少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第33分節 呉島兄弟 (1)

 プレゼンが終わり、ホールから次々と人が出て来る。そのまま帰っていく人々もあれば、エントランスに留まって話す人々、他社と挨拶する人々もいる。様々だ。

 

 咲たちガイムグループの社員は留まって話し合っていた。

 

 ふとその中で、光実が輪を抜けた。咲たちは首を傾げて光実を目で追う。

 光実が歩いて行った先で、ちょうどホールから貴虎が出てきたところだった。

 

「久しぶり、兄さん」

 

 光実に気づいてか、プレゼンの終始険しかった貴虎の顔がほんの微かに緩んだ。

 

「元気そうだな」

「こっちには新婚パワーがあるからね。兄さんは――また痩せたね。ちゃんと食べてないんでしょう」

「食事の暇が惜しいんだ」

「そんなことだと思った。差し入れ持ってきたから、夕飯に回してよ」

「すまない」

 

 咲は呆気にとられた。あの温和な光実が、家族に対しては強気に出ている。意外な一面――

 

「相変わらずミッチはお兄さんと仲いいな」

 

 ――ではないらしい。紘汰の台詞から察するに。

 

「それはもちろん。この世で二人きりの兄弟ですから。仲良くしとける時にしとかないと。兄弟は両の手、なんて言いますし」

「……なあ紘汰。俺、ミッチの笑顔がなんか怖ぇ」

「奇遇だな、ザック。俺もだ」

 

 兄弟仲が良いのはいいことではないのか。咲は腕を組んで首を傾げた。

 

「プロジェクトアーク潰した上にかけおち婚で、いよいよ絶縁したかと思ったのになあ」

「簡単に言わないでくれる、ザック? これでも苦労に苦労を重ねて復縁したんだからね」

「ぷろじぇくと……あーく?」

 

 咲が分からず復唱すると、全員の驚いた視線が咲に向いた。咲はたじろいだ。

 

「覚えてないの?」

「記憶の戻りはまばらなんだ。今の咲は、12歳と21歳がゴチャゴチャな状態」

 

 紘汰のフォローに、そうなんだ、と光実は少し困った顔をした。

 

「ごめんなさい。大事なこと、だった?」

「うん。君たちが僕と兄さんを解放してくれた時のことだからね」

 

 ピンと来ないでいる咲を光実は腕組みして見下ろし、――紘汰を見上げた。

 

「紘汰さん。咲ちゃんお借りしてもいいですか。悪い話はしませんから」

「――咲、いいか?」

 

 光実なら信頼できる。咲は迷わず肯いた。

 

 

 

 

 紘汰とザックは先に帰社することになり、咲はホールのロビーにある丸テーブルの一つに招かれるまま座った。

 

「昔の話だけど。人類救済のためにユグドラシルが掲げてたのが、プロジェクトアーク」

「有体に言うと、人類を減らせるだけ減らして、残った人類に量産型ドライバーを宛がって生き延びさせるという計画だった」

「減ら、す」

「計画では、70億人中60億人に人口調整をかける手筈になっていた」

 

 咲は思わず息を呑んだ。70億人中60億人を、殺す。貴虎はそう言ったのだ。

 

「……壊したあたしが聞くのもおかしいけど、人類ぜんぶ救う方法は、その時はなかったの?」

「なかった」

 

 貴虎は明瞭に言い切った。

 

「ドライバーの量産はユグドラシルの生産ラインをフルに使っても10億台が限界だった。もっともこの計画が全世界にバレて、ユグドラシルも規模縮小を余儀なくされたから、今年に入るまでに製造できた量産型ドライバーはせいぜい1億台だ」

 

 生存率7分の1でも物申したいのに、今や70分の1。確かに12歳の咲なら反対の立場で戦っただろう。紘汰と一緒に別の策を探して戦っただろう。

 

「プロジェクトアークっていうのをあたしが壊しちゃったのは分かったけど。それがどうして、光実くんとお兄さんを解放することになるの?」

 

 そこで光実は寂しげに笑み、貴虎は遠くを思いを馳せるように目を細めた。

 

 

「碧沙ならそう望むからって。咲ちゃんがそう言ったんだよ」




 駆け落ちしましたが実はちゃんと仲がいいんですよ呉島兄弟。
 何故不仲でないか。ひとえに貴虎兄さんの懐が広いからというのに尽きます。
 もう本編で書けそうにないのでここにぶっちゃけますが、貴虎さん、ちゃんと光実の結婚を認めて結婚式にも参列しているんですよ。しかも舞に「弟を頼む」と頭を下げたりもしているんです。
 書きたかったのですが、尺の都合上もう無理そうなので。

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