銀河英雄伝説 エル・ファシルの逃亡者(旧版)   作:甘蜜柑

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第百二十二話:二転三転急転 宇宙暦797年4月17~18日 ハイネセンポリス市街臨時指揮所~統合作戦本部ビル~第一一艦隊駐屯地

 静まり返った夜の闇を銃声が切り裂いたのは、四月一七日午前二時五〇分のことだった。臨時指揮所の中は瞬く間に緊張でみなぎった。寝袋にくるまって仮眠していた者も慌てて飛び起きる。ひりひりするような空気。ついに始まったのだ。

 

「何があった!?確認を急げ!」

 

 皆が忙しく走り回る中、俺は全ての部隊に報告を求めた。一分もしないうちに第二義勇師団参謀長シェリル・コレット少佐が俺の疑問に答えてくれた。

 

「敵の装甲車部隊がバリケードに突入してきました!」

「数は!?」

「およそ五〇台です!」

「全面攻勢の先駆けにしては、五〇台は少なすぎる。陽動に違いない。貴官もエル・ファシルで経験したはずだ。冷静に対処せよ」

「かしこまりました!」

 

 コレット少佐がスクリーンから消えると、苦い気持ちが広がった。義勇兵部隊がどれほど冷静に対処できるかは疑問である。時間が時間だけに集中力も落ちている。それを見越して、敵は陽動を仕掛けてきたのであろう。実質的な戦闘指揮官であるコレット少佐の乏しい経験も懸念材料であった。

 

「全部隊、厳戒態勢に入れ!最優先警備目標を厳重に固めろ!奇襲部隊や工作員に注意せよ!」

 

 市民軍の全部隊に通信を入れて、守りを固めるように指示した。こちらが陽動に惑わされて態勢を崩せば、敵に乗じられる。

 

 メインスクリーンに映し出された第二義勇師団の状況は最悪だった。装甲車はバリケードに向けて、まっしぐらに突き進んだ。勇敢あるいは無謀な義勇兵が行く手に立ち塞がり、身を挺して食い止めようとする。装甲車はまったくスピードを緩めず、何人もの義勇兵が紙くずのように吹き飛ばされた。

 

 徹底して流血を回避しようという俺の目論見は脆くも崩れ去った。取り返しのつかない事態に血の気が引いていく。

 

「なんてことだ……」

「すぐに増援を送りましょう。装甲車を食い止めなければなりません」

 

 絶句した俺に参謀長チュン・ウー・チェン准将がすかさずフォローを入れる。

 

「そうだった。せめて、被害の拡大は阻止しなきゃね。動かしても支障ない予備戦力は?」

「第三市民空挺連隊がよろしいかと」

「装甲車五〇台に一個空挺連隊は大袈裟すぎないか?」

「後続に備える必要もあります」

「わかった。参謀長の言う通り、第三市民空挺連隊を送ろう」

 

 チュン准将の進言を受け入れて、第三市民空挺連隊を第二義勇師団の救援に向かわせた。それから、メインスクリーンに視線を戻して戦況を眺める。

 

 突進してくる装甲車目がけて焼夷手榴弾を投げつける義勇兵。強引にバリケードと装甲車の間に割り込むバス。荷台に義勇兵を満載して戦場を走り回りながら、焼夷手榴弾をばら撒くトラック。無人運転で装甲車の車列に突入していく乗用車。数台の装甲車が動きを止めると、バリケードの上から飛び降りた義勇兵が突入していく。

 

「やるなあ」

 

 第二義勇師団の果敢な戦いぶりに、思わず唸ってしまった。

 

「閣下がエル・ファシル義勇旅団を率いて戦われた時もこんな感じだったのですか?」

 

 アルマの不要な突っ込みに少しイラッとした俺は、聞いてないふりをした。彼女はエル・ファシル義勇旅団が活躍したと本気で信じ込んでいる。だが、実際はアルマの方がはるかに活躍した。本人にその気がなくても、嫌味を言われた気分になってしまう。

 

「指揮官が良いのでしょうね」

 

 チュン准将は胸元からパン粉を払いながら、スクリーンに視線を向ける。義勇兵の先頭に立って突進し、装甲車の上に飛び乗るコレット少佐が映っていた。引き締まった長身の彼女が勇戦している様子は、とても絵になっていた。

 

「頑張ってるね。でも、ちょっと前に出過ぎじゃないか?」

「戦い慣れていない義勇兵の士気を保つには、身を挺してみせるのが最善。閣下もボーナム総合防災公園でそう判断なさったのではありませんか?」

「いや、あれは……」

 

 逃げるのが怖かっただけだ、と言いかけてやめた。こればかりは気心の知れた参謀長とも決して共有できない感情だ。前の人生でエル・ファシルから逃亡した後に味わった恐怖の記憶が、逃げることを許さないのだ。

 

