切り裂きジャック〜乱世を斬る〜   作:東奔西走

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番外編を入れる予定でしたが、あまり出来の良いものが書けなかったのでそのまま上洛編へと突入させてもらいます。
と言っても今回はあまり上洛関係ない気もしますがね(;^ω^)

あと今回、オリキャラ多数出てきます!

一部修正入れました。


上洛編
第十四話 忍び衆


「私も宴会に出たかったものだなぁ……」

 

「……さっきから謝っているだろう。そうグチグチ言わないでくれ」

 

「雷電、お前は宴会の席で酒や料理などをたらふく食えただろうが私は一口も口にしていないんだぞ。私が目を覚ました時にはすべて終わっていた」

 

「つまりほとんど丸一日気絶していたわけか……」

 

 

宴会が催された翌日、雷電は稲葉山城、改め岐阜城へとストライカーを運び終えたところだった。

大きな移動があるたびに行われるこの運搬作業、そろそろこの作業から解放されたいと雷電が考え始めたのは今に始まったことではない。

運んでいる最中は絶えずドクトルからの文句が飛んできていたため、ちょくちょくと雷電の中にストレス要素が蓄積されていった。

しかし、ドクトルの不満ももっともなため、思い切ってストレスを発散するわけにもいかないのだ。

というのも、ドクトルが先の宴会に出席できなかったのは雷電のせいであるからだ。

 

雷電が墨俣にいる良晴の救援に向かう前、雷電は小牧山へとストライカーを運んでいたのだが、その時のドクトルがあまりにもうるさかったため、無理やり気絶させたのだ。

そのまま放置した結果、丸一日目を覚ますことなく小牧山で気絶しつづけていたドクトルは、当然岐阜城で行われた宴会に出席できなかった。

そのことの文句を今言われているということだ。

 

 

「今度何かおごってやる、それで勘弁してくれないか?」

 

 

お詫びということでそう提案した雷電、それに対して渋々ながらドクトルは頷いた。

ここで駄々をこねすぎると後が怖いと思ったからだろう。

 

ドクトルとの話もつけ、ストライカーのことを任せた雷電は信奈に会うために彼女の部屋へと向かった。

彼女の私室があるのは二の丸、元々義龍の居館であった場所にある。

今彼女の元に向かう理由は、先日保留となった雷電の恩賞を受け取るためだ。

 

二の丸へ向かっている道中、前方から段蔵が歩いてくるのを確認した雷電。

軽く挨拶でも、と上げかけた手が止まる。

その理由は段蔵のとなりに見知らぬ女の子がいたからだ。

あちらも雷電に気が付いたようで、段蔵が片手をブンブン振って歩いてきた。

 

 

「お帰りー旦那。あのでっかい輿みたいなの運び終わったんですか?」

 

「今さっき運び終えた。ところで段蔵、となりにいるその子は……」

 

「あっ、気になっちゃいます? 気になっちゃいますよね~!」

 

 

雷電の問いに対して、段蔵は随分と興奮しだした。

そんな段蔵の横で頬を赤らめさせながら少し困ったような顔をしている件の女の子が雷電に向かって頭を垂れると同時に自己紹介を始めた。

 

 

「お初にお目にかかります雷電殿。私は加藤又蔵と申します、あなたのことは姉上から聞いています」

 

「……姉上、それに加藤ってことは?」

 

「はい、私は加藤段蔵の妹です」

 

「段蔵の妹……」

 

 

まさかまさかの段蔵の妹の登場に雷電は軽く彼女の言葉をオウム返しした。

 

 

「驚きましたか旦那? あたし自慢の妹、かわいいでしょ?」

 

「姉上、そういうことを言わないで下さいと何度も仰っているではありませんか。しかも雷電殿の前で……」

 

「いいじゃん事実なんだから」

 

 

