デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

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それが聞きたくて此処に来たの。

「これからどうする?」

 

困惑した表情を浮かべた空が、皆に今後の方針を問いかけた。

 

 

 

それは、エンジェモンがデジタマに戻ったその直後に現れた、ホログラムの老人の話をどうするのか、という意味である。

 

 

 

「お前達が選ばれし子供達か。デビモンを倒すとはなかなかやるのぅ。」

 

 

その老人は自分をゲンナイと名乗り、太一達を"選ばれし子供達"と呼ぶ。彼の話した内容は、デビモンを倒した彼らに、今度はこのファイル島の向こう、サーバ大陸に居る暗黒のデジモンを倒して貰いたいというものだったのだ。話の途中、何者かの妨害でホログラムは消えてしまい、彼らは詳しい事を聞くことはできなかった。

しかし、デビモンよりも強いというそのデジモンの存在に皆の表情は暗い。

 

 

「取り合えず山を下りようぜ。旨いもん食って、話はそれからだ。」

 

先程の空の問いかけに対して、太一は伸びをしながらそう答える。彼の中ではもう答えは出ているのだろう。空達が浮かべている不安な表情が、彼にはなかった。

 

 

「そういえば、沙綾さんは?」

 

ミミが皆に問う。沙綾のアグモンは子供達の近くで気を失っているが、そこに彼女の姿は見えない。

 

「まさか、ティラノモンの攻撃で怪我したんじゃ!」

 

空が彼女を心配し、急いで辺りを見回すと、彼女は先程の位置から一歩も動かず、下を向いて立ちすくんでいるのを皆は見つけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(結局……こうなっちゃうの……)

 

 

沙綾は地面を見つめたまま、先程の出来事を思い返していた。

あの時デビモンをロードしていなければ、ティラノモンは暴走せず、エンジェモンは助かっていたのだろうか、

自分のやったことは、間違っていたのだろうか。

しかし、ロードしなければ何のために過去に来たのだ。

 

彼女の頭の中を様々な憶測が巡るが、最後に行き着くのはやはり、タケルへの罪悪感である。

 

 

(私が…殺したようなもんだよね…)

 

そう考える沙綾ではあるが、エンジェモンは本来の歴史でも、このムゲンマウンテンにて消滅する筈なのだ。その原因がデビモンであったかティラノモンであったかの違いに過ぎない。恐らく、デビモンと共に消滅していたのならば、彼女はここまで悩むことはなかったのだろうが。

 

 

 

やがて、沙綾がいない事を心配した太一達が、彼女を見つけ、そちらに向かって走って来た。その中には勿論、デジタマを抱えたタケルもいる。

 

 

「沙綾ちゃん!怪我はない、大丈夫!?」

 

 

開口一番、空は沙綾の安否確認のためそう問いかけ、俯いていた彼女は、その言葉でようやく、子供達が自分の回りに並んでいることに気付くのだった。

 

 

「え、あ…うん…大丈夫だよ。……タケル君…ごめんなさい…私のせいで……みんなも、危ない目にあわせて…」

 

「なんでお前が謝るんだよ。」

 

「デビモンに乗り移られたんだ。仕方ないさ。」

 

「お兄ちゃんの言う通りだよ。 沙綾さんもティラノモンも悪くないよ。きっとパタモンだってそう言うよ。」

 

 

彼女は深く頭をさげるが、誰一人沙綾を責める者は居ない。それもその筈、この中で事の真相を知っているのは、沙綾だけなのだから。今すぐにでもそれを打ち明けてしまいたい彼女だが、先の光子郎の質問に対して一度しらをきってしまった以上、それも出来ない。

 

(こんな事なら、最初から誤魔化すんじゃなかった…他にも言い様はあったのに…)

 

 

彼女の良心が再び痛む。タケルに"悪くないよ"と言われて安心している自分に、沙綾は嫌気が差す

 

「それでも…本当に…ごめん」

 

それが沙綾の、今言える精一杯の謝罪であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、アグモンは無事に目を覚ます。その間の記憶に関しても、他の黒い歯車で暴走したデジモンと同じく覚えてた。

 

当然、エンジェモンを自分が消滅させてしまった事も。

 

彼の場合は、沙綾への高過ぎる信頼が暴走したのだろう。暗黒の力に染まっても尚、彼女を気遣ったのはそのためだ。

 

「タケル…ボクのせいで…ごめん。」

 

「アグモンも気にしないで。パタモンもきっと怒ってないから。」

 

先程の沙綾と同じ様に、アグモンも彼に深々と頭を下げた。その時もうタケルは泣いてはおらず、アグモンを気遣ってか、笑顔を作り、デジタマをアピールするように、そう言葉を返したのだった。

 

 

 

 

 

「沙綾のアグモンも目を覚ましたし、そろそれ此処から下りようぜ。」

 

 

アグモンが目を覚まし、全員が動けるようになったところで、一行は山を下り、近くの水辺へと移動する。

食事を取っている間、沙綾は先程の出来事を振り替えっていたのだろう。彼女の箸はほとんど進んではいなかった。

 

 

(もしかして、これって……)

 

 

 

食事の後、今後の方針を決める話し合いを太一が行おうとした時、沙綾が先に口を開いく。

 

「ごめんみんな。ちょっとだけ席外すね。寝るまでには戻ってくるから。」

 

「あっ、ちょっ!」

 

「付いてきてアグモン。」

 

太一が言い終わる前に、沙綾は自分のアグモンをつれてもう一度森の中へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんは、クロックモン。」

 

 

