少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第63話 ロシュオとの邂逅 ②  8/27加筆

『お前がこの森を探る者たちの長だな?』

「そうだ――いや、そうだったと言うべきか」

 

 貴虎はなりゆきとはいえ職場を放棄した。それ以前に、凌馬たちから事態に関わるなと脅され、プロジェクトアークを押しつけられた傀儡と化した。

 裏切りは、どちらが早かったのか。

 

「お前は何者なんだ」

『我らはフェムシンム。かつてこの世界に栄えた民の末裔だ』

 

 息を呑んだ。ではこれが、凌馬たちが、そして貴虎が探し出そうとしていたオーバーロードインベス。このヘルヘイムの森の支配者。

 

「フェムシンムっていうんですか、おなまえ」

 

 がくり。碧沙の問いはあまりに平和的だった。

 

『それは民の名だ。我が固有の名はロシュオ。かつて民の王であった』

「何故私たちの前に現れた」

『聞いてみたくなった。ジュグロンデョを連れたお前の話を』

「じゅぐ……?」

『我らにとっての“天翔ける者”だ』

「へ~。オーバーロードのコトバってオモシロイねっ」

「ねえ」

 

 この少女と妹は本気でそう思っているらしい。

 

 未知は面白さ。奇妙は楽しさ。――そういう感性を貴虎が失くしたのはいつの頃だった?

 

 

 ――“えー!? 何で!? 分からないほうがワクワクするじゃないか!”――

 

 

(ああ。そう思えなくなったから、凌馬の心は俺から離れて行ったのか)

 

『ジュグロンデョよ。お前たちはかつて我らの前にも現れた。お前の姿と、お前の翼を持つ者が、かつて私を民の王と定めた。太陽の花の翼を翻し、天よりの使者のようであった』

 

 碧沙の容姿と、咲の翼。

 

(そういえば、初めて変身実験に成功した時、妙な夢を見た)

 

 

 ――“ あなたは 運命を選ぼうとしている ”――

 

 

 白い女が現れ、貴虎に告げた。まるで変身に警鐘を鳴らすように。

 あの白い女と碧沙は雰囲気が似ているし、翼を持つなら、咲のヒマワリフェザーが最も似合う。

 

 するとロシュオは何かを取り出した。黒光りするそれは、まぎれもなく量産型のドライバー。しかもカッティングブレード付きということは、トルーパー隊の装着物だったに違いない。

 

『この道具の使い方を』

 

 差し出された量産型ドライバーを受け取った貴虎は、碧沙と咲をふり返った。咲は戦極ドライバーを持っている。ならば。

 

「碧沙、着けなさい」

「え、わたし?」

「“森”に入ってから何も食べてない。腹が減ってるだろう?」

「で、でもそれは、兄さんだっておなじじゃないっ」

「俺はいい。元から食は細いほうだし、大人だから、一食抜いても死ぬほどじゃない。だがお前は育ち盛りの子供だ。兄さんの心配を一つ減らしてくれ」

 

 碧沙は悲しげに眉をひそめたが、黙って量産型ドライバーを受け取り、腹に装着した。

 

「いい子だ」

 

 貴虎は碧沙に向けて微笑んだ。もうずいぶんと笑顔など忘れていた気がするのに、この妹は容易くそれを思い出させてくれる。

 

「ヘキサ、これっ。とちゅうでとったのイッパイあるよ」

「ありがと、咲」

 

 碧沙は咲からロックシードを一つ受け取り、覚束ない手つきでバックルにセットした。

 

「こうで、いいのかしら」

「そうそう。よかったぁ。これでヘキサもお兄さんもおなかだいじょーぶだね」

 

 貴虎はそれらを見届けてから、ロシュオを改めてふり返った。

 

「こうすることで、実を食べることなく、養分だけを体に取り込める」

『なるほど。よく出来ている』

 

 ひげを撫ぜるような仕草をしてから、ロシュオはこちらに背を向けた。

 ここで去られては堪らない。貴虎はすぐさま、碧沙と咲を連れてロシュオを追った。

 

 

 

 着いたのは、石で隔離された小ぢんまりとした一画。

 そこに石の玉座があり、ロシュオはそれに座った。




 ヘキサの秘密の次は咲の秘密です。もっともこれは咲自身のというより、咲を取り巻くものの問題という感じですが。
 実は勝利の女神的存在だった咲なのでした。

 そしてまず妹の空腹を心配して妹にドライバーを渡す貴虎さんマジ貴虎さん。

 貴虎のとこに始まりの女が現れたというのは完全なる捏造です。これで実は接触なしだったら作者はorzになります。

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