段蔵、又蔵の姉妹がじゃれあっているのを見て、雷電はふとあることに気が付く。

二人の顔をじっくりと交互に眺めて見比べるとやはりと頷いた。

 

 

(この姉妹、似てないな)

 

 

じゃれあっている二人の顔は姉妹というにはあまりにも似ていなかった。

二人とも可愛らしい顔立ちではあるが……

あまり聞かないほうが良いのかも知れないが、気になった雷電は遠慮気味に姉妹に聞いた。

 

 

「段蔵、確認なんだがお前ら血は……」

 

 

つながっているのか、と続けるつもりが遠慮があったためか言葉が途切れる。

しかし、それだけで姉妹の方には通じたようで、互いの顔を見合わせた後、姉妹そろってあっさりと答えた。

 

 

「「つながっていませんよ」」

 

「つまり義理の妹ということか?」

 

「そうですね。血縁関係はありませんが、姉妹の契りを結んだ仲です」

 

「この子は元々、あたしの忍び衆の子だったんですけど、あんまりにも可愛かったから姉妹の約束を交わしたんですよ。それにあたしが自慢するだけあって、忍としても優秀。可愛くって、優秀で、まさに自慢の妹!」

 

「もぉ、やめてって言ってるじゃないですか姉上」

 

 

つまりは妹分ということか。

だいたい目の前の姉妹の関係がわかった雷電は納得したように数度頷いた。

それにしても段蔵の又蔵を溺愛しているのがよくわかる、いわゆるシスコンだろうか。

加藤姉妹に最近良晴から教えてもらった、流行の言葉を当てはめた。

元はシスターコンプレックスで、それを略語化してものらしい。

 

 

「それにしても、又蔵は礼儀正しい子だな。姉の段蔵とは大違いだ」

 

「んなっ、どうしてですか旦那っ!? あたしだって礼儀正しいでしょっ!!」

 

「お前との初対面のことを忘れたのか?」

 

 

会って10秒もしないでいたずらしてくる奴のどこが礼儀正しいのやら。

そんな思いを込めて段蔵を冷ややかな目で見据える。

 

 

「だって、ああした方が早く打ち解けられると思ったんですもん」

 

「『お命頂戴』で親近感が湧くとでも? むしろ殺意が湧いたぞ」

 

「姉上……」

 

「あれは……つい口からこぼれたといいますか……」

 

「だとしたらお前はその口が原因で早死にするかもな」

 

「ガーンッ!!」

 

 

ショックを受ける段蔵を慰める又蔵を見て、「よくできた妹だな」と改めて思った雷電だった。

又蔵の容姿は、外見だけ大人びている段蔵に対し、まだ幼さを残しているような見た目だが内面は段蔵以上にしっかりとしている。

妹の慰めを受けて、早々に立ち直った段蔵を確認すると又蔵は、改めて、と言った感じで頭を垂れた。

 

 

「では雷電殿、今後よろしくお願いします」

 

「といっても、あたしたちはすぐ信奈様の元を離れるけどね」

 

「どうしてだ?」

 

「信奈様から任を受けているんですよ。間者として武田信玄の元に潜り込むのがあたしたちの新しい任です」

 

「武田信玄……」

 

 

以前から聞いたことのある大名の名前に雷電は敏感に反応する。

 

 

「間者として潜入する以上、旦那とも会えなくなりますね。……ちょっと寂しいかも」

 

「そうか……」

 

 

二人の間に少し悲し気な空気が漂う。

しかし、そんな空気も段蔵のいつもの明るさでかき消した。

 

 

「二度と会えないというわけじゃ無いですし、暗くなっちゃダメですね。あたしらしくないです」

 

「……ふふっ、そうだな。そのほうがお前らしい」

 

「へへへ」

 

 

雷電はそんな彼女に手を差し出した。

 

 

「何ですか、この手?」

 

「んっ? そうか、この時代にはまだ握手の習慣は無いのか」

 

「握手?」

 

