切り裂きジャック〜乱世を斬る〜   作:東奔西走

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良いサブタイトルが出てこないので、仮としてのサブタイトル。



第六話 乱波

美濃領

 

 

 

美濃へ進行し、「十面埋伏の計」という竹中半兵衛の用兵により打撃を受けた織田軍はやむなく撤退。

それから兵を休息させるための一週間が過ぎた。

 

一週間我慢した信奈はすぐさま美濃へ再度進軍を開始。

木曽川を前回と同じように渡ると、そこからは違う路を行軍することになった。

 

 

「伏兵にあわないよう、今回は美濃兵が兵を伏せられない平原を進むわよ」

 

 

伏兵に最大の注意を払いながら進軍することにした信奈。

斥候や進軍路一帯の焼き払い、守りの陣形「方円の陣」でのゆっくりな進軍。

過度なまでの伏兵への警戒をしており、そして極めつけは部隊編成だった。

 

 

「姉上は死に兵なんて言ってたけど、それでもこの津田信澄は先鋒としての役目を全うしてみせる!」

 

 

先鋒は信奈の実弟で尾張最弱である津田信澄だった。

信澄が自分でも言っているように、信奈はいつ半兵衛の罠が来てもいいように死に兵として信澄を先鋒においていると口では言っている。

だが、実際は信澄のことを心配しているが素直になれないだけなのだ。

だからなのか、信澄と共に先鋒を務めているのは、一回目の進軍の時に一人で殿をやりとげた雷電である。

 

 

「ずいぶんとやる気じゃないか信澄」

 

「雷電殿、ぼくぁ囮とはいえ姉上の役に立てるのがうれしいんだ」

 

「健気なことだな」

 

 

やる気を見せる信澄に雷電は微笑えみで返す。

雷電は前向きで底抜けに明るい信澄に好感をいだいていた。

一子の父親である雷電は、息子のジョンにもこのように明るい子供になってほしいものだ、と感じていた。

女装趣味やおバカなところは別だが…。

ともあれ、雷電は信澄を信奈の命令抜きで守ってやらねばという考えていた。

 

そんな明るく振る舞っていた信澄もしだいに狼狽えはじめた。

前回同様に急に霧が出はじめたのだ。

 

 

「前回といい、今回といいこの霧…、いやな予感がするな」

 

「変なこと言わないでおくれよ雷電殿!」

 

「あぁ、すまん」

 

 

だが、雷電の予感は的中した。

ますます霧が濃くなっていき視界を遮りはじめる。

もうどこへ向かっているのかもわからない。

 

その状態でいくらか進むと目の前に無数の石塔が立ち並ぶ奇妙な場所へと入り込んでしまった。

「な、なんだい、ここは?」と信澄はさらに狼狽える。

雷電も信澄もここが危険なところであることを本能的に察知した。

 

だが、すでにこの空間に迷い込んでしまっているため戻るに戻れない。

そうこうしている間にも続々と尾張兵が入り込んでくる。

それが信澄をより焦らせた。

 

 

「たたたいへんだ。このままじゃ、姉上たちをこの迷路に引き込んでしまう!早く脱出しないと!!」

 

 

パニックに陥った信澄はがむしゃらに走り出してしまう。

 

 

「待て信澄!無闇やたらに走りまわるな。余計に迷うぞ」

 

「だって、このままじゃ!」

 

 

結局、迷路からは脱出できず、信奈たちを誘い込むことになってしまった。

信澄の元に信奈や良晴といった面々が集まりだし、いよいよ信澄は半べそ状態になる。

 

 

「この迷路は何なの?これも半兵衛の罠?万千代、わかる?」

 

「はい、これはおそらく"石兵八陣"。かの諸葛亮が得意としたものです」

 

 

石兵八陣

別名"八陣図"とも言われる、三国志の諸葛孔明が得意とした計略。

これには奇門遁甲の理に従った八つの門がある。

休門、生門、傷門、杜門、景門、死門、驚門、開門とあるらしいが、長秀が言うには自分たちは入れば助からないという死門から入ってしまっているという。

 

