少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第133話 光を灯しにいく

 

 アゾト爆弾は鎧武とロード・バロン両者の至近距離に届くや、クラッカーのように紙吹雪を撒き散らして爆ぜた。――彼らに降り注ぐ紙吹雪こそが、アゾト爆弾の「出し所に悩んだ」性能だ。

 

 鎧武の突き出した刃は、ロード・バロンの腹を深く突き刺した。

 

 月花は彼らから程遠くない位置に着地した。変身を解く。マラソン大会の後のように、息切れが激しかった。

 

 刃が刺さった部位から赤い稲妻が走り、ロード・バロンは戒斗の姿に戻った。

 倒れる戒斗を、変身を解いた紘汰が受け止めた。

 

「なぜだ、葛葉…何がお前をそこまで強くした?」

「守りたいという祈り。見捨てないという誓い。それが俺の全てだ」

「……なぜ泣く?」

 

 紘汰の目からはとめどなく涙が溢れている。

 

「泣いていいんだ。それが俺の弱さだとしても、拒まない。俺は泣きながら進む」

 

 戒斗はふっと笑み、握り拳で紘汰の胸を小さく叩いた。

 

「お前は……本当に強い」

 

 拳が――落ちた。

 

 …

 

 ……

 

 …………

 

 咲は紘汰たちの前まで来ると、最初からそこにいたように、紘汰が持ち上げる戒斗の肩と頭を預かり、自分の膝に戒斗の頭を乗せた。それから紘汰を見返し、肯いた。

 

 紘汰は拳を握って立ち上がり、歩き出した。そこに誰かがいるかのように、手を伸ばして。

 いつかの日に、咲に手を伸べてくれた時のように。

 

 その手に何度救われただろう、力づけられただろう。

 最後の最後で、彼の手が掴んだ相手は、咲ではなかったというだけ。

 これは室井咲だけの寂しさだ。誰にも、紘汰自身にだとて、明かすものか。

 

 紘汰の手を握り返したのは、はじまりの女――舞だった。

 

「あたし、戒斗を止められなかった」

「あいつの理想は正しかった。ただ道筋を間違えただけだ。だから俺たちが叶えよう。戒斗のユメを、もっと正しい方法で」

 

 紘汰は舞を強く抱きしめた。

 

 舞が黄金の果実を出し、紘汰に差し出す。

 

「全て、こいつのためだったのか」

 

 紘汰は黄金の果実を受け取ると、それを一口齧った。

 

 しゅわしゅわと、ヘルヘイムの植物の蔓とはまた違う、濃緑の葉が紘汰を覆い尽くす。

 葉が消えたその場に立っていたのは、舞のように髪がプラチナブロンドに染まり、銀の甲冑と白いマントをまとった紘汰だった。

 

「ついに現れたなあ。“はじまりの男”よ」

 

 サガラだった。サガラは歩きながら、使命を、生命の進化を促すことができた喜びを滔々と語る。

 

「あんたが敵なのか味方なのか。俺には最後まで分からなかった」

「どちらでもないさ。まあ強いて言うなら、俺は運命の運び手。ただの時計の針でしかない」

「ふざけないでよ! ただの時計の針が、あたしたちの街をメチャクチャにしたっていうの!?」

 

 咲はつい叫んでいた。この男の――ヘルヘイムのせいで、初瀬が、湊が死に、仲間たちはたくさん傷ついた。

 

「避けられない結末だ。どんな種族も文明も、いずれは滅び、次の世代に座を譲る」

 

 進化のための闘争などいらなかった。劣った種でいいから、咲はこのままがよかった。けれどもそれを叫ぶ権利は、選ばれる資格のない咲にはなかった。

 

「さあ! 新たなる人類としてお前たちはどんな形でこの世界を終わらせる?」

「それは世界を塗りつぶす力。俺が守ろうとしたもの全てが犠牲になる。冗談じゃない。お断りだ」

「甘ったれたことを言うな! 古い世界を生贄にすることでしか、お前たちに未来はないんだぞ」

「ここで未来がないのなら、別の世界を探せばいい。諦めない限り道はある」

 

 紘汰が手を振り上げた。すると、巨大なクラックが上空に開いた。

 巨大クラックに、ヘルヘイムの植物や大量のインベスが吸い上げられていく。

 

 クラックの先に目を凝らす。そこにあったのは、光も水もない暗黒の惑星。紘汰はそこに、ヘルヘイムの植物とインベスの新しい世界を一から創造すると宣言した。その困難を示唆するサガラの言葉にも揺るがない。

 

「大丈夫さ。俺は一人じゃない」

 

 紘汰が差し出した手に、舞が手を重ねた。

 

「一緒なら何も怖くない。どんなに苦しくても、きっとあたしたちは乗り越えていける」

 

 この命溢れる青い惑星(らくえん)を捨て、舞だけを伴に、未だ暗闇しかない世界へ、光を灯しに行くのだと。紘汰ははっきりと答えた。

 

「……“蛇”と呼ばれた俺がこう言うのもおこがましいが」

 

 サガラはふり返り、大仰に両手を広げた。

 

「産めよ。増えよ。地に満ちよ。さもないと、どうにもならんぞ」

 

 言いたいことを言い終えたからか、サガラは空気に滲むように消えた。


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