「出会った時や別れ際の挨拶みたいなものだな。こうして相手と右手と右手で握り合うんだ。段蔵も右手を」

 

 

そう言うと段蔵はゆっくりと右手を差し出して、雷電と固く握手をした。

短い間ではあったが、パートナーのような存在であった段蔵の顔を目に焼き付ける雷電。

 

 

「気をつけろよ」

 

「あたしを誰だと思ってるんですか? 大丈夫ですよ。旦那こそ、信奈様を頼みましたよ」

 

 

互いにそう言葉を交わすと未練なくその手を離した。

そして、段蔵は雷電に背を向けて去り、又蔵は最後に雷電に向けてお辞儀をしてからその場を去った。

雷電はその二人の背中をしばらく見送った後、信奈の元に向かうため、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

稲葉山城 二の丸

 

 

 

二の丸に入った雷電は一直線に信奈の私室である場所に向かっていた。

道中、兵たちとすれ違ったが、戦による緊張の糸が解けたのかみな気の抜けた顔をしている者が多かった。

だが、すぐに信奈は上洛軍を編成し、上洛に乗り出すだろう。

そうなればまた戦が始まる。

つまり、今はつかの間の休息ということである。

 

 

「信奈、雷電だ。入るぞ」

 

「雷電? 入りなさい」

 

 

信奈の私室へと到着した雷電は、部屋の前で一声かけると入室の許可がおりる。

襖を開けた先にはいつも通りのうつけ姿の信奈が座っていた。

 

 

「ちゃんと来たわね雷電。今日来なかったら恩賞無しにしようかと思ったところだわ」

 

「俺は元々無いものだと思ってたんだがな」

 

「あれだけの功を挙げた家臣に恩賞をあげないわけには行かないでしょ? というかあんた、ちょっと私の家臣だっていう自覚薄いんじゃない?」

 

 

頬杖をつきながら、不満そうにそう口にする信奈に雷電は肩をすくませた。

そんな雷電の態度に信奈は、はぁっと今度は呆れ顔ため息を吐いた。

 

 

「とにかく恩賞だけど……」

 

「食べ物一年分や茶器とかなら遠慮させてもらう」

 

 

信奈が何かを言う前に雷電はそう前置きをした。

これは長秀や勝家の恩賞を目にしたからだろう、正直そんなものを貰っても雷電としては困るのである。

 

 

「安心しなさい、あんたにはもっと有用なものを恩賞としてあげるわ。それも二つもね」

 

「……いいのか、そんなことをして?」

 

「いいのよ。二つって言っても、一つは恩賞であって恩賞じゃないようなものだから」

 

「?」

 

 

信奈の言っていることがわからず首を傾げている雷電を信奈はおかしそうに見ていた。

 

 

「まず一つ目は、休暇を与えるわ」

 

「……休暇?」

 

「そう、と言っても今すぐじゃないわよ? 休暇を与えるのは上洛を果たしてからね。本当は上洛したら色々とやることがあるのだけど、あんたはそれより自分の情報を集めたいでしょ? 京のそばには堺もあるから、そこを中心に情報を集めなさい。あそこは貿易都市で色々な情報が集まるから何か得られると思うわ」

 

 

最初、「休暇? それは恩賞になるのか?」と言いたげだった雷電だったが、信奈の説明で納得した。

雷電としては自由に動ける期間を設けてくれるのは非常にありがたいのだ。

いまも任を受けていないため十分自由にできる時間はあるが、正直ここらの町の情報はすでに収拾済みであり、新しい情報を得るためには他の町へと向かわなければならない。

となるとまとまった期間が欲しいところなわけだ。

 

 

「その恩賞ありがたく頂戴させてもらう」

 

「ふふふ、デアルカ!」

 

 

休暇の恩賞が気に入った様子の雷電に満足そうに頷く信奈。

となると気になるのはもう一つの恩賞である。

雷電はもう一つの恩賞について尋ねると信奈は急に立ち上がり、退出しようと襖に手をかけた。

 

