少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第89話 憎まれていた?

 

 咲たちはいつものように“ドルーパーズ”にて昼食を取っていた。一緒にいるのは紘汰に戒斗、それに湊だ。

 

 戒斗と湊の食事が終わる。彼らは先にガレージに戻ると言って店を出て行った。

 

「紘汰くん、たべないの?」

「ん~、今日は朝から食ってないはずなんだけど。腹減らねえんだよなあ」

 

 そこへ、店のドアが開閉する音がした。

 戒斗たちが忘れ物でもしたのかとふり返ると、入ってきたのは、光実だった。

 

「紘汰さん。話があります」

 

 紘汰は戸惑いを浮かべたが、それよりも光実と再会できた喜びが勝ったようだった。紘汰はスプーンを置いてカウンター席を立った。咲も紘汰を追いかけようとした。

 

「ごめん。咲ちゃんは遠慮してもらえるかな? 二人きりで話したいんだ」

「え……あ、うん」

 

 そう言われては咲も引き下がるしかない。

 

 紘汰と光実が“ドルーパーズ”から出て行った。少しの不安は残ったものの、咲は再び食事に専念した。

 

 

 

 

 

 高架下まで来て、ようやく光実は口を開いた。

 

「紘汰さん。面白い話を聞いたんです。咲ちゃんのヒマワリアームズについて」

「! どんな話だ!?」

 

 大人になれないかもしれない。今でも忘れられない湊の宣告。それを光実の「面白い話」が覆してくれたなら。紘汰はそんな希望を抱いた。

 

「まずフェムシンム――オーバーロードは、あの子みたいな存在を『ジュグロンデョ』と呼ぶそうです。意味は、天翔ける者。闘争の時に、勝者になる者のそばに現れる。オーバーロードの伝承では、ジュグロンデョが付いた戦士は、時代を統べるも同然の勝利を得ると伝わっているそうです。僕ら風に言うなら、勝利の女神ってとこですね。そして今。その小さな女神は紘汰さんのすぐそばに付いてる」

「ミッチは、その勝利の女神ってのが、咲ちゃんだって思ってんのか?」

「状況証拠的にはね。――紘汰さん。ここまでで何かおかしいと思いませんでした?」

「え?」

「何で僕がオーバーロードの伝承まで知ってるか」

「いや、今日まで連絡なかった間に、タワーに忍び込んで盗み聞きでもしたのかなって」

「……ほんっと、都合のいいように物を考えますよね、あなた」

 

 光実は長い溜息をついた。紘汰は気まずくなる。自分は楽観思考だとある程度の自覚はしているが、光実をここまで呆れさせるほどだったのか。

 

「僕がオーバーロードと繋がってるスパイで、情報を直接聞いた、って可能性は考えないんですね」

「いやミッチはそんなことしねえだろ」

「そういう所が――」

 

 タン。高架下に、革靴が大きく一歩を踏み出す音が反響した。

 

「甘いんですよ、あなたは!!」

 

 頬にひどい衝撃が走り、口の中が血の味でいっぱいになった。紘汰はその場に尻餅を突いた。

 

(今、ミッチが俺を、殴った?)

 

 呆然として光実を見上げた。光実は今まで見たこともないほど冷たい目をしていた。

 

「誰も彼も懐に入れて疑おうとしない。そういうとこ、尊敬してたけど、同じくらいむかついた。いつ掌返されるか分かったもんじゃないのに。ビートライダーズの頃からそうだった。僕や裕也さんがどれだけ気を揉んだか、あなたは知らないでしょうね」

 

 光実が取り出したのは、ゲネシスドライバーと、メロンエナジーのロックシードだった。

 思い出す。廃工場におびき出され、何も語らない斬月に襲われた日を。

 

「お前、だったのか――?」

 

 どうして。どうして。どうして。紘汰の頭にはその想いしかなかった。

 

「僕はね、紘汰さん、あなたに振り回されるのに疲れたんです」

 

 光実は笑って、メロンエナジーの錠前をドライバーにセットした。

 

《 メロンエナジーアームズ 》

 

 光実があの白いアーマードライダーへと姿を変える。ここまで来て事を楽観できるほど、紘汰も常識を失ってはいなかった。




 正確には拙作での斬月・偽は湊さんなのですが、なぜか否定しない光実。その意図、もうお分かりですよね? そうです。湊の分も泥をかぶろうとしてるんです、この子は。
 そして、大体原作通りの展開ですが、拙作の光実をご存じの皆様なら、彼が腹の中ではどう考えているかもお分かりいただけると思います。

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