少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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キカイダーコラボSP編
第35話 ミッチとジロー


 

 これは夢だ。呉島光実はそれを知っていた。

 だって、目の前で繰り広げられる光景は、ほんの何日か前の出来事そのものなのだから。

 

 …………

 

 ……

 

 …

 

 光実が「それ」を見つけたのは、ビートライダーズによる地球の危機を訴える集会を台無しにした、直後だった。

 

 赤いジャケットに青いスラックス姿の、一人の男。歩き出す寸前のポーズで微動だにしない。道端の人だかりには、写メを撮る人もいる。

 

(大道芸人? ロボットのフリする芸があるって舞さん言ってたっけ)

 

 だが群衆とは気ままなもので。興味を失った人から、男から離れて行った。残ったのは光実だけだった。

 見物客もいなくなったので、男のパントマイムを180度見てみたくなり、光実は男の背後に回った。そこで、見つけた。

 

(何だこれ。スイッチ? REBOOT……再起動?)

 

 ここで、いつもの光実なら手を出さなかっただろう。だが、たったさっき、光実は大事なものを全て捨ててきた。そのヤケが、光実の手にREBOOTボタンを押させた。

 

 不意に男は機械的なモーションで光実をふり返った。

 

「ぼくは機械だ。きみも機械か?」

「僕は機械じゃないよ。あなたは機械なの?」

 

 ふざけて発した問いに、男は生真面目に肯いた。

 

「機械だ」

 

 男は腕を差し出す。触ってみろ、という意図らしい。光実が男の手に触る。

 目を瞠った。男の手の感触は金属そのものだった。

 

「きみは機械か?」

「……人間だよ。――ミッチ。とりあえずそう呼んで」

 

 感傷だと光実にも分かっている。もう自分を「ミッチ」と呼ぶ人間はいない。そう呼んでくれる人たちを光実は自ら切り捨てた。

 

「ミッチ」

「そう。君の名前は?」

「名前――ジロー」

「どうしてこの街に来たの?」

「分からない」

「どこへ行くの? 知ってる人は?」

「分からない」

「……ひょっとして、何も覚えてないとか」

「そうみたいだ」

 

 どうやら光実はとんだ厄介に関わってしまったらしい。

 

 

 

 

 光実はジローを連れて呉島邸に帰った。

 

 貴虎は出勤中、今の時間帯はハウスキーパーもいない。人目を憚ることなく、光実はジローを自室まで招き入れることに成功した。

 

「さて、と――」

 

 ベッドをイス代わりにするジローはキョトンと光実を見返してくる。当の光実はタブレットを使い、ジローに繋がる情報を探していた。

 

 何度か検索条件を変え、ついにそれらしき情報を見つけた。

 

(1年前に光明寺ノブヒコが造ったと噂される戦闘用機械人間。多分これがジローだ。光明寺博士は……亡くなってる。この分だと確実に謀殺だな)

 

 光実はタブレットを机に放り、イスを持って来てジローの正面に腰を下ろした。

 

 声をかけたのも連れ込んだのも光実自身。しかし呉島光実は紘汰のようにお人好しではない。ジローの記憶が戻るのを手伝ったりする義理はない。今の光実は考えなしに捨て犬猫を拾った子供のようなものだ。

 

 ジローを見つめる。ジローは光実のアクションを待っている。部屋に妙な沈黙が流れる。

 

 沈黙を破ったのは控えめなノック音だった。――この音の調子は。

 

「入っていいよ」

「おじゃまします。――ただいま、兄さん」

 

 ドアを開けたのは、やはり碧沙だった。ただいま、との挨拶通り、今しがた帰ったばかりの、コートも外していない格好。

 

「早かったね。てっきり咲ちゃんたちに捕まって質問攻めにされてると思った」

「つかまる前に帰ったの。咲に聞かれたら、きっとわたし、かくしてられないから」

 

 碧沙は部屋に入ってくると、ジローに目をやった。

 

「ああ。彼はジロー。僕の知り合いで――」

 

 考えておいた設定を言う前に、碧沙はジローに歩み寄って顔を寄せた。

 

「……鉄のにおいがする」

 

 本当に、この妹には敵わない。

 

「碧沙。ジローはロボット、機械なんだ」

「ロボット!?」

 

 碧沙がまじまじとジローを見つめる。その目はきらきらに輝いている。

 

「ロボットのお客さまなんてはじめてね。ようこそおいでくださいました。碧沙です」

「ヘキサ」

「はい。――光兄さんっ。ロボットのトモダチなんているなら、ショーカイしてくれたらよかったのに」

「ロボット自体には疑問持たないんだね」

 

 さすが我らが自慢の妹。光実はグッと親指を立てた。

 

「でもトモダチじゃないんだ。僕も今日会ったばっかりだから。連れて来たはいいけど、どうしようかって困ってた」

「光兄さんにしてはめずらしくケーカクセイがないのね。――やっぱり気にしてる?」

 

 光実は返事を苦笑に留めた。

 すると碧沙は、とんでもない提案をした。

 

「ねえ、ジローさん。行くあてがないんなら、ここに――兄さんのそばにいてくれませんか?」




 我が家の光実×キカイダー編(×に変な意味はありません)。
 2週間前とのことで、公式HPのストーリー履歴を逆算すると、本作ではこの頃に当たるようでした。
 そしてキカイダーの設定(これについては後述)が我が家版光実とマッチしそうな気がして、キャスト交替に踏み切りました。

 前回のトッキュウジャー合体SPで反省しまして、今回は丁寧めを心掛けようと思います。
 駆け足なことに変わりはないのですが。

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