 

「もう一つの恩賞は外に用意されてるわ。ついて来なさい」

 

 

そう言って出て行ってしまい、それに雷電も続いて部屋をでる。

外へと出た信奈たちは、兵たちが鍛錬などを行う場所へと行くと、そこには目算で20人ほどの集団がいた。

その者たちは信奈と雷電が来たとわかると信奈の元に集まり整列をしだした。

「こいつらは何だ?」と雷電が問う前に信奈が答えた。

 

 

「ここにいるのは、みんな道三の元で忍びをやっていた者たちよ」

 

「これが全員、忍なのか?」

 

 

視線を列の端から端までゆっくりと見渡す雷電。

その中には、一人だけだが女の姿も見受けられた。

 

 

「……で、これがどうしたんだ?」

 

 

この者たちが忍であることと、自分の恩賞がどう関係してくるのか雷電はわからずにいた。

その問いを聞いた信奈は「鈍いわねぇ」みたいな顔する。

そして、集団を指さしてこう言った。

 

 

これ(・・)があんたへの恩賞」

 

「何っ?」

 

「だ・か・らっ! この忍び衆があんたへの恩賞なのっ! 雷電、これからあんたにはこの忍び衆を率いてもらうわ」

 

「ちょっ、ちょっと待て信奈っ! 俺がこの忍たちを率いるのか? 忍の扱いなんて俺は知らないぞ?」

 

 

突然、忍び衆を率いろと言われた雷電はそう反論した。

まったく予想していなかったことに雷電は戸惑いが隠せない。

しかし、雷電の反論を信奈は歯牙にもかけなかった。

 

 

「大丈夫よ。私だって最初から雷電一人に任せるのは無茶だってことくらいわかっているわ。ちゃんと対策は考えてる」

 

 

雷電は、信奈が対策を考えているということで、これ以上何も言えなかった。

だが、それでも不満というか、不安というか、そういった要素がすべて解消されたわけではない。

それが顔に出てたのか、信奈は幾分か申し訳なさそうな顔をしている。

 

 

「実は、率いてもらうだけじゃなくて、この忍たちにあんたの持っている未来の技術を教えてほしいのよ。……というか、そっちの方が本音なんだけどね」

 

「未来の技術といったってもなぁ」

 

 

隠密の技術に今の時代と現代で大差は無いと思うのだが……

教えることができるものといえば、スカウト技術くらいのものだろう。

しかし、それも既にこの時代にある技術だとしたら、雷電が教えられることはあるかどうか。

 

 

「まぁ、そのことは出来たらでいいわ。それよりもこの忍び衆を使って情報網を拡大したいとおもっているの。そうすれば、あなたの欲しい情報も効率よく集められるでしょ?」

 

「むぅ……」

 

 

雷電が唸りながら熟考していると、列の中から一人の壮年の男が出てきた。

背は雷電よりかは小さいが体つきはガッチリとした偉丈夫だ。

 

 

「某からもお願い申す。どうか雷電殿、我々をつこうては下さらぬか」

 

 

ガッチリとした見た目に違わぬ野太い声で男は雷電に申し出てきた。

 

 

「まずは名を聞かせてくれないか?」

 

「やや、これは失礼! 某、名を次郎太と申す者にござる。信奈様の申した通り以前は道三様の元で忍びをやっており、この忍び衆を束ねておりました」

 

「そうか。なら次郎太、何故俺に仕える?」

 

 

そう尋ねる雷電に次郎太は真剣な顔でこう答えたのだ。

 

 

「簡単な理由でござる。雷電殿、某は貴殿に惚れたのでござる!」

 

 

雷電の体感時間が止まった……

たっぷり10秒固まった雷電。

そして、時は動き出す……

 

 

「お、お前そっちの趣味の人間かっ!?」

 

