少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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その3 乙女のカラサワギ

 室井咲は思い悩んでいた。

 何を? 他でもない葛葉紘汰のことをである。

 

 先週、紘汰が傷だらけで“森”から帰って来た。

 聞けば、オーバーロードと遭遇した上、そのオーバーロードたちに攻撃を受けたのだとか。

 

 …………

 

 ……

 

 …

 

「なんであたしも呼んでくれなかったの!」

 

 野外劇場にて、咲は紘汰の傷を消毒しながら怒った。

 

 街に出るインベスを相手取る内に、こういった応急手当にも慣れてしまったし、救急セットを持ち歩くようにもなった。インベスを倒した後は、咲が紘汰やザックの専属ナースだ。

 

「ごめん。咲ちゃんと一緒に行くのは、相手がどんなんか一度見てからにしようと思って」

「それ! そのまま戦闘になだれこんだらイミないじゃん!」

「心配しなくても、これくらい大した傷じゃないよ」

 

 心配するな。紘汰はそう言った。よりによってその言葉で、咲を。

 

 咲は込み上げた正体不明の感情の勢いに任せ、紘汰の肩に頭を押しつけた。紘汰が困惑した気配が伝わった。

 

「心配、させてよ」

 

 しばらく紘汰の肩に額を寄せて俯いた。

 すると、髪を撫でられる感触がして。

 

「……ごめん」

 

 その手つきはどこまでも優しかった。咲はなんだか泣きたい気持ちになった。

 

 …

 

 ……

 

 …………

 

「咲」

 

 呼ばれて、はっと我に返った。

 ここは外で、歩道で、自分たちは人待ち中なのだと思い出した。

 

「あ……トモ」

「何か考えごと?」

「わかる?」

「顔に出てる」

 

 そんなにも分かりやすいだろうか。咲は自分の両頬を両手で押さえた。

 

「さーきちゃーん、トモちゃーん!」

 

 トモと二人して声が来たほうを向いた。

 

 手を振りながらやって来た、舞とチャッキー。加えて、今日はインヴィットのメンバーであるメイという女の子も一緒だ。

 

 同じビートライダーズとはいえ、咲たちのリトルスターマインは唯一のキッズチーム。コドモ相手にスケジュールを割いてまで遊んでくれるのは、今の所、チーム鎧武とチームバロンくらいだ。

 

「あのね、メイちゃんが新しい振りつけ思いついたから、今日、ガレージで試してみようって」

「いいよ。今日はステージもレッスンもないし」

 

 年齢もまばらな少女たちは歩道を固まって歩き出した。

 

「ところでさ、インヴィットの城乃内、今何してんの?」

 

 チャッキーがメイに尋ねた。

 

「相変わらずブラーボに捕まりっぱなしですよ」

 

 ――城乃内秀保。咲の中ではいい印象がない男だ。チームインヴィットのリーダーで、女の子ばかり侍らせ、アーマードライダーのくせに肝心な時には――

 

「さ、咲ちゃん? どしたの。なんかコワイよ」

「え? ――あっ、ごめんなさい」

 

 無自覚の内に殺気を放っていたらしい。いけない。咲は頭を振る。いくらインヴィットの人間とはいえ、メイは関係ないのに。

 

「ねえ、メイさん。城乃内さんのメガネってダテ?」

 

 トモが唐突な質問を口にした。フォローされたと分からない咲ではない。できるなら今すぐトモにぎゅーっと抱きつきたかった。

 

「さあ~。取ったとこ見たことないなあ。あ、でも本人は『視えなくはないけど多少像がブレる』とか言ってたっけ」

「へえ。やたらメガネ強調するから、ファッションだと思った。メイさんのは?」

「あたし? あたしはダテ眼鏡~」

 

 無難な話題へ流れて行く会話に、咲はこっそり安堵の息をついた。




 描かなかった24・25話に当たる日常回。読まなくても特にストーリー展開に支障はないです。

 今回咲の相方を務めてもらったのは同じリトスタのトモという女子です。実は大和撫子な美少女という設定があるのですが、これも特に覚えていただく必要はありません。

 咲の専属ナースが羨ましいと思われた方、挙手。

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