デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

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感想、評価を入れて下さった皆様、ありがとうございます。
頑張るぞという気が出てきます。


私だってみんなを助けたいんだ!

沙綾を背中に乗せたティラノモンは、今しがた敵にトドメを刺したスカルグレイモンと、真後ろの足下でそれを呆然と見ている太一を目掛け、ガルルモンにも迫る速度で走る。

距離はおよそ100メートル、デビモンをロードした今のティラノモンならば、加速を含めても5秒とかからない。一瞬で近くまでたどり着き、一度止まって沙綾を下ろす。

 

「太一君を連れていく間、反対側に彼を引き付けて!」

 

「オッケー!」

 

素早くそう指示を出し、即座に二人は行動を開始した。

ティラノモンは、わざとスカルグレイモンの前に飛びだし、顔を目掛けて得意の火炎を放った後、『かかってこい』と言わんばかりに手を使って相手を挑発する。

彼にそれを理解出来る知能が備わっているかは不明だが、結果的にスカルグレイモンはティラノモンを敵と判断し、意識を彼に向け、巨大な骨の腕を振り上げた。

 

一方、彼の意識がティラノモンに向いている隙に、沙綾はその足下まで走りより、その場で硬直する太一の手を握る。

 

「さ、沙綾!?」

 

「早く逃げるよ!ここにいちゃダメ!貴方にもわかるでしょ、"アレ"はもうグレイモンじゃない!」

 

(ガルルモンとバードラモンはまだ攻撃を仕掛けてない。仕掛けたとしても、"2匹だけ"ならまだ大丈夫。軽い反撃ぐらいは受けるかもしれないけど…)

 

未来でもこのような場面がなかった訳ではない。

親友2人との冒険の中で、凶暴なデジモンに遭遇した事など1度や2度ではないのだ。

状況によっては、ティラノモンと沙綾が二人の囮になって逃走した事もある。

デビモンのように知能の高いデジモンでは不可能だが、

スカルグレイモンの様に行動自体が単純であれば、味方への被害を極力抑えながら、相手の意識を自分だけに向けさせる事はそう難しい事ではない。

 

だが、それも数が多ければ話は別である。

 

手を繋いだまま、彼女が太一を引っ張る形で、皆がいるはずのスタンドを目指して戻り始める。少しの間、後方のスカルグレイモンに注意を払っていた沙綾が、いざ前方に視線を動かした時、彼女は絶句した。

 

 

「太一、沙綾、大丈夫か!」

 

ヤマト、空を先頭に、光子郎達は進化させたパートナーを引き連れて、自分と太一を目指して走る皆の姿を目にしたかである。

 

(どうしてみんながここにいるの!)

 

予想外の展開に彼女の頭は一瞬混乱する。その間に、子供達は走りながら各々のパートナーに、ティラノモンの援護に向かうよう指示を出す。それほど広くはないコロッセオ内をパートナー達が散らばり、スカルグレイモンを止めるために、一斉に攻撃を仕掛けたのだ。

それを見た沙綾は合流後、彼女にしては珍しく、声を上げて怒鳴る。

 

「何で来たの!」

 

これではティラノモンの役割が果たせない。

どこを向いても誰かがいる以上、迂闊に逃げ回る事すら出来ないのだ。現に今、彼はどうしていいのか分からず、その足を止めてしまっている。

何より、子供達を助けるために動いている沙綾にとって、これでは本末転倒なのである。

 

「巻き沿いになるからみんなは隠れててっていったよね!なんでわざわざ来るの!貴方達が来たら意味がないじゃない!」

 

戦いの最中であるにも関わらず、彼女は更に続ける。

子供達から見ても、沙綾のこの反応は予想外なのだろう、皆唖然と彼女を見つめるだけで、言葉が出てこないのだから、そんな中、不意に空が一歩前に出る。そして、

 

「バカッ!」

 

パチンと、乾いた音が周囲に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしよう。これじゃ相手を引き付けられないよ…」