 

「何が死門よ!必ず出口はあるはずよ、雷電なにか手はない?」

 

「上からこの迷路を見れば出口がわかるんじゃないか?」

 

「上からってどういう意味、雷電…、あれ雷電は?」

 

 

雷電の言っている意味がわからなかった信奈は雷電に聞き返そうとしたがそこには雷電がいなかった。

信奈はすぐ傍で上空を見上げていた犬千代に聞いた。

 

 

「雷電は?」

 

「…上」

 

 

犬千代は上空を指さす。

言われたとうり上空を見てみるが霧が濃くて何も見えない。

「何も見えないわ」と当惑して眉を顰めながら、信奈が言おうとした瞬間…

 

 

シュタッ

「駄目だ、霧が邪魔で何も見えない」

 

 

信奈の目の前に上空から雷電が降ってきた。

 

 

「……彩防具ってなんでもありなのね」

 

「もう雷電殿が何をしても驚きません。68点」

 

「仕方なぇ、こういう迷路は壁に沿っていけばいずれ出られるもんだ」

 

 

良晴が迷路脱出の常套手段を取ろうとしたときである

 

 

どばぁ———。

 

 

良晴が言い終わるのと同時にどこからか水が溢れだしてくる。

瞬く間に人馬の腰まで水位が上がってしまう。

 

 

「木曽川の水が引き入れられたようです!?」

 

「このままじゃ、溺れちまう!壁に沿ってなんて悠長なことしてられない!」

 

「俺に任せろ。溺れる前に全員迷路の外へ投げ飛ばす」

 

「ちょっ!?雷電さん俺を持ち上げないで、そして振りかぶらないで!!」

 

 

投げ飛ばすという力任せの手段を考え付いた雷電は一番近くにいた良晴の襟首を片手で持ち上げ、振りかぶる。

余談だが、生身だったころの雷電はどちらかというと慎重派で繊細な人物だったのだが、サイボーグになってから行動な著しく大胆なものになってしまったのだ。

 

黙って投げ飛ばされるわけもなく、良晴は必死の形相で暴れまくるが、雷電は止まる様子が無い。

見かねた長秀が雷電を止めに入った。

 

 

「雷電殿、あなたが投げた先が"石兵八陣"の外とは限りません。それにあなたに投げられたら無事では済まないでしょう。0点です」

 

「———冗談だ」

 

「嘘つけ!雷電さん目がマジだった。長秀さんに止められなかったら実行してただろ!!」

 

「少なくても迷路を脱出する程度まで遠くに飛ばせる自信はあったんだが、無事で済むかどうかはあまり考えてなかったんだ。痛いところをつかれたな」

 

「おい!?」

 

「あんたらふざけてないでここから脱出方法を考えなさい!」

 

 

ふざけている間に水の水位がどんどん上がってくる。

みんな上下左右に暴れまわる大混乱となっていた。

勝家や信澄は完全に混乱しており、「自分責任とって切腹します!」と言い出す信澄を何とか落ち着かせ、信奈はみんなを鼓舞させるために、ある提案を出した。

 

 

「みんな聞きなさい!稲葉山城をとったものは恩賞自由よ。どんな恩賞も思いのまま!」

 

「その話、乗ったあぁ!」

 

 

信奈の提案に真っ先に食いついたのは、信奈と長政との縁談を破断に終わらせようとしていた良晴だった。

そこからの良晴の行動は早かった。

腕を組んでうんうん唸りながら長考していると思いきやいきなり自分の相棒である蜂須加五右衛門を呼び出し。

 

 

「五右衛門、石塔をひっくり返して、足場を作れ!石塔が無くなりゃ迷うこともねぇだろ」

 

 

と次々と石塔を壊させはじめたのだ。

雷電も良晴の意図に気づき、五右衛門と共に石塔を切り崩しにかかる。

そこに勝家や犬千代なども加わり、次々と石塔を壊して足場にしていった。

おかげで"石兵八陣"はただの平地へと変わりはてていく。

 

