少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第85話 奪われた友

 

「俺は……お前になら、黄金の果実を譲っていいと思ってる。お前の戦いが何であれ、手に入れた力で世界を救ってくれればそれだけで」

 

 がちゃん! 戒斗は乱暴にコーヒーカップをソーサーに置いた。

 苛立たしかった。

 すでに黄金の果実を手にするのは自分だと言わんばかりの紘汰の言い方が。

 なぜ戒斗が苛立っているのか分からないという紘汰の表情が。

 

「そんな甘い考えでは、どの道、黄金の果実を手にすることはできない。無意味な取引だな」

 

 寝た咲を起こさないように配慮したわけではないが、声は低くなった。

 

 粘ついた沈黙が店内に流れる。

 それを破ったのは、誰も点けていないのに一人でに点いた店のテレビだった。

 

 

《全世界の人間たちに告ぐ。ワタシはフェムシンムの将、レデュエ。お前たちサルどもの新しいご主人様だ》

 

 

 画面に映っていたのは、戒斗たちは初めて見る、翠のオーバーロードだった。

 

 レデュエと名乗ったオーバーロードは、ヘルヘイムの植物の侵攻を速め、1年以内に地球をヘルヘイム化させると宣言した。加えて、降伏した者の命は保証する、ただしレデュエの「オモチャ」として。

 

 

「オーバーロードはあんな奴ばっかりかよ!」

 

 紘汰がカウンターテーブルを叩いた。その衝撃と音で、むくりと咲が上半身を起こした。

 

「んあ…あたし、ねてた? ――どしたの? 紘汰くんも戒斗くんも、こわい顔」

 

 紘汰が説明しようとする前に、店のドアが激しく開けられる音がして、一人の少女が飛び込んできた。

 

「だれか、だれかいませんか!?」

 

 見覚えがある少女だ。名前は知らないが、チームリトルスターマインのメンバーの小学生だ。

 

「トモ!」

 

 咲が完全に覚醒し、カウンターチェアから飛び降りて、トモと呼ばれた少女を迎えた。

 トモは咲に飛びついた。

 

「咲……! おねがい、たすけてっ。うちにとり残されたひとがいるのっ」

 

 

 

 

 

 

 トモの実家は硬筆や茶道などの文化教室を営んでおり、門下生の避難所代わりに道場を開放していたのだという。そこに大量のインベスが現れた。

 

 トモだけは、体の小ささを活かしてあちこちの裏道を通って、アーマードライダーの集合率が高い“ドルーパーズ”まで助けを呼びに来られたのだとか。

 

 咲たちが駆けつけた、立派な日本家屋から、インベスが次々と人を乱暴に連れ出している。

 

 咲は一番に前に出て戦極ドライバーを装着した。

 

「よくもあたしの仲間んちに手ぇ出してくれたわね……! 変身!」

「「変身!」」

 

 咲はドラゴンフルーツ、紘汰はオレンジ、戒斗はレモンエナジーの甲冑をそれぞれ鎧う。そしてすぐさまインベスの群れに斬り込んだ。

 

『トモははじっこにいて!』

 

 言いながらDFロッドでインベスを殴りつけた。一般人が多いこの場でDFボムは使えない。

 

 鎧武とバロンもまた、無双セイバーやソニックアローでインベスに斬りつけて蹴飛ばし、トモの家の門下生を逃がしていた。

 

(3人がかりでも、人をたすけながらって、けっこーしんどい……かも!)

 

 月花はDFバトンをインベスに突き出し、また1体のインベスから門下生を解放した。

 

「きゃあああっ」

『トモ!?』

 

 気づけば、屋敷の陰から低級インベスに引きずり出されるトモの姿があった。

 

『このっ……かえせえ!』

 

 DFロッドを二つに分けてバトンに戻し、インベスに殴りかかろうとした。だが、トモを抱えていることもあり、上手く攻撃をくり出せない。

 

「わたしはいいから! 咲! うちの人、おねがい!」

『できない!』

「できる! あなたリーダーでしょ!?」

 

 ぐ、とトモの言葉に踏み止まった。

 周りではトモのように今にも攫われそうな門下生や家人。

 

『~~っだああああ!!』

 

 月花は叫びでトモだけを助けたいわがままを殺し、インベスにDFバトンで殴りかかった。

 

 

 

 

 

 粗方のインベスが片付いたところで、月花は周りを見回す。

 ――トモはいなかった。連れて行かれてしまった。

 

 自分で自分を殴りたかった。




 何で晶さんにしなかったかって? ふふふ。それは後のお楽しみ。

 そして皆様。お忘れかもしれませんが、咲も「リーダー」なのですよ。小学生の仲良しグループとはいえ、この子もリーダーである以上、助けるべき対象が限られてしまいます。
 本音では友達を一番に助けたいのに、できない。まだコドモなのに。
 辛いところです。

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