少年少女の戦極時代Ⅱ   作:あんだるしあ(活動終了)

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第61話 答え合わせ side湊

 

 「斬月」は廃工場の裏へ出るなり変身を解いた。翡翠色の粒子が空中に融け、湊耀子の姿が露わになる。

 

(自分用じゃないアームズで動くと、やっぱり疲れる)

 

 こういう時、湊は、凌馬がどれだけ丹精込めてゲネシスドライバーを作り上げたかを思い知る。

 ゲネシスのアームズは装着者に合わせて細かい調整がされている。湊のため、シドのため、そして貴虎のため。

 

 科学者というよりは、まるで職人のように。

 彼の普段からは想像もつかないほど、その指先は真摯に。

 

(そんな人だから、主任から乗り換えた意味がある)

 

 かつて主任と呼んだ人のゲネシスドライバーを見下ろし、湊耀子は笑んだ。

 

 

「何かいいことでもあったんですか」

 

 

 湊は顔を上げて、声をかけた人間を見返した。

 

「退院おめでとう。もう出歩いていいのかしら」

 

 答えず問い返した先には、呉島光実がいた。

 

「ありがとうございます。おかげさまですっかり元気ですよ」

 

 自分を射た湊への恨みはみじんもない声色だ。

 

「そのロックシード、兄さんのですよね」

「まあね。もう知ってるかもしれないけれど、呉島主任は妹さんごと室井咲に拉致されて行方知れずよ」

「だから湊さんが兄さんの代役?」

「ええ。プロフェッサー凌馬の手をこんなことで煩わせるわけにはいかないもの」

「本当にそれだけ?」

 

 す、と光実の目が細まった。

 

「何が言いたいのかしら」

「だって湊さんが兄さんのフリをするのは、一番無理があるやり方だもの」

「――どうして?」

「あなたは女の人で、兄さんは男だから」

 

 太陽が東から昇って西へ沈むものだと語るような口調。

 

「戦えば密着のリスクは上がる。失礼な言い方だけど、胴当てでごまかせるほど、湊さん、胸、なくないでしょう? 本当なら戦極凌馬かシドが代役で然るべきなのに、あなたが出てきた。戦極凌馬は元々こういうことには関わらない性格だ。そしてシドが出てこない。つまり」

 

 黒々とした目がひた、と湊に合わせられた。

 

「シドが裏切った。今そちらの戦力はあなたと戦極凌馬の二人だけ。ちがいます?」

 

 湊は、ふ、と口元を緩めた。

 くすくす。笑いが零れる。この程度の推理を当てたからといって、この少年は何を勝ち誇っているのだろう。おかしくて堪らない。

 

「だから何? それを葛葉紘汰に伝えて主任との仲を取り持つ?」

「いいえ」

「あら?」

「あの人は、人を信じすぎる。兄さんみたいに。一度痛い目を見たほうがいいんだ」

 

 まったく困ったとばかりに腕組みをして顔をしかめる光実は、大袈裟以外の何物でもなく、湊はさらなる笑いを催した。

 

「意外にいじわるなのね」

「試練ですよ。紘汰さんにも、ちょっとは他人の『立場』ってものを知ってもらわなくちゃ。あの人はいつも自分の考えばっかり優先するんだから」

 

 詰まる所、呉島光実は、ユグドラシルからビートライダーズへのスパイという立場を崩さないということだ。諜報の「ついで」にちょっとやることがある。それだけなら可愛いものだ。

 

「今から会社に戻るけど、一緒に来ない? プロフェッサー凌馬もあなたが退院するのを待ってらした一人だから」

「挨拶ですか。いいですよ」

 

 湊は車のキーを出して、車を停めてある駐車場へ向かった。光実は微笑みさえ浮かべて湊に付いて来た。




 ふっきった光実の行動開始です。パッと見ユグドラシル側ですが、彼の心はどこにあるのか。これは読者様の想像で大体アタリだと思いますよ(*^^)v

 この頃はまだ凌馬一筋の湊ねーさんです。まさかあんなこと(ヒント:ロケット)になるなんて作者も思わなかったんですよ(T_T)

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