 エル・ファシルといえば、コレット少佐は市民を見捨てて逃げたアーサー・リンチ少将の娘である。父の汚名がどれほど大きな苦労を彼女にもたらしたかは、想像に難くない。士官学校では虐待と言っていいような仕打ちを受け、外見が変わり果ててしまうほどのストレスに苦しんだ。俺の部下になってからもたびたび嫌がらせを受けた。それなのに軍を辞めようとしなかった。彼女は俺と同じだ。逃げる恐怖を知っている。

 

「そうだね、これが正しい。さすがはコレット少佐だ。戦いというものを良く知っている」

 

 チュン准将には決して理解できないであろう共感を込めて、コレット少佐の選択を肯定した。

 

 第二義勇師団は重装備を持っていない素人の集団であるにも関わらず、装甲車部隊相手によく戦った。義勇兵の攻撃にたまりかねて逃げ出す装甲車、包囲されて降伏する装甲車も現れた。だが、その勇戦は敵に焦りを生じさせたようだ。数十人の義勇兵に取り囲まれて立ち往生した装甲車のビーム砲から、光条がほとばしった。数人が撃ち倒され、他の者が逃げ散っていく。自由になった装甲車は、ビーム砲を乱射しながらバリケードに突進していった。

 

「第二義勇師団より報告!装甲車に跳ね飛ばされた義勇兵二名の死亡が確認されました!」

 

 オペレーターの報告は、俺を奈落の底に突き落とした。ついに市民軍から死者が出た。血を流さずに勝つという目標は達成できなかった。俺達が勝っても負けても、同胞殺しの事実がこの国に深い亀裂を残す。最悪としか言いようがなかった。

 

「第二義勇師団より追加報告!銃撃を受けた義勇兵一名が死亡」

 

 最初の死者が出てから一分もしないうちに三人目の死者が出た。これからどれほど死者が増えていくのか、想像もつかない。

 

「第一〇三歩兵師団より報告!敵陸戦部隊が前進を開始しました!兵力は五個中隊前後!」

「第三七機甲師団は戦闘状態に突入!」

「第一〇四戦隊第一臨時陸戦旅団の防衛線に、敵の三個戦車中隊が侵入してきました!」

「第六義勇師団です!敵が銃撃を始めました!」

 

 落ち込んだ俺に追い打ちをかけるかのように、敵の攻撃を伝える報告が連続した。報告が終わると、また別の攻撃が報告される。まるでオペレーターの声帯を休ませまいと頑張るかのように、敵は攻撃を仕掛けてきた。

 

「午前三時二三分現在、敵は三三箇所で攻勢に出ています。すべて大隊規模から中隊規模の限定的な攻勢です」

 

 副官のハラボフ大尉はオペレーターの報告を簡潔にまとめた。ひっきりなしに入ってくる報告をすべて把握するなど、手と耳が四つあると言われる彼女ならではの仕事といえよう。

 

「第二巡視艦隊より報告!巡視艦隊の通信大隊本部近くで敵工作員が拘束されました!」

「第四五歩兵師団より報告!武器弾薬集積所に不審者が侵入!警備部隊と銃撃戦を展開中!」

 

 同時多発攻撃の次は工作員だ。チュン准将が予想したとおり、敵は指揮通信系統や補給系統を直接叩きに来た。

 

「首都防衛軍臨時司令部より報告!三個陸兵師団がボーナム市に進軍中!」

「敵の野戦砲兵部隊が第一首都防衛軍団司令部に向けて砲撃を開始!」

「第一一艦隊の臨時陸戦隊一〇個旅団が第六五戦隊司令部を包囲しました!」

 

 今度は市民軍の有力部隊の拠点が攻撃を受けたという報告が続く。打てる手はすべて打つと言わんばかりだ。これだけ短時間で手数を繰り出されると、俺の頭脳の処理能力では速度についていけない。

 

「参謀長、貴官はどう考える?」

 

 俺は傍らの参謀長を頼ることにした。困った時は参謀の知恵を借りる。これが司令官というものだ。

 

「防衛戦への攻撃はいずれも小規模。戦力も分散したまま。これは陽動です」

「なるほど、陽動か。惑わされてはいけないな」

 

 のんびりしたチュン准将の声は、心を落ち着かせてくれる。陽動というのはわかりきっていることではあるが、それを参謀に確認してもらうことに意味がある。司令官の思考の整理は、参謀の大事な仕事なのだ。

 

「拠点が陥落する可能性も高くはありません。我が軍の大部分はハイネセンポリスの郊外、もしくは市外におり、容易に救援できます。動揺を誘うための攻撃でしょう」

「外部の部隊に連絡して救援に行かせれば、心配はいらないな」

「一番の脅威は工作員です。指揮通信系統、補給系統がやられたら、組織的な戦闘ができなくなってしまいます。対策法は既に各部隊に指導済み、重要拠点は警備経験豊富な空挺や陸兵で固めてました。後は現場に任せましょう」

