少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第40話 芽吹かない傷

 

 碧沙は、ダンススクールまで迎えに来た自家用車で、光実が入院した病院に向かっていた。

 

(おねがい。なんでもないくらいのケガでありますように)

 

 俯いて祈っていると、自家用車が急ブレーキをかけた。

 

「きゃっ…何ですか」

 

 運転手は震えるばかりで答えない。碧沙は身を乗り出し、見た。前方道路でインベスが暴れていた。

 

 インベスの1体がこちらを向いた。

 

「降りて!」

 

 このままではまずい、と碧沙の第六感が告げていた。

 運転手が車を降りる。碧沙も鞄を持って降りた。直後、インベスの1体によって自家用車は横倒しにされた。

 

 インベスの次なる興味は運転手に向いた。運転手が悲鳴を上げる。碧沙は学生鞄を思いきり振り回してインベスの背中を叩いた。インベスの興味が碧沙に移る。

 

「にげてください、早く!」

「し、しかしお嬢様…ひっ」

「早くなさい!」

 

 運転手はほうぼうの体で走って行った。場に残されたのは、横倒しの外車と、変身もできない小娘の碧沙と、インベスのみ。

 

 インベスが揮った爪を、学生鞄を盾代わりにして受ける。学生鞄は裂けて中身の教科書が道路に散らばった。

 

 最後まで立ち向かうという意思の表れのように、自分を襲うインベスを見つめ続けた碧沙を――何者かが横から掻っ攫ってインベスの爪から救った。

 

 

 碧沙は自分を肩に担いだ男を、体をひねってどうにかふり返った。

 

「あなた……チームバロンの、ペコ、さん?」

「わ。さん付けで呼ばれたの小学校以来っ」

「あ、あぶな…!」

 

 またインベスが向かってきた。するとペコは器用に碧沙を肩に乗せたまま、パチンコで礫を放ってインベスを怯ませた。

 その隙にペコは碧沙を抱え直してすばやく歩道に滑り込んだ。

 

『よくやった、後は任せとけ!』

「よろしく、リーダーっ」

 

 入れ違いに出て行ったのは、チームバロンのアーマードライダー、ナックルだった。

 ナックルはクルミ色の巨拳で強烈なストレートパンチをインベスに打ち込んだ。インベスが下がったところで、ナックルはカッティングブレードを2回切る。

 

《 クルミオーレ 》

『はああぁ!』

 

 莫大なエネルギーを撓めた巨拳がインベスを打ち、遠ざけていく。

 

「大丈夫?」

「は、い」

 

 今頃になって心臓が速く打ち始めた。逆に四肢は脱力して、下ろしてくれたペコの腕にもたれる形で膝を突いた。

 

「っつ」

「どうしたっ? どっかケガしたのか?」

 

 ペコが碧沙の手を取った。手の甲が上向きになって、碧沙もペコも息を呑んだ。

 

 手の甲から落ちる血。爪の跡。

 ――インベスがつけた傷からは、ヘルヘイムの植物が発芽する。

 

 ペコが慄然としているのが、まるで他人事のように感じられた。

 

『ペコ! 俺はあのインベスを追うから、ヘキサは任せ……ペコ?』

 

 ナックルが戻って来て言いながら、ペコと碧沙の様子を訝しむ。碧沙はとっさに手の甲を下に向け、もう片方の手でペコの服を掴んだ。首を振る。言わないで、と。

 

「わ、わかった。気をつけて、な」

『? ああ、じゃあ後でなっ』

 

 ナックルがその場からインベスを追って駆け去った。それを見送り、ペコは一度顔を伏せ、泣きそうな顔で碧沙を見返した。

 

「ヘキサちゃん。何で、」

「まだ、インベスは片付いてません。話が伝わったら、きっと迷わせちゃいます。戦ってる最中にそれはダメです。――ごめんなさい」

 

 ペコは何か言いたげに口を開いたが、結局何も言わなかった。碧沙が立ち上がるのに手を貸してくれた。




 鼻が鋭い、果実の香りに当てられる、勘が鋭い。今まで碧沙の異常性を色々挙げてきましたが、今回は決定打です。
 インベスにつけられた傷が、発芽していません。

 病院で紘汰たちも見ましたし、ザック・ペコも前にインベス退治した時にヘルヘイム感染の様子は見たから知っています。だからペコはぞっとしたのです。
 ラットは発芽しませんでしたし、初瀬は一度元の姿に戻ったので、個人差があるのかもしれません。それでもこれは「まとも」なことでしょうか?

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