それが日常   作:はなみつき

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私の呟きに対して5人もの方が声をあげてくださって、とても嬉しい。
続けます。
ギルドにずっと張られてる常設の薬草採取クエストみたいな感じで続けます。


学生服と転入と95話

「で、これは何のマネかな? はやて君」

 

 大雨の中、はやてにおんぶされて帰宅したところを先に帰って来ていたヴィータに爆笑されてプルプルしていたのも昨日の話。

 煽られてプルプルしていたおれではあるが、なんだかんだでそういう時間も悪くないと思っていた。

 

 ああ、家族って良いな、迷惑を掛けて掛けられ、それでいて最後には笑うんだ。

 良い関係じゃないか。

 

 そうやって思っている時が私にもありました。

 

「何って、ハムテル君の編入準備やん」

「何も聞いていないんだが?」

 

 そう言いながら、はやての手は止まることなくおれにどこかの小学校? の制服を手早く着せていく。体格差で押し切られたというのもあるが、どれだけ抵抗しても彼女の良すぎる手際によっていつの間にかズボンもベストも着せられてしまった。

 

「助けてリインさん」

「主のしたい様にさせるのが私の役目だ」

 

 おれは横で見ているリインさんに助けを求めるが、すげなく断られてしまう。

 役に立たんな、元相棒!

 

 あの……この年でこの丈の短い短パンは……キツイんですけど……。

 

「あれ? おっかしいなぁ? これは管理局と聖王教会からの正式なお仕事やで」

 

 嘘だろ? 

 

「管理局はいつでも人手不足。そこで、子供たちに管理局の仕事を知ってもらおうとアッピルしてもらおうと考えた訳や」

 

 それはわかる。

 聖王教会絡みという話を聞いて思い出したが、今おれが着ている制服はSt.ヒルデ魔法学院の物だ。前におれが保健室の先生として派遣された場所でもある。

 

「でも、大人が行って説明するんやとどうしても上からの話になってまう。そこで、同年代の管理局員で、しかも大人の視点から管理局の人手不足の深刻度合いをよう理解しとる人物が望ましいと考えられた訳や」

 

 それも分からんでもない。

 ゲイズ氏が地上本部のトップから降ろされて数年。後任の人も頑張っているようだが、ゲイズ氏程のカリスマも、残念ながら能力もない様子。地上所属の管理局員は今も辛い立場を強いられている。残業とか、オーバーワークとか、残業とか……

 地上本部としては一人でも多くミッドチルダの平和の番人を増やしたいのだ。それに、ヒルデはその名の通り魔法学院。授業カリキュラムに魔法も組み込まれている。つまり、魔法を使える学生が多くいる。管理局としては喉から手が出るほど欲しい人材だろう。

 

「そんで、子供たちにじっくりこってり管理局をアッピルしてもらうためにハムテル君には編入してもらう事になった」

 

 うん? それは分からない。

 

「どうしてそうなる」

「まあ、それはほれ? 聖王教会の方にもハムテル君にやってほしい事が色々とあるんや」

 

 ああ……。

 カリムさんとか、そういう所ぬかりなさそうだしね。

 

「それは分かった。いや、納得してないが。だけどよ、おれがヒルデに行きっぱなしになるとして、患者さんはどうするんだ?」

「重症、重体の患者さんは聖王教会本部かヒルデ学院の方に送ってもらう事になるわ」

 

 ヒルデに患者が輸送されるのは分かるが、教会本部? あっ、ふーん……。そっちでも色々やれってことっすね。

 

 そもそも、おれの身体はこんなことになっているが、登録している戸籍上は23歳である。そんな奴が普通の学校へ編入することが許可されるなんてあり得ない。

 そこで、管理局と癒着……失礼、べったり……うーん……懇ろの関係である聖王教会にお願いしたのだろう。

 聖王教会がおれを有効活用することを交換条件にな。

 

「そういう訳やから、安心してスクールライフを楽しんできてちょーだい」

 

 スクールライフって普通は高校生活とかじゃないんですかねぇ……? 

