時は、群雄割拠して天下をうかがう戦乱の世。
処は、先の戦「桶狭間の戦い」で駿河の大大名、今川義元を下した織田信奈の本拠地、尾張。
その尾張では、盗賊などの被害に悩まされていた。
先の戦以降、まだ盗賊の取り締まりを行っていなかったため、戦の混乱に乗じて盗みを働く賊を駆逐できていなかったのだ。
山中の通行人が襲われる被害が多発し、酷い被害の時には死者が出た場合もあり、盗賊の件を重く見た尾張の姫大名、織田信奈は盗賊の取り締まりを行うことを決意。
そんなある時、清洲城下にある噂が広まっていた。
『賊狩りをする白い鬼』
いつのまにかそんな噂がたち始め、気づいた時には尾張中に広まっていたのだ。
その噂は清洲城にいる織田信奈たちのもとにも届いていた。
噂を聞いた信奈はこのことを相談をするため、主だった家臣たちを清洲城へ招集させた。
「白い鬼…ですか」
「そうよ、最近城下ではこの噂のことで持ち切りだわ」
その場にいるのは、当主である織田信奈。家老の柴田勝家と丹羽長秀、信奈の小姓である前田犬千代。そして、未来から来た男であり、先の「桶狭間の戦い」で大功をたてて、侍大将に出世した相良良晴である。
桶狭間で大勝し、兵たちの士気が高い内にいざ美濃攻略!、と意気込んでいる最中に起きた今回の騒動。
「この騒動による影響は少なからず出ている様ですね。鬼を恐れて出没したと言われている近辺の通りの人通りは少なくなっているようです。34点」
「盗賊を狩ったところで、民に悪影響が出ているんじゃ意味ないわよ。どうせ狩るんだったら、もっとことを荒立てないやり方をしてほしいものね」
「信奈…。それをお前が言うのか?」
「それどういう意味よサル!?」
信奈は美濃攻略に対する勢いをこの騒動により削がれてしまったため、機嫌が悪い。
今も良晴、通称サルの言葉に腹を立て、サルの顔面にバキッという音がしそうな程の強烈の蹴りを繰り出し、そのまま踏みつけに移行する。物理的暴力と言葉の暴力でサルを叩きのめした。
他の者たちは、またかと呆れたり、また姫様がサルとぉ〜とわけのわからない憤りを胸の中にわかせていたり、我関せずだったりと反応は様々だった。
「姫様、お戯れはそれくらいに」
「それもそうね、サル、また話を中断させるようなこと言ったら斬るからね?」
「ふざけんな!むしろ話を中断させたのはお前だろ!」
「あ〜はいはい、ほらさっさと話を戻すわよ」
きぃ〜とサルのようなわめき声をあげる良晴。
サルと化した良晴を他所に信奈は噂の鬼に対する一つの疑問を口にする。
「そういえば、なんで白い鬼なんて言われてるの?」
「それについては、盗賊に襲われた町民の中に白い鬼とおぼしき者に助けられた者がおりまして、そのものから有力な話を聞く事ができました」
「助けたって…、え?」
「その鬼って良い奴なのか?」
信奈と良晴は鬼の容姿のことより、鬼が町人を助けたという部分に食らいついた。
「はい、町人を助けたのは事実なようです。そのもの以外にも鬼に助けられたものがおりました」
「じゃあ何で町人たちはその鬼を恐れるのよ」
「それは…、おそらく鬼の容姿に関係があるかと」
「容姿?そういえば結局、その白い鬼ってどんな見た目なわけ?」
先ほど信奈と良晴がその鬼良い奴なの?、と質問に質問を重ねてしまったため、鬼の容姿についてはまだ話されていなかった。
「町人たちが言うには、髪は白く、さらに肌も髪同様白いとのことです」
「白い髪に白い肌ねぇ…。たしかに珍しい容姿のようね」
鬼の容姿について聞いた信奈は、珍しいとは思ったがそれだけで恐ろしいと思うものだろうかと考えていた。
しかし、万千代の話にはつづきがあった。
「その上その鬼は、盗賊を斬っている際…、目が赤い光を帯びていた、と。」
「目が赤く?」
さすがに不気味に感じたのか、信奈は少し声のトーンを下げて万千代に聞き返した。
他のものも同様のようで、皆なんとも言えない表情をしていた。
「確かにそれは気味が悪いわね」
「町民たちの中には迷信深いものも多々おります。おそらくそのものたちが中心に恐れているのでしょう。救われた者たちは極少数、救われたという事実はあまり広まらなかったようですね」
