というよりも、沙綾が子供達と行動する限りは、敵側の
動きは基本的に原作と全く同じなので書く必要が…
それと、エテモンはこの時点ではメタルティラノモンの存在を知りません。コロッセオのダークネットワークは壊滅していますので、
コカトリモンの時も、原作と同様通信出来ていません。
よって彼の沙綾に対する認識も、"ただの選ばれし子供達の一人"に過ぎないので、彼女に対する特別な措置なんかもとっていません。
原作と同じく、今はネットワークの復旧中ですね
「ミミちゃんの紋章も手に入った事だし、そろそろ行こうぜ。」
「そうだね、暑さもましになったし、あんまり長くいても仕方ないからね。」
「えぇ!もう行くの!殆ど休んでないじゃない…」
照り付ける太陽の日差しから逃れ、巨大サボテンの陰にて休憩をとっていた一行は、立ち上がった太一、沙綾の後に続いてぞくぞくと腰を上げた。ミミだけは太一のその判断に若干不満があるようだが、パルモンに励まされる形で、渋々動き出す。
「太一、どっちに進むんだ?」
「うーん、何処向いても砂漠ばっかりだしな、とりあえず、さっきの船があそこにあるから、反対側に進もうぜ。」
ヤマトからの問いかけに太一は船を指を指しながらそれに答える。沙綾を始め一行は頷き、太一を先頭に、彼らは再びこの砂漠を歩き始めるのだった。
「紋章は手に入ったけど」
「使い方が分からないんじゃなぁ…」
歩き出してしばらくした後、ミミが自分の紋章を見ながら不思議そうな顔をした。同じく先にそれを手に入れていた丈も、考えている事は同じのようである。
「ねえ、沙綾ちゃんはどうやってティラノモンを進化させたの?」
二人の疑問を聞いて、空は何かヒントを得ようと隣を歩く沙綾へと問いかけ、彼女はその時の事を思い出しながら、言葉を選んでそれに答える。
「うーん、私は紋章を使った訳じゃないけど、あの時は、とにかく必死にみんなを助けたいって思ってたかな。」
それは半分正解で、半分不正解の解答。
彼女があの局面でそう願った事は事実ではあるが、それがティラノモンの進化の要因であったかは疑問が残る。デジヴァイスによる本の少しの補助はあっても、基本的には彼の進化は彼の力によるもの。沙綾のこの解答は、遠回しに紋章の使い方を教えるためのものである。
「きっと、沙綾さんの想いがティラノモンに届いたのね!」
「確かに、ピンチに陥った時ほど、デジモンは進化しやすいですから。」
それを聞いた子供達の見解は様々だが、質問をした空だけは、少しだけ皆とは違う答えにたどり着いたようだ。
「いえ、"誰かを守る時"…じゃないかしら…ほら、考えてみたら太一がスカルグレイモンに進化させた時以外は、初めての進化は全部誰かを守るためだったじゃない!」
「確かに、そうかもしれません!スカルグレイモンの時は、"誰かを守る"とは言えなかった。メタルティラノモンは、沙綾さんが強くそれを願ったから。」
(ちょっと違う。けど、あながち間違ってもないのかな)
紋章の力は、対応する気持ちの強さがカギとなる。子供達の旅の中で、その気持ちがもっとも強く現れる場面は、その大方が、誰かを守ろうとする時なのだ。
「参考になったなら良かったよ。ただ、前にも少し話したけど、ティラノモンが進化出来たのは、残ってたデビモンの力が後押ししたから、ゲンナイさんの言う正しい育て方が出来てるかは、私もそんなに自信ないからね。」
「マァマの育て方は正しいよ。なんたってマァマだから!」
今まで子供達のパートナーと談笑していた彼女のアグモンが、隣にまで歩いてきた後、言葉と同時に沙綾へと抱きついてきた。
「ああ、沙綾のアグモンを見てれば分かる。とにかく、使い方が分かったのなら、後は残りの紋章を集めるだけだな。」
「そうですね。がんばりましょう。」
沙綾の後方のヤマトが頷きながら話をまとめる。歴史とは少し違い、この時の皆の雰囲気は明るかった。
「おーい、何してるんだ。早く来いよー。」
自分のアグモンと二人で前方を歩く太一が、振り返って声を張る。
「今デジモンのじゅうよーかいぎしてるんだよ。」
頭にトコモンを乗せたタケルは、それに手を振って答えるが、
その時、
「う、うわっ!」
突然、太一とアグモンの真下の地面が、まるで蟻地獄のように渦巻き、その中から一匹のクワガーモンが現れる。巨大なハサミの片側にぶら下がる形となってしまった太一は、クワガーモンが首を振った事で、投げ飛ばされてしまい、その場に彼のアグモンだけが残された。だが、迫り来る巨大なハサミを見ても、彼は進化しようとはしない。一度スカルグレイモンになってしまったトラウマから、彼は進化に踏み切れないのだ。
(太一君のアグモンは今は進化出来ない…助けは来る筈だけど、出来る事はしなきゃ!)