良晴の破天荒ともとれる考えにより、"石兵八陣"の効果を無効にすることができた。

 

迷う原因であった石塔を壊すことにより、なんとか"石兵八陣"から無事脱出できた尾張軍勢は再び清洲に舞い戻ることとなったのだった。

信奈の二度目の敗北である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

清洲城下

 

 

 

二度目の美濃進軍から撤退して翌日、雷電は元の時代に戻れる手段がないかいろいろと情報を集めていた。

家臣になったばかりのころなどはまだ警戒されていたので、思うように情報を集めることが出来ずにいた。

しかし、一部の者たちのおかげで雷電の誤解が解け、みんな友好的になっている。

 

 

「白鬼さん、おはようございます」

 

「あぁ、おはよう」

 

「白鬼さん、今度うちの店に来てください!贔屓にしますよ」

 

「今度伺わせてもらう」

 

 

町中を歩けば声をかけられたりするようになりはじめた。

今では盗賊から守ってくれた存在として、ちょっとした人気者である。

最初は恐怖の与えていた名称だった"白い鬼"も、今では雷電の愛称として親しまれている。

一応、雷電の名は布告で知らされているのだが、なぜか名ではあまり呼ばれない。

白鬼という名で呼ばれるのはあまり好きではなかったが、最近ではそんなに気にならなくなってきている。

 

 

「おぉ、白鬼の旦那!一服しにきたのかい?」

 

「団子一皿と茶を一杯頼む」

 

「へい」

 

 

雷電は最近なじみになってきた茶屋へと入る。

初めて雷電が入った茶屋であり、ここの主人は初めから雷電を恐れたりせず、ほかの者と同じように扱ってくれた人物の一人だ。

そして何より団子がうまい、これは雷電にとって大事なこと。

 

入り口で主人に注文を済ませて中へ入ろうとすると、ある席に見知った顔が二つ。

 

 

「くそぉーっ!サルの奴、姫様の御心を奪い取るつもりだったなんて。やはり危険だ、斬る!」

 

「勝家殿、姫様も言っていたとおり、まだそうと決まったわけではありませんし、今の相良殿は侍大将。そうやすやすと斬れるものではありませんよ」

 

 

勝家と長秀だった。

勝家は酔いつぶれた親父の如く卓上に顔突っ伏し、何やらブツブツつぶやいている。

とりあえず、"サル"と"斬る"という言葉だけは聞き取れた。

というか、勝家が"サル"と口にする時は高確率で"斬る"のワードがセットになる。

また喧嘩でもしたのか?と思いながら、相席するために雷電は二人に近づき、背を向けている勝家に声をかけた。

 

 

「勝家は良晴を斬ることしか頭にないようだな」

 

「うわっと!?……雷電殿、急に話かけないでくれ驚くだろ!」

 

「……こっちはお前の声のでかさに驚いたんだが」

 

 

雷電の言う通り、勝家の「うわっと!?」の声のでかさに店にいる客が弾かれるようにこちらを見てきた。

そんな客に「あははは…」と笑って誤魔化そうとする勝家。

客たちがこちらから目をはずすのと同時に雷電の団子と茶が運ばれてきた。

 

 

「雷電殿が茶屋とは珍しいですね」

 

「そうでもないさ、ここにはよく来る。それより二人とも何を話していたんだ?良晴を斬るとか物騒なこと言っていたが」

 

 

雷電は運ばれてきた団子を頬張りながら話を続ける。

「行儀が悪いですよ雷電殿。10点」と長秀は相変わらずの点数付けをしてから、話していた内容を雷電にも話し始めた。

話の内容は、信奈に朝方呼び出され、良晴について相談されたところから始まった。

 

良晴はもし自分が美濃を攻略したら恩賞自由を使って長政との縁談を邪魔してやると言っている。

それは雷電も良晴本人から聞いたので知っていた。

そして「天下取りも好きな男との結婚も、どっちも俺が叶えてやる!」と豪語したという。

ここまでは何も問題ない、ただ主の思いを叶えてやろうとする忠臣の話だ。

だが問題はそこからだった。

 

 