「デアルカ」
町人を救った結果、町人に恐れられる。良晴は、そう考えると何だか不憫だなと感じていた。
戦国の世。まだ妖などの類が信じられていた時代であり、そのような時代に先のような容姿を持っていれば不気味がられ、鬼などと呼ばれてしまうのも仕方ないことなのかも知れない。
しかし合理主義者である信奈や未来から来た良晴はそんなものは、信じていない。むしろその鬼を不憫に思うのだった。
「身につけているものは見慣れない黒い着物だったらしく。おそらく南蛮のものではないかと」
「…白い鬼は南蛮人?」
「容姿の話を聞く限りでは、そうでないかと」
「でも、なんで南蛮人が盗賊狩りなんてやるんだ?」
南蛮人ではないかと自分の予想を口にする犬千代。しかし何故南蛮人が、と疑問をもつ勝家。
一同、なかなかわからない白い鬼の正体に頭を悩ませた。
そんな一同を見かねた信奈はその場にバッと立ち上がり言い放った。
「ここで顔つき合わせて悩んでたって何も解決しないわね。だったらもう直接白い鬼とやらをとっ捕まえるわ!」
「いや、とっ捕まえるったって信奈、その鬼の居場所わかるのかよ?」
「万千代、いままで鬼が出没した場所はわかる?」
「はい、いままで町人たちから聞いた話が正しければ,出没した場所はいずれもそう遠くはありません」
万千代は町人たちから聞いた話をもとにわかった出没地点を尾張の地図に記して行く。
すると、出没地点は清洲からそれほど離れていない所にある程度密集していることがわかった。
「なんかすごく密集しているな」
密集しているということはこの辺りに鬼がいるってことか、と良晴は地図を見ながら独白した。
同じく地図を覗き込んでいた信奈は、もう一度すくっと立ち上がる。
「ここまでわかっているのなら、すぐに見つけられそうね!」
先ほどよりも幾分か明るい声で、言い放った。
そこからは即断即決。
矢継ぎ早にその場にいる者に指示を出して行った。
その結果、白い鬼の捜索は良晴、犬千代、そして勝家だった。
「勝家もつけるのか信奈?別に俺と犬千代だけでも…」
「念のためよ。相手は盗賊とはいえ複数の敵を相手取ることができるような奴だし、もし相当の手練だった時のための六よ。六なら斬り合いになっても遅れをとるなんてことは無いでしょ」
信奈の勝家も向かわせる理由を聞き、勝家は自らの槍をぶんぶんと振り回し意気込んでいる。
先の桶狭間では不完全燃焼だったのか、暴れたくてしかたないようだ。
…もう槍を持ってきているということは、すぐさま出るつもりなのだろうか。
「お任せください姫様!この私が鬼を退治して見せます!」
勝家が鬼退治って、ある意味同士討ちじゃね、と良晴。
勝家の戦場での通り名は「鬼柴田」、彼女もまた尾張の鬼なのである。
「だめよ六。退治するんじゃなくてあくまでここに連れてくるのよ。説得するなり、縛って引きずるなりしてね」
信奈は、捕獲に抵抗してきたらある程度は痛めつけていいわ、とサラッと怖いこと言いながら退室してしまった。
もう行けということだろう。
「信奈のやつ、鬼捕まえてどうする気なんだ?」
「…わからない」
「そんなことはいいだろう。いいからさっさと行くぞ!」
良晴たちはこうして尾張に出没する白い鬼を退治…、ではなく捕獲するために清洲城を出発したのだった。
これは良晴、あるいはその他の者たちにとっても数奇の出会いとなるのであった。
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尾張のとある山中
木漏れ日が降り注ぐ山中を一人の男が歩いていた。
日に照らされているその姿は、白髪に白い肌と今噂になっている鬼の容姿と同じものだった。
顔は中性的ではあるがけして女っぽいということはなく、引き締まっていて、身にまとっているものは、この戦国の時代にはあるはずのない黒いスーツ。
その腰には帯刀していた。
山中を進むと男の目の前には大きな鉄の輿のようなものが鎮座していた。
