それが日常   作:はなみつき

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百合とコミケと48話

「ハムテルくーん、ちょっち頼みたいことがあるんやけど」

 

 ある休日の朝、海鳴の八神家リビングにて。はやてにしては珍しくおれに頼み事をしてきたのだ。あの全部自分で物事を片付けてしまおうとするはやてが! おれに! 頼み事! こうやって頼られるというのは家族として素直にうれしいものだ。

 

「なんだ? おれにできることなら何でもするぞ!」

「ん? 今何でもするって言ったやんな?」

 

 えっ……なんでそんな「言質は取ったぞ!」みたいな言われ方されるんだ。なんか急に不安になてきたんだが。

 

「ほんなら、このバツをつけたところにベタをベタっとしてほしいんでベタ」

「ベタがゲシュタルト崩壊してきた。ていうかベタだって? なんだはやては漫画を描いていたのか」

 

 長年一緒に暮らしていたがはやてが漫画を描いているとは知らなかった。絵を描くのは壊滅的にだめなおれでもベタを塗るくらいなら気を付けてやればできるだろう。

 

「よし、任せとけ。で、どれをベタベタすればいいんだ?」

「ほい」

 

 はやてからおれがベタを塗る原稿を受け取る。それにしても、はやては一体どんな漫画を描いているのだろうか? もらった原稿に視線を落とす。そこにあったのは金髪ツインテールの女の子と栗色ロングの女の子がくんずほぐれつしながら、あんなところをペロペロしたり、こんなところをモミモミしているところのページのようだ。さらにはやての画力は驚くべきもので肌の質感、人物の構図、背景にもこだわっているようだ。特に力を入れて描いたのであろう。おぱーいへのとてつもない執念を感じる。

 

「ぶはっ! は、はやて! 何……これ……」

「何って同人誌やん。ハムテルくんこういうの好きやろ?」

 

 ええ、好きですよ。大好物ですよ。だが、問題はそこじゃない!

 

「次の夏コミで発表するんや。今年ようやく受かったんや」

「でも、こういうの売るのは少なくとも18歳以上じゃないといけないんじゃないか?」

「ふっふっふー。それは大丈夫や」

 

 はやてが自信ありげに言う。代理人にでも売ってもらうのだろうか?

 

「テクマク マヤコン テクマク マヤコン 大人になーれー……」

 

 はやて一体歳いくつだよ。

 

 光に包まれたはやてが光の中から出てくると、そこにいたのは今より少し成長したはやてだった。今から大体5年後くらいの姿だろうか。

 

「どや。大人のはやてさんは美しいやろ?」

「お、そうだな」

 

 それにしても、大人のはやてはこんな感じなのか。体のあちこちが成長してとても美人さんである。街中ですれ違ったら振り返ることは確実だな。声を掛ける勇気はないから声は掛けないが。

 

「ちぇー、なんやねんその反応。つまらへんなー」

「わー、はやてさんちょー綺麗だわー」

「もうええわ」

 

 折角お望みの反応をしたというのに、そこは棒読みで喜ぶところだろ。流石にそんな言い方されたらちょっと「うっ」ってなるわ。

 

「あ、そういえばヴォルケンズはどうした。あいつらにも手伝わせよう」

 

 恥ずかしがりながら作業をするシグナムさん、シャマルさんの様子が目に浮かぶぜ。くっくっく。

 

「今日はシャマル以外出かけとるんよ。ほんで、シャマルはほれ」

 

 はやてがリビングの隣にある部屋を指さす。そこは和室で普段は使わないが、和室で和食を食べたくなった時に使う部屋だ。その部屋にある机に向かってシャマルさんが座って作業をしている。

 

「何だ、見ないと思ったらシャマルさんそっちの部屋に居たのか……シャマルさん?」

 

 おれが話しかけてもシャマルさんは反応しない。いつもなら返してくれるのだが。それだけ作業に没頭しているのだろう。

 

目標(局部)をセンターに入れてスイッチ(修正)……目標(局部)をセンターに入れてスイッチ(修正)……」

「ひっ」

 

 つい声が引き攣ってしまう。作業に集中していたというのは間違っていなかったが、集中しすぎてうわ言を言いながら局部修正している。違う、おれが見たかったのはレイプ目で局部を修正しているシャマルさんじゃなくてはやての漫画の内容に頬を赤く染めて恥ずかしがりながらも作業をするシャマルさんなんだ!

