デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

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今まで文字数の上限の桁間違ってました。
4000字だと思ってました。




ここで私達が戦うのを観てて

ティラノモンが時間を稼いでいる間に、沙綾はタケルとパタモンを連れ、デビモンから遠ざかる。 あの巨体を前にそれは気休めでしかないが、少なくとも、彼の正面にいるよりかは幾らか安全だろう。

 

 

「ありがとう! 沙綾さん。」

 

「僕からもお礼を言わせて。タケルを助けてくれてありがとう。」

 

 

助け出された二人が、沙綾にお礼の言葉を口にした時、無我夢中であった彼女の思考が冷静さを取り戻す。

同時に、今自分が何をしたかを思い知るのだった。

 

 

 

(やっちゃった……よりによって…最悪のタイミングだ……)

 

 

沙綾の顔が青ざめていく。

先程のタケルが、親友達とダブって見えた彼女は、思わず彼を助けてしまった。

しかしそれは、この闘いにおいてエンジェモンへの進化のタイミングを逃したという致命的な事なのだ。

 

(どうしよう。 このままじゃ……)

 

 

皆が再び立ち上がるが、もうまともな戦闘は不可能だろう。エンジェモンへの覚醒を逃した今、実質ティラノモンだけであのデビモンと戦わなければならない。それが如何に絶望的であるかなど語るまでもない。

 

 

「僕がタケルを守らなきゃいけないのに……」

 

パタモンが地面に足をつけ、申し訳なさそうに下をむいている。

 

希望があるとすれば、それは彼に再び進化のタイミングが訪れる事を祈るのみ。

 

(そうだ、まだチャンスはある。最終的に誰もやられずにエンジェモンの進化まで粘れば、まだ)

 

「沙綾さん? どうしたの?」

 

先程から黙り混んでいた沙綾を心配し、タケルが声をかけた。

 

「ううん、何でもないよ。」

 

恐らく、この状況で一番の打開策は、タケルを再びデビモンの前につきだす事だろう。沙綾もそれは分かっている。しかし

 

「タケル君はここで待っててね。」

 

親友とダブって見えた少年を、再び死地へと送り出す事など出来ない。理性を持ってそれが出来るなら、始めから彼等を助けたりなどしていない。

 

 

 

「沙綾さんはどうするの? もしかして戦うの!? 無理だよ!あいつ強すぎるよ!」

 

「ティラノモンが戦ってるの。 戻らないと…それからパタモン、貴方は自分が思ってるよりずっと強いんだよ。 だから、ここで私達が戦うのを観てて。」

 

結果、沙綾はパタモンを信じる事にした。

彼の自力での進化まで、自分が時間を稼ぐことを決めたのだ。

 

(私が招いた失敗なんだ。私が取り返さないと!)

 

彼女は言い残し、戦場へと戻る。頭の中は先程よりもスッキリとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファイヤーブレス!」

 

デビモンの顔を目掛けて渾身の火炎をティラノモンは放つ。しかし、先程は反射で腕を引いたが、本来彼にはこの程度の攻撃をかわす必要などない。

 

巨大な掌で炎を遮り、そのまま炎を押し返すように、腕をティラノモンに向けて伸ばす。

 

「デスクロウ!」

 

悪魔の腕が突き進む。諦めず炎を吐き続けるティラノモンに後一歩で届くという所で、その声は聞こえた。

 

「右に跳んで!」

 

聞こえた瞬間に、ティラノモンは反応する。着地を考えず、両足で一気に跳躍し、転がりながらもその場から離れた。直後、轟音と共に彼がいた所にデビモンの腕が突き刺さる。

 

「マァマ! よかった。 いきなり走って行っちゃうからビックリしたよ。」

 

声の主である沙綾の元に走りより、ティラノモンは安堵の表情を浮かべた。

 

「ごめんね。 パタモンが進化出来るまで、私達 で時間を稼ぐよ!」

 

パタモンの進化がこの闘いにどれ程の影響があるかを知らない彼は、一瞬疑問に思うが、彼女の言葉を信じて頷く。

 

「大人しく死ねばいいものを!」

 

デビモンが掌を此方に向け、子供達を苦しめた闇の光線を、今度は沙綾とティラノモンに向けて放つ。狭い山道でこれをかわすのは至難の技である。しかし彼女は

 

 

「跳んで!」

 

