

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