「どうやら相良殿のその発言が姫様には求婚されていると感じてしまったらしいのです」

 

「……またずいぶんと飛躍した話だな」

 

「はい、おそらく姫様の単なる思い違いだと思われます。姫様と相良殿では身分に違いがありすぎますので、結ばれることは無いでしょう。姫様がそう思う根拠を聞いてみても、ほぼノロケ話でした」

 

 

はぁ、と長秀はため息をつきながら茶を一口飲み、話に区切りをつける。

どうも長秀の目には憂いが感じる。

この話に思うところがあるのかも知れない。

 

 

「雷電殿はこの話どう思われますか?」

 

「どうって、どういう意味だ?」

 

「相良殿のこの発言。下剋上を目論んでの発言と思いますか?」

 

 

下剋上。

上下関係を侵す行為、織田家の乗っ取り。

まだ会ってから日は浅いが、雷電は良晴がそんなことを考えるような奴には思えなった。

 

 

「あいつが下剋上を考えているかどうかなんてのは本人にしかわからないだろう」

 

「雷電殿、あんたのその彩防具の能力でサルが何を考えているかわからないのか?」

 

「そんな能力は無い」

 

「そっかぁ……」

 

 

勝家がサイボーグの異能の能力に頼ろうとしたが、あいにく相手の心を読むという機能はさすがにない。

「やはりここは……」と勝家がまた斬るだのと言い出しそうだったので、雷電は茶で一拍おいてから、付け足すように自分の考えを述べた。

 

 

「———だが、俺にはあいつがそんな大それたことを考えているようには思えない。それに、政略結婚を阻止しようする考えは、俺も賛成だ。やはり思い人と結ばれるのが一番だろう」

 

「ふふっ、そうですか」

 

 

雷電の意見を聞いた長秀は、どこかホッとしたように微笑んでいた。

勝家も「私も政略結婚には反対だ!」と身を乗り出して、雷電の意見に賛同の意を示した。

良晴が下剋上を考えているかどうかはともかく、家臣たちはみな信奈の政略結婚を阻止したいと考えていることがわかる。

結局、みんな同じ思いなのだ。

 

雷電は店主に団子の追加注文するついでに、聞きそびれていた元の時代に帰れる手がかりがないか店主に尋ねた。

 

 

「最近変わった話を聞いたりしなかったか?誰かが消えたとか、奇妙な奴が現れたとか」

 

「変わった話ですかい?白鬼の旦那の噂くらいしか変わった話はねぇなぁ」

 

「俺のこと以外でだ」

 

「……悪いね旦那、そういった話はきかねぇなぁ」

 

「……そうか、ありがとう」

 

 

店主が奥へと戻っていくと雷電は深いため息をついた。

帰る手がかりといっても、直球に尋ねることはできないため、何か変わった噂はないかとかそういう聞き方しかできない。

 

 

「未来に帰るための手がかり探しですか?」

 

「うん?…あぁ、この清洲城下は一通り聞いて回った。だがこれといった成果は無いな」

 

「やはり、帰りたいですか?」

 

 

長秀は再び憂いを帯びた表情で尋ねてきた。

元が良いからだろうか、憂いを帯びた長秀の顔は大層見栄えが良かった。

一瞬、長秀に見とれた雷電は、長秀から目をそらし答える。

 

 

「普段からあまり会えてはいないが元の時代には、妻と子供がいる。できることなら今すぐにでも会いに行きたい」

 

「げほっげほっ!雷電殿って結婚してたのか!?というか子供も!?」

 

 

雷電が既婚者だという事実を知り、むせる勝家。

勝家ほどではないが、長秀も驚いたような顔をしており、雷電はそんな二人の反応が気に入らなかった。

 

 

「俺が結婚してて、子供を作っていることがそんなに変か?」

 

「え、いや~、べ別に変ってわけじゃなくて、その~……」

 

 

声のトーンが低くなり、若干ドスの聞いた雷電の声に勝家はたじたじになる。

雷電がすごむと冗談抜きで怖いのだ。

困った勝家は長秀に視線で助け舟の緊急出動を要請した。

 