 

「はやて、これは一体」

「ん? ああ、シャマルか。シャマルには3日前から手伝ってもろとるからコツを掴んだんやろな」

 

 コツを掴んだ? おれの知ってるコツはこんなのじゃないぞ。ていうか、シャマルさん以外のヴォルケンズはこれが嫌で出かけたんじゃないだろうか。こんなものを見てしまってはそう思わざるを得ない。

 

「まあ、それは気にせんと、ハムテルくんも頼むで! 締め切りは近いんや」

「あ、はい」

 

 そして、おれははやての作業を手伝うべくバツ印がある部分をベタベタする作業に没頭するのであった。

 

 

 

「ところではやて、この同人誌のモデルって……」

「(ニヤリ」

 

 で、ですよねー。髪の色と髪型が逆だし、顔もデフォルメされているため本人と似ているというわけではないが、この二人ってどう見てもなのはさんとフェイトさんだよな。

 

 こうしてはやての初作品『親友の秘め事』が完成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やって来ました、決戦場有明!」

 

 同人誌も完成し、今日はとうとう販売する日であるコミックマーケット当日である。はやては自分の作品に自信があるらしく、初参加だというのに100部も刷ってきたのだ。初参加では20~30部くらいしか売れないというのに。お金は管理局でたくさん稼いでるから在庫が余りまくって破産する、なんてことにはならないだろうが、たくさん売れ残ってしょんぼりするがよい。

 

「それにしても、初参加のコミケが買う側ではなく売る側になるとは思っていなかった」

「なんやハムテルくんはコミケ初めてなん? ほんなら暇な時間は他の所見に行ってもええで。売り子さんはたくさんおることやしな」

 

 ここにいるのはおれとはやてだけではなくヴォルケンズとリイン姉妹も来ている。ただし、女性人は全員バリアジャケット装備だ。ここはコミックマーケット会場東京ビッグサイト。魔法少女なんてものはちょっと見渡せばどこにでもいるすごい場所なので、はやて達は魔法少女のコスプレをしているということになっている。 

 

「なんならハムテルくんの好きなエロ同人を仕入れてきてもええで」

「流石に15歳には売ってくれないだろ」

 

 ちょっと老け顔なら何の問題も無く物を手渡してくれるだろうが、残念ながらおれは年相応の顔なのでどっからどう見ても中坊である。

 

「アインスとユニゾンして私がつこうとるテクマクマヤコン使えばええやん?」

 

 冗談だろ? そんなことしたらおれの趣味が視覚共有してるリインさんに筒抜けじゃないか。そして、その情報ははやてにも筒抜けなんだろ。そんなことしてたまるか。何故かリインさんとユニゾンしたとき目関係のことはオンオフできないんだよな。リインさんの特徴がそこだけは出てくるし。

 

「いえ、遠慮しときます」

「そうなん? ほんならお使いたのむわ」

 

 手渡された紙にはサークルの名前とサークルが展開している場所が記されている。この中のいくつかはおれも知っている有名サークルだ。全部おぱーいの描き方が上手いことで有名なサークルだ。

 

「どうせ「おれの趣味がー」とか思うとるんやろ? お使いのお礼にその同人誌は後で貸したるわ」

 

 まじで!! あ、んんっ! はやての頼み事なら仕方ないな。うん、仕方ない。やってやろう、そのお使い!

 

 おれたちの3日間はこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 コミックマーケット83にて、突如彗星のごとく現れた新興サークル『八人の神様』。魔法少女の格好をした美しい女性たち(一人はマッチョイケメン)が売り子をしているということで有名になり、そのサークルで販売していた同人誌はあっという間に完売。しかし、このサークルのすごいところは売り子さんだけではない。この同人誌こそが即完売した本当の理由である。『八人の神様』初の作品にして圧倒的な完成度を見せたユリ本はSNSを通じて拡散され、さらに完売を促す結果になった。現在初版は万単位で取引されているとかなんとか。

 

「で、はやては今度は何をしているんだ」

「決まっとるやん、次は冬コミやで。次の作品の題名は『騎士の秘め事』で決定やな。今度は500部完売やー!」

 

 こぶしを握り、決意をするはやて。今度の作品はヴォルケンズに手伝いは頼めないな。

 

 

 

 サークル『八人の神様』の秘め事シリーズが人気を博し、はやてがそれでちょっとした財をなしたのはこれからちょっと先の話。 

 

 




[速報]なのは完売! なのは完売!

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