 

「はやても道連れにしたい」

 

 そうだ、はやてにもスカさん印の栄養ドリンクを飲ませたら身体が縮んでしまった!? ってなるんじゃね? 灰原枠でいいじゃん。

 あ、駄目だわ。実はあの栄養ドリンク自体に若返りの効果は無い。あれが持つ効果はおれの身体を騙すことが本質だ。説明書にそう書いてあった。

 つまり、あの栄養ドリンクはおれの能力を応用して効果を発揮させてるから栄養ドリンクだけだと駄目って訳。そうなると、おれがはやてに触れながらあの不思議な薬を摂取させる必要がある。

 飲ませるだけなら難易度もそこまで高くないと思ったんだが……。

 

 ヘッドロックしかけながら無理やり流し込むか? って、アカン。体格差がありすぎてそれも出来ない。

 なんてこったい。

 ……もう寝込みを襲うくらいしか……ヴィータかシグナムさんかザフィーラさんに阻止される未来しか見えない。シャマルさんは気付かずに寝てそうだな。

 

「ほーん、なら授業参観で母親役と姉役、どっちがええ?」

「ごめんなさい、勘弁してください」

 

 ちびっこ達に紛れて一緒に授業をするおれ。

 教室の後ろで保護者達に紛れて、おれを見ながらニヤニヤしているであろうはやて。

 うん、地獄かな? 

 

「まあまあ。何を言ったってもう編入手続きは終わっとるんや。すっぱり諦めや」

「まじかよ」

 

 いやまあ、すでに制服が用意されてる時点で全ての話は終わっていると予想は付いていたが、まじか。

 

「そういう事や……はい、完成」

 

 はやてはそう言うと、手鏡をおれに向けてくる。

 うわ、いつの間にネクタイも付けやがったんだ。全く気が付かなかったが。

 しかし……まあ、なんだ……。

 

「うーわっ……」

「よー似合ってるで? ブフッ」

 

 どこからどう見ても100%小学生。似合い過ぎて悲しくなる。

 

 後はやてよ、ケータイのカメラで連写するのはやめるんだ。ZOなんとかスーツを使った身体測定の時みたいに360°クルクル回りながらくまなく全身を撮るな! どこかにメールで送信しようとするなぁ!? 

 

「お、返信早いな。なのはちゃんもフェイトちゃんも『かわいい~』言うてるで?」

「男はね、格好良いって言って欲しい生き物なんだよ」

 

 そこの所頼むわ。

 

「その格好で渋みを出そうとしたって、背伸びしてるかわいい子にしか見えへんで」

 

 くぅ~ん……。

 

「ヴィヴィオちゃんも『おじさんと一緒に学校に行くの楽しみです!』言うてるで」

 

 おい! 一体どれだけの人間にメールを送ってやがる! 

 まあ、ヴィヴィオちゃんに関してはなのはさん経由か。

 

「はぁ……退屈しなさそうだ」

 

 よく考えたら大人やってたのに突然小学生に戻る経験は既にしている。2回目なんてもう何も怖くないどころか、怖い事なんて既にないのだ。こんな経験してるやつ中々居ないだろう。

 出来ればしたくなかった経験である。

 

「取り合えず、勉強しとくか」

「そうそう。ちゃんと学生やるんやで? 話によるとSt.ヒルデ魔法学院の授業内容は結構高等らしいから気ぃつけや?」

 

 小学生がやるような算数レベルとかなら何もしなくても行けるだろうが、中学レベル以上となると……あれ? 結構心配になってきた。

 前回は大学受験直後というのもあって割と余裕だったけど、今回は学校と言う環境から離れて早数年。数学はもちろん、当時得意だった理科系科目も大分怪しいぞ? しかも、歴史なんて特にヤバイ。何て言ったっておれのルーツは地球だ。ミッドチルダはもちろんベルカの歴史なんて全くわからん。

 

 おやおや? 結構どろこか滅茶苦茶心配になって来たぞ? 

 

 おれが授業や試験でダメダメな様子を子供たちに見せる。

 →子供たちが「なーんだ、管理局しょぼいじゃん」と言う感想を抱く。

  →管理局のイメージダウン。

   →おれの評価ダウン。

    →そして、クビへ……。

 

 まあ、おれにはレアスキルがあるから本当にクビにされることは無いだろうけど、そんな事態に陥ったら白い目で見られそうだ。

 

「うおおおおおおおおおおお、勉強せねばあああああああああ」

「うんうん、ハムテル君が職務に忠実で、上司としては嬉しいで」

 

 まさかまた勉強に追われる時が来るとは思わなかった。

 折角二度も逃げきったというのに……。

 

 

 はあ……。

 とりあえず、何とかしてはやてに触りながらスカドリ(スカさん印の栄養ドリンク)を飲ませる作戦を考えるとするか。ヴィータ辺りも巻き込めればなお良し。

 

 

 

 

 独りぼっちは、寂しいもんな……。

 

 

 

 

 おれが。

 

 

 




ひょっとこ仮面も、シャチさんも、なのはさんのお稲荷さんも、そしてオリーシュも……
そんな物語に惹かれて始めたという事を思い出した夏。

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