少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第95話 仲間だから許せない

 

 貴虎と再会した翌日。

 紘汰はガレージに入るなり、「貴虎は?」と尋ねた。

 

 一応は彼をビートライダーズに紹介し、このガレージが市民避難のための拠点だと伝えてあった。だからまっすぐここに来るとばかり。

 

「まだ来てないけど」

「おかしいな……店にもいないし」

 

 そこで唐突に、湊が白いスーツを翻してソファーを立ち上がった。呼びかけるが湊は止まらず、ガレージを出て行った。

 

(このタイミングで、パトロールもなくなった今、外に出るって。まさか貴虎関係じゃ)

 

 紘汰は急いで湊を追った。

 

 

 

 

「きゃう!?」

「うわ! ご、ごめん」

 

 ドアを開けた拍子に、咲とぶつかった。

 

「どしたの? 紘汰くんも湊のおねーさんといっしょにお出かけ?」

 

 そうだった、と紘汰は階段を見下ろした。まだ湊は階段の途中。

 

「ちょっと待って!」

 

 紘汰は大声で湊を引き留めた。湊は立ち止まった。

 

「貴虎の居場所。知ってんのか?」

「君がそれを知ってどうするつもり?」

「心配なんだよ! あの人もミッチのことでかなり思い詰めてるし。何かしでかしそうで」

「あの兄弟の問題は、他人が突っ込めるようなものじゃないわ」

「でも! 湊さんは行こうとしたじゃないか。それってやっぱり、貴虎やミッチが心配だからだろ」

 

 湊は意表を突かれた様子で紘汰を見返した。

 やがて湊は観念したように溜息を吐き、スマートホンを出してあるページを紘汰に見せた。

 

「主任からの非常回線メッセージ。何かあったらここが回収場所だってね」

「回収」

「主任か、弟君か、両方か。私は分からないけど」

 

 湊は紘汰のスマートホンに貴虎のメールを転送した。紘汰はスマートホンをきつく握りしめた。

 

「そんなこと……させねえっ」

 

 紘汰は咲をふり返った。

 

「光実くんと貴虎お兄さん、どうかしたの」

「分からない。でも、放っておいたらどっちも危ねえ」

「じゃああたしも行く!」

「ああ。急ごう!」

 

 紘汰と咲は、湊を抜き去って階段を降り切り、走り出した。

 

 

 

 

 紘汰はサクラハリケーンの後ろに咲を載せて、ハンドルを繰り、ユグドラシル・タワーへ急いでいた。

 

『水を差すような真似はやめてほしいね』

 

 紘汰は急ブレーキをかけ、ヘルメットを外した。

 裳裾と宝石飾りをひらめかせ、レデュエが紘汰と咲の前に立ちはだかったのだ。

 

『血を分けた者同士が互いに互いのために傷つくなんて、最高の娯楽だよ。そっと見守ってやるのがマナーじゃないか。しかも弟のほうは生命力を抜かれて死体同然。ふふふ。そのことを教えてやった時のあの兄の顔は最高だったよ』

「てめえ…ッ!!」

『弟のほうはもう終わりが近い。ワタシがサルどもを攫えないようにと考えたようだが、あいつが干からびてから、また新しいエサを調達すればいいだけの話だっていうのに。本当、詰めの甘い男だよ。ふふふふ』

 

 ぶつん、と。

 紘汰の中で何かの糸が切れた。

 

「紘汰くん。止めないで」

 

 バイクから降りた咲の小さな手には、ヒマワリのロックシード。使えば使うほど咲の成長を損ねていくモノ。

 

 だが、紘汰は咲に言われた通り、今回ばかりはこの子を止めようとは思えなかった。光実を嘲笑うレデュエを全力でぶちのめしたいという気持ちは、自分も咲も変わらないと感じ取ったのだ。

 

 紘汰は戦極ドライバーを装着し、カチドキロックシードを取り出した。




 怒りっぽい咲はともかく、さすがの紘汰もブチ切れました。
 少なくともヒマワリのことが頭から飛ぶくらいにはブチ切れました。

 さて。皆様、ここでレデュエの台詞が若干違うのにお気づきでしょうか?
 展開の都合上、先に紘汰・咲の話をしましたが、レデュエはここに来る前に呉島兄弟にとんでもないことをしているのです。

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