日が沈みきる前に、沙綾達はクロックモンの隠れ家へと再び訪れた。

明日、選ばれし子供達はサーバ大陸へと移動する。その前に彼女はもう一度彼に会いたかったのだ。

 

 

 

「貴方達でしたか。どうしたのですか。今朝出ていったばかりなのに。」

 

「うん。ちょっと聞きたい事があるんだ。」

 

「何です?」

 

 

クロックモンは不思議そうな顔をする。

広いが、少し薄暗い部屋の中、彼女は今日の出来事を詳しくクロックモンに説明し、その上で彼に質問をした。

 

「エンジェモンの進化は、私がそうなるように願って行動したから分かるんだけど、その後の出来事が偶然とは思えないの。前に、おもちゃの街でも似たような事があって、その時は運が良かったのかと思ったんだけど。」

 

「ふむ。」

 

 

「これが未来の貴方が言ってた"現在に向かって歴史は流れてる"ってことなの?」

 

 

「そうですね。その通りです。」

 

"多少のズレ"程度であれば、歴史はうごかない。

おもちゃの街でのトゲモンの進化も、ムゲンマウンテンでのエンジェモンの消滅も、全ては決まっていたこと。

時間の移動などしたことのない彼女は、実際に体験するまで、いまいち理解が及んでいなかった。

その沙綾の問いを、クロックモンはあっさりと認める。

 

「じゃあ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私にはみんなの旅を助ける事は出来ないの?」

 

 

これが、沙綾の聞きたかったこと。デビモンとの戦いを通して彼女が得た葛藤の答えは、『見て見ぬふりは出来ない』ということだ。

 

これから先も、選ばれし子供達には、様々な危機が訪れる。その時、彼女は少しだけでも彼らの助けとなりたいのだ。なにより、これ以上無視を続けることは、まず自分の心が持たない。

 

しかし、既に運命が決まっているのならば、大きく歴史を変える事の出来ない彼女がいくら頑張った所で、彼らを助ける事など出来ないのではないか、先のエンジェモンの様な事が、この先も起こり続けるだけではないのか。沙綾はそれを知りたかったのだ。

 

『親友達を救いたい。』『みんなの助けになりたい』

都合の良い話であることは、彼女も理解していた。

 

 

「ふむ。出来ない事もありません。」

 

「ほんと!?」

 

「ええ、まず、決まっているのはあくまで結果です。

そこに至る過程については必ずしもそうではありません。例えば今回の場合、結果はデビモン、エンジェモン両方の消滅ですが、その過程は貴方の言う本来の歴史とは違う物です。」

 

「うん。」

 

「ですから、例えば、同じ"勝ち"という結果になるとしても、その過程が圧勝か接戦の末かで、味方の受ける被害に違いが出てきます。"負け"にしてもそうです。被害を抑える負け方だってあるのです。」

 

「そっか!」

 

彼女はクロックモンの意図を読む。つまり彼は、過程だけを少し変えろと言いたいのだ。デビモンとの戦いは、沙綾にとっても、皆にとっても、悪い方向へとその過程を変えてしまっただけ。

 

「それと、結果も絶対ではありません。カオスドラモンの様に、意図して変えようと思えば変わる事も勿論あります。変えるのあくまで過程だけ。それには注意してください。

因みに、未来の私が言った"些細なズレによって現在に多少の違いがでる"と言うのは、その過程の違いによるものです。」

 

クロックモンの説明はそこで終了し、話の意味を理解した沙綾の表情は、此処に来た時よりも明るくなっている様に彼には思えた。

 

 

「うん。分かったよ。……それが聞きたくて此処に来たの。」

 

 

「お役に立てたのなら幸いです。」

 

「ありがとう、クロックモン。じゃあ私、みんなの所に戻るね。」

 

クロックモンにお礼をして、沙綾はクルリと入り口に向かって歩き出す。今まで話に入っていけず、終始暇そうにしていたアグモンもそれに続いた。

 

 

「今度会うのはかなり先だけど、元気でね。後その本、宝物だから大事にしてね。」

 

 

「貴女方こそ、お気をつけて。」

 

 

部屋をでる前に、沙綾はもう一度振り返り、クロックモンに別れの挨拶をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やはり、あの優しい子を消す訳にはいかない。時間はまだ沢山ある。見つけるんだ。彼女を助ける方法を。)

 

 

 

 

一人になった暗い部屋で、クロックモンは静かに決意を固める。未来の自分の責任を取る為に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、

 

 

 

(まさか…こんなイカダで海を渡るつもりだなんて…)

 

沙綾は心の中で呆れ返る。小説には"全員が乗れる小さな舟を作った"としか書かれてはいなかったため、完成した実物を見た彼女は言葉が出てこない。

 

「じゃぁ行こうぜ!」

 

皆が意気揚々とその"舟"へと乗り込んでいくが。バックアップも無しにこれで海を渡るなど、結果を知っていなければ彼女はまず行わないだろう。

 

「う、うん…大丈夫、だよね。」

 

「マァマ早く乗ろうよ。」

 

アグモンに押され、遂に彼女も"舟"に乗り込んだ、最後に沙綾のアグモンが乗り、"舟は"ゆっくりとファイル島から離れていく。だんだんと小さくなっていくファイル島を見ながら、ふと沙綾はあることに気づいた。

 

 

(歴史より二人分重くなってる!)

 

 

気付かなければ良かったと、彼女はホエーモンに飲み込まれるまで、舟が歴史にはない転覆を迎えないかが心配だった。

 

 





これで第一部ファイル島編が終了です。

ここまでのご意見、ご感想など、お待ちしています。

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