少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第139話 vsイナゴ怪人! 「仲間っていうのはね」

 咲は風呂から上がるなり自分の部屋に戻り、ベッドに身を投げ出した。

 スマートホンの通話ボタンをタッチする。相手はもちろん、ヘキサだ。

 

「もしもし、ヘキサ。咲だよ」

《どう? 作戦会議、うまくまとまった?》

 

 謎のアーマードライダーとイナゴ怪人が現れた翌日である、今日。「臨時休業」の張り紙がされたシャルモンに、元アーマードライダーの面々が集まり、対策会議が開かれた。

 

「もーぜんっぜん。みんながベルト壊れちゃってる時点で詰んでるし。あたしと戒斗くんも勝てなかったって部分で場の空気暗くしちゃったよお」

 

 おそらく敵は人間ではない。だからといって、少女の体を使っている以上は、下手に手が出せないのに変わりはない。

 

「光実くんはベルト無事だったよね?」

《ええ。ケガがひどいから、今でも着けたまま寝てる。それと多分、貴兄さんも》

「マジ!?」

《でも、メロンじゃないわよ。マツボックリ。ユグドラシルにたくさんいた黒いライダーのベルトの予備。表向きには悪用されないために全部処分したってことになってる》

「なぁんだ~……貴虎お兄さん、ゲネシスドライバーまで処分したってゆーから、てっきりマジでベルト0かと思ったのに~」

 

 それを含めても集まるライダーは4人。相手は2体。2対1を二つの状況に持ち込めれば勝負になるかもしれない。

 ただ、それなら貴虎はベルトの存在を、対策会議の時に言うはずだ。

 

「貴虎お兄さん、一人で戦う気なのかな……」

《うん……貴兄さんきっと、少しでも罪ホロボシがしたいって、思ってるから》

「もー! オトコってやつは何でみんな一人でカッコつけたがるかなあっ。戒斗くんもだし」

《え? 駆紋さん、何か言ったの?》

「戒斗くんは、一人だけみんなと違う『変身』ができるでしょ? オーバーロードになって、あいつをやっつける気なのよ。会議の時は言わなかったけどさっ」

《でもそれじゃあ、普通の人が見たら誤解されちゃわない?》

「そうそう! だからヤメテって言ったのにガン無視。次にあいつら出て来たら、絶対『変身』しちゃうよ。も~ど~しよ~」

 

 ごろろんろん!

 

 咲はままならない状況に苛立ってベッドの上を意味なく転がった。

 転がった勢いでベッドから落ちた。

 

《ちょ、すごい音したわよ? だいじょうぶ?》

「へ、へーき、へーき……あ」

 

 頭を打ったからか、咲の頭に妙案が閃いた。

 

 

 

 ******

 

 

 

 街に悲鳴が響き渡る。

 一夜明けてすぐ、コウガネはイナゴの群れを使って、沢芽市民に攻撃を始めた。

 

 逃げる人波に逆らって、コウガネの前に二人の男が立ちはだかった。

 駆紋戒斗と、城乃内秀保だ。

 

「お前は怪物のほうをやれ。あのライダーは俺が引き受ける」

「りょーかい。上手くやりなよ、リーダー」

 

 皮肉を込めて「あの時」のように呼べば、戒斗は軽く不機嫌さを表しただけで言い返さなかった。

 

 城乃内は一歩前に出て、マツボックリの錠前を開錠した。

 ――量産型ドライバーとマツボックリロックシード。貴虎が有事のために隠し持っていた、本当に最後の一台を、無理を言って借りてきた。

 

(俺にこんなこと言う資格がないのは分かってる。けど、言わせて。――一緒に戦って? 初瀬ちゃん)

 

「変身!」

《 マツボックリアームズ  一撃・イン・ザ・シャドウ 》

 

 グリドン――否、黒影は、変身するなり、すぐさま影松を揮ってイナゴ怪人に立ち向かった。

 

 一撃目、当たる。二撃目、当たる。

 しかしそこで怒ったイナゴ怪人が黒影に反撃を開始した。

 

 イナゴ怪人は影松を受け止め、黒影の手から奪った。その影松で、イナゴ怪人は黒影に斬りつけた。

 

 転がった黒影を、イナゴ怪人が振り下ろす影松が襲う――寸前、横ざまに紫の光弾が、連続してイナゴ怪人を撃ち抜いた。

 イナゴ怪人は紫の弾幕に負け、影松を落として、黒影から離れていった。

 

『ミッチぃ!?』

『大丈夫? 城乃内さん』

 

 本来ならここにいてはいけない龍玄が、黒影を救った張本人だった。

 

『お前、まだケガっ』

『うん。治ってないけど、じっとしてるなんてできませんよ』

 

 龍玄は影松を拾うと、黒影に投げ渡した。

 

『仲間は助け合うもの、なんでしょ?』

 

 独りで戦わねばならないとずっと思ってきた光実が、こんなことを言えるようになった。

 人は変われる。まったく、室井咲の言う通りだ。

 

『――今さら気づくなっつーの!』

 

 黒影と龍玄は同時に、戻ってきたイナゴ怪人に回し蹴りを叩き込んだ。

 

『カッコつけましたけど、多分次の一撃が限界。いいですか?』

『ああ。一発で決めてやろう』

 

 イナゴ怪人が離れた隙に、カッティングブレードを切る。

 

《 マツボックリスカッシュ 》

《 ブドウスカッシュ 》

 

 黒影と龍玄は同時に高くジャンプした。

 

『『セイ、ハー!!』』

 

 黒と紫、それぞれのエネルギー波を帯びたライダーキックが、イナゴ怪人に直撃した。

 黒影と龍玄が再び着地した。

 彼らの後ろで、イナゴ怪人は倒れ、爆発した。

 

 

 城乃内と光実は互いを見合い、変身を解いた。

 ハイタッチの音が軽やかに鳴り渡った。




 何でも一人で抱え込んで解決しようとした我が家の光実が、ついに「仲間」に心を許した瞬間でした。これが本作での光実の「変身」に当たります。

 ナックルとはWライダーキックやったんだから、黒影(グリドン)と決めてもいいと思ったんです。

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