少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

145 / 190
第105話 “ビートライダーズ” ②

 

 

 舞と光実のデュオパートに入ったところで、光実の動きが――崩れた。

 

 当然だ。光実はダンスを離れて久しい。頭が付いて行っても、覚えている通りの動きができない体になっていた。

 

 光実は足を縺れさせて尻餅を突いた。

 舞が驚いて光実の前にしゃがんだ。碧沙も駆け寄ってきた。

 

「ミッチ! ごめん、大丈夫?」

「兄さん?」

「は、い。ごめん、なさい。僕はだいじょう、ぶ」

 

 ――ごめんなさい。

 ――僕は大丈夫。

 

「ミッチ?」

「僕は、大丈夫――だって、僕の代わりに兄さんが、犠牲に、なってくれたから」

 

 フラッシュバックする。マスクを着けられて倒れた貴虎。光実を助けるためにボロボロになっていた貴虎。悪寒が全身を巡った。

 

「あ、ああ、ああああ!」

「ミッチ、ミッチ!?」

 

 敷いたレールを進ませようとする貴虎が疎ましかった。ビートライダーズを「クズ」と言った貴虎に怒った。人類選別にいつまでも悩む貴虎をふがいなく感じた。碧沙を人質に取られて傀儡とされた貴虎に幻滅した。

 

「光兄さん、おちついて…! 光兄さん!」

 

 疎ましくて、苛ついて、いっそいなければいいとさえ考えた兄。

 

 けれども、今のままでは本当にいなくなってしまう。生命エネルギーを吸い上げられて、光実のようにただの燃料として弱っていき、衰弱死してしまう。

 

「兄さん…! 貴虎兄さん! 僕が、僕が……あ、あ、ああー!!」

 

 光実は頭を抱えて泣いた。恥も外聞もなく涙を流した。

 

「わかってる! 光兄さんがのぞんでやったんじゃないって、わたし、わかってるから!」

 

 ヘキサが背中から光実を抱き締め、必死で光実を宥める言葉を言い続ける。だがなお光実は叫び続ける。まるでヘキサの声が――外界の音が欠片も届かないように。

 

 その時、別のぬくもりが、正面から光実を抱き包んだ。

 

 

 

 

 泣く光実を見下ろし、舞は呆然としていた。

 

(こんなふうになっちゃったの? あのミッチが、貴虎さんのことで)

 

 舞は思い切って自分も光実を胸に抱き込んだ。

 

 ぴたり。光実の声が、動きが、止んだ。

 

「ま、いさ、ん」

「よかった。あたしのことは分かってくれるんだね」

 

 袖が引かれる。光実が舞に縋っている。

 

「あったかい……」

「うん」

「僕だけこんなあったかいとこにいて。兄さんはもっと辛いとこにいるのに」

「でも、ミッチも辛いでしょ?」

 

 ずる。肩に置かれていた光実の額が滑り落ち、ちょうど鎖骨の下で止まった。

 

「ごめ、なさっ……ごめんなさい、兄さん…! 兄さ…ぼく、僕の、せいで…っ、うあ、あああ…!」

 

 舞は光実の頭を抱え込んだ。光実が泣き止むまで、ずっと。




 舞のおかげで光実はようやく泣くことができました。
 光実にとってそれだけ舞は大きな存在なのです。
 同時に、恋愛的な意味でなくても、仲間だからという舞の想いも、光実にちゃんと届きました。

 ヘキサの人選は正しかったわけです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。