ティラノモンの背中に飛び乗りながら指示を出す。

すると、10メートルはあろうかという崖を、彼は一切のためらいなく飛び降り、光線が自身の頭の上を通過する中、ティラノモンは真下の山道へと着地を決めた。

 

「メガ、フレイムッ」

 

沙綾がティラノモンの背中から降りると同時に、デビモンの頭を目掛けた火炎弾が飛ぶ。

彼の意識が森の中のグレイモンへ向けられたのを確認した彼女は、すかさずティラノモンに攻撃の指示を出した。

 

「撃って!」

 

「ファイヤーブレス!」

 

 

沙綾の簡潔な指示からティラノモンは即座にそれを行動に移す。二人の信頼が合ってこそなせる技である。

火炎放射がデビモンの後頭部へ直撃し、彼が僅かに体勢を崩した。 そこへ、

 

「行け! ガルルモン!」

 

ヤマトの命令と共にガルルモンがデビモンの後ろから、その足を目掛けて走る。

 

「フォックスファイヤー!」

 

 

青い炎を吐きながら突進し、そのままデビモンの足へと噛みついたのだ。ダメージは自体は皆無だが、足を取られたデビモンはバランスを保てず、地響きを立て、後ろ向けに転倒してしまう。

 

 

「今だ! みんな! 一斉攻撃だ!」

 

太一の言葉を合図に、ティラノモンを除くパートナー達

全員が、己の必殺を放つ。 だが、既に体力は限界を越えているのだろう。直撃はしたが、そこには何時もの力強さはない。

 

(やっぱり……効いてない。…どうすれば…)

 

攻撃を受けたデビモンは、憎々しげにそれを見ると、

 

「鬱陶しい奴等が! オーガモン! 殺れ!」

 

自身の身体の中にいるオーガモンへと命令を下す。

手下に子供達を任せ、自分は沙綾を仕留めるつもりなのだろう。その威圧的な赤い目が彼女を捉えていた。

 

 

(目………そうだ!)

 

 

沙綾は思う。幾ら身体が巨大化し、頑丈になろうとも、目の強度はそれほど変わらないはずだと。時間を稼ぐ上で相手の視界を奪うことは非常に効果的である。

今のデビモンは転倒しているため、目線の高さは沙綾がいる山道とほぼ同じ、長い両手は身体を支えるように地面へと着いている。この期を逃すわけにはいかない。

 

 

 

「ティラノモン! 目を狙って!」

 

 

沙綾の指示の元、ティラノモンは三度目の火炎を、デビモンの目を目掛けて放つ。だが、

 

「同じ手は喰わん!」

 

彼は沙綾のこの行動を予想していた。

昨日、これで視界を奪われた事を彼は忘れてはいなかったのだ。素早く頭を横にずらす事で、炎は彼の頭を掠める程度にとどまるのだった。

 

 

(ウソ……読まれてたの!?)

 

 

デビモンにダメージを与える手段が他に思い付かない以上、今の攻撃が避けられた事は非常に辛い。

他の子供達も、疲労のせいで7体がかりでもオーガモンに苦戦している。やられてしまうのも時間の問題だろう。

 

(このままじゃみんなが先にやられちゃう、)

 

彼等が一人やられるだけで未来が変わってしまう。

 

沙綾は焦りで顔を歪ませ、デビモンは勝利を確信して、口元をつり上げる。しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沙綾もデビモンも忘れていた。

この場にもう一匹のデジモンが居たことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デビモン、覚悟!」

 

先程沙綾達が居た山道から獅子王丸を握りしめたレオモンが飛び出す。

狙いは彼女と同じくデビモンの目、

 

 

「何!」

 

 

完全に不意を突かれたデビモンは反応が間に合わず、オーガモンは子供達の相手をしているため、出て来ることが出来ない。

無防備なその右目に、レオモンの剣が深々と突き立てられた。

 

 

 

「ぐうおぉぉ!」

 

 

突如走る激痛にデビモンが苦痛の声を上げてもがく。

レオモンは森の中へと振り落とされ、右目に刺さった剣をデビモンが引き抜いた時、彼の身体に異変が起きた。

 

「ぐぅ、私の暗黒の力が!」

 

 

デビモンの右目から黒い闇が噴水のように吹き上がる。

異変はそれだけではない。

 

「見ろ! デビモンの奴、縮んでいくぞ!」

 

太一が指を指し、他の子供達もそれを確認した。

恐らく、暗黒の力が体外に出たことで、デビモンの力が弱まり、それによって身体も小さくなったのだろう。

 

