少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第2分節 記憶退行

 

「えーと。つまり咲…ちゃんは今12歳で、俺と付き合……じゃなくて俺たちの付き合いはビートライダーズ同士のアーマードライダー仲間って認識で、今朝になっていきなり大人の体になってたと。そういう感じ?」

 

 咲は大きく首を上下させた。紘汰は片手で顔を覆って溜息をついた。

 

 同じテーブルに紘汰と向き合って話した。ここがどこかと尋ねたら、この部屋は咲が一人暮らししている部屋だと紘汰は答えた。

 1LKの小ぢんまりとしたアパートの一室。ベッド、テーブル、イス、テレビ、PC、全てが同じ部屋に置かれた間取りだ。

 

 さらに、室井咲は葛葉紘汰の「仕事」の同僚で、二人でよくインベス退治をした仲だとか。

 

 そこまで聞いても、咲の頭に該当する記憶は出てこなかった。

 

「ごめんなさい……」

「いや、咲ちゃんが悪いわけじゃないから! 事故、そう、事故みたいなもんだって!」

 

 紘汰が慌てたように両手を勢いよく振った。今の咲でも知っている葛葉紘汰のしぐさだ。目の前の紘汰は全くの別人ではないと知れて、咲は安心した。

 

「聞いてもいい? 何であたし、紘汰くんといっしょに寝てたの?」

「そ、それはっ、いや、決してやましいことはしてないんだけど! えーっと。昨日のことなんだけど、咲ちゃん、仕事でちょっとミスしたんだ」

「あたし、仕事してるんだ」

「俺と一緒のとこで。いつも助けてもらってる。仕事っていっても、主にインベス退治とヘルヘイムの植物の駆除なんだけど」

「それってユグドラシルがやってることじゃないの? まさか紘汰くん、ユグドラシルに入ったの!?」

 

 咲はテーブルを叩いて立ち上がり、紘汰の顔に顔を寄せた。その分だけ紘汰は身を引く。

 

「入ってない、入ってないって! 俺が自分で起ち上げた仕事だよっ」

「たちあげた……起業したの!? 紘汰くんが!?」

 

 ユグドラシルに与した、という以上の衝撃である。あの根無し草だった紘汰が、今や一国一城の主。

 

「話戻すよ。とにかく、そういう仕事をしてた時、咲ちゃんがミスってピンチだったんだ。俺も向かおうとしたけど、俺より前にザックが行って。その時ザックに怒られた内容で、帰ってもずっと塞ぎ込んでた。そんで、そのー。元気出してもらいたくて、添い寝して、あんな状況になりマシタ」

 

 今度は紘汰のほうが恐る恐る咲の顔色を窺ってきた。

 

「じゃあ、何もなかったのね。ナニも」

「なかった。断じてなかった」

 

 ひとまず咲は胸を撫で下ろした。

 

「ここまでで質問あるかな」

 

 紘汰のやわらかい声のトーン。細めた目。歳を取っても紘汰は変わらない。咲の中で、強くて頼りになる年上のトモダチのままだ。――トモダチのままだとずっと思っていたのに。

 

「その、あたしたちが付き合ってたのが一番ビックリって、ゆーか」

「あ――」

 

 咲は言ってしまった自分が恥ずかしくなり、ひたすらテーブルを見下ろした。

 ダッシュでこの空間から逃げ出したいが、紘汰の言う通り記憶退行ならば、下手に外をうろつけない。咲はともかく縮こまって紘汰のリアクションを待った。

 

「――よしっ」

 

 紘汰がイスから立ち上がった。咲は肩を跳ねさせて紘汰を見上げた。

 

「咲ちゃん、外行こう。みんなに会ったら何か思い出せるかもしれない」

「み、んな」

「姉ちゃんとかザックとか。あとミッチと舞も」

「会えるの?」

「会えるよ。今でもみんなと連携取ってるからさ」

 

 気になる、というのが本音だ。咲にとっては未来世界の覗き見だ。紘汰が今挙げた人たちや、リトルスターマインの仲間が未来でどうなっているのか。好奇心がうずうずしてきた。

 

「行くっ」

「よっしゃ。そうと決まれば善は急げだ」




 紘汰と咲が付き合っているかいないか? 実は作者も決めかねております。
 紘汰はあの通りにぶちんですし。咲とすれ違っている感も未だ否めません。
 記憶をなくして「少年少女の戦極時代」から基礎知識がスタートする咲。果たして未来の人々はどんな生活をして、何を思って生きているのか。――始まります。

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