「警備体制を作るまでが俺達の仕事。できるだけのことはやった」

「防衛戦と拠点への攻撃は、注意を引きつけるための陽動。破壊工作は組織的な動きを阻害するのが目的。本命はやはり第一特殊作戦群でしょう。特殊部隊は奇襲作戦で最も力を発揮します。一般部隊を派手に動かして注意を引きつけ、工作員を使って我らの部隊を動けなくして、本隊を孤立させてから第一特殊作戦群で素早く制圧する。オーソドックスな作戦ですが、それだけに防ぐのは困難。現場の動揺を防げるかどうかが鍵です」

「対応はテロリストとの戦いと同じだね。陽動に惑わされず、本命を冷静に待ち受ける」

「ボーナム総合防災公園の攻防以降、将兵の離反を恐れた敵は、閣下との直接対決を避けてきました。つまり、敵はリスクを冒してでも直接対決に踏み切るところまで追い込まれたのです。恐らくはこれが最後の戦いとなるでしょう」

 

 チュン准将が敵の動きを整理してくれたおかげで、進むべき道が見えてきた。味方の士気を維持し、各部隊との連携を保ち、第一特殊作戦群の攻撃を凌ぎきること。

 

 義勇兵や市民が多く混じっている市民軍は動揺しやすい。基本的に有志連合である市民軍は、もともと首都防衛軍に属している部隊を除くと相互連携体制が弱い。あのローゼンリッターに匹敵する第八強襲空挺連隊を含む特殊部隊三個連隊からなる第一特殊作戦群は、市街戦では無類の強さを誇る。考えれば考えるほど、不安材料ばかりが残る。

 

 この一戦に同盟の未来がかかっている。三日前のボーナム総合防災公園に続き、再び俺は歴史の分岐点に立った。緊張で心臓が飛び出しそうになる。腹が痛くなり、手の平に汗がにじむ。だが、司令官が緊張すれば部下は動揺してしまう。

 

 強く拳を握りしめて気合を入れると、まっすぐに通信機の前に向かった。通信員に全軍放送の用意をさせて、マイクを握る。一呼吸してから、ゆっくりと口を開いた。

 

「市民軍の旗の下に集ったすべての皆さん。ついに敵の全面攻勢が始まりました。これは皆さんの勝利を意味しています。なぜならば、敵はもはや暴力でねじ伏せる以外の道を失ったからです。敵は二〇〇万の軍隊で脅迫すれば、同盟市民一三〇億は怯えて服従すると思い込んでいました。しかし、皆さんは脅迫に屈することなく、民主主義の正義を示しました。同盟市民は軍事独裁を決して受け入れないということが明らかになったのです」

 

 市民軍には戦いの素人が多い。ちょっとしたことがきっかけで不安に流される。正義を示して、自信を持たせることが必要だった。トリューニヒトも「凡人には誇りが必要だ。誇りがあれば、努力しなくても強くなれる」と言っていた。

 

「敵の攻撃は一見すると苛烈に見えます。しかし、ろうそくの炎は消える直前に燃え上がるといいます。命運が尽きかけているからこそ、敵は今の攻撃にすべてを賭けざるを得ないのです。数時間耐えれば、戦いは終わります。敵はすべてを失い、軍国主義は敗北します。民主主義が復活し、世界は再び自由の光に満たされます。今こそ、勇気が試される時です。これからの数時間は、同盟市民にとって最も英雄的な数時間となると私は信じています。惑わされてはいけません。恐れてはいけません。胸を張りましょう。前を向いて笑いましょう。共に闘い抜きましょう。皆さんの力を今しばらくお貸しください」

 

 ひたすら前向きな言葉を紡ぎだし、最後に頭を深々と下げた。単純な俺は自分の言葉にも気分を動かされてしまう。気持ちが上向いたところでマフィンを立て続けに三個食べて糖分を補給。心を引き締めた。

 

 

 

 市民軍は驚くほど勇敢に戦った。正規軍はもちろん、義勇兵や市民もパニックを起こさずに力を尽くした。メインスクリーンには、国歌を歌いながら迫り来る戦車に立ち向かう義勇兵、土のうを運んでバリケードを補強する市民、バリケードの上で「家族に銃を向けてはならない」と書かれた横断幕を掲げる市民などが映る。

 

 英雄的な行為も多く見られた。無反動砲を巧みに操って一人で二〇台近い戦車を破壊した陸戦隊員、敵車両に繰り返し肉薄して焼夷手榴弾を投げつけた予備役軍人、銃撃に倒れた味方を担いで敵前を走り抜けた若い義勇兵、敵の小隊長と談判して味方に引き入れてしまった中年の義勇兵といった無名の英雄の活躍が次々と報告されて市民軍を勇気づけた。

 