 

一度に6体もの援軍が登場し、攻撃を始めた事で、スカルグレイモンの意識を自分だけに留められなくなったティラノモンは悩んでいた。しかし、その分自身の負担は軽くなり、今彼は足を止められていられるのだが。

 

「でも、マァマ達にコイツを近づけちゃいけない。」

 

そう判断したティラノモンは、スカルグレイモンの足を集中的に攻撃する。それほどのダメージはないが、勢いよく噴射される炎に方足を取られたスカルグレイモンは、バランスを崩して、その場で膝をいた、そこへ、

 

「ハープーンバルカン!」

「メテオウィング!」

「メガブラスター!」

「チクチクバンバン!」

 

中距離から4体のパートナーが自身の必殺を放ち、

 

「フォックスファイヤー!」

 

最後にガルルモンが青い炎を吐きながら飛びかかり、そのままスカルグレイモンの腕へと噛みついた。

彼は大きく腕を震い、ガルルモンを振り落とそうとするが、そこで再びティラノモンが赤い炎を放ち、今度はその腕に命中する。

 

「助かったよ、ティラノモン」

 

「早く離れて!みんな、近付きすぎ過ぎちゃダメだ!」

 

ティラノモンのその言葉を聞いて、パートナー達は一歩後ろへと距離を取る。

投げ飛ばされる前に腕から離れたガルルモンも、一度後退し、追撃を防ぐため、ティラノモンは更に頭に向けて牽制のための炎を吐いた。

 

(このままなんとか時間を稼げれば、)

 

戦闘を始めてまだ間もないが、今のところは味方にダメージはない。沙綾からの指示は『無理をせず、被害を押さえて、時間を稼ぐ』、であることから、上手く立ち回れば、まだ目標は達成出来るかもしれないと彼は考えた。

 

しかし、

 

「ぐぁ!」

 

意識をスカルグレイモンの頭に向けすぎていたティラノモンは、骨の腕による横からの凪ぎ払いに対応が出来ず、撥ね飛ばされ、滑るように地面を転がる。

手痛いダメージではないため、彼はすぐに起き上がるが、スカルグレイモンは既に次の動作に入っていた。

踏み潰されたゴールネットを持ち上げ、それを沙綾達のいるコロッセオの反対側に向かって投げようとしていたのだ。

 

「危ない!マァマー!」

 

全力で地面を蹴り、彼女の盾となるため、ティラノモンはなりふり構わず走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その少し前、

 

 

沙綾の左頬に痛みが走る。自分が何故叩かれたのかが分からない彼女は、空に喰って掛かかろうとするが、その表情を見て言葉を飲み込んだ。空が、泣いていたのだ。

 

 

「沙綾ちゃんも今の太一も…何で一人で全部解決しようとするのよ!」

 

目に涙を貯めながらも、空は震える声で自分の想いを伝えた。

 

 

「私達は仲間でしょ…」

 

 

彼女の言ったその言葉が、沙綾の心に響く。

 

『仲間を助けたいから行動する。』

 

それは、沙綾が親友と子供達に抱く想いと同じもの。

根底にあるものは違っても、沙綾が子供達を助けたいように、子供達もまた沙綾を助けたい。仲間とはそういうものである。

今まで"負い目"が邪魔をして、それに気付かなかった沙綾も、その言葉で遂に自覚したのだ。

 

"皆に心配をかけていた事"、そして、"皆が自分を心配してくれた"事を。

 

(なんで、今まで…気付かなかったんだろ…)

 

気付いた途端、沙綾の目からも涙が溢れだし、そして、子供達に始めて迎え入れられた時と同じような、温かい気持ちが心を満たしていく。

 

(アグモン以外にも、この世界で私の事、心配してくれる人達がいたんだね…)

 

「心配、かけて…ごめん…」

涙目の空を始め、自分達を『助けに来てくれた』子供達全員に、精一杯の謝罪を込めて、沙綾は頭をさげ、その後、顔を上げてその続きを口にする。

 