デビモンは慌て右目を押さえ、力の流出を防ごうとするが、既に身体はに先程の半分以下にまで落ち、大幅な弱体化を招いている事は、誰の目にも明らかである。

 

「おのれぇ! よくも!」

 

 

それ故に沙綾は考えてしまった。

もしかしたら、エンジェモンを待たずとも倒せるのではないか、レオモンと共闘すれば、何とかなるのではないかと。

 

その一瞬の気迷いが彼女の危機を招く…

 

デビモンはオーガモンを体内に戻して飛翔し、一番目立つ位置にいた沙綾とティラノモンに標準を合わせ、空いている左腕を伸ばしてきたのだ。

 

 

「デスクロウ!」

 

「マァマ! 危ない!」

 

「えっ!?」

 

悪魔の腕が沙綾に迫る。今度は彼女が不意をつかれ、反応がおくれてしまった。

動けず固まる沙綾の前に、盾となるべくティラノモンが彼女を抱え込み、背中でデビモンの攻撃を受けてしまい、

 

「うおぁぁぁぁ!」

「ティラノモン!」

 

直撃を受けた彼に、電流を流したような衝撃が走り、ティラノモンはその場へと倒れ付す。弱体化しようが、デビモンは彼女達の手に負える相手ではないのだ。

 

「しっかり!ねぇ!ティラノモン!」

 

「次はお前だ。小娘。 死ね!」

 

 

これで最後と、デビモンの手が彼女にふれる直前、

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな光が立ち上った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レオモンがデビモンの右目を潰した時、

タケルとパタモンは、全体が見渡せる位置に移動し、その様子を見守っていた。

 

「パタモン見て!デビモンがちっちゃくなってくよ!」

 

「ほんとだ!」

 

これで勝てると喜ぶタケルだが、パタモンの表情は優れない。

 

(なんで僕はここにいるんだろう。タケルを、みんなを守らなきゃいけないのに…)

 

先程の沙綾と同じような疑問をパタモンも感じていた。

彼女は、自分は強いと言ってくれたが、何も出来ずに此処で見てるだけの自分を、パタモンはそう思えなかったのだ。

 

そして、

 

タケルにとって一見優勢に見えたこの状況も、右目を押さえたデビモンが、もう片方の手で沙綾を庇うティラノモンを戦闘不能に追い込んだことで一変する。

 

自分達を助けてくれた沙綾の危機に、タケルの表情が変わった。

 

「パタモン!大変だよ!このままじゃ沙綾さんが殺されちゃう!」

 

「えっ!」

 

「僕達が助けなきゃ! 行こうパタモン!」

 

自身が此処にいる意味を考えていたパタモンは、タケルの言葉を聞いて我に返り、彼と共にその場から走り出す。

 

彼女はティラノモンに乗って下の山道に降りたが、彼等にはそんなことは出来ない。

パタモン一人でなら降りることは可能ではあるが、

 

デビモンの手が動く。

 

 

(なんで僕だけ進化できないの! 進化出来れば、みんなを助けられるのに!)

 

 

それは、本来の歴史と同じ想い。

 

 

「おねがいパタモン! 沙綾さんを助けて!」

 

 

そして、本来のの歴史にはないタケルの想い。

 

 

 

タケルの願いとパタモンの進化への渇望により、ついに彼のデジヴァイスが輝く。回りを照らすようなちいさな光は徐々に大きくなり、遂に

 

 

「次はお前だ。小娘。死ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな光が空に向け立ち上った。

 

「何! クッ …そうはさせん!」

 

デビモンは驚愕の表情を浮かべ、沙綾への攻撃を中断し、その光の中で今姿を変えようとしているパタモンに標的を変更する。が、既に遅い。

弱体化した彼では光の中に手を入れることは出来ず、逆に押し返されてしまう。

 

 

 

「パタモン進化ー!」

 

 

声高く叫ぶ。タケルを守るため、みんなを守るため、自分を強いと言ってくれた彼女を守るため、悪魔を倒すため、遂にパタモンはその姿を天使へと変えたのだ。

 

「エンジェモン!」

 

 

 

 

呆然と見つめるタケルの前に六枚の羽を羽ばたかせたながらエンジェモンは今舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エンジェモン登場です。

原作は改めて見ると結構駆け足なんですね。デビモン戦は大体10分くらいで終わってしまいます。


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