少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第98話 Complicated

 

 貴虎はユグドラシル・タワーの真正面に立っていた。

 当然、監視の目に留まる。貴虎の見上げる先には、100ほどの低級から上級のインベスがひしめいていた。

 

(こんな場所で負けない。光実の真意がどこにあるのか確かめるまでは)

 

 貴虎は戦極ドライバーを装着し、メロンの錠前を開錠し、バックルにセットした。

 

「変身」

《 ソイヤッ  メロンアームズ  天・下・御・免 》

 

 白いライドウェアが四肢を覆い、さらにその上からメロンの形をした果実の鎧が装甲する。

 変身を終えた斬月は、腰から無双セイバーを抜き、メロンディフェンダーと共に構え、インベスの防衛線へ突っ込んだ。

 

 剣を揮い、盾を投げ、時に高速移動し、斬月は次々にインベスを屠っていく。最強のアーマードライダーはここに健在であった。

 

(真正面で騒ぎを起こせば、タワー占拠の親玉か、あるいは光実自身が出るかと思ったが。見通しが甘かったか?)

 

 また一体のインベスが斬月に迫ったので、斬月はそのインベスを素早く袈裟切りにした。

 

 

『おやめ』

 

 

 そこで斬月を襲っていたインベスらがぴたりと止まり、道を開けた。

 階段の上から降りてくるのは、翠の体表をしたオーバーロードインベス。

 

『ワタシと彼の城に傷をつけた無粋者はオマエか?』

 

 貴虎はここで変身を解除した。情報を引き出すには、あえて鎧を脱いで相手の油断を誘うのも一つの手だ。

 

「そうだ。彼、とは、呉島光実のことか?」

『そうだよ。彼が管理し、ワタシが遊ぶ。理想郷のための城だ』

「光実は……弟は人類の敵になったのか」

 

 すると翠のオーバーロードは、しばし考えるような間を置き、にたぁり、と笑った(ように見えた。正確にはオーバーロードに表情の変化はない)。

 

『オマエは彼の兄弟なのか』

「それがどうした」

『ならば礼を欠かすわけにはいかないね』

 

 翠のオーバーロードは杖槍を下ろし、大仰な礼を取った。

 

『ワタシはレデュエ。クレシマミツザネの、そうだね、パートナーだ』

「光実が人類の敵である貴様のパートナーなどになるはずがない」

 

 貴虎は大真面目に返しながらも、湊や紘汰から得た情報、何より自分たちを拒絶した光実の態度を思い出し、返答に自信を持てないでいた。

 

『それはどうかな。――付いておいで。オマエには特別に今の彼に会わせてあげよう』

 

 レデュエはあまりに無防備に背中を見せた。

 

 ここで変身して背後からレデュエを攻撃することもできる。貴虎がそれをしなかったのは、光実の現状への懸念以上に、「呉島の男」としての倫理観に依る所が大きかった。

 

 

 

 

 

 レデュエに連れて来られたのは、空のベッドを多く並べたホールだった。

 貴虎はホールに足を踏み入れる。

 

「ここに光実が?」

『ああ。あそこだ』

 

 全て使用されていないと思ったベッドの一つに、一人の人間が横たわっていた。

 スーツ姿のその少年は、マスクらしき物を着けられ、微動だにしない。そして、その少年を、貴虎が見誤るはずがなかった。

 

「光実!」

 

 貴虎はホールに飛び込み、光実が横たわるベッドに駆け寄った。

 

 近寄って、光実が着けられたマスクが何かを吸い上げていることに気づいた。貴虎は光実のマスクを外そうとしたが、外れない。

 

 貴虎はレデュエを顧みた。

 

「貴様、光実に何をした!」

『少し生命エネルギーを貰ってるだけだよ。言っておくが、これは彼自身が望んだことだからね』

 

 話し声に反応したのか、光実がうっすらと瞼を開けた。

 

「光実? 大丈夫か、俺が分かるか!?」

「……にい、さん」

 

 

 

 

 

 ああ、これは夢だ。

 

 目を開けた光実は一番に思った。夢でなければ、貴虎が自分を救いに来るなどありえない。そうさせないために、あれほど拒絶して、心を念入りに折っておいたのだから。

 

(僕が今してることがバレたら、兄さんも紘汰さんも絶対僕を止めに来る。だから来てほしくなくて、先に嫌われるように頑張って演技したんだから。だからこれは、夢――)

 

「生命エネルギーなど何に使う。貴様らは人間の生命を食い物にする種族なのか」

『まさか。我らが食らうのはヘルヘイムの果実のみ。これはね、我らが王の愛する者を甦らせるためにやっていることだ』

「王? ロシュオ……死んだというロシュオの妃のことか」

『正解。何だ、オマエ、意外と知ってるんだ』

 

 待て、と頭の片隅が警鐘を鳴らし始めた。夢にしては、光実が知らない情報が多すぎる。

 

『本当はもーっとたくさんの人間(エサ)を集めてやる予定だったんだけど、彼が自分一人にしろって言うから。まあ、人一人なんて簡単に干からびるもの。それからまた新しいエサ集めに行けばいい話だ』

 

 もしこれが現実で、レデュエの言葉が真実なら。

 光実は一体何のために独りで戦い、自分を贄にしたというのか。




 今回はマイルールを破ってかなり字数多めの回にしました。

 あえてここで「ワタシと彼の~」と言うレデュエ。貴虎兄さんの琴線逆撫でしまくり……という狙いもあるのですが、別の意図もあったりするんですよね。
 これに限らずレデュエが光実を語る時の言葉に、多少の変化があります。

 あ、あとこれは100%自分の趣味ですが、レデュエの言葉遣いを女っぽくするよう意識しました。

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