彩の軌跡   作:sumeragi

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不穏な空気

宝飾店を出たリィン達は、中央広場にある高級料理店《ソルシエラ》のテラスに居た貴族ハサン・ヴォルテールから依頼を請け、オーロックス峡谷を歩いていた。

ハサンからの依頼は、風呂に入れるための塩を調達してほしいというもの。

話しかけたときの態度はお世辞にも褒められたものではなかったが、最後尾に居たユーシスに気付くと、ゴルティ伯爵同様の反応を見せ、戦々恐々としていた。

この時の様子をフィーは痛快だと言い、否定する者は1人も居なかった。

 

峡谷道は古い道のようだがかなり補強がされており、車両も頻繁に通っているようだ。

ユーシス以外のメンバーは、自然の生み出す険しい道を想像していたため少し拍子抜けだった。

舗道を少し外れたところに、整備されていない道が続いており、その先には両手に禍々しい長い爪を持つ魔獣がいた。

体長は約3アージュ、体高は2アージュあるかないかくらいの大きさのそれは、手配書とも一致する。

 

 

「あれか・・・」

 

「て、手強そうですね・・・」

 

 

北クロイツェン街道、オーロックス峡谷道で今まで出会った魔獣とは比べ物にならない程の存在感。

多少は慣れたとはいえ、凶悪そうな魔獣――フェイトスピナーを前にし、エマの魔導杖を握る手に力が篭る。

 

 

「・・・おい、いい加減ARCUSの《戦術リンク》を成功させるぞ」

 

「フン、言われるまでもない」

 

 

バリアハートでの実習が始まって以降、派手な喧嘩はしなかったものの、リンクは組もうとしなかったマキアスとユーシス。

ここに来て、2人がやっと歩み寄り始めた。

 

 

「――悪いが、僕ら2人をアタッカーに回してもらうぞ」

 

「せいぜい大船に乗った気分でいるがいい」

 

 

表情は決して晴れやかではないものの、頼もしい台詞を口にする2人を見て、リィン達はほっとしたように頬を緩ませると、気を引き締めて再び魔獣へと向き直る。

 

 

「あの装甲だと物理攻撃は効きにくそうだね」

 

「ええ。長期戦覚悟で仕掛けるよりも、一気に倒した方が良さそうです」

 

 

フィーの言葉にティアが同意し、軽くではあるが作戦会議となった。

リィン達4人が攻めて隙を作り、後方からティアとエマがアーツで一気にダメージを与える。

シンプルだが1番確実な作戦だろう。

 

最初の一撃は命中率も高く単発火力も高いマキアスのショットガン。

連射は出来ないが、リロードの間にフィーが閃光手榴弾を投げ、フェイトスピナーを怯ませる。

視力を奪われ、暫くはまともに動けないだろうから、その隙に只管体力を削り、情報解析が終わり次第、ティアとエマが弱点属性のアーツを発動させる。

 

 

「よし・・・皆、一気に行くぞ!」

 

 

作戦の決まったリィン達は、手配魔獣フェイトスピナーを倒すべく行動を開始した。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「はあぁ――せいやっ!!」

 

 

弧影斬――リィンが抜刀し、斬撃を飛ばす。

斬撃波は真っすぐフェイトスピナーへ向かってゆくと、ひび割れ、ぼろぼろとなった装甲を砕き、止めを刺した。

ぐらりと傾き、大きな音を立ててフェイトスピナーは地に伏せた。

 

 

「はあ・・・はあ・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

特に怪我もなく討伐は完了した。

結果は上々、普通ならば喜んでしかるべきだが、2人――マキアスとユーシスだけは、戦闘中よりも険しい顔をして睨みあっていた。

 

 

「どういうつもりだ、ユーシス・アルバレア・・・!どうしてあんなタイミングで戦術リンクが途切れる・・・?」

 

「こちらの台詞だ・・・マキアス・レーグニッツ・・・!戦術リンクの断絶、明らかに貴様の側からだろうが」

 

 

2人の怒りが爆発し、互いに胸倉を掴みあう。

今回の作戦、唯一の誤算はマキアスとユーシスのリンクが途切れてしまったことだった。

更に、敵はそこら中にいるような雑魚ではなく、凶暴で気を抜くことは許されないような強さ。

そのような敵を相手にしている時に、戦略の要となるリンクが途切れたのだ。

2人の間の空気は最悪に近く、今にも殴りあいに発展しそうだった。

 

 

「一度協力すると言っておきながら、腹の底では平民を馬鹿にする・・・結局それが貴族の考え方なんだろう!」

 

「阿呆が・・・!その決め付けと視野の狭さこそが全ての原因だとなぜ気付かない・・・!」

 

 

