少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第127話 3人目の望む未来は

 

 ゆらあ。戒斗が立ち上がり、両手を勢いよく広げた。すると、戒斗の胸からヘルヘイムの植物に似た蔓が無数に生え、戒斗を覆い尽くした。

 

 蔓が消えた時、そこに立っていたのは「戒斗」ではなかった。

 

「オーバーロード……?」

 

 フォルムは全く異なるが、所々のカラーリングはバロンのままだ。オーバーロードのバロン――ロード・バロン、とでも呼べばいいのか。

 

 ロード・バロンが手の平を紘汰に突き出した。手の平から生じた赤い衝撃波が、紘汰を一気に後ろへと吹き飛ばした。

 

「紘汰くん!」

 

 咲は慌てて、倒れた紘汰に駆け寄った。

 

「紘汰くん、紘汰くん」

「だい、じょうぶ……!」

 

 紘汰が起き上がる。咲は紘汰の背中に両手を添えて、ちょうど彼の背後に立つようにして起きるのを助けた。

 

『どうした、葛葉。貴様も黄金の果実を求めるなら本気で来い』

「何でだ……俺はお前が世界を救ってくれるなら、果実なんて譲って」

『なぜ世界など救う義理がある。むしろ舞を手に入れるためだけに世界を滅ぼしても構わない。俺はそう判断した』

 

(戒斗くん、そんなにこのセカイがキライ?)

 

 咲の「世界」はこの街だ。咲はこの街が、世界が好きだ。初めての保育園と小学校に胸を高鳴らせ、学校行事では友達と遊ぶ楽しさを知った。ダンスを知って、友達を得た。

 たった11年ぽっちの人生でも、これだけのものが得られた。

 だから未来に向かいたい。もっと思い出を作りたい。

 

(でも、あたしだって、ヘキサが舞さんの立場なら、戒斗くんと同じことをしたかもしれない)

 

 咲とて「悪いこと」をしていた時期もあった。それが、ヘキサのおかげで今の室井咲となり、仲間も得た。だからこそ、未来に向かっていくならヘキサと一緒がいい。

 

(紘汰くんの味方なのは変わらない。でもあたし、戒斗くんの敵にもなれない!)

 

 ロード・バロンの杖剣が振り下ろされる――直前、咲は紘汰とロード・バロンの間に割り込んだ。ロード・バロンは杖剣を、咲の目と鼻の先でぴたりと止めた。

 

『どけ』

「どかないよ」

 

 ――先ほどの衝撃波もそうだ。戒斗は衝撃波に咲を巻き込まなかった。ならば、訴える余地はある。

 

「舞さんだってだれだって、一人のためにセカイがどうなってもいいって言ってる戒斗くんのキモチ、あたしも分かる。あたしだってヘキサが舞さんの立場なら、戒斗くんと同じことする」

『ならばなぜ止める。永遠に覆らない、過った強者と弱者の定義など、黄金の果実でもない限り覆せない』

「そんなことない。ちゃんと変われる」

『そう言い切る根拠は何だ?』

「あたしがそうだったから」

 

 その言葉が彼の琴線に触れたのか、戒斗は変異を解いた。

 

「あたしね、昔、いじめっ子だったの。ターゲットにした男子が女顔だってだけの理由で、ちゃん付けして、からかって。ただ反応が楽しかったからやった。そうしてたら、その子がダンススクールやめた後、今度はあたしがいじめのターゲットになった。でも、コリツしたその子やあたしに、ヘキサが味方してくれた。だから今のあたしがあるの。戒斗くんが認めてくれた、あたしが」

 

 咲は戒斗へ一歩踏み出した。

 

「あたしも戒斗くんが言う『ヒキョウな弱者』だったことあるの。でも、変われた。変われるんだよ! 今のままの世界でも、人は! だからおねがい、戒斗くん、あたしたちから世界を()()()()()()()!!」

 

 

 

 

 ――とらないで。

 

 思い出したのは、幼い戒斗自身の声。

 

 ――お父さんのコージョー、とりあげないで。

 

 守るものも失うものもなくなった。それでもまだ、自分自身の中に、過去という、切り捨てることができない残り滓があった。

 

 戒斗は拳を握り、咲を睨みつけた。

 

 

 

 

 

「だから踏み止まれと? そんな安い考えで止まるから、お前は真の強さには至らなかったんだ。室井咲」

 

 戒斗の返事は、拒絶の意思だった。




 咲の過去は物語中盤で固めました。本当です。本当に中盤で固めたんです。
 正直、ここまで原作最終章とドンピシャリ来ると思わなかったので作者がポカーンですよ。

 咲の過去話はなし、といつか感想返信したのですが、すみません、ご開帳してしまいました。
 ヘキサとの絆はこの事件に由来しています。
 咲が男性を「さん」付けで呼びたがらないのもこの事件に由来しています。

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