やっぱり戦闘の描写って難しいですね
勝家の要望により、勝負することになった雷電。
勝負は野外にある兵たちの鍛錬場で行われることになり、その場にいたものは皆外へと出る。
外へ移動する際、家臣団の一部ではこの後行われる勝負について語り合っている。
その中には、この勝負に興味を示している道三も見受けられた。
「尾張が誇る鬼柴田と尾張を騒がせていた白い鬼、鬼と鬼の対決か。これは見物ぞ」
「ははははは!雷電殿は強そうだけど、勝家は織田家随一の猛将。負けるわけないさ!」
道三とは対照的に勝家が勝つに決まっているさ、とご陽気な声を上げているのは信奈の弟の信澄。
それぞれがこの勝負における己の考えを口にしていた。
そんな中ドクトルは、力加減を誤らなければいいが、と雷電…というよりも対戦相手の勝家の心配をしていた。
皆が外へ出終わると勝家は信奈の小姓らしき者から訓練用に刃が潰されてある槍を受け取る。
雷電の元にも小姓が来て、その手には訓練用の刀と槍がある。
好きな方を選べということだろう。
雷電は迷わず刀を選びとった。
「ようやく戦える!あんたを見た時から戦いたくて仕方がなかったんだ。この勝負はあんたの力量を図るためって、姫様言っていたけど細かいこと私にはわからない。全力で戦うだけだ」
「何とも血の気の多いお嬢さんだ」
お互い自分の獲物を構え相手と向き合う。
かたや織田家において無類の強さを誇る、猛将の柴田勝家。
かたや未来から来たという謎の剣士、白い鬼こと雷電。
両者とも静かに相手を睨む。
周りの喧騒も徐々に少なくなっていき、静まりかえる。
皆が信奈の試合開始の合図を待つ。
「二人とも準備はいいわね。…では、はじめ!!」
合図とともに勝家は雷電に向け全力で駆け出す。
雷電は自らは動かず、勝家を迎え撃つためその場で勝家の攻撃に備える。
疾走により勢いがついた勝家は、雷電に鋭い突きを繰り出す。
突き出された槍は雷電の刀に弾かれること無く雷電の体に吸い込まれていく。
だが、雷電はいきなり勝家の虚をついてきた。
体に当たりかけた槍は雷電の右足による足刀蹴りが槍の柄の部分を捉え弾かれてしまう。
この蹴りの勢いは凄まじく、勝家の体が横へ流れてしまう。
雷電はそのまま左足を軸に一回転し、流れる様な動作で右足で大きく踏み込み勝家に袈裟切りを叩き込む。
槍を弾かれてしまった勝家は、槍で防ぐことはできないと判断し横へ飛び斬撃を避ける。
勝家は雷電の追撃が来ると思い備える。
…が、雷電はその場から動いていておらず刀をダラッと下げて勝家を見ていた。
「突きを蹴りで防ぐなんて、妙な剣術だな。未来の南蛮剣術か?」
「いいや、違う。俺の剣術は我流なもんでね」
雷電は下げていた刀を構え直し、今度は雷電から仕掛けた。
勝家との間の間合いを電光石火の如く詰め、先ほどの勝家よりも鋭い突きを繰り出す。
あまりの速さに面食らう勝家だったが、そこは織田家の猛将、今度は勝家がその突きを槍で弾く。
しかし、続けざまに雷電の弾かれた勢いを活かした回転からの横なぎの斬撃が勝家を襲う。
これを勝家は避けることも弾くこともできず、槍の柄で受け止める。
そのまま両者は鍔迫り合い状態へ。
「くっ…強いな。剣技もそうだけど、私が力で押されるなんて!」
鍔迫り合いをする勝家は既にうっすらと汗をかいていた。
あの勝家が終始押されているこの勝負、周りで見ていた者の多くが表情に驚愕の色がうかがえる。
信奈や良晴なども予想以上の雷電の強さに目を白黒させていた。
比較的落ち着いているのは道三くらいのものだ。
「力で俺に敵わないのは仕方ない。
「さ、彩防具?」
彩防具ってなんだ?と聞く前に、雷電の掌底を下胸部に喰らい後方へと飛ばされる。
これがまた途方もないほどの威力であり、勝家は一瞬意識が飛びかけた。
周りにいる者も雷電の言葉が聞こえたらしく、口々に彩防具ってなんだ?またサル語か?と疑問を口にする。
唯一この言葉を正確に理解できているのは、ドクトルと未来から来た良晴だけだった。
「えっ、今雷電さんサイボーグって言った?」
と良晴は雷電の言葉に反応するが、すぐに。
「ていうか今、雷電さん勝家の胸触らなかったか!?」
と雷電の掌底に対して、変な誤解を招きそうな発言をするのであった。
図らずも鍔迫り合い状態から脱却した勝家は、息を整えて再度雷電に向けて駆け出す。
力では勝てないと踏んだ勝家は、今度は力技から手数の多い連続突きに切り替えた。
相手の刀の間合いに入らないよう、槍の間合いの長さを活かした連続の突きで攻める。
「鍔迫り合いに紛れて胸を触ろうとするとは、あんたもサルと同類か!?」
「い、いや、ちょちょっと待て!それは誤解だ!?」
胸を触られそうになった(というか触った?)という勘違いの怒りが槍さばきをさらに苛烈なものにさせる。
若干狼狽えながらも雷電は勝家の連続突きを避けたり刀で弾いたりして凌ぎながら、間合いを詰める機会をうかがう。
しかし、繰り出される突きは速い上に間隔が短いためなかなか詰められない。
攻防が繰り返されている状態が続き膠着状態に。
そこで再び雷電が虚をつく行動に出た。
何度目かの突きを弾いた時、不意に雷電の手から刀がこぼれたのだ。
刀は重力にしたがって下へ落下していく。
思いがけない好機に勝家は勝負を決めにかかる。
だが、勝家の戦で培ってきた勘が、回避しろ!と警告を出して来た。
一瞬迷ったが、勝家は勘にしたがって後方に大きく飛んだ。
その瞬間、勝家の腹をかすめるように横薙ぎの一閃が空を斬る。
何故、斬撃が?