「……はっ? そっちとは?」

 

 

咄嗟に1mほど距離を取った雷電に次郎太は首を傾げてみせる。

だが時間が経つに連れて雷電が考えたことがわかったのか慌てて訂正を入れてきた。

 

 

「そ、某は衆道では無いですぞっ!!」

 

「本当かっ?」

 

「本当でござるっ!」

 

「真かっ?」

 

「真でござるっ!」

 

「そ、そうか……」

 

 

何度も問答をした末、雷電は次郎太は男色ではないと判断した。

だが、取った間合いを詰めようとはしなかった。

お互いに落ち着いたのを確認すると、次郎太は咳払いをしてから語り出した。

 

 

「先の墨俣での戦の折、雷電殿はあの相良殿を身を盾にし、守り通したと伺っておりまする。その体に三本の槍が突き立てられようとも一歩も引かなかったと」

 

 

雷電はなんとなく腹の辺りをさすった。

槍の傷は完全に塞がっており、痛みは無いが傷の話をされたことで微かにうずいたのだ。

 

 

「その御味方を守り通すための不退転のご覚悟、実に天晴でござる! これが惚れずして何としましょう!」

 

 

かなり興奮気味の次郎太に若干引きつつ、信奈に目を向ける雷電。

 

 

「さっき言った対策っていうのは、次郎太を補佐役にすることだから。元々これを束ねていた者が補佐役にいれば安心でしょ?」

 

「確かにそれなら安心できるが……」

 

 

語尾しぼむ雷電は、次郎太へと向き直った。

 

 

「あんたが俺に仕えたい理由はわかった。だが、他の者はどうなんだ? あんたがよくとも他が納得していなければまずいだろう」

 

 

雷電は腕組みをし、次郎太の後ろに控えている他の忍びたちに視線を投げかけながらそう言った。

それに対し次郎太の返答を待った。

 

 

「それに関しては、も———」

 

「問題ありませんっ!」

 

 

しかし、返答は次郎太からではなく、その後方から来た。

実によく通る女性の声だった。

雷電と次郎太は共に声のした方へと視線を投げると、そこには凜とした面構えをした少女の姿があった。

 

 

「頭の判断には我々全員が納得しております。ですのでそれ以上の追及はおやめください」

 

 

少々キツイ口調で話す少女は依然凜とした表情を崩さずに雷電の目をまるで射るような眼差しで見据えてくる。

そんな彼女のことが気になった雷電は名前を聞いた。

 

 

(もみじ)といいます」

 

 

なんとも素っ気ない返答に雷電は苦笑いする。

どうやらこの椛という少女はだいぶクールな性格なようだ。

 

 

「申し訳ござらぬ雷電殿。椛は腕は確かなのですが、少々不愛想でしてなぁ。まあ某の忍び衆の中で紅一点なため、気負っているんでござる」

 

「気負ってなどいませんっ!」

 

 

この忍び衆の中で唯一の女性である椛。

あの性格なのはそれが原因なのだろうか、と雷電は少しこの少女に対して興味が湧いた。

 

 

「椛、さっきは愚問な質問をして悪かった。すまない」

 

「……い、いえ。こちらこそ、その、申し訳ありません。急に声を張り上げて」

 

 

まさかこれから自分たちを率いる相手が謝ってくるとは思っていなかったのか、椛は先ほどまでの凜とハキハキとした返答ではなく、少々つっかえながら自らも謝った。

二人の話を終えるのを確認すると信奈が雷電へと視線を送る。

 

 

「これで納得した? 雷電」

 

「ああ、もうこれ以上何かを聞くのはかえって彼らに失礼だろうしな」

 

「じゃあ、この恩賞。受け取ってくれるわね?」

 

「ありがたく頂こう」

 

 

承諾の言葉を聞いた信奈は疲れたように「ふぅ~」と息を吐き出した。

そして、「じゃあ、政務があるから戻るわね」と自室へと戻っていった。

 

