少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

86 / 190
オリジナル/ユグドラシル内紛編
第46話 コドモ目線


 

 鎧武が走って行った方向を見、変身解除して睨み合う貴虎と湊を見――

 咲は、貴虎に歩み寄った。

 

「葛葉と行かなかったのか」

「紘汰くんは心配だけど、お兄さんも同じくらい心配だから」

「すまない」

 

 謝らなくてもいいのに。これは咲が選んだことなのだから。

 

「オーバーロードのこと、ちゃんと紘…葛葉さん、から聞いて、ます。伝えれ、伝えられると思い、ます」

 

 湊に睨まれる。「よけいなこと言ったら、分かってるわね?」と目が語っていた。

 体は素直で、一歩引いていた。だが室井咲は根性で踏み止まった。

 

(だって、ここでお兄さんから目はなしちゃったら、お兄さん、クビにされるとか閉じ込められるとか、されちゃうかもだし。あたしがしっかりしなきゃ。ヘキサだって光実くんの横でがんばってるんだもん。あたしが貴虎お兄さんを守ってあげなきゃ)

 

 

「一度本社に戻って、凌馬とシドも呼んで話す。それが終わるまで、いや、終わってからも、葛葉紘汰と室井咲への敵対行動は禁止する」

「――、主任がそうおっしゃるのでしたら」

 

 湊は、第三者の咲だから分かる程度の小さな不満を呈し、貴虎に礼を取った。

 

「すまないが、室井くん、付いて来てくれるか」

「は、はい」

 

 湊が一番に踵を返した。続く貴虎。その大人たちを追う形で咲も歩き出した。

 

 

 

 

 ヘルヘイムの森からラボに戻るなり、湊のスマートホンが鳴った。

 湊は離れ、それに出て受け答えをいくつかしてから戻ってきた。

 

「申し訳ありません。プロフェッサー凌馬に急な来客だそうで。そちらの対応に行かなければいけなくなりました」

「分かった。それが終わったら、凌馬に私の部屋に来るよう伝えてくれ。もしシドに会えるようなら奴にも。私も会ったら伝えておく」

「畏まりました。失礼します」

 

 湊は足早に、真っ赤なラボを出て行った。

 

 湊はいなくなった。自分はどうすればいいのか? そんな気持ちを込めて咲は貴虎を見上げた。

 

「私のオフィスで待とう。付いて来なさい」

 

 貴虎が歩き出したので、咲は付いて行った。ラボ内の研究員の視線が落ち着かなかったので助かった。

 

 

 ユグドラシル・タワーに来たのは、紘汰や戒斗と捕まった時の一度だけ。こうして落ち着いて内装を見ながら歩くのは、咲には初めてのことだ。

 会社、という場をまず見ることがない小学生の咲からすれば、タワー内はまるで斬新なテーマパークだった。

 

「どうかしたか?」

「あっ、その…広くて、人がいっぱいで、すごいなあ、って」

「これくらい大したことはない。ここは支社だから人も多くないしな」

「……でもあたしにはめずらしーんだもん」

 

 ふて腐れてそっぽを向いた。ガラスの壁の向こうには、働きアリのように忙しなく動き回る人々。こんな景色はテレビでも教科書でも見たことがない。だからすごい、と素直に言っただけなのに。

 

 ぽん。

 

 頭に人の手が載った感触。咲は驚いて貴虎を見上げた。貴虎ははっとしたように手を引いた。

 

「すまない。妹の時の癖で」

「ヘキサに、こういうことしてるの?」

「あ、ああ……おかしい、だろうか」

 

 狼狽えている。咲より倍以上の大人の男である貴虎が。咲はつい笑った。

 

「ぜんぜんっ。ヘキサいいな~。あたし、きょうだいいないから、うらやましい」

「そう、か――そうか」

 

 貴虎は安堵したようで、それがまたおかしくて、咲はくすくす笑いを止められなかった。




 新章が始まりました。
 ここはまずほのぼのでジェットコースターの登りとします。

 ここで謝っておきたいのが、原作通りの「裏切り」にはならないことです。
 テーマは「大人らしい訣別」です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。