「みんな!アグモンの様子が変だよ。助けよう!」
沙綾はもう、一人で全部を解決しようとは思わない。
彼女の言葉に、皆はハッとしたようにデジヴァイスを掲げる。トコモンを除き、一斉に成熟期へと進化を果たしたパートナー達がアグモンを助けるために飛び出した。
「メテオウイング!」
「今だカブテリモン!アグモンを助けて下さい。」
突如飛来する火炎に気付いたクワガーモンはアグモンから離れれ、その隙をついたカブテリモンが彼を救出する。
「イッカクモン!相手の動きを止めるんだ!」
「トゲモン!貴方もお願い!」
「ハープーンバルカン!」
「チクチクバンバン!」
「今の内に太一を助ける。いくぞガルルモン!」
後退した後、ハサミを振り上げて羽を広げるクワガーモンに向かい、トゲモン、イッカクモンがそれぞれの必殺を放ち、ヤマトを乗せたガルルモンは太一の元へ向かう。そして最後に、
「チャンスだよ、行って、ティラノモン!」
「任せてよマァマ!」
ティラノモンが高速で敵へと直進する。
「スラッシュネイル!」
仲間の援護を受け、一気に懐へと潜り込んだティラノモンは、すれ違い様に一閃、その鋭い爪で、クワガーモンを切り裂いた。
(なんだかみんなの連携が上手く取れてる気がする……)
致命傷を負ったクワガーモンが崩れ行く中、子供達の的確な指示による統制の取れた動きに、沙綾は目を丸くする。
味方と共闘する上で何より大切なのはその連携だ。小説にも書かれていた事だが、選ばれし子供達はその連携という部分においてあまり優れてはいない。そのため、数の利を生かしきれず、窮地に立たされる場面がこの先何度もある筈なのだ。
だが、沙綾は今の戦いにその連携不足を感じる事はなかった。
(気持ちの持ちようの違いかな?)
首をかしげながら考える。
彼女のその推測はまちがってはいない。今の戦いは"育て方を参考にする"といった子供達が、自分なりに沙綾ならどうするかを考えた結果であるからだ。
(データをロードしたいけど…流石にみんなの前でどうどうと出来ないよね…デビモンの時みたいに質問されると困るし、今回は見送ろう。)
「お疲れ様、アグモン、太一君達も怪我はない?」
「ああ…ありがとうみんな…助かったよ…」
「ボク、進化…出来なかった…グレイモンになれなかったらって…」
「仕方ないさ。あんな事があったんじゃ無理もない。」
「そうよ、みんなで助け合って行きましょ。」
クワガーモンを撃破した後、カブテリモン、ガルルモンによって救出された二人は、ガックリと肩を落とす。
やはり、太一とアグモンの進化に対する恐怖心はそうそう拭い去れるものではないのだ。
そして、そんな彼らを慰める子供達の後ろから、不意に一匹のデジモンが声を掛けてくる。
「君達が選ばれし子供達かッピ?」
「「えっ!?」」
(やっと来た…)
振り返った子供達が目にしたのは、小さなビンク色の身体に、同じく小さな槍をもった妖精のようなデジモン、加えて、本来の歴史においては太一とアグモンをクワガーモンから救い出したデジモン、ピッコロモンである。
「今の戦い見てたッピ。みんななかなかいい動きだったッピ。けど、やっぱりまだまだ努力が足りないッピ」
「なんだこいつ…」
「アナタ、ピッコロモンね。」
「特にそこの二人は重症だッピ。だから、みんな私の所で修行するッピ!」
いきなり現れ、飛躍した話を持ちかけるピッコロモンに、当然一行は警戒を示す。しかし、パートナー達の話しから、彼が敵意を持ったデジモンでない事が分かると、"取りあえずついて行ってみよう"と意見で一致する事になるのだった。
「何してるッピ!早く来るッピ!」
前を歩くピッコロモンに続き、子供達も歩き出す。
砂漠を越え、彼の作り出す結界の中の森を進み、高くそびえる山を登りきり、彼の住居にたどり着く頃には、流石に体力には自信のある沙綾でさえ、息を切らせる始末であった。
「想像してたよりも…ずっと高かったね…大丈夫…アグモン?」
「うん…疲れちゃったけど…平気だよ。」