 

「雷電殿、そうかっかしないでください。勝家殿も何も悪気があったわけではないでしょう」

 

「そっそう!!悪気はないんだよ!別にそんな怖い顔しててよく結婚できたなぁとか、その変な体でよく子供つくれるなぁとか、そんなこと思ってたわけじゃなく……」

 

「……」

 

「勝家殿……。少し、黙っていてください」

 

「うわーーん!長秀にまで怒られた~!」

 

 

勝家が余計なことをしゃべったせいで、雷電の顔は先ほどより怖さが八割増しになっていた。

長秀も冷や汗を禁じえない、それほどまでに雷電の迫力はすさまじかった。

 

 

「雷電殿、勝家殿の発言を謝らせてください。彼女は少々ここがあれでして」

 

「……ぷっそれ、良晴も言ってたな」

 

 

長秀の言いようが可笑しかったのか、雷電のすごみが崩れ笑みがこぼれる。

勝家は何か言おうとするが、長秀に目で制されてしまう。

 

 

「いや悪かった、空気を悪くしたな。手がかりがまったく集まらなくて少々イライラしていた。はじめから、そう簡単に集まるとは思っていなかったとはいえ…な」

 

「雷電殿…」

 

 

笑みから一転、表情が曇り、残してきた家族と会いたいとこぼす雷電。

長秀はそんな雷電にとある提案をすることにした。

 

 

「雷電殿、手がかりを集めるのなら乱波や草を用いるのがよろしいかと」

 

「乱波、…草?」

 

「諜報活動を主とする者たち。つまり忍び。配下の乱波を各地に配することで敵情を探り集め、密かに味方に知らせるのです」

 

「つまりスパイか」

 

 

各国に送り込まれた乱波たちが集めた情報を持ち、主の元へ報告する。

テクノロジーの無いこの時代ではそれが情報を集める最善の方法だといえるだろう。

しかし、雷電にはそのような配下はいない、いやそれ以前に配下など一人もいない。

(ドクトルは一応雷電の配下という配置だが、雷電はそうは考えていない)

だが———

 

 

「俺には配下はいない。だが、諜報活動の経験はある。潜入も得意分野だ」

 

「ほう、雷電殿にそのような経歴や特技が……」

 

「この体になる前の話だがな。まぁ…あまりいい思い出ではない」

 

 

そう言う雷電はどこか苦々しい顔をしていた。

雷電はサイボーグになる前に米軍に所属しており、単独潜入を行う某特殊部隊で訓練、活動をしていた経験がある。

それに加え、サイボーグに改造された後、アラスカでトラッキング(追跡)などのスカウト(斥候)技術を習得した。

そのため隠密行動や諜報活動に関しては自身があった。

 

 

「では、雷電殿自身が乱波として各国に飛び回るのも良いかもしれませんね。もちろん他国の大名たちの動きを探るのが目的ですが、その片手間にご自分の情報収集をすればよろしいかと」

 

「俺もそれを考えていた。兵を引き連れて指揮をとったりするより、単独で行動できる隠密の方が俺の性にもあっている」

 

「ふふっ、私の考えお気に召しましたか?」

 

「あぁ」

 

 

雷電の本領は単独行動でもっとも発揮されるものだ。

兵法や陣形を知らない雷電にとって、多数の配下を指揮するのは正直無理である。

せいぜいできるのは、少数精鋭で行う要人警護の指揮くらいだ。

だから、何十、何百人と配下を託されても雷電としては困る。

 

 

「しかし、姫様はおそらく雷電殿をただの乱波にしておくつもりはないかと。雷電殿の武勇はそれほどのものですから……」

 

「とりあえず信奈に頼んでみよう。詳しいことはそれからだ」

 

 

雷電は追加できた団子を平らげ、勘定をすませようと立ち上がり、「私も同行します」と長秀も立ち上がる。

残された勝家は「ちょっと待ってぇ~」と残りの団子をどんどん口のなかへ放り込む。

その姿は年頃の女の子の食べ方ではないな、と勘定をしながら雷電は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

