切り裂きジャック〜乱世を斬る〜   作:東奔西走

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ようやく雷電が信奈との顔合わせです。



第三話 織田信奈との邂逅

尾張の国、清洲城下

 

 

 

雷電とドクトルは、自分たちと同じように未来から来たという少年、相良良晴と出会った。

その良晴に連れられて、織田信奈という大名が待つ城へと向かっている。

空はもう刻々と色を濃くしていく夕焼けに染まっていた。

 

 

「二人とも、信奈に会うのは明日にして、今日は俺の家に泊まっていってくれ」

 

「あぁ、わかった。こんな遅くに訪問されても迷惑だろうしな。ドクトルもいいな?」

 

「ストライカーを置きっぱなしだが、…まぁ問題ないだろう」

 

 

雷電たちは良晴の提案で、今晩は良晴の家に泊まることになった。

一行は清洲城からうこぎ長屋へと目的地を変えることに。

その時…三人の後方から叫び声が聞こえてきた。

 

 

「まーてまてまてまて〜!何勝手に帰ってるんだこのサル〜〜!!」

 

「勝家っ!?…あっ忘れてた。ってへぶっ!!」

 

 

叫びながら駆けて来た女の子、勝家は振り向いた良晴の顔面に強烈な右ストレートを叩き込む。

…なんでみんな俺の顔面を狙うんだ、と良晴は顔をさすりながら涙目になっていた。

そんなことは気にも留めず、勝家は捲し立てる。

 

 

「はぐれてどっか行ってたと思ったら、何勝手に帰ってるんだ!姫様の命令を放棄して帰るなんて、その腐った根性この勝家が叩き直してやる!…というわけでおとなしく斬られろ!!」

 

「どういうわけだよ!?根性を叩き直すじゃなかったのか!?おとなしく斬られたら、根性を叩き直すどころか俺様が昇天しちまうだろうが、つーかすぐ刀を抜くなぁ!」

 

「黙れこのエロザル!…胸を揉まれた恨み、ここで晴らす!!そして姫様の操のために死ねやぁ!!」

 

「うおおおぉぉぉ!!」

 

勝家は死ねやぁ死ねやぁ!と叫びながら良晴を斬りに掛かる。

そして良晴は勝家の斬撃を右へ、左へとよけ続ける。

雷電たちは突如始まった命をかけたこのじゃれあいを呆然とただ見ていた。

 

ふと、雷電は自分の横に一人の小柄な少女が佇んでいることに気づく。

頭には虎の被り物、顔には隈取り、手には派手な朱槍を持っており、何故こんな子供が武器を…と雷電がその子を注視していると、女の子側も気づいて雷電のことを見上げる。

…なぜか朱槍と逆の手には白い犬を抱えていた。

 

 

「クゥーン…」

 

「くぅーん…」

 

「……」

 

 

少女と子犬の上目遣いのダブルパンチ。

なにが「くぅーん」なのかよくわからないが年甲斐もなく雷電はあまりの可愛らしさにクラッときてしまった。

雷電が虎の被り物の子、犬千代に気を取られているうちに、良晴たちの騒動は収まりつつあった。

 

 

「はぁっ…はぁ…、だいたい命令を放棄ってなんだ。お前らがどこか行っているうちに目的は達成してるんだよ!ほら、そこにいる髪の白い男の人。その人が白い鬼だ」

 

「何っ!?そうならそうと早く言えサル!そうかお前が白い鬼か」

 

 

良晴の言葉を聞いて初めて雷電の存在に気づく勝家。

雷電をまるで値踏みするかのようにジロジロと見てくる。

そして、うんうん、と一人で頷いている。

 

 

「なるほどなるほど、じゃあいざ尋常に勝負!!」

 

「だーかーら、戦うなぁ!なにがじゃあだ、お前は人の話をちゃんと聞けぇ!」

 

 

暴走機関車の如く暴れ回っていた少女がいきなりこちらを向いて勝負!なんて言うものだから雷電は一瞬身構えたが、良晴の必死な説得のおかげで少女と戦うことはなかった。

良晴は雷電に向き直り、すいませんちょっとコイツここがあれでして、と謝罪の言葉を口にした。

 

暴走していた勝家も落ち着き、勝家と犬千代も加わえうごぎ長屋へと再び歩を進めた。

雷電たちと勝家、犬千代は簡単な自己紹介を歩きながら済ませ、敵意が無いことを確認し合った。

だが、犬千代はともかく勝家はどこか不満げな表情をしており、雷電のことをチラチラ見てくる。

 