 俺の知っている者も活躍を見せた。首都圏義勇軍に出向して兵站司令官となったメッサースミス少佐は、補給系統を襲撃してきた装甲車部隊と激闘を展開した。ラプシン予備役少佐は退役軍人や元警官からなる憂国騎士団行動部隊を率いて、戦車の砲撃で崩されたバリケードを死守した。軍を退いた第三六戦隊の生き残りの何人かは義勇兵として奮戦し、第三六戦隊の名を知らしめた。

 

 情報部の工作員が拘束されたという報告も各所から入った。大半は警備部隊によって拘束されたが、義勇軍や市民に発見された工作員もいた。

 

 ハイネセンポリス内部の情報提供者から寄せられた情報も市民軍にとっては希望の持てるものだった。市街に展開する敵部隊の中に、出動を拒否する者が現れた。いくつかの部隊では、出動を受け入れた指揮官に対して将兵の一部が反乱した。第六二戦隊の反乱者は、戦隊司令部を占拠したという。三日前の時点で綻びが見えていた敵将兵の戦意は、ついに限界に達したように思われた。

 

 市民軍は優位にある。臨時指揮所にいる誰もがそう思っていた時、情報提供者から、「第八強襲空挺連隊の駐屯地から三〇機ほどの輸送ヘリが飛び立った」という情報が送られてきた。輸送ヘリ三〇機の輸送力をもってすれば、第八強襲空挺連隊の全兵員を空輸できる。温存されてきた第一特殊作戦群がついに動き出した。臨時指揮所は一瞬にして緊迫した空気に包まれる。

 

 俺は部隊運用担当のニールセン中佐に命じて、予備にとっておいた二個市民空挺旅団と一個陸戦旅団を臨時指揮所の周囲に集めさせた。また、参謀長のチュン准将に近隣の部隊を援軍に呼ぶ手筈を整えさせた。空挺や陸兵は精鋭だが、三個旅団で第一特殊作戦群を相手に市街戦をするのは不安だ。それでも、援軍が来るまではこの戦力で耐えなければならない。

 

 第一特殊作戦群を迎え撃つ覚悟を決めたものの、内心は不安でいっぱいだった。戦いにおいて最も勇気が試されるのは、敵を待つ時だとクリスチアン大佐が言っていた。戦いが始まれば、目の前の相手に集中すれば良いからだ。そういえば、クリスチアン大佐はどうなったのだろうか。全然情報が入ってこなくて不安になる。

 

 臆病な俺は敵が早く仕掛けてくれることを心の中で祈り続けた。しかし、俺の願いに反して、なかなか第一特殊作戦群はやって来なかった。

 

「俺達が緊張に耐え切れなくなったのを見計らって、仕掛けてくるつもりなんだろうか」

 

 そんな疑念が湧いてくる。特殊部隊ならば、その程度の芸当はお手のものだろう。しかし、日が昇っても第一特殊作戦群は来なかった。そうこうしてるうちに敵の攻勢は止み、市外の拠点からは「敵が退き始めた」という報告が相次いだ。工作員もことごとく拘束されて、敵の工作は空振りに終わった。

 

 臨時指揮所にいる者すべてが不審に思いながらも警戒を続けた。気が緩んだところを襲撃してくることも有り得る。俺とチュン准将が参戦した第三次ティアマト会戦では、敵将のラインハルトは司令官のドーソン中将が疲れきったのを見計らって後退し、緊張が解けたところで奇襲をかけてきたのだ。敵が残っている限り、油断するわけにはいかなかった。

 

 春の朝日に照らされながら、不気味な沈黙を保つ敵に備えて神経をすり減らす。そんな時間が過ぎていく。徹夜明けの俺達には、朝の日差しもかなりこたえる。コーヒーをがぶ飲みして眠気を抑えていた俺に、副官のハラボフ大尉が徹夜の疲れをまったく感じさせない足取りで近づいてきた。

 

「閣下、第八強襲空挺連隊より通信が入っております」

「第八強襲空挺連隊?」

 

 なぜ第一特殊作戦群配下の部隊から通信が入ってくるのだろうか?不審に思いつつも出てみることにした。

 

「小官は第八強襲空挺連隊連隊長代行ハシム・ジャワフ中佐です。辞任した前連隊長ペリサコス大佐に代わり、指揮官を務めております」

 

 スクリーンに現れたのは、ジャワフ中佐と名乗る壮年の黒人男性だった。第八強襲空挺連隊に所属するアルマにスクリーンを見せて身元を確かめさせると、「この方は間違いなく第八強襲空挺連隊の副連隊長ジャワフ中佐です」との答えが返ってきた。

 

 昨日の時点では、ペリサコス大佐はまだ連隊長の職にあったはずだ。胡散臭いものを感じつつもジャワフ中佐と会話を続けることにした。

 

「用件を聞かせてもらいたい」

「第八強襲空挺連隊はこれより第一特殊作戦群を離脱し、首都防衛軍司令官代理フィリップス少将の指揮に従います」

 

