少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第25分節 紘汰と咲 (3)

 

「っ…ごめんね…!」

 

 咲は紘汰の横を走り抜け、階段を駆け上がってガレージから飛び出して行った。

 

 

 慌ただしい足音が外から聞こえなくなったと同時、紘汰は脱力してソファーに体を沈めた。

 

(やだ、って。付き合ってから初めて言われた。俺のバカ野郎)

 

 いくら職場とはいえ、二人きりで密着して。男の理性には厳しい試練だ。だからといって、紘汰のした何某かが咲を傷つけた事実は変わらない。

 

 ガレージのドアが開く音がした。

 すわ咲が戻って来たかと紘汰は体を起こしたが、入ってきたのはザックと晶だった。

 

「たっだいまーっと」

「今すごい勢いで咲ちゃんが出てったけど、紘汰、何かしたんじゃないでしょうね」

 

 二度目の撃沈。

 ザックは不思議がっているが今の紘汰に答える余力はなかった。

 

「おいおい紘汰~、まさか職場で盛ったんじゃねえだろうなあ。なーんて」

「――――」

「え、マジ?」

「だって咲がかわいかったから! かわいかったから!」

 

 うあーっ、と紘汰はつい先ほどまで腕の中にいた恋人を思い出して悶えた。

 

「――110番すっか」

「サクッと雇い主売るなぁ!」

 

 がばっと飛び起きてお約束なツッコミ。そして()(たび)、紘汰は脱力してソファーの背もたれに突っ伏した。

 

「だめでしょう、紘汰っ。女の子は男みたいに即物的にできてないのよ」

「う…ごめん」

「謝るなら咲ちゃんに謝りなさい」

 

 紘汰は頭をがしがし掻いた。

 いくら可愛かったとはいえ、それを理由に狼藉を働いていいという道理はない。だって、咲本人は嫌がっていた。咲が嫌がっていたなら、これは紘汰の非だ。

 

 

 ――室井咲は昔から強い子だった。あの戒斗が裏で認めるくらいには、強かった。

 ――だから紘汰は忘れてしまった。どんなに心が硬くとも、彼女は女の子だということを。

 

 

「……ちょっと出て来る」

「ひゅー、王子様のお出迎えだ」

「変な言い方すんなっ」

 

 おかしくて堪らなさそうなザックと、おかんむりの晶に背を向け、紘汰はガレージを出た。

 

 

 

 

 

 紘汰は野外劇場に向かった。咲は何か辛いことや悲しいことがあるとそこへ行く癖がある。今日もきっと野外劇場だろう、と当たりをつけた。

 

(見つかったらまず謝って、それから何でイヤだったか聞く。よしっ)

 

 散った銀杏で敷き詰められた並木道を抜け、野外劇場へと入った。

 案の定、咲は一番下の客席に座っていた。

 

 呼びかけようとして、気づく。咲の前に人が立っている。シルエットからして男。

 

(まさかナンパでもされてるんじゃ!)

 

 紘汰は急いで客席の階段を駆け下りた。

 

「おいそこのあんた! 人の彼女に何し…て…」

 

 階段を降りて咲に大股で歩み寄った紘汰は、その人物を見て、愕然とし、足を止めた。

 

「戒、斗……?」

 

 9年前、まだ紘汰がビートライダーズだった頃に、姿を消した友人の姿がそこにあった。




 紘汰の中で戒斗は友人です(キッパリ
 そんな友人と9年ぶりに再会したらそりゃビビりますよね。

 そして明らかに紘汰に非はないのに自分が気が急いて悪かったと思ってくれる紘汰は紳士です。
 何気に「やだって初めて言われた」と言っておりますが、つまりそれって咲のほうは紘汰からのアレやソレを一切拒まなかったってことなんですよね。
 ――リア充末永く爆発しろ(-_-)

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