 

「私は姫様に今日のことと、明日の雷電殿を連れて行く旨を伝えてくる」

 

「あぁ、ご苦労さん。俺たちはこのまま長屋に戻る。また明日なぁ」

 

 

勝家は皆と別れ、信奈のいる清洲城へと向かい、良晴たちは長屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

うこぎ長屋

 

 

 

「さぁ、遠慮しないで入ってくれ。…っていってもボロすぎて遠慮のしようがないか」

 

 

一同はうこぎ長屋の良晴の部屋へと案内された。

想像以上にボロボロな外見に最初こそ戸惑っていた雷電たちであったが、既に十分くつろいでいる。

犬千代もこの長屋に自分の部屋があるらしいが、今は雷電たちとともにお邪魔しており、せっせと夕餉の用意をしている。

 

 

「…今晩の夕餉、うこぎ汁」

 

「…これは」

 

「実に大胆な料理だな」

 

 

雷電たちの前に夕餉としてだされたものは、鍋に大量のうこぎの葉を投入し煮込んだものだった。

雷電はこっそりドクトルに、味覚センサーをOffにできないか?と耳打ちするが帰って来た答えはNoだった。

どうやらこの時代に来てから、味覚や痛覚のセンサーの切り替えが不能になってしまったらしい。

現在は味覚、痛覚などの感覚はすべてOnになっている、とドクトルは答えた。

 

 

「…たんと食べる」

 

「雷電さん、これは見た目はこんなんだが、以外とうまいんだぜ」

 

 

良晴はそういうがなかなか手が伸びない。

そんな雷電を他所にドクトルがうこぎ汁に手を出す。

 

 

「これは、なかなかうまいじゃないか。雷電、味覚センサーなどいらないぞ」

 

「だろ!ほら雷電さんも、きっと意外なうまさに驚くぜ」

 

「…(ジー)」

 

 

三人に促され、雷電は恐る恐るうこぎ汁を口に運ぶ。

モグモグ、モグモグ…、ごくんっ

 

 

 

 

 

カッ!

「うますぎるっ!!!!!」

 

「うえええぇぇっ、そんなにっ!!」

 

 

確かに驚くとは言ったが、まさかここまで露骨な反応をするとは思っていなかった良晴は、逆に雷電の反応に驚かされた。

単なるオーバーリアクションかと思ったが、雷電の目には微かに雫が…。

…どうやら素の反応のようだ。

 

食欲に火がついたのか、次々とうこぎ汁を口に運んで行く雷電。

それを見ている犬千代が、…いい食べっぷり、もっと食べる、と雷電のお椀に次々追加していく。

このままじゃ、俺たちの分が無くなると、良晴とドクトルも負けじと勢い良く食べ始める。

だが、うこぎ汁を独占しようとしている雷電の妨害が入り、なかなか食べることができない。

 

 

「ちょっ、雷電さん!?俺たちにも食べさせぼはぁっ!」

 

「雷電、どうしたんだ!私の分がべほぉっ!!」

 

 

二人の奮闘も虚しく、うこぎ汁のほとんどが雷電の腹の中へ。

ほとんど食べていないであろう犬千代は何故か、雷電に拍手を送っていた。

良晴は雷電を連れて来たことを少なからず後悔した。

 

結局その後、犬千代が追加でうこぎの葉を採って来たことで良晴もドクトルも満足のいく夕餉にありつけた。

さすがに悪いと思ったのか、雷電はその追加のうこぎ汁には手を出さなかった。

本人曰く、久々にうまいものを食うことができたから抑制が聞かなくなったらしい。

…普段は何を食っているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

翌日

 

清洲城

 

 

 

約束どおり、雷電たちは信奈に謁見するために清洲城へと来ていた。

良晴に連れられ、部屋へと入る。

 

 

「信奈、白い鬼を連れて来たぜ」

 

「…来たわね」

 

 

案内された部屋には、上座に座っている信奈をはじめ、左右に織田家の家臣と思われる者たちがずらりと待ち構えていた。

勝家や犬千代、万千代に信奈の弟である津田信澄、そして美濃の蝮こと斉藤道三などもいた。

家臣たちは雷電たちを見るなり、南蛮人か?と奇異なものを見る目でこちらを見て来た。

そんな家臣団の列に良晴も加わる。

 