清洲城 信奈の私室

 

 

 

「乱波?雷電を?」

 

 

目をパチクリしながら聞き返してくる信奈。

雷電と長秀は茶屋を後にして、信奈に乱波の件を進言しに清洲城へ向かった。

今信奈の私室にて先の件を伝えたところだ。

周りには地球儀やピアノ、他にも南蛮の代物がある部屋だった。

 

 

「雷電殿は未来の諜報技術や潜入術を会得しているらしく、またその経験があるそうです。本人も兵を引き連れて指揮するよりも単独での潜入や諜報活動の方が得意と言っております」

 

「そうなの、雷電?」

 

「本当だ。俺がまだ体が生身の時の話だが、今でも潜入は得意だ」

 

「へぇ、あんたって芸達者なのね」

 

「ただ刀を振ることしか頭にない、戦バカじゃないからな」

 

 

この時、どこかの戦バカがくしゃみをしたのは誰もしるよしもない。

 

話を聞いた信奈は、あごに手をあて思案顔で長考しだした。

雷電たちは黙って信奈の次の言葉を待つ。

 

しばらくして信奈は自分の膝を叩いた。

 

 

「雷電、あんたは今から稲葉山城の麓にある井ノ口の町へ潜入して情報を集めて」

 

「それはつまり、俺を乱波として使うということか?」

 

「ものは試しってことよ。あんたの乱波としての実力を試させてもらうわ」

 

 

信奈は雷電を乱波とすることを決意。

此度の美濃攻略における情報収集を雷電に命じた。

雷電もそれを快く引き受け、さっそく井ノ口の町に向かおうと立ち上がる。

だが、そこで一つ問題が……

 

 

「……井ノ口ってどこだ?」

 

 

信奈、長秀、共にこける。

 

 

「あんた……、よくそれで意気揚々と立ち上がろうとしたわよね!?」

 

「尾張の土地勘がようやくついてきたようですが、さすがに美濃の土地勘まではなかったようですね。17点」

 

「…くっ」

 

 

致命的なことに目的地である井ノ口がどこだかわからない雷電。

地図を見れば一応解決する問題だが、どうも心配な信奈、長秀の二人だった。

あきれていた信奈だが、あることを思い出す。

 

 

「そういえば、この前うちで雇ってほしいって来た忍がいたわね…」

 

「そのような者、居ましたか?」

 

「うん、ただ雇ったはいいけど全く仕事を回してなかったのよね。多分いま暇してるじゃないかしら」

 

 

信奈の話曰く、先日ある忍が雇ってほしいと織田家の門を叩いたそうだ。

信奈はそれを採用、自分の家臣に迎え入れたのだが多忙でそのことを忘れていたらしい。

そろそろ何か仕事を与えねば、雇った意味がない。

 

 

「では、その者に雷電殿と同行してもらってはどうです?」

 

「そうね。雷電一人だとなんか不安だし、それに忍がいれば万が一の場合も対処してくれそうね」

 

 

どうやら土地勘がないということで、信奈の乱波としての雷電への期待度は下がってしまったようだ。

雷電は少しムッとするが、信奈の言い分はもっともだがら何も言えない。

 

 

「雷電、あんたを一人で美濃へ送るのは不安だから、忍を一人同行させるわ。二人で美濃へと潜入し、情報を集めて私に知らせなさい」

 

「了解した、あと大事なことを忘れていた」

 

「なに?」

 

「その井ノ口での情報収集の際に個人的な情報の収集の許可がほしい」

 

「あぁ、帰る方法を探してるんだったわよね。いいわ許可する」

 

「感謝する」

 

 

雷電は素直に感謝の言葉を述べ、今度こそ立ち上がる。

退出する際に、後であんたの元に忍を向かわせるから合流したらそのまま美濃へと発って、と信奈は手羽先を頬張りながら雷電に言った。

 

清洲城を後にした雷電は、忍が来るまでに必要な補給などをしようとドクトルの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 





雷電ってこんなんだったっけ?
最近、彼のキャラがわからなくなってきた。

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