「それから…心配してくれて…ありがとう。」

 

涙が頬を伝いながらも、この場には似合わない笑顔で沙綾はそう伝え、太一を除いた子供達は、それに力強く頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

ここが今"戦場"でなければ、これで全ては解決したであろう。だが、いくら距離を取ったとは言え、やはりここが危険地帯であることに変わりはない。

沙綾につられて口許を緩ませていたヤマトの表情が急に変化し、沙綾と太一の後方を指差して声をあげる。

 

「おいっ!あれ!」

「ゴ、ゴールネット!?」

「えっ!」

 

小説と同じように子供達向かってゴールネットが飛来する。歴史より距離が近かった事、更に、皆の気が一瞬緩んで反応が遅れた事により、沙綾が気付いて振り返った時には、既にそれは目の前にまで迫っていたのだ。

 

(嘘……)

 

最早回避は間に合わず、無駄と分かりながらも皆は体を丸めて防御の姿勢をとる。だが、ガシャンという音がしただけで、それが子供達に直撃することはなかった。

動けずに固まる皆の前に、間一髪で間に合ったティラノモンが、体を盾にネットを止めたからである。

 

「ティラノモン!」

 

「ごめんマァマ、大丈夫だった?」

 

「うん、ありがとう……!ティラノモン!後ろ!」

 

「…なっ!」

 

涙を拭いながらティラノモンに礼をした沙綾が、ゴールネットが飛んできた方向を見た時、彼女は自分の目を疑う。スカルグレイモンが両手を地面につき、その脊髄に搭載された凶悪なミサイルを此方に向けていたのだ。

 

(あんなの撃たれたら、みんな無事じゃ済まない、それどころか、私とティラノモンは間違いなく死んじゃう。)

 

それぞれのパートナー達がそれを阻止しようと、攻撃をするが、スカルグレイモンは意に介さず、ミサイルに点火をした。

 

「マァマ達は早く逃げて!ボクがなんとか食い止めるから!」

 

ティラノモンはそういうが、敵のグレイモンをオーロラビジョンごと跡形も無く消し去った彼の必殺を止める事など出来はしない。何より、もう逃げるには遅すぎる。

 

(そんなのイヤだ!、まだミキとアキラを助けてないのに!、やっとみんなの気持ちに気づけたのに!)

 

ミサイルが白い煙をあげ始めた。発射まで、後3秒とないだろう。

 

(私は諦めたくない!)

 

心の中で沙綾は強く想う。

 

此処では死にたくはないと、子供達の信頼に答えたいと

、そして驚くことにこの土壇場で、それは形となって現れた。

 

「見て!ティラノモンの身体が!」

 

(知らんぷりしたくないからじゃない…)

 

ティラノモンの身体が、眩しく輝き始める。

自分自身の危機に、パートナーの危機に、その想いに答えるために。

この現象を、皆は知っている。

 

「これってもしかして、」

「進化の光?」

「でも、沙綾さんはまだ紋章が、」

 

(今の私は心から思う)

 

 

「力が、溢れて来る。今なら出来る!ボクが守るんだ!」

 

ミサイルの発射と、沙綾のデジヴァイスが輝いたのは同時だった。

 

 

 

「私だってみんなを助けたいんだっ!」

 

その場にいる全員に届く声で、沙綾は自分の想いを叫ぶ。それに呼応するように、デジヴァイスとティラノモンの輝きはより一層強くなり、そして、

 

 

「マァマのために…いくぞ!ティラノモン超進化!」

 

自身を鼓舞するように咆哮を上げ、相手の必殺が近付く中、今赤い恐竜は光に包まれてその姿を変える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




作者の中では、ここで始めて沙綾視点で「brave heart」が流れ出すイメージで書いていました。
沙綾視点で聞いてみると、子供達サイドで聞くのとは、また少し歌詞の意味が違って聞こえるのかも知れません。

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