信奈は雷電とドクトルが自分の前に座すのを待ってから話をはじめた。

 

 

「あんたが噂の白い鬼で間違いないわね?」

 

「俺の名は雷電だ。白い鬼なんて名じゃない」

 

 

白い鬼という言葉に対し雷電は顔を顰め、訂正を加える。

 

 

「それは悪かったわね。でもね、あんたが町で白い鬼と呼ばれているのは事実よ」

 

「……」

 

 

雷電が何も言えずにいると雷電の左側に控えている家臣団の中から万千代が説明をはじめた。

 

 

「雷電殿、どうしてあなたが白い鬼、などと町の者たちに呼ばれているかご存知ですか?」

 

「…あぁ、それについては良晴から聞いた。俺のこの容姿が原因だと」

 

「左様です。雷電殿のその白髪はこの日ノ本では珍しいもの。迷信深い者たちは自分たちとは異なる姿をしたものを妖だと恐れることがあります。この清洲城下にも迷信深い者は多々おります。雷電殿自身に危害を加える気が無くとも町の者たちにはそのように写ってしまうのです」

 

「…人種や容姿の違いによる争いはよくある話だ。そのことは俺もよくわかっていたつもりだったんだがな」

 

 

少し落胆気味に話す雷電。

自分がここでは浮いた存在であることを自覚しながらも軽卒な行動をとってしまったことを悔やむ。

そのことによりこの町や目の前にいる信奈たちに迷惑をかけていることに申し訳なさを感じていた。

 

 

「今清州城下に広まっている噂の影響を取り除くにはこの噂をどうにかしないといけないわ。つまり雷電、あんたをどうするかってことよ」

 

「俺を殺すか?」

 

 

場の空気が張り詰める。

雷電はいつでも動けるように身構える。

いざとなればドクトルを抱え、この場から逃走を図るつもりだ。

 

 

「殺す?馬鹿言わないで、そんなことしても根本的な解決にはならないわ」

 

 

雷電の警戒は杞憂であった。

信奈は最初から殺すという選択肢は無いのである。

そもそも殺すつもりなら捜索隊ではなく、討伐隊を送っている。

だが、ならどうするつもりなのだろうか?という雷電の疑問を感じとったのだろうか、万千代が再び説明を始める。

 

 

「姫様は合理的な考え方の持ち主です。故に鬼などの妖の存在を信じてはおりません。民たちが恐れているのは彼らが自身が作り出した幻に過ぎません。今回の件を解決するには…」

 

「説明しているところ悪いが、結局俺をどうしたいんだ?」

 

 

説明を続ける万千代の話を遮り、結論を求める雷電。

万千代はいつもの笑顔を絶やさず、わかりましたと言うと信奈の方へと視線を送る。

一つ頷くとそれまで座していた信奈が突然立ち上がった。

 

 

「なら、単刀直入に言うわ。雷電、私の家臣になりなさい!!」

 

「…家臣?」

 

 

突如私に仕えよ、言われた雷電。

この場で驚いているのは雷電本人と隣にいるドクトルだけ、他の者は信奈の考えを知っていたのか全く驚いていない。

強いて言うなら勝家がこちらを睨んできている。

正確には部屋に入ってからずっと睨まれていたのだが、今はそれがより一層強まっている。

 

 

「…なぜ俺を家臣にする必要があるんだ?」

 

「あんたを家臣にすることで織田の管理下に置けるからよ。織田には民に狼藉を働けば即打ち首という罰があるの。これは清州城下の者たちも知っていることよ」

 

 

つまりこういうことらしい。

民に狼藉を働くと打ち首になる織田家に白い鬼である雷電を入れさせることで白い鬼の実害は無いことを民たちに示すのが狙いだという。

 

 

「悪いけど、私たちはすぐにでも美濃攻略に乗り出さないといけないのよ。いつまでもこの問題に時間をかけていられないわ。この場で答えてもらうわよ」

 

 

雷電は迷っていた。

織田家に仕えればこの問題が穏便に解決することができるという。

ならばこの話を受けた方がいいのだろうが、雷電たちは未来から来た人間、そして目的は元の時代に戻ること。

大名家に仕えてしまうと自由な行動が制限されてしまい、元の時代に戻る方法を探すのに不利なのではないか。

雷電がそう悩んでいる間も部屋の中にいる信奈や家臣団は雷電の返事を待っている。

そんな中で今までずっと黙っていたドクトルが雷電に耳打ちをした。

 

