少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第21話 決意、重なる時

 

『これでもう証拠隠滅なんてできないぞ! 全部秘密にしておきたいなら、本気で街をインベスから守れッ!』

 

 

 スカラー兵器を破壊し、元いた地点に戻るべくダンデライナーを駆っていた鎧武は、着陸しようとした地点に人がいるのを認めた。

 

 パルプアイによって鮮明に像を結ぶそれは、鎧武の知る人間だった。

 

『咲ちゃん――?』

 

 鎧武はダンデライナーの速度と高度を落とし、咲の前に降り立った。

 

「咲ちゃん、何でこんなとこに」

 

 ダンデライナーを降りしな、紘汰は変身を解き、咲に歩み寄る。

 

「――――」

 

 咲は怒っている。年端も行かない少女がむくれても小動物チックな可愛さがあるだけなのだが。とにかく怒っていることは伝わった。

 

「また、ひとりで行った。あたしに声かけてくれなかった」

「う――それ、は」

 

 裕也の死。犠牲と希望。白い少女に告げられたこと。DJサガラに諭されたこと。一杯一杯で。

 いざ突撃という時には他人を慮る余裕がなかったのだ。

 

「その、ごめん」

「……も~。スナオにゴメンナサイされちゃったら、ゆるさなくちゃいけないじゃない。まだ怒ってるのに」

「いや。許せないなら許せないでいい。俺がまた咲ちゃんを仲間外れにしたのは本当だから」

「じゃあ次はいっしょに行っていいの?」

 

 紘汰は反射的に咲から視線を外し、泳がせた。

 

 世界を変えるという目標を持った紘汰だが、自分一人で何もかもを成せるとは思えない。同志(なかま)がいてくれれば心強い。

 しかし同時に、この途方もない目標に、咲のような小さな女の子を関わらせるのは、良心が咎める。

 

 

 “お前がそんな煮え切らない態度でいる限り、室井は何度でも戦いに飛び込むぞ”

 

 

(煮え切らない態度がダメなら、俺は、咲ちゃんを――)

 

「ま、いい、って言われなくても、勝手に付いてくつもりだけどね」

「――、は?」

 

 あっけらかんとした声が、紘汰の中の悲壮感を軽々とふっとばした。

 

「紘汰くんはさ、いつからこの街に住んでる?」

「えっ、生まれも育ちも沢芽、だけど……」

「あたしも。11年ぽっちのジンセーだけど、あたしはここしか知らない。だからここが一番スキ。遠足、社会科の見学、校内マラソン、ダンスのレッスン、ビートライダーズ。ぜんぶ沢芽であったこと」

 

 咲は宝物を抱くように胸に両手を重ねた。

 

「6年生になったから、もうすぐ修学旅行があるの。ヘキサだけいっしょじゃないのはザンネンだけど、すごく楽しみ。今までが、これからが、街のぜんぶが、あたしたちの大事な思い出なの」

 

 胸を押さえていた両手を下ろした咲は、彼方を見据えた。まなざしの先には、スカラーリングから煙を上げるユグドラシル・タワー。

 

「変わっていくのはしょうがない。でも、オトナの勝手な都合で壊されるのも、取り上げられるのも、ヤダ。これはあたしだけじゃない、リトルスターマイン全員の答え」

 

 それは、コドモたちみんなの答え、と言われた気がした。

 

「ユグドラシルのオトナがそんなんばっかなら、()()()()()はユグドラシルの敵になる。あたしたちが思い出を作っていきたい場所をふみにじるなんて、ぜったい、ゆるしてなんかあげない」

 

 言い切った咲は、唐突に紘汰をふり向いた。

 

「紘汰くんも。もう足手まといなんて理由なんて置いて行かせないから。おぼえててね。紘汰くんと会ってからあったことも、あたしが守りたい思い出のひとつなんだから」

 

 紘汰は息を呑んで咲を見返すしかなかった。これが小学5年生の女子に出せる気迫なのか。発するオーラだけなら白いアーマードライダーにも匹敵しかねない。それだけ彼女の決意が強いということなのか。

 

「紘汰くんは? 戦う理由、もう決めた?」

「――俺は」

 

 紘汰はカチドキロックシードを強く握りしめた。

 

「俺は俺の絶望を、ユグドラシルの彼らの諦めをぶち壊す道を往く。いや、その道を創る。犠牲を求める世界のルールと戦う」

 

 咲はまっすぐ紘汰を見上げて来た。驚きもしなければ呆れてもいない表情。

 

「じゃ、おたがいがんばらないと、だね」

 

 咲は晴れやかに片手を差し出した。

 

「紘汰くんが零したものがあったら、あたしが拾って掬う。思い出を守るって、きっとそういうことだから。だから紘汰くんは、紘汰くんが信じた道を往って」

「――っ」

 

 胸を、打たれた。

 コドモでも、女の子でも、室井咲は今確かに紘汰と同じ地平を見つめていた。

 

 紘汰は咲の手を取った。自分と比べればとても小さくやわらかい掌。大きな手と小さな手の、つたない握手。

 それが紘汰にとっては、この上なく心強かった。




 お~待た~せし~ました~!ヽ(^▽^)ノ
 原作前半の紘汰覚悟完了に合わせて咲もついに合流です。ここからの戦いは咲も基本的に紘汰側として参戦します。

 サガラは「力で成せるのは破壊のみ」と劇中で言いましたが、それも踏まえて咲には「思い出を守る」という理由付けをしました。矛盾なんて超えてナンボがヒーローじゃないですか。

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