後方に飛んだ勝家は雷電の姿を見て驚愕する。
地面には落ちていたはずの刀が転がっていない。
雷電の手にも刀は握られていなかった。
刀は…
「なによあれ!?」
「これはたまげたわい…」
「あのようなことが…、採点できない自分に5点です」
「あっ、あああ…、足!!?」
信奈、道三、万千代、そして勝家が皆の言葉を代弁するかのように口々に驚きの声をあげた。
他の者たちは口をあんぐりと開けて固まっている。
刀は雷電の右足の裏で握られていたのだ。
雷電は落下中の刀を右足の裏でキャッチし、蹴りを放つことで横薙ぎの一閃を放ったのだ。
サイボーグである雷電であるからできる荒業、驚くのは当たり前と言える。
観戦者の中には自分でもやれるかなと思い挑戦するが、出来ぬでござるっ!と勝手にキレる輩までいる。
———できるわけ無いでしょうに…
そんな人間離れした技を出した雷電は、刀を掴んだまま足を4の字のように構える。
正直雷電は自分がサイボーグであることを隠すつもりはない。
だから、サラッとサイボーグの名を口にするし、この足技も何のためらいもなく出したのだ。
あなたはサイボーグですか?と問われれば、そうですが何か?と事も無げに答えるだろう。
いろいろと余裕をかましている雷電とは対照的に余裕のない勝家。
自分はとんでもない奴に勝負を仕掛けてしまったと感じてしまっている。
だが、自分から勝負を仕掛けておいて手も足もでず、簡単に負けるのは鬼柴田の名が許さない。
まだ、負けてはいない!
勝家は早まる鼓動を意識して抑えて、まず雷電を称賛する。
「やっぱりあんたは強いな。正直いまのところ手も足も出ないよ」
「さっきも言ったがサイボークと生身の人間とじゃあ力の差がありすぎる。俺も生身の肉体で戦えればいいんだがな…」
「…さっきも気になったんだが彩防具って何なんだ?私、南蛮語はわからないんだ。あとサル語も」
「…猿の言葉は俺もわからないが、猿の言葉を話す奴でもいるのか?」
「サルはサルだ、ほら昨日あんたを見つけたあいつだ」
そういう勝家は観戦者の中にいる良晴を指さす。
「あいつ…猿なのか?」
「サルだ」
「そうなのか」
「ちげえぇぇよ!俺はサルじゃねぇ、れっきとした人間だ!雷電さんも何納得してんの!?」
さっきまでサイボーグの話だったはずが良晴がサルか否かという話に変わっていた。
キャッキャッ、キャッキャッ騒いでいる良晴を見て今度こそ、サルだなと断言してしまう雷電。
同じ未来人にもサルと言われてしまう、哀れ良晴。
「サイボーグの話についてだが、それはこの勝負がついてからにしないか?いろいろと難しい話なんだ」
「…そうだな。今はこの勝負に集中する!」
改めて勝負の空気へと戻り、空気がピリピリとする。
勝家はどう攻めるかを考える。
力技でねじ伏せようとしてもあちらの方が筋力があるため無理。
速さ重視の連続技で攻めても体にかすりもしない。
え~と、え~と~…。
私の頭じゃあこれ以上考えられない!
