少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第77話 変身! 其は太陽に向かう花

 

 石畳を突き破って火柱が上がった。月花たちはその勢いに後ろに吹き飛ばされた。

 

『きゃう!?』

 

 火柱が晴れたそこに立っていたのは、両肩と額の角がより鋭利となった、赤いオーバーロード。

 

『サあ、まトめて引導ヲ渡しテやル』

 

 

 

(そんな。あんだけインベスと戦って、みんなヘトヘトなのに。その上オーバーロードなんて。勝てっこないよ。ない、けど)

 

 ここで倒れたら、沢芽市は破壊される。

 親が、リトルスターマインの仲間たちが、ダンススクールの講師がいる、

 家が、学校が、ダンススクールが、野外劇場がある、

 この街が。

 

 月花は体を起こした。相手は一人。一度に攻撃しても互いの威力を殺してしまう。ならば、とバックルに手を伸ばす。

 周りの彼らも同じことを考えたようだった。

 

《 レモンエナジースカッシュ 》

《 クルミオーレ 》

《 ドリアンオーレ 》

《 ピーチエナジースカッシュ 》

《 ドングリスパーキング 》

《 ドラゴンフルーツオーレ 》

 

 六色の衝撃波が360度をカバーし、赤いオーバーロードを襲った。

 6人分のアーマードライダーのソニックブーム。これを受けてはさすがのオーバーロードもダメージがあるはず。

 

『無力、あまリニ無力!』

 

 しかし赤いオーバーロードは、ソニックブームを体表に矯め、360度全方位に弾き返した。

 

『ぐあっ!』

『ああっ!』

 

 それだけに留まらず、赤いオーバーロードは手に顕した火球を回し投げし、月花たち全員を襲った。赤いオーバーロードは倒れた月花たちを見渡し、哄笑した。

 

(たおれちゃ、ダメ、ダメなの、に)

 

 月花は地べたを這いずり、起き上がろうと四肢に力を込める。けれどそのたびに四肢には痛みが走って、立てない。

 

 皆も立てない――――皆が?

 

 

(まだ、ある。とっておき。すごいイタイけど)

 

 

 ヒマワリのロックシードを出す。

 ためらいは一瞬。

 月花はヒマワリの錠前を開錠し、バックルにセットした。

 

《 カモン  ヒマワリアームズ 》

 

『! 室井!?』

『そのアームズは!』

 

《 Take off 》

 

 ドラゴンフルーツの鎧が粒子と散り、ヒマワリの鎧が頭上から落ちて月花を変形させる。

 ライドウェアの模様が(あか)から(あお)へ塗り替わる。背中と足から咲き広がる、鋼の花びらを連ねた機動翼。

 

 フォームチェンジが終わると同時、月花は宙へ舞い上がり、上から赤いオーバーロードに蹴りつけた。

 赤いオーバーロードが月花のキックの衝撃に負けて下がる。

 

『まだ勝ったなんて思わないでよ』

 

 赤いオーバーロードが雄叫びを挙げて月花に斬りかかる。月花は機動翼――ヒマワリフェザーを最大まで伸ばして前面へ出し、迎撃した。

 

(このツバサ、刃物としても使える!)

 

 どうやらヒマワリアームズは武器がない代わりに、翼を機動兵器とするらしい。

 

『小賢しイ!!』

 

 赤いオーバーロードはヒマワリフェザーに杖剣を叩きつける。一撃一撃が重い。月花自身にダメージはないが、押されて下がっているのが自分でも分かる。

 

『~~っまだよ!』

 

 月花は腕を振り抜く勢いに乗せてスピンした。広げたヒマワリフェザーが竹とんぼのように回り、杖剣を弾き返した。その隙を逃さず、バク転して両足の機動翼で下から斬りつけた。赤いオーバーロードの硬い甲殻に細い二筋の切り口が奔る。

 

 中空へ舞い上がり、赤いオーバーロードから距離を取る。

 

(イタイ。イタイ。イタイ)

 

 室井咲の全身には痺れるような痛みが巻き起こっていた。夜中に訳もなく手足が痛くなる現象――そう、成長痛と全く変わらない苦痛だった。今の咲を支えるのは、気力、それのみだ。

 

(あたしは、おちない。おちるもんか。うしろにみんながいるかぎり)

 

 

 最初で最後のインベスゲームをした、戒斗。

 策士を気取るくせに結局はただのダンス好きな、城乃内。

 舞やリトルスターマインの仲間を笑顔にさせるケーキを作る、凰蓮。

 街を壊すインベスを共に何度も退けた、ザック。

 今こうして助けてくれている、湊。

 

 ぜんぶ、ぜんぶが、室井咲にとって守りたい思い出(ひとたち)だ。

 彼らを背にして、どうして墜ちることができようか。

 

 

 痛みがうるさい頭だったから、聴こえた足音も最初は幻聴だと思った。

 けれど、その一歩一歩を駆けてくる音は、いつまでも強く鼓膜を叩いて。

 

 顔を上げた先にいた人物を見て、月花は泣いてしまいそうになった。




 ヒーローは遅れてやって来る。咲にとっての「ヒーロー」も然り。

 前半は原作そのまんまですが、紘汰が来る前にデェムシュvsヒマワリ月花を入れてみました。
 これ実は、咲が加わったことで、紘汰が来たら七色、つまり虹の色になるんですよね。ちょっとだけ自分も感激しちゃったり。

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