 

「雷電、この話受けた方が良いのではないか?」

 

「何故だ?確かにこの問題を穏便に済ますことができるかもしれないが、それだと元いた時代へと戻る手がかりを探すのに…」

 

「考えても見ろ、この時代の日本を私たちだけではまともに旅になどできんだろう。地理的知識の問題もあるが何よりストライカーをどうするつもりだ?あれは今駆動系がイカレてしまって走行は出来ん。まさか、あれを抱えたまま旅をするわけにもいくまい?」

 

「確かにそうだが…」

 

「それに、ここには相良君もいる。彼が私たちと同じ未来から来た人間ならこれほど頼もしい存在もいないだろう。ここはこの話に乗っかり、ここを拠点として色々と情報を集めればいいと思うが」

 

 

ドクトルの言葉を受けて雷電は良晴のほうへと目を向ける。

こと進展を心配しているのか、良晴の雷電を見る目には憂いが含まれていた。

 

 

「…フッ、まさかあんな子供に心配されるとはな」

 

 

雷電は良晴に心配されていることに対し、自嘲気味に笑った。

ドクトルの言う通りだ、この時代をこの二人だけで旅をするのは無謀すぎる。

何より土地勘がない。

組織に属するのは性に会わないが、いつまでも意地を張ってても仕方が無いか。

良晴から聞いた話では、この子は民にも家臣にも平等な扱いをしていると聞いた。

それに民からも愛されているようだ、と雷電はこの子になら仕えてもいいかと考えた。

だがもし、この子の行動が俺の許容範囲外のものだった場合、その時は離反させてもらう。

雷電はそう心の中で決めた。

 

 

「わかった。君の元に仕官させてもらおう」

 

「デアルカ!」

 

 

雷電のこの一言で張りつめていたこの場の空気が一気に緩む。

信奈も先ほどまでの覇気のある表情を引っ込ませ、割と年相応の邪気の無い笑顔をしている。

 

 

「だが仕官するにあたって、俺たちについて教えておくことがある」

 

「未来から来た人間だってこと?」

 

「聞かされていたか」

 

「えぇ、昨日のうちに六から聞いたわ。先に言っとくけど、うちには既に自称未来のサルの国から来たサル人間がいるから別に驚かないわよ」

 

「だから俺はサルの国からなんて来てねぇ!このやりとり何回やらせるつもりだ!?」

 

 

未来から来た人間である雷電たちを実に容易く受け入れてくれた信奈たち。

左右に座する家臣団の者たちも、雷電殿これからよろしく頼みますぞなどと声をかけて来た。

もともと雷電は盗賊を討伐して町民を助けている存在であるため、織田家の人間の雷電の評価は高い方なのだ

もう場は和みきっており、皆先ほどまでの空気は微塵も感じられなかった。

一人を除いて…。

 

 

「…姫様」

 

「ん?…あぁ、そうだったわね」

 

 

家臣団の中で唯一雷電に対する気を張りつめたままだった勝家が信奈に何かを促す。

勝家は先ほどまでは睨んでいただけであったが、今では完全に闘志を燃やしていた。

他ならぬ…、雷電に対して。

これには雷電もあぁそういうことか、と納得した。

 

 

「雷電、あなたに言いたいことがある者がいるわ。六!」

 

「はい、姫様!!」

 

 

もう待ちきれませんでしたよ私は!!と言わんばかりに勢い良く立ち上がった勝家は雷電の前まで来て指を突きつける。

 

 

「雷電殿、私と勝負しろ!!」

 

 

勝家の宣言にその場にいるものたちが雷電へと視線を移す。

先ほどから自分に投げかけられていた闘志に気づいていた雷電は万事心得ていた。

雷電もその場に立ち上がり、勝家の目を真っ直ぐ射抜くように見つめる。

 

 

「いいだろう。その勝負受けて立とう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで私の扱いはどうなるのだ?」

 

「…あんた誰よ」

 

 

自分はいったいどうなるのかと感じたドクトルが信奈に密かに尋ねたが、そもそも誰なのかさえ分かってもらえておらず、人知れず撃沈するドクトルであった。

 

 

 

 

 





さっそく雷電がおかしなことになりましたね…

次話では本格的な戦闘描写を書いて行くつもりです。
うまく行くかなぁ(汗)

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