少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第123話 凌馬の誤算

 

 部外者なんていなかった――その言葉は、すとん、とペコの胸に落ちた。

 

「……ごめん」

「ううん。あたしも……ちょっと、言い過ぎた」

 

 診察室のドアが開いた。凌馬がドレッサーに、いかにも手術用具らしき物をたっぷり載せて入って来たのだ。凌馬自身、白衣に着替えていた。

 

「さて。これから舞君の中の黄金の果実を摘出する。デリケートな施術になるから、キミたちは外で待っててくれ」

 

 凌馬はドレッサーを、自分たちがいる部屋に運び込んだ。

 ペコはチャッキーともども立ち上がり、()()()()をしてから診察室を出た。

 

 

「このまま任せて大丈夫、かな……?」

 

 廊下に反響するチャッキーの声は、不安でいっぱいだ。手術するのが「あの」戦極凌馬なのだ。ペコとて不安だ。――だから。

 

「チャッキー。舞を助けよう」

「……え?」

 

 チャッキーはまじまじとペコを見返してきた。

 

「ど、どうやって。あたしたち、アーマードライダーじゃないんだよっ?」

 

 ペコはポケットから、くすねて来た「ある物」を取り出した。

 

「じゃーん」

「それっ」

 

 チャッキーは驚き、そして呆れた顔をした。

 

「あんた、最初に会った時とは大違いね」

「そうか?」

「うん。今のペコ、すごくカッコイイ。パチンコ持ってた頃から見違えた」

「……そういうことシラフで言うなよ。あとスリングショットも。俺的に、あれ黒歴史なんだから」

 

 あの後、ザックともども、しこたま戒斗から雷を落とされたのを、ペコはまだ忘れていなかった。

 

 くすくす。ここのところ心配顔ばかりだったチャッキーが、笑った。

 

 

 

 

 

 だん! だん!

 外からドアを叩く音がして、凌馬は溜息をついた。

 

「うるさいなあ。集中が欠けて手元が狂ったら、なんて考えないのかな。考えるわけないか。コドモだしね」

 

 凌馬はメスを取る前に、一度だけ舞の寝顔を覗き込んだ。

 

「どんな夢を見ているのやら。お姫様は王子様のキスをお待ちかな?」

 

 いざメスを握り、舞の白い肌を切開しようとした。

 

 

 だん! ガッシャン!!

 

 

 顔を上げる。ドアが無理やりに開き、少年と少女が転がるように診察室に入って来たところだった。

 凌馬は内心で呆れた。本当に事態を理解できていないコドモたちだ。

 

「舞をどうするつもりだ」

 

 少年のほうが先に立ち上がった。

 

「何って、黄金の果実を摘出してあげるんだけど」

「それで舞が無事ですむのか?」

「もちろん」

 

 凌馬は人好きのする嘘の笑顔で、平然と嘘を答えた。

 心臓と果実は完全に癒着している。果実を取り出そうと思えば心臓ごと摘出するしかない。

 

「ウソ」

 

 言い返したのは少女のほうだった。

 

「ほう? どうしてかな」

「あんた、全然、舞のこと心配してる感じがしない。舞なんか――他人なんかどうでもいいって顔してる」

 

 少女は苛烈な目で凌馬を睨んできた。――その苛烈さに、覚えがある。貴虎や光実もいつだったか、こんな目で凌馬を見た時があった。

 

「あんたなんかに、舞を好きにはさせねえ!」

 

 凌馬は少なからず驚いた。少年が手に持っていたのは、かつて凌馬が封印した物。腐った葡萄のような禍々しいロックシード――ヨモツヘグリロックシードだった。




 「あること」というのは、このヨモツヘグリロックシードをくすねることでした。詳細は次回で。

 ペコとチャッキーはあくまで後方サポートというのが原作での位置づけでしたが、展開として光実がいなくなったこの時、「ただの少年・少女」である彼らはどう戦うか? それを考えていたらこの展開が浮かびました。
 ヨモツヘグリ、お蔵入りにしたくなかったですしね。

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