下の部分には丸い車輪が側面に四つずつ、計八つついており、日の光を反射しその輿の表面はキラキラとしている。
だが、明らかにこの時代のものではないのは、見る者が見たらわかるだろう。
そう例えば…未来の人間とか。
「ドクトル、戻ったぞ」
白髪の男が誰かの名を呼ぶと、鉄の輿の中から初老くらいの眼鏡をかけた男が現れた。
眼鏡の男は髪は黒いが前頭部の中央が後退しており、頭頂部が禿げてU字型のようになっている。
「雷電、ここを離れるなら一言いってくれ、心細いだろうに」
「あんたらしくない発言だな」
「私は戦闘員ではない、こんな刃物を振り回すような輩がうろうろする危険地帯に置いてけぼりされたら、心細くもなる」
「だから出来るだけ見つからないように、森の奥の方にこのストライカーを運んだんだろう。俺だってあんたに死んでもらったら困るからな」
ストライカーと言いながら白髪の男、雷電は鉄の輿を指差した。
どうやら鉄の輿はストライカーというものらしい。
ドクトルと呼ばれている眼鏡の男は、ストライカーに背を預けネクタイを緩める。
このドクトルの服装も雷電同様この時代では見慣れないものだった。
「ストライカーは直りそうか?」
「中にある機材は問題無い、…だが走らせることはできんな。駆動系がちっとばかし問題があるようだ」
「そうか…。中の機材が無事なのは不幸中の幸いだな。サイボーグの俺にとってこいつは生命線だ。メンテナンスが出来るだけでもありがたい」
サイボーグ…。
肉体を失ったものに人工的な肉体をあたえたものであり、生身の体に比べ身体機能が向上している存在。
雷電もその服の下は、生身の体ではなく作り物の体、サイボーグなのだ。
「そしてそのメンテナンスには、私も必要だということも忘れんでくれ」
ドクトルは訴えかけるように雷電に視線を投げる。
当の雷電はその視線から目をそらし、悪かった許してくれ、と謝罪を口にした。
「それよりも雷電、私たちのいるここについての情報は得られたのか?この未知の土地にきて数日は経っている。そろそろここがどこだかわかったか?」
「あぁ、山の麓にある町でなんとか情報をあつめられた。最初は警戒されて何も聞けなかったが、根気強く聞いていたら教えてくれた」
「ここでは、私たちの容姿は相当浮いているみたいだからな。警戒されるのも無理は無い。それにどうもここではテクノロジーの存在が欠片も見受けられん。田舎国にでも飛ばされたかな?」
「ドクトル…。どうやらそんな単純な話じゃないらしい」
「というと?」
ドクトルは歯切れの悪い雷電を促す。
雷電は麓の町の方角へ顔を向けながら語り出した。
「俺が麓の町に向かった時に見かけたのは刀を持ったサムライだった。町人たちが喋っている言葉が日本語だったから、ここが日本だとはある程度予想はついていたが…」
「サムライ?、たしか君が掲げていた信条はとあるサムライからとったものだったな。何故そんな昔の部族がここに、コスプレイヤーか何かじゃないか?」
「いや、一般人とは思えない。それにあんたも見ただろうあの盗賊を、やつらが持っているのはおもちゃなんかじゃない。本物の刀だった。現代の日本でそんなものを持っていたら一発で捕まる」
それから雷電は自分の予想と町人から聞いた話をドクトルに語った。
サムライが歩き回っている日本。日本特有の城。本物の刀を持った賊。町人の服装。ちょんまげ。
そして、武田信玄や今川義元、上杉謙信といった人物の名前を聞いた雷電は確信した。
「たけだしんげん?、いまがわ…。誰だそれは」
「俺がサムライのことを学ぶ時に読んだ本や見た映画で知った人物の名前だ。彼らは戦国時代に実在した武将だ。そして戦国時代は400年以上も前」
「まさか…」
ドクトルも察しがついたのか、表情が驚愕でこわばってた。
「俺たちがいるここは、400年前の日本。…戦国時代だ」
「ーーータイムスリップ……」
尾張を騒がせてる白い鬼こと、雷電…。
彼は未来から来た人間だった。
書いてみて思ったんですが、万千代さんの点数つけるところを書く時
「…これって、何点?」ってなって結構悩みました。
万千代さんって何を基準に点数付けてるんでしょうね。