それでも戦う気が萎えないのは、自分が織田家の猛将を名乗っているからだろう。
もし、自分が無名の武士だったら既にこの勝負降参している。
それほどまでの力の差。
知恵の無い私がいくら考えてもしょうがない。
息が上がりつつある勝家は長々と戦っていたら自分が先にばてると考え、次の一撃で決める覚悟を決めた。
私らしく正々堂々、小細工なしで行く!
「はあぁぁっ!」
そうと決まれば、と勝家は気合いの声を張り上げながら雷電に突撃する。
足で刀を持った分、リーチが長くなっている雷電は勝家が間合いに入った瞬間、右回し蹴りを放つ。
勝家はこれを身を屈めることで避け、雷電の懐に入ろうとする。
初撃を避けられたとわかると雷電はすぐさま足の刀を手に持ち替え、懐に入って来た勝家をさらに横薙ぎの一閃を加える。
勝家はこれを意地で槍の柄で受け止め、そのまま受け流す。
そして、そのまま槍の石突きの方を使い、雷電の胴を切り上げにかかる。
入った!!
勝家は自分の切り上げを喰らって、雷電が後方へぶっ飛ぶイメージを想像した。
しかし、やはり雷電は動いた。
雷電は石突きが直撃するのを防ぐため、手刀で軌道をずらして来たのだ。
だが、直撃は避けられたものの、手刀で防ぐのわずかに遅く石突きは雷電のスーツの上着とシャツをかすめ、はだける。
…雷電の上半身が露になる。
そうサイボーグの上半身が…。
それを見たものはドクトルを除き、今度こそ一部の例外なく驚きのあまり目を見張る。
誰もなにも言えない、今日一番の静寂がその場を支配した。
雷電の上半身は白を基調とした
生身の肉体ではない、人工的に作られた無機質な体。
その場で一番最初に口を開いたのはドクトルだった。
ドクトルは皆が自分の話を聞くように、観戦者たちの前に立ち、サイボークについて説明を始めた。
「あれがサイボークというものだ。生まれもっている生身の体ではない、未来の技術により人の手で作られたからくりの体。何かの理由によって手や足などの体を失ってしまった者に与えられる義体。そしてその義体を有している者。それがサイボーグだ」
ドクトルはできるだけこの時代の人間でも理解できるように専門用語などは使わずに説明する。
それでも、理解できているものはほとんどいない。
むしろ理解できた者は相当な理解力の高さだと言える。
理解したうちの一人である良晴がぽつりという。
「サイボーグが…、実在するなんて、アニメや映画とかの中だけの存在だと思ってた」
「…雷電、つまりあんたは生身の体を一度失っていて、今あるその体は人の手で作られた体ってこと?」
「…あぁ、そうだ」
「賢い子だな。今の説明でよく理解できたものだ。正直自信がなかったのだが」
信奈の言っていることは一応合っているが一つだけ違う。
雷電は体を失ったからサイボーグのになったわけではなく、無理やりサイボーグに改造させられたのだ。
(改造したのはドクトルではない)
しかし、そんなことまで話す必要はない。
ようやく沈黙が破られるとある者は、雷電殿はやはり鬼であったか!?と恐がり。
勝家などは、えっ、え?何、何なんだあれ??と未だに混乱していたりする。
冷静を貫いていた道三も、なんと面妖な!?と驚きを隠せずにいた。
「静まりなさい!!」
「「「!!?」」」
そんな混乱するみんなを静まらせたのは、当主である信奈だった。
信奈は静かになるのを確認すると、静かな足取りで雷電の元へと歩いて行く。
雷電はただ近づいてくる信奈をじっと見据えていた。
「雷電、一つ確認することがあるわ。あんたの目的は何?」
「目的?」
雷電は今の信奈の質問の意図が分からなかった。
何故今そんなことを聞いてくるのだろうかと。
そんな気持ちが表情に出ていたのだろうか、信奈が重ねて質問して来た。
「さっきは話し合いでは白い鬼の噂をなくすために急ぎ足であんたに答えを求めて、あんたの目的を聞いていなかったわ。だから今確認させて」
「…俺の目的はあくまで元の時代に帰ることだ。だから仕えるのも元の時代に帰れるまでの間だけだ」
「デアルカ、まぁそこは同じ未来から来たっていうサルと同じね。じゃあ次の質問よ、これが私たちにとって肝心な質問。あんたはその目的のためになら私に逆らう?」
信奈は鋭い目つきで雷電を見据えながら返答を待つ。
雷電も同様に信奈を見据える。
雷電はその質問に偽りの無い自分の考えを述べた。
「それはわからない。俺が逆らうかどうかは君しだいだ。君はこの町の者たちに平等に接し、虐げる様な圧政を敷かず善政を敷いていると聞いた。そして民への狼藉を許さないその姿勢。町側もそんな君に好感をもっているように、俺は自分の目で見て感じた。だから君へ仕官することを決断した」