止めようとリィン達が声をかけるが、君達には関係ないと一蹴され、2人が止まる気配がない。

いつもはマキアスが突っかかってもそれなりに余裕を見せているユーシスでさえ、熱くなっている。

だが、彼らが拳を振り上げるよりも早く、珍しく口調に怒気を混じらせたティアが口を挟んだ。

 

 

「関係ない訳ないでしょう・・・!貴方達だけでなく、リィン君達まで怪我するかもしれなかったんですよ!」

 

「っ・・・・・・」

 

 

突然の出来事にユーシスとマキアスが動揺していたことは、当人達以外の全員が気付いていた。

だからこそカバーに入れたし、敵に付け入る隙を与えずに済んだ。

そして、今回起きたリンクの断絶により、危険に曝されたのはユーシスとマキアスだけではない。

もしタイミングが悪く、彼らを少なからず頼りにしていたリィン達だって怪我は免れなかったかもしれない。

そのことを理解した2人は、胸倉を掴む腕の力を緩めてはいないが、唇をかみ締め、殴りかかることは抑えたようだ。

 

 

「此処はいつ他の魔獣が襲ってくるかも分かりませんし、続きは安全な場所で――」

 

「危ない!!」

 

 

リィンの焦った声が聞こえた直後、ティアの体が突き飛ばされる。

咄嗟にユーシスが支えた為倒れることはなかったが、首だけを動かして後ろを振り返ると、倒したはずのフェイトスピナーが起き上がっていて、リィンは右腕を押さえていた。

リィンがティア達を庇って襲われたのは誰の目にも明らかだった。

 

フェイトスピナーはすぐに装甲の薄い部分をフィーに接射され、今度こそ完全に息絶える。

エマが手当てをしようとリィンの上着を脱がせるのを、本来の魔獣のターゲットとなっていた3人が唖然と見つめていた。

 

 

「あの・・・ありがとうございました、ユーシス君」

 

「いや・・・」

 

「リ、リィンは大丈夫なのか?」

 

 

ユーシスに支えられたままだったティアが体を離し、膝をついているリィンに視線を合わせるようにしゃがむ。

 

 

「リィン君、ごめんなさい・・・私の方こそ、周りが見えてなくて・・・」

 

「大した傷じゃないし気にしないでくれ。それに、こういう時は謝るべきじゃないだろ?」

 

 

見る者が見たら赤面してしまいそうな笑みを浮かべ、リィンは答えた。

言葉の続きに心当たりの無い前回B班だった4人の視線がティアに向けられ、視線の先に居る当人は、何か思い至ったように声を漏らした。

 

 

「・・・ありがとう・・・・・・」

 

 

自分のせいで怪我をさせたという引け目から、満面のとはいかず眉は下がったままだが、ティアがリィンに笑みを向けると、リィンも満足そうな表情を浮かべた。

手当てをするエマの邪魔にならないようにティアが回復アーツを発動させ、傷口の回復を促進する。

手当てが終わる頃には、痛みはかなり和らいでいた。

 

 

「えっと、その・・・」

 

「・・・俺達の責任でもあるな」

 

 

リィンはティアだけではなく、マキアスとユーシスも庇っていた。

庇われた2人は揃って困った顔をして、リィンの顔と傷を交互に見つめている。

 

 

「本当に気にしなくて大丈夫だから。・・・とにかく、3人に怪我がなくて良かった」

 

「君は・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

安心したという感情がありありと見て取れるリィンに、マキアスとユーシスは何か言いたげな態度を取るが、すぐにリィンの体を気遣う話に移り、彼らの思いが明かされることはなかった。

しばらくは安静にした方が良いという満場一致の意見により、リィンは控えとなり、同時に無茶をさせないようにするための見張り役にエマが選ばれた。

 

 

オーロックス砦に向かおうと歩き出すと、エマとリィンが少し遅れて動き出す。

リィンの傷口に触れたエマが呪文のようなものを唱えたことに、気付いたものは居なかっただろう。

 




チェス得意だし、やっぱりマキアスが1番参峰とか軍師に向いてると思うんですけど・・・短気だったりリアクションだったりツンデレ担当な面が強くて目立ちませんね。

ゲームステータスで考えればマキアスってフィーよりも攻撃力低いのですが、私の感覚的にはショットガンの攻撃力ってかなり高いと思ってます。
崩し有効度とかアーツ、状態異常の有効率は攻略本と照らし合わせながら、ゲーム設定通りになるように気をつけていますが、こういったところではステータスを無視してしまっているところがあります。
と言っても今更ですが・・・。

そして、アーツの効果は体力回復とかにしちゃうと今後持て余しちゃいそうなので、回復促進にしました。
アリエスでひたすらダメージ与えてEP回復してまたアーツ~という戦法がメインになっていそうですが、ティアはこれでも回復特化です(笑)


着々と増えていくあとがきでの反省文\(^o^)/

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