 ローゼンリッターに匹敵する最精鋭部隊が寝返る。とてつもない成果だが、こうもあっさり味方すると言われると、なんか拍子抜けしてしまう。

 

「理由を聞かせてもらえるかな?」

「我が連隊は国家を守る最後の盾。同胞を攻撃せよなどという命令は聞けません。第一特殊作戦群司令部を最後まで説得しましたが、聞き入れられなかったため、単独で離脱いたしました」

 

 ようやく事情が飲み込めた。どうやら、第八強襲空挺連隊は出動命令を拒否したらしい。第一特殊作戦群が動けなかったのも第八強襲空挺連隊の出動拒否が原因であろう。ペリサコス大佐の辞任というのもそれに絡んでいるのだろうか。

 

「なるほど。第一特殊作戦群が動けなかった理由がようやくわかった」

「他の二個連隊も出動には消極的でした。間もなく第一特殊作戦群を離脱するでしょう」

「最強の第八強襲空挺連隊が味方になってくれたら、これ以上に心強いことはない。心から歓迎する」

 

 緊張が解けて、意識せずとも笑顔になった。隣にいるアルマも原隊との敵対状態が終わったことに安心したのか、笑顔を見せた。

 

 第八強襲空挺連隊の帰順から間もなく二個連隊も帰順を申し入れてきた。救国統一戦線評議会が切り札として温存してきた第一特殊作戦群は戦わずして崩壊した。それと時を同じくして、第一市民艦隊を名乗る部隊からの通信が入ってきた。

 

「第一市民艦隊のハムディ・アシュール少佐であります。我ら第一市民艦隊は市民軍を支持いたします」

 

 精悍な顔に美しい口髭を生やしたアシュール少佐は、聞き慣れない部隊名を名乗った。

 

「第一市民艦隊?」

「昨日までは第一二艦隊の第六二戦隊でしたが、市民艦隊になりました」

 

 第六二戦隊と言えば、市民軍への参加を拒否して救国統一戦線評議会に味方した部隊。反乱者に戦隊司令部を制圧されたと聞いていたが、アシュール少佐がその指導者であろうか。なかなか貫禄のある面構えをしていて、指導者にふさわしい雰囲気がある。

 

「貴官が第一市民艦隊の指揮官かな?」

「共同代表です。小官は政治面、もう一名は軍事面を担当しております」

 

 軍隊に共同代表というのも妙な話だ。市民艦隊ならば、それもありということなんだろうか。俺には良くわからない。

 

「もう一名の代表も紹介してもらえるかな」

「現在は反動分子掃討に出ております。閣下も良くご存知の方ですので、改めて紹介するまでもないとは思いますが」

「誰だろう?」

 

 共同代表をしている人物は、初対面のアシュール少佐にまで「紹介するまでもない」と言われるほどに俺と親しいようだ。戦隊司令部を制圧するような反乱部隊の軍事指揮官なら、能力もかなり高いはずだ。しかし、第六二戦隊にはそんな知り合いはいなかった。

 

「閣下の腹心のカプラン少佐であります」

「は?」

 

 今の俺はとても間の抜けた顔をしていたに違いない。カプラン少佐というのは、俺の知る限りで最も能力に欠ける軍人の一人だ。あまりの無能にうんざりして、「指揮官に向いている。艦長を任せるべき」と言って司令部から追い出した人物が俺の腹心であるはずもない。第六二戦隊にいるというのも初めて知った。

 

「そのカプラン少佐とは、エリオット・カプラン少佐のことかな?」

「ええ、第三六戦隊で閣下を補佐したエリオット・カプラン少佐です」

 

 何がどう伝われば補佐したことになるのかは知らないが、あのカプラン少佐が第六二戦隊を乗っ取った反乱者の指揮官なのは事実のようだ。あれほど仕事嫌いな男が反乱を指揮するなんて、まったく想像ができなかった。

 

「ご苦労だった。第一市民艦隊には後で追って指示を出す。これからも市民のために働いてもらいたい」

 

 次に通信する時もアシュール少佐が登場してくれることを祈りつつ、第一市民艦隊との通信を終えた。

 

 第一特殊作戦群の崩壊、第一市民艦隊の帰順をきっかけに、救国統一戦線評議会は急速に崩れていった。救国統一戦線評議会から離脱して市民軍に帰順する部隊、救国統一戦線評議会を支持する指揮官に反乱した将兵からの通信が臨時指揮所に押し寄せた。中立部隊も次々と市民軍支持を表明した。

 

 

 

 新たに市民軍に参加した部隊の受け入れ、反乱者への支援などで大わらわの臨時指揮所に所在不明だった最高評議会議長ヨブ・トリューニヒトが秘書官オーサ・ヴェスティンら男女数人を従えて現れたのは、午前九時過ぎのことだった。

 

「エリヤ君、苦労をかけたね」

 

 久しぶりに肉眼で見るトリューニヒトの笑顔は、春の日差しのように暖かかった。クリスチアン大佐は動画の中でトリューニヒトを「危険な勢力の利益代弁者」と言っていた。だが、実際に本人を目の当たりにすると、そんな懸念は吹き飛んでしまう。

 

「良くご無事でいらっしゃいました」

 

 喜びで震えそうになる声を懸命に抑えながら、背筋を伸ばして敬礼をする。

 

「こちらの地球教徒の人達に匿ってもらってね。彼らの地下教会にこもって、軍国主義者と戦っていた。一刻も早く市民軍と合流したかったけど、警戒が厳しくてね。ようやく出てこれたってわけさ」

 

 トリューニヒトは随行した男女を俺に紹介した。よく見ると、ヴェスティン以外の随員はみんな地球をあしらった首飾りを着けている。地球教徒が祈りに用いる聖具だ。地球教は救国統一戦線評議会に活動停止を命じられた組織の一つ。反クーデターの戦いに協力するのは、自然な成り行きであろう。

 

「市民軍の戦いをご存知でしたか」

「知っているとも。良くやってくれた」

 

 その言葉と笑顔だけですべてが報われたような気がした。やはり、この人は良い人だ。凡人に甘いせいで狭量な者や悪事を働く者を集めてしまう悪癖があるが、その甘さゆえに俺もトリューニヒトの下でやっていけるのだ。

 

「そのお言葉が何よりの報酬です」

「ははは、気が早いね。まだ戦いは終わってはいないよ。幕引きが残っている」

 

 トリューニヒトは苦笑して、ヴェスティン秘書官の方を見た。秘書官がバッグから取り出した書類を受け取ったトリューニヒトは、素早くペンを動かしてサインをすると俺に手渡す。そして、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、書類の内容を読み上げた。

 

「首都防衛司令官代理エリヤ・フィリップス少将に統合作戦本部長代理・宇宙艦隊司令長官代理・地上軍総監代理を命ず 最高評議会議長・国防委員長代理ヨブ・トリューニヒト」

 

 統合作戦本部長代理と宇宙艦隊司令長官代理と地上軍総監代理を兼ねる。つまり、同盟軍三五〇〇万の指揮権をこの俺が預かるということだ。二世紀に及ぶ同盟軍史上でも、こんな巨大な指揮権を手中にした者は一人としていない。トリューニヒトが思いつきで適当な事を言う人なのは良く知っているが、それでも冗談が過ぎるというものであろう。

 

「ご冗談を」

「私は冗談が苦手でね」

「これが冗談でなければ、小官が一人で全軍を指揮することになりますが……?」

「そうとも。全軍を指揮下に収めて、反逆者を討伐するんだ。もちろん、あのイゼルローン方面軍も君の指揮下だ」

 

 途方も無い指揮権に目が眩んでしまった。だが、命じられたからには、全力を尽くさなければならない。

 

「謹んで引き受けます!」

 

 勢い良く敬礼をする。トリューニヒトは嬉しそうに目を細めた。

 

「さあ、私を放送設備のある場所に案内してくれ。私が無事なことを全市民に知らせて、安心させなければいけないからね」

「失礼いたしました!これよりご案内いたします!」

 

 早速トリューニヒトをボーナムテレビネットワークの中継車まで連れて行った。最高評議会議長の来訪に仰天した報道部長は、みっともないぐらいに興奮してスタッフを叱り飛ばしながら放送を準備した。カメラが向けられると、トリューニヒトは一瞬にして気さくな雰囲気から、指導者らしい威厳のある雰囲気に切り替わる。

 

「市民の皆さん。私ヨブ・トリューニヒトは皆さんの愛国心と献身のおかげで、ようやく職務に復帰いたしました。最高評議会議長として、皆さんが私に期待される役割、すなわち自由と民主主義を守るための役割を遂行いたします。救国統一戦線評議会に与する全ての同盟軍部隊及び行政組織に対し、最高評議会の統制に服するように命令します。同盟憲章体制を支持する全ての同盟軍部隊及び行政組織に、救国統一戦線評議会との戦いに立ち上がるように命令します。この命令の履行期限は、本日一三時とします。首都防衛司令官代理エリヤ・フィリップス少将に統合作戦本部長代理と宇宙艦隊司令長官代理と地上軍総監代理を兼任させ、救国統一戦線評議会討伐を命じます。全ての同盟軍部隊は、フィリップス少将の指揮下に入るように」

 

 トリューニヒトの復帰によって、勝敗は決した。正規の命令系統が復活した以上、救国軍事会議に加担する行為、誰にも従わずに日和見する行為は、国家に対する反逆も同然となる。中立を守っていた者は、先を争うように俺の指揮下に入った。救国統一戦線評議会側の部隊は、次々と降伏してきた。

 

 

 

 驚くべき速度で救国統一戦線評議会の勢力は縮小していった。一一時頃には評議員のランフランキ准将が師団長を務める第二二機甲師団、タムード准将が師団長を務める第一〇二歩兵師団、ヴィカンデル大佐が参謀長を務める第六四陸兵師団などの救国統一戦線評議会の中核部隊も投降した。評議員ベイ大佐は単身で俺のもとに出頭して投降した。

 

 正午には救国統一戦線評議会の支配領域は、政治中枢地区のキプリング街及び第一一艦隊の駐屯地のみとなった。キプリング街に立てこもる救国統一戦線評議会本隊三〇〇〇は、俺が指揮する地上部隊二〇万によって包囲された。第一一艦隊は戦隊単位で駐屯地に立て籠もって抵抗を続ける。

 

 一三時を過ぎると、救国統一戦線評議会はキプリング街すら維持できなくなった。救国統一戦線評議会幹部が立てこもる統合作戦本部ビルの周囲は空挺部隊四万に包囲され、上空は五〇〇機の戦闘ヘリ部隊によって封鎖された。勝利はほぼ確定している。問題は救国統一戦線評議会によって捕らえられたままの要人九四名の身柄であった。敵が要人を人質にして交渉を求めてきたら、少々厄介なことになる。念のために第八強襲空挺部隊を待機させているが、できれば自主的に降伏して欲しかった。

 

 降伏を呼びかけようと考えた俺は、救国統一戦線評議会に通信を申し入れた。すぐに回線が繋がって、スクリーンに評議会議長グリーンヒル大将の端整な顔が現れる。最後に出会ってから八日しか経っていないのに、随分と老けたように見えた。

 

「フィリップス少将、君の言いたいことはわかっている。これ以上の抵抗は無益なだけでなく、国家と国民の再統合に害をもたらす。せめて潔く幕を引くつもりだ」

「ありがとうございます」

 

 先に降伏を申し出てくれたことに、心から感謝した。個人的には好きになれない人だったが、それでもやはり大物だった。

 

「君にはやられたよ。高く評価していたつもりだったが、ここまでとは思わなかった」

 

 グリーンヒル大将の声からは、ひとかけらのわだかまりも感じられない。

 

「我々の目的は腐敗した民主政治を浄化し、この国を守ることにあった。民主主義の名のもとに横行する衆愚政治。自浄能力を欠いた権力者。欲望に駆られた者が繰り広げる万人の万人に対する戦い。アーレ・ハイネセンの精神は失われた。こんな社会に対して、君はなにか思うところはなかったのか?」

「無いといえば嘘になります」

「政治が絡めば、最適解を選べなくなる。腐敗した権力者は政治的駆け引きで生き残る。軍事戦略は軍事的合理性ではなく、市民感情や予算に左右される。合法的な手続きが非合理な結果を生む。君もそれはわかっているはずだ」

「わかっています。去年の帝国領遠征はそんな戦争でした」

「ならば、我々と手を取り合えたのではないか。あの戦いで君と同じ物を見たヤオ中将は、我々の同志になってくれた。君がそうならなかったのは残念だ」

 

 心底から残念そうに、グリーンヒル大将は言った。俺は心の中で首を横に振る。

 

 俺が理性で生きる人間なら、グリーンヒル大将と手を取り合う可能性もあった。彼の言うことは合理的で説得力がある。しかし、感情の問題で無理だった。俺はヤオ中将のように、大義のために感情を忘れるようなことはできない人間だ。あえて言うならば、グリーンヒル大将は遠くを見すぎていて、目先しか見えない俺とは心の距離が遠すぎたのだ。

 

「駆け引きを誤って敗れてしまったが、我々の目指すところは決して間違ってはいなかった。いつか理解してもらえる日が来る。そう信じているよ」

 

 グリーンヒル大将はこれ以上ないぐらい爽やかに笑う。トリューニヒトの笑顔を太陽とすれば、彼の笑顔は涼風であった。

 

 一三時三九分、救国統一戦線評議会議長グリーンヒル大将は、評議会の解散と降伏を決定。捕らえていた要人を全員解放した。グリーンヒル大将、副議長ブロンズ中将、副議長ヤオ中将、評議員コースラー少将、評議員ヤノフスカヤ少将は、俺のもとに出頭して投降。評議員パリー少将、事務局長エベンス大佐は自決。救国統一戦線評議会は五日目にして潰えた。

 

 だが、評議会が解散しても戦いは終わらなかった。副議長ルグランジュ中将率いる第一一艦隊が各地の駐屯地に立て籠もって抵抗を続けているのだ。包囲を続ければ、いずれは物資が尽きて降伏するはずだ。問題は衛星軌道上に展開する第一分艦隊の存在である。この部隊が上空から睨みを効かせている間は、いかなる宇宙船も宇宙空間に出られない。

 

 一五時一六分、俺は四〇万の兵を率いて第一一艦隊司令部直轄部隊駐屯地を取り囲んだ。中にはルグランジュ中将が自ら直轄部隊の将兵二〇万を率いて立てこもっていた。

 

「ルグランジュ提督。救国統一戦線評議会は解散しました。もはや、これ以上抵抗しても将兵を苦しめるだけです。降伏していただけませんでしょうか」

 

 元上官で個人的にも親交があったルグランジュ中将に降伏を勧めるなど、嫌な役回りだった。しかし、同盟軍総司令官ともいうべき立場の俺には、このクーデターの幕引きをする責任がある。避けて通るわけには行かなかった。

 

「それはできんなあ。家を出る時に妻に『男がやると決めたら、とことんやれ』と言われてな。それに部下もまだやりたいと言っている」

 

 ルグランジュ中将は吹っ切れたような笑いを浮かべて、降伏勧告を拒否。他の駐屯地に立てこもる第一一艦隊所属の分艦隊や戦隊も降伏を拒否した。

 

 四〇〇万近い大軍をもってハイネセンポリス内外に分散している第一一艦隊の駐屯地を包囲した俺は、兵糧攻めをしつつ第一一艦隊首脳陣と交渉を重ねた。敵は完全に意地だけで戦っている。しかも、上は提督から下は兵卒までがその意地を共有している。話し合いを大事にして末端にまで参加意識を持たせるルグランジュ中将の統率スタイルの精華であった。

 

「惜しいですね」

 

 日付が一八日に変わって間もない頃、四度目の交渉の席で俺はため息まじりに言った。

 

「何がだ?」

「いえ、この艦隊がルグランジュ提督の指揮で帝国と戦ったら、どれほど活躍したことかと。そんなことを思ってしまいました」

「はっはっは、そう言ってもらえると嬉しいな。この私が丹精込めて育てた精鋭だ。正面からやりあえば、ローエングラム公にも引けを取らんと自負しているぞ」

 

 ルグランジュ中将は分厚い胸をドンと叩いて大笑いした。この名将がこの艦隊を率いて帝国と戦う機会が永久に訪れないことを思うと、胸が締め付けられるような気持ちになった。

 

「なにを暗い顔をしているのだ?私は負けて貴官は勝った。それなのに私が笑って、貴官が落ち込んでいては、どちらが勝ったか分からんではないか」

 

 紅茶を麦茶のようにがぶがぶ飲みながら、ルグランジュ中将はさらに笑う。周囲にいる第一一艦隊の参謀らもつられて笑う。死刑か自決以外の道が残されていないというのに、なぜこんなに明るくいられるのか。俺には理解できない。

 

「勝負では俺が勝ちました。しかし、指揮官としては負けたような気がしますよ」

「貴官も良くやったではないか」

「いえ、今の状況でこれだけの明るさを保つのは、俺には無理です」

「そこは認めてくれるわけか」

 

 ルグランジュ中将の笑いが大きくなるのに比例して、俺の気持ちは落ち込んでいく。最後の灯火のように感じるのだ。俺と同行してきた参謀や国防委員も同じように感じているらしく、葬式帰りみたいな顔をしていた。

 

「どうだね、私の艦隊は?いい艦隊だと思わんか?」

「思います」

「少しでも長くこいつらの司令官をやっていたかった。だから、死ぬしか無いと分かっていても、引き延ばしてしまった。だが、これ以上は未練が残る。もう終わりにしよう。貴官には迷惑をかけた」

 

 ルグランジュ中将の顔がふっと優しくなった。死ぬつもりなのは、薄々分かっていた。だが、言葉に出されると重みをもってのしかかってくる。

 

「迷惑とは思いません。お気持ちは良くわかります」

「指揮してみるか?」

「どういうことです?」

「この艦隊が帝国と戦ったら、どれほど活躍するかと貴官は言ったではないか。私はもう指揮できんから、代わりに貴官が指揮してみろ」

 

 ルグランジュ中将が第一一艦隊に込めた愛情、そして第一一艦隊を率いて帝国と戦えなかった無念を伝わってきて、胸が詰まる思いがした。涙が出ないのが不思議なぐらいだ。これほど重い頼みを断るなんて、俺にはできなかった。

 

「わかりました。いつの日か、この艦隊を率いて帝国と戦いましょう」

「ちゃんと用兵の腕を磨いておけよ。貴官の統率と管理はなかなかのものだが、用兵は今一つだからな」

「はい」

「そんな暗い顔をするな。貴官の取り柄は脳天気だ。笑え」

「はい」

 

 無理に笑顔を作る。

 

「それでよし!」

 

 勢い良くルグランジュ中将は立ち上がった。

 

「第一一艦隊は本刻をもって、宇宙艦隊司令長官代理フィリップス少将の指揮下に入る!」

 

 四月一八日〇時四四分、第一一艦隊が降伏。その二時間後、司令官ルグランジュ中将は、副司令官ストークス少将、参謀長エーリン少将、副参謀長クィルター准将ら主だった部下とともに自決。救国統一戦線評議会の勢力は完全に消滅し、ハイネセン四月クーデターは六日で終結した。


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