少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

11 / 190
第11分節 高司夫妻 (2)

 

 咲は出されたお茶を啜って心を落ち着ける。

 

「ふたりは神社で働いてるの?」

「うん。あたしは巫女と神主見習い。ミッチは奥様に付いて裏方全般。ミッチ、細かい段取り上手なんだよ~」

「僕なんて奥様の足元にも及びませんよ」

「……あの~、聞いていい?」

 

 咲はおずおずと手を挙げた。

 

「何でふたりともわざわざ沢芽市出てったの? 今はどこ行ってもヘルヘイム化が進んでるのに」

 

 これには舞があっけらかんと答えた。

 

「いわゆる、かけおちってやつね」

「か、かけ、かけおちぃ!?」

 

 そろそろ咲の中で色々な何かがオーバーフローしそうだ。

 

 

 

 光実と舞の話を総括すると、こうだ。

 

 ――チーム鎧武の頃から舞が気になっていた光実は、状況や心理戦を駆使してとにかく舞にアプローチした。

 舞もヘルヘイム侵食からの世情不安があってか、光実の交際申込みについに肯いた。

 

 だが、問題は恋仲になってからだった。

 光実の厳しい兄・貴虎が、光実本人が選んだとはいえ、社会的後ろ盾もない一介の女子との交際を認めるはずもない。ましてや結婚など不可能に近い。

 そして貴虎がその気になれば、呉島の家の力は沢芽市全体に及び、光実はたちまち囚われる。逆ロミオとジュリエット状態だったのだ。

 

 若い二人の決断は速かった。光実と舞はかけおちしたのだ。

 

 そこから各地を行ったり来たりをくり返し、苦労に苦労を重ね、この町の神社に辿り着いた。

 

「ちょうど結婚式の日で、『ああいうのいいねえ』って言ってたんだよね」

「そのまま参拝するでもなくずーっと境内にいたんで、神主(せんせい)が声かけてくださったんです。きっと変なカップルって思われたんでしょうね」

 

 神主夫妻は光実と舞の事情を聞くと、二人に神社で働くことを勧めた。神社には跡目がおらず、これも神様の結び合わせた縁だ、と言って。

 

 

 

「げ、激動の半生……」

「今は、あたしは、お世話になってる神社の神主やれるように」

「僕は、将来神主になった舞さんをサポートできるように、神社の裏方のノウハウを勉強中です」

 

 そこで光実は隣の舞を、顔を赤らめて見た。舞も心得てか、光実が出した手に手を重ねた。らぶらぶである。当てられそうだ。

 

「その『将来』もまずはヘルヘイムをどうにかしねえと来ないからな。新婚早々悪いけど、ミッチには俺の仕事を手伝ってもらってる」

「ミッチがいないと紘汰は採算度外視だもんねえ」

「目の前で人がインベスに襲われてるの見たら放っとけねえだろ」

 

 葛葉紘汰の性向は9年経っても変わっていないらしい。その上、かけおちなどした光実と舞への接し方も、温かく明るいまま。何よりそのことが咲を安堵させた。




 この夫婦の紹介だけは読者様方を「えー!?」と言わせたくてかなり書き溜めてから投下しました。驚いて頂ければ幸いです。
 そして貯金(書き溜めた分)を一気に上げたので次の更新までちょい間を置きます。申し訳ございません。

 こんな形のミッチの幸せもアリだと思ったんです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。