少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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最終分節 はじまる世界

 

 

 青い空と藍色のソラの境界線を望む、大樹の頂の枝の一本。月花はそこに立っていた。

 

『きれー…』

 

 この場には月花しかいない。紘汰とは別れ、ザックにも光実にも告げずに来た。

 後で怒られるな、という心配はしていなかった。「後」など月花は考えていなかった。

 

 月花はバックルからヒマワリロックシードを外し、ドラゴンフルーツのアームズを装着し直した。それから、外したヒマワリロックシードを地上へ放り投げた。これで月花が地上に帰る術は絶たれた。

 

『さて、と――』

 

 首を直角に、見上げる。上の“房”が種子の発生源。この房さえDFボムで焼き尽くせば、これ以上の種子の拡散と被害は食い止められるはずだ。

 

 いざ月花がカッティングブレードに手をかけた時だった。

 月花のいる枝に人が立った気配がしたのは。

 

 その人物を顧みて、月花の涙腺は壊れた。

 

『絶っ対! 一人で行くと思ったんだよ。ダンデライナー用意しといて正解だった』

『紘汰くん……っ』

 

 両手で口を覆う――といっても、それで仮面の下の涙が止まるわけがない。そもそも泣いていても鎧武には仮面で見えないのだから――

 

 

『やっぱ咲、泣いてた』

 

 

 その一言で、我慢の糸が切れた。

 

 月花は鎧武の胸の中に飛び込んだ。

 

『紘汰くん! 紘汰くん、紘汰くん、紘汰くんっ!!』

 

 変身を解けば成層圏の大気熱で焼けてしまう。だから月花も鎧武も変身は解かない。解かないままで、二人は抱き合った。

 

 世界一、無機質で、幸福な抱擁だった。

 

 離れる。鎧武が錠前を取り出した。カチドキロックシード。鎧武の持つロックシードでは最も火力に秀でた鎧だ。

 鎧武はその錠前をドライバーのバックルにセットした。

 

《 カチドキアームズ  いざ出陣  エイ・エイ・オーッ 》

 

 鎧武が橙色の大鎧をまとう。橙の胴当て、橙の草摺、橙の篠垂。――いつ見ても、夕焼けのお日様のようだ。

 

『咲』

 

 鎧武が差し出した火縄大橙DJ銃に、月花は手を添えた。鎧武が月花の肩を抱く。ふたり、寄り添い、身を重ねる。

 

 火縄大橙DJ銃の銃口を斜め上に。

 二人分の指が引鉄を――引いた。

 

 火縄大橙DJ銃から放たれた火炎大砲が、大樹の房を一気に炎上させる。房から放たれ、地上に落ちるはずだった種子もまた焼き尽くされた。

 

 

 炎に巻かれていきながら、咲は紘汰に微笑みかけた。

 紘汰は咲に、微笑み返してくれた。

 

 

 …………

 

 

 ……

 

 

 …

 

 

 

 

 

 

 

 

 青空の下、戒斗は高台から、濃い緑と毒々しい紫に侵された地平を見渡した。

 

 この大地に、かつて人類が野菜や果物と呼んだ植物は存在しない。錠前の形に似た果実だけがこの地上唯一の「植物」だ。

 

 ヘルヘイムの植物による地球侵食が完了し、地球は新たなヘルヘイムとなった。生き物はインベスだけになった。

 

 侵略に抗おうとした人間たちもいたし、一時的にそれは成功したが、果実が現実世界に生った時点で人の終わりを食い止めるなど不可能だったのだ。

 

 結局、彼らが命がけで守った人類は、果実の誘惑に負け、こうして1年と経たずして、誰も彼もがインベスとなった。

 人類がヘルヘイムに抗い始めてからちょうど10年目の出来事だった。

 

 駆紋戒斗は晴れてインベスの支配者として、この惑星の頂点に君臨した。インベス化を免れなかった弱者を統べる強者となった。

 

 そして、もはや地球は侵略される側ではなく、侵略する側である。

 世界そのものさえも、戒斗が望む形に変革されて、不平不満などあるはずもない。

 

 見下ろす。地面を覆い尽くす大量のインベス。その中にかつての仲間が含まれていようが今の彼は酌量しない、するだけの価値もない。

 

 戒斗は杖剣を振り、標す。大樹を中心に数多開いたクラックの向こう側を。

 合わせてインベスの大群が咆哮し、クラックを跨いで次の世界を目指し始める。

 

 

 ――次はどれだけ保つだろうな。

 

 

 笑みを、知らずの内に浮かべる。ここではない異界か惑星かは、どこまで戒斗の“侵略”に抗い、強者を残すだろう。その強者は戒斗より強いだろうか。夢想するだけで愉快さが込み上げた。

 

 戒斗も自らクラックの一つを潜り、新世界へ踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 そして、彼は告げる。

 

 

「貴様は今、運命を選ぼうとしている」




 抵抗虚しく、地球はヘルヘイムになってしまいました。
 光実の、ザックの、貴虎の、晶の、舞の想いを塗り潰し、たった一つの種の色だけが地球を蹂躙してしまいました。
 最後の紘汰と咲の微笑み合いは、仮面で隔てられていても届いた――そんな思いを込めてこの描写にしました。

 これにてオリジナル/未来パラレル編は終了でございます。
 まさかぴったり40話目で終わるとは作者も予想外でした。
 作者の戯れ事にお付き合いくださいました読者の皆様、本当にありがとうございました<(_ _)> もう隅から隅まで裏付けのない妄想だらけのものを延々書き続けてすみません<(_ _)>

 これからはこんな絶望的な未来が来ないなるよう、紘汰が、咲が、現代で戦う番です。
 つまり作者の生っちょろい腕を総動員する番です。
 これからも応援いただけましたら幸いです。

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