既に日は沈みかけており、疲れから床に倒れ伏す一行を見ると、まるで"ここに来る事こそが修行"であるようだ。だが沙綾は知っている。まだ終った訳ではないと。
(これから掃除かぁ…確かに滅入っちゃうよ…)
これから太一とアグモンを除いた皆は、暗くなるまでこの修行するためだけに作られた彼の住居を掃除する事になるのだ。ピッコロモンが呪文によってバケツと雑巾を出す姿を見た瞬間に、彼女は深いタメ息をついた。
「これからここの掃除をしてもらうッピ、君達二人はスペシャルメニューだッピ、ついて来るッピ!」
皆口々に文句をいいなからも、言われた通りに雑巾を手に取る。沙綾も諦めてバケツを持って移動しようとした時、ピッコロが意外な言葉を口した。
「あっ、いい忘れてたけど、君達もスペシャルメニューだッピ。掃除は私が戻って来るまででいいッピ。」
その言葉はまさに、沙綾と彼女のアグモンに向けられたものである。
「えっ!?私達も?」
「そうだッピ、ちょっと待ってるッピ。」
それだけを伝え、ピッコロモンは去っていく。
「マァマ、すぺしゃるめにゅーって?」
「大変な修行の事だよ…」
小説の中身を熟知していると言うことは、当然太一の修行の内容も知っている。まさか自分も指名されると考えていなかった沙綾は、皆の同情の視線が集まる中、一筋縄ではいかないであろう彼の特訓を思い、再び深いタメ息をつくのだった。
その後、戻ってきたピッコロモンに先導され、沙綾達は渋々と住居の入り口にまで戻る事になる。
「そろそろ何をするのか教えて欲しんだけど…」
「まあ待つッピ、ここじゃ狭いから…ほい!」
「「うわっ!」」
彼の言葉と共に、沙綾、アグモンの身体は宙へと浮き上がり、ピッコロモンも含めて二人はそのまま山の梺の森へと一気に下ろされてしまう。無事に着地が出来たその直後、沙綾は明らかな動揺と共に、ピッコロモンへと詰め寄った。
「えっ!ちょっともしかして、もう一回ここを登るの!スペシャルメニューってこれっ!?」
目の前に再び広がる無数の階段を指差し、彼女は声を上げた。
「違うッピ……君達のスペシャルメニューは…私との模擬戦だっぴ!」
「!」
太一の行っている修行と、ある意味対極に位置する内容に沙綾は驚く。
「さっきの戦いを見るだけで分かるッピ。君のアグモンだけ、他の子供達のデジモンと動きが違うッピ。それに、その時君は常に冷静に回りを見てたッピ、"戦いに慣れてないと出来ない事"ッピ」
「……」
ピッコロモンの言うことは最もだ。同じ成熟期であるなら、数々のデータをロードしたティラノモンの方が、子供達のパートナーより戦闘力は高い。
逃走経路の確認や、状況の把握も、昔散々逃げ回った沙綾にとっての癖のようなものだ。それでも、あの短い間にそれだけの事を見抜くのは簡単ではない。
(やっぱり、ピッコロモンってすごいのかも…)
「だから君達だけ、他の子供達とは違う実戦形式の修行だッピ!」
「…分かったよ、修行なら、ルールとかはあるの?」
気持ちを切り替え、沙綾はピッコロモンに問う。
「日が沈み切るまで、あと20分くらいだッピ。その間に、私が着けた風船を割ることが出来たら君達の勝ちだッピ。勿論、進化しても構わないッピ、ただ、エネルギー切れで退化したり、時間切れになったら負けッピ。よくあるルールだッピ。」
彼は槍を振るって小さな風船を出現させながら話す。
二人は提示されたルールに頷き、沙綾はアグモンをティラノモンへと進化させた後、ピッコロモンの指示で、本の少しの距離を取った。
(ここは森の中、見失わないように気を付けなきゃ。)
「準備はいいかッピ!、それじゃあ、よーい、スタートだッピ!」
「いくよ、ティラノモン!」
「オッケー!」
合図と同時に、ティラノモンは両足に力を込め、地面が抉れるほどの脚力を持ってピッコロモンへと一気に詰め寄る。
「君達の力、見せてみろッピ。」
「スラッシュネイル!」
恐竜の爪と妖精の槍が深い森の中で交錯し、火花が散る。夕暮れの中、今、彼女達の短いスペシャルメニューが開始された。
沙綾の修行は、太一の修行と対比させるような感じで作りました。
短い修行と長い修行
応用と基本
といったところです。