 

「雷電殿。いえ、雷電様。これより我々はあなたの手足となりましょう。存分にお使いくだされ」

 

「ああ。だが、俺は兵を率いた経験が無い、補佐役を頼む次郎太」

 

「お任せをっ!」

 

「他のみんなもよろしく頼む」

 

「「「承知っ!」」」

 

 

こうして、雷電に次郎太とその忍び衆たち、そして紅一点の椛が家臣となった。

その場で雷電は、次郎太以外の忍び達を帰らせ、2人で主に忍び衆について雷電に設けられた私室で話し合うことにした。

名目上、忍び衆を率いるのは雷電だが、言ったとおり彼は今まで単独での活動しかしていなかったため、いきなり忍び衆を扱うことができない。

なので当分は、次郎太が忍び衆に細かい指示を行うような形になった。

 

そして、信奈から頼まれた未来の隠密技術の伝授だが、次郎太に相談したところスカウトの技には彼らには無いものもあることがわかったため、それらを彼らに教えることが決まった。

それに加え、忍び衆を率いている次郎太に雷電は、いくつかの忍び衆を率い方を口上で指南などをしてもらい今後の参考としたりなど色々と話し込んだ。

 

 

「おお、もう日が暮れようとしておる。やはり有意義な時間を過ごしますと時の流れが速いですなぁ」

 

「こっちもお前の話は色々と参考になった。また忍び衆を扱う上での極意を教えてもらえると助かる」

 

「お安い御用でござる。こちらも良いものを聞かせてもらい申した。雷電様の"すかうと"という技を聞いた時は、目から鱗が落ちる思いでござった」

 

「そのことについても、また話し合おう。まだ教えられるような技があるかも知れない」

 

 

部屋の襖の隙間から覗ける空は茜色に燃え上っており、そろそろよい時間だと二人は話を終え、次郎太は退出しようとした時……

ダンッダンッ、と雷電の部屋の戸が叩かれる音が響いた後、少女の声が聞こえてきた。

 

 

「御免っ! ここに雷電殿はおられますか?」

 

「……この声は」

 

 

聞こえてきた少女の声に次郎太が小さな声で反応する。

そんな次郎太を一瞥するも、雷電は戸口へと歩みその戸を開けた。

何の返事もせずに戸を開いたため、相手の少女は不意打ちを食らったようにピクッと震えたのが見えた。

 

 

「君は……」

 

「は、はっ! 拙者、先日の論功行賞の折に信奈様の許しを得て、織田家へ奉仕することとなった。明智十兵衛光秀と申します」

 

「明智十兵衛、君がか。良晴から君の名は聞いた。『純情可憐な美少女剣士の後輩ができたっ!』と大はしゃぎしてたが、……なるほど確かに可愛らしいお嬢さんだな」

 

「そ、そんな可愛らしいだなんて。雷電殿は口が達者でいらっしゃいますね」

 

 

雷電の口説き文句に、十兵衛は頬を紅潮させて照れるような仕草をしだす。

その十兵衛の反応にどこか満足そうな顔をする雷電は、キュッと顔を引き締めて本題へと移った。

 

 

「それで十兵衛。俺に何か用か?」

 

「いえ用というほどでは……。先日の論功行賞の場では雷電殿は席を外されていたようなので、ご挨拶ができず。日を改め、今日ご挨拶へとうかがわせていただいたのです」

 

「そうか。それは悪かったな、わざわざ足を運ばせて。良晴から君のことを聞いていたから、こちらから行くべきだったな」

 

「いえっ! 先輩にあたる雷電殿にそのような手間をかけさせるわけには参りませぬ」

 

 

動作や言葉遣いなどが礼儀正しい十兵衛の姿に良晴があのように言ったのもわかると雷電も頷く。

それでいて剣の腕も相当なのだろう、と雷電は彼女