「で、デアルカァ!なんか照れるわね」
正直、ここまで雷電は信奈のことをべた褒めしているも同然だった。
自分の行っていることを肯定されて、気分を良くした信奈は顔が緩む。
だが、と雷電の言葉を受け信奈は再び表情を引き締める。
「だがもし君が今後、弱者を虐げる様な行為を行った時には、その時は離反させてもらう」
それが雷電の考えだった。
その答えに信奈は雷電の行動理念を見た気がした。
彼の行動理念は弱者を守ること、そう信奈は判断した。
家臣団の中では、雷電の言葉に耳を疑うものもいた。
まさか堂々と、場合によっては離反するから!と言うとは思ってもいなかったからだ。
「…あんたの考えはわかったわ」
「どうする、俺を危険分子と判断して殺すか?」
「さっきも言ったでしょ。あんたを殺す気はないって、だいだい民を助けたあんたを何もしていないのに殺したりしたら、私の評判が悪くなるじゃない」
「ならどうするつもりだ?」
「どうもしないわよ。私が人の道を外れる様な行為をしなければいいだけのことでしょう」
雷電の行動理念。
それは決して信奈の望む理想とかけ離れてはいないものだった。
だから、大丈夫だと感じこのように答えた。
雷電もまた、信奈の目指すものが雷電の信条に背かないものだと感じた。
先の話し合いの場でも思ったが、この子なら大丈夫だろうとそう思う雷電。
「なら俺も君が人の道を踏み外さないように、…支えるとしよう」
「デアルカ!」
信奈は雷電のサイボーグという得体の知れない正体や考えを知った上で家臣とすることを決意。
また雷電も信奈が人の道を外れないように支えることを決意した。
これを固唾をのんで見守っていた良晴や万千代、道三など家臣団はそれぞれ安堵したり、喜んだり、またある者は雷電を不審がったりと反応はそれぞれだった。
しかし、この場で異論を唱える者は出なかった。
信奈の政策などに肯定的で、弱者を守ろうとする考えを持つ雷電を危険分子として判断しなかったのだ。
信奈は勝負中であったことを思いだし、ようやく落ち着きを取り戻していた勝家に声をかけた。
「六、この勝負まだ続ける?なんか中断させるような感じになっちゃったけど」
「いえ、姫様。最後のあれを防がれてしまった以上、私に打つ手はありません。この勝負私の負けです」
最後の一撃を防がれてしまった勝家は負けを認めた。
勝家の顔は負けた割には、清々しいものであった。
もしかしたら、久々に自分が敵わない相手に出会えたのを嬉しく思っているのかもしれない。
その勝家の元に雷電が歩み寄る。
「あ〜あ、負けちまったなぁ。これは猛将の名は返上かなぁ」
「サイボーグ相手にあそこまでやれたんだ、むしろ誇っていいと思うぞ」
「負けたのに誇れるわけないだろう」
勝家は口を尖らせて反論してくる。
「本来サイボーグ相手に生身の人間が単身で挑むなんて無謀なんだがな…」
「それでも負けは負けだ!私はあんたに負けた!もう何も言うなぁ、私が惨めになるぅ!!」
何を言おうと負けは負けだ、と勝家は雷電のフォローをすべてはねのける。
ジタバタと駄々っ子のように暴れる勝家に雷電は苦笑いするしかなかった。
そんな二人を背に信奈は家臣団に問いかけた。
「みんな、雷電を家臣にすることに異論はないわね」
誰も異論をあげるものはいなかった。
というかほとんどの者が「異論もなにも、もう家臣入りは決まってたんじゃないの?」と思っているものがほとんどであった。
不信感を抱いている者も、信じてみるか、と考え異論を唱えるのは控えたのだ。
「雷電殿には彩防具という不可解な部分がありますが姫様のお考えを理解し、民を思う気持ちを有する御仁のご様子。その上勝家殿を破ったその強さ。頼りになる方がお味方になりましたね。84点!」
「うむ、雷電殿の体を見た時は驚きのあまり心臓が止まるところじゃったがな」
「ぼ、僕もだよ。サル君はその彩防具については知らないのかい?同じ未来から来たんでしょ」
「名前くらいは聞いたことあるけど、実物を見るのは初めてだ。まさかこの戦国時代でサイボーグと遭遇するなんて。わかんねぇもんだなぁ」
家臣団も雷電を受け入れるのを良しとしたことがわかり、信奈は満面の笑みを作った。
「よーし!これで問題は片付いたわ。今度こそ本格的に美濃攻略へ乗り出すわよ!!」
「「「おぉぉっ!!」」」
こうして、雷電は織田家の者たちに認められ、織田家家臣となった。
サイボーグという怪しげな存在である雷電を織田家は受け入れたのだった。
一応自分で誤字・脱字の確認はしていますが、変なところとか見つけた場合教えてください。
修正しますので。
次からようやく原作の話に合流できます。