それが日常   作:はなみつき

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(´・ω・`)


覇王と睡眠と82話

 

 

 私は意識が浮上する感覚を覚える。

 この感覚はよく知っている。夜、疲れた体をふかふかのベッドに沈め、翌日の朝に目を覚ました時に感じるあの感覚だ。疲労感を全く感じなくなった身体から今日も一日頑張れる気がする。

 それよりも、私はいつの間に眠ってしまったのだろうか? 眠った時の状況をよく覚えていない。しかし、目の前が真っ暗なのは目蓋を閉じているからだろうし、体の調子が良いのはよく眠れたからだろう。眠っているのならば起きなければいけない。早く起きないと学校に遅刻してしまう。

 私は絶対に起きるという決意をし、未だに私を眠りへと誘っている心地よいまどろみを振り切る。

 

「あ、起きたんやな」

 

 目を覚まして最初に聞いた声は聞き慣れない声だった。聞き慣れない声ではあったが、その声の主を私は知っている。

 ハヤテ・ヤガミさん。

 彼女は管理局で働く局員さんだ。数年前にミッドで起こった事件もあって、彼女の名前は広く知られている。しかし、そんな有名人が何故私の部屋にいるのだろう? いや、よく考えてみたら私の体に伝わるベッドの感触がいつもと違う気がする。

 色々と不可思議な点がある。それを確かめるために私はぼやけた目を擦り、辺りの様子をよく見る。

 

「ほら、ハムテルくん。覇王ちゃん起きたで」

 

 八神さんが向いている方に目を向けると、一人の男性がいることが分かる。

 マサキ・サカウエさん。

 管理局で働く医務官なのにとても強いという噂がある人だ。

 そうだ、だんだんと思いだして来た。私はサカウエさんに勝負を挑んだんだ。そして、私は……負けた? うーん、よく覚えていない。でも、私がこうして眠っていたという事は私が負けたのだろう。

 

 ……

 

 ふー……

 これまでにあったことを思いだして、整理したら大分落ち着くことが出来た。

 ところで……

 

「おはよう」

「お、おはようございます?」

 

 なんでサカウエさんは椅子にバインドで縛りつけられているんでしょう?

 

 

 

 

「とりあえず覇王ちゃんはソファに寝かせてっと」

 

 そう言いながらはやてはさっき自分の事を覇王と名乗った少女をソファに寝かせる。おい、イングヴァルトちゃんのこと覇王って呼んでやるなよ。いずれ彼女の黒歴史となるかもしれないんだから。

 まあ、それは置いておいて、おれがイングヴァルトちゃんを倒した後、彼女をその場に残して置くのはマズいという事で、とりあえず家にお持ち帰りすることにした。

 言っておくが、彼女を運んだのはおれではなくはやてだ。イングヴァルトちゃんのアヘ顔を整えて、普通に眠っているとしか思えない状態にしていたとはいえ、おれが少女を背負っているという状態は色々と問題があるだろう。

 

「シグナム、ヴィータ、ハムテルくんを確保や」

「何!?」

 

 はやてがそう言ってからのシグナムさんとヴィータの動きは早かった。ヴィータが傍にあった椅子をおれの後ろに配置し、シグナムさんがおれを無理やり椅子に座らせる。椅子に座らせられたおれごとはやてがバインドを掛ける。これで椅子に縛り付けられたおれの完成である。

 

「ところで主、何故マサキを拘束するのですか?」

 

 すべてを終わらせてからはやてに疑問をぶつけるシグナムさん。

 おい、そう言うことは行動を起こす前に確認しておけよ。

 

「ハムテルくんがこの女の子をアヘ顔にさせたんや」

「ああ」

 

 ちょっ、何納得してるんですか! そこはもっと「そんな……マサキがそんな事する訳……」とか言って疑ってくれよ。全く、一体八神家のおれに対する認識はどうなってるんだ。いかん! ここはしっかりとおれの無実を主張しなければ。

 

『僕は悪くない!』

「何括弧付けてんねん」

「マサキがその台詞いうと「それでもボクはやっていない」に聞こえるな」

 

 ヴィータよ、それはおれが罰せられるべきという意味で言っているのか? それとも冤罪だということを信じているという意味で言っているのか? 判断が付かない所に何とも言えない微妙な印象を受ける。

 

「あ、起きたんやな」

 

 そんなことをグダグダとやっていると、ソファで眠っていたイングヴァルトちゃんがモゾモゾと動きだした。どうやら目が覚めたようだ。

 

「ほら、ハムテルくん。覇王ちゃん起きたで」

 

 む、むう。とりあえず彼女には謝らないといけないのだろうか? しかし、おれは普段行う医療行為よりもちょっと派手にやっただけだし……だが、手段はどうあれ、結果としてアヘ顔になってしまったのだからやはり男として謝らないといけないのだろうか。

 とりあえず、目を覚ました彼女にこの挨拶を送ることにしよう。

 

「おはよう」

「お、おはようございます?」

 

 うん、そりゃ目が覚めて椅子に縛り付けられた男が目に入ったら驚くのは仕方ないよね。

 

 

 

 

「と言う訳で、ストラトスちゃん。ごめんなさい!」

「そ、そんな! 顔を上げてください。私の方こそ、不躾なお願いをしてしまったのがいけなかったんです。申し訳ありませんでした」

 

 おれがストラトスちゃんと呼んだ人はさっきまでイングヴァルトちゃんと呼んでいた少女と同一人物だ。

 事のあらましを話し合っていくうえで、彼女が名乗っていたハイディ・E・S・イングヴァルトというのはリングネームと言う名の偽名であり、彼女の本名はアインハルト・ストラトスと言うことがわかった。

 なんか格好いい偽名、覇王と言う自称の称号。

 間違いない。彼女は中二病だ。それに加えてコンタクトによるオッドアイ……と、思ったのだが、彼女の虹彩異色症は生まれつきの物らしい。オッドアイの人を見るのはヴィヴィオちゃんに加えて二人目だ。そうそう見るものではないと思っていたが、居るところに居るものだ。

 これは関係ない話だが、彼女が最初に着けていたバイザー。あれ、なかなかイカスと思う。ああいうグッズに心踊らされると、まだまだおれの心も若いなと思える。え? なにはやて? 中二病乙? アーアーキコエナーイ。

 

「まあ色々あったけど、落ち着くまでゆっくりしてってや」

「はい。ありがとうございます」

「とりあえず紅茶いれるね」

 

 

 

 その後、みんなで紅茶を飲んでまったりしていたら、ストラトスちゃんが「はっ! もう家に帰らなきゃ」と言って帰って行った。その時はやてがおれを付き添いに着けることを提案したのだが、お断りされてしまった。確かにストラトスちゃんは格闘家にゲリラ試合を仕掛けて勝っちゃう位だからおれよりよっぽど頼りになるだろう。むしろおれの護衛がストラトスちゃんなんて言う事態になりかねない。

 なんだか前にもこんなことがあった気がする。

 

「ところで、ストラトスちゃんのゲリラ試合についての注意とかはしなくてよかったのか?」

 

 彼女の通り魔的ゲリラ試合に対して被害届はまだ出ていないらしいが、公道で試合をするのは余り褒められたことではないだろう。常識的に考えて。

 その辺のことをおれははやてに質問してみた。

 

「……テヘペロ」

 

 ああ、忘れてたんですね。わかります。




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