少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第47話 CASE “Hexa” ①

 

 

 ――時は“森”でのオーバーロードとの戦いまで遡る。

 

「シドさん」

「今度は何だ。生憎と慰めは品切れだ。ソールドアウトだ」

「わたしを、戦極凌馬さんに会わせてくださいませんか?」

「――は?」

 

 …

 

 ……

 

 …………

 

 碧沙は、ペコがガーゼを貼ってくれた右手の甲を、左手で掴んだ。

 

 インベスに襲われ、裂けた右手の甲。このことを碧沙は誰にも伝えていない。

 

 自分がいつヘルヘイムの苗床になるか知れない身だと伝えたら、やせ我慢して涙を見せない咲を泣かせてしまう。世界と日常を守るために人知れず戦う兄二人をもっと苦悩させてしまう。そんな自分を碧沙は許せない。

 

 呉島碧沙は、最後まで生きるための努力をやめない。

 

「着いたぞ。とっとと行くぜ、お嬢サマ」

「はい」

 

 碧沙は顔を上げ、決然と、ユグドラシル・タワーへ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 話を通しに行くから待ってろ。

 

 シドにそう言われたので、碧沙は会社のエントランスホールにあるソファーの一つに座って待っていた。

 普段ならオトナばかりの中に小学生の自分が一人という部分に緊張していただろうが、今の碧沙はインベスにつけられたケガが治るかだけが重大だ。

 

 そうしていると、目の前にミニスカスーツの女が現れた。

 

「呉島碧沙さんですか?」

「は、はい。あの」

「プロフェッサー凌馬の秘書で湊と申します。プロフェッサーとの面会をご希望と聞きましたが」

「はい。会わせてくださるんですか?」

「ええ、もちろん。付いて来てください」

 

 ソファーを立って湊を見上げる。湊は造りモノだと分かる笑顔で、碧沙に着いて来るよう告げた。

 碧沙は連れられるまま、湊と共にエレベーターに乗った。

 

 

 連れて来られたのは、オフィスフロアまるまる一画だった。

 人ひとりには多すぎるスペースの中央に、一つのデスクとイスがあり、そこに男が腰かけてパソコンを弄っていた。

 

「プロフェッサー凌馬。呉島主任の妹さんをお連れしました」

「ご苦労様、湊君」

 

 今回で直接会うのは2回目だが、やはり得体が知れない。

 

 湊に案内され、凌馬の正面に置かれたパイプ椅子に座らされた。湊自身は凌馬のすぐ横に控えた。

 

「さて、お久しぶりだね、碧沙君。今日はどういったご用で御足労いただいたのかな」

 

 碧沙は右手の甲を見せた。

 

「インベスにつけられた傷跡です。3時間経ちましたけど、発芽の兆候が見られません。何か特別なことかもしれないと思って。戦極さんでしたら、きっと興味をお持ちになるんじゃないかと思いました」

 

 凌馬は一度碧沙と目を合わせ、傷が残る手のほうを取った。貼りつけたガーゼをていねいに剥がす凌馬の手を、碧沙は見つめていた。

 一本線の傷跡があらわとなる。

 

「発芽の傾向は今までなし?」

「ありませんでした」

「治りは」

「少しおそい、気がします」

「ふうん――」

 

 凌馬はもう片方の手で、碧沙の手の甲の傷をなぞった。治っていない部位を直接触られて、ぴりぴりとした痛みが走り、碧沙は我慢できず身をよじった。だがその間も凌馬は碧沙の手を離さなかった。

 

「……っく、ふふ。はははははは! あははははは!」

 

 急に笑い出した凌馬に驚き、つい碧沙は手を振り解いて身を引いた。

 

「はは……まさか本当に『そう』だなんて……ああ、今日この日ほど運命なんてモノを信じる気になった日はないよ」

「あ、の」

 

 ぐい。凌馬はオフィスチェアから身を乗り出し、碧沙を至近距離で見据えた。

 

「どうしてインベスに傷をつけられたのに平気だと思う?」

 

 碧沙は首を振った。分からないからここに来たのだ。

 

「キミの体はヘルヘイムの果実の効果が発症しないように出来ているんだ」




 はいついに来ました、ヘキサの謎解きパート。

 何故彼女はヘルヘイム感染にかからないのか。
 ちゃんと裏の裏まで考えてありますが、ちょいとグロめな理由付けになります。

 私事ですが、最近前にハマっていた漫画の最新刊が出て、そっちに心が持って行かれつつあります。
 誰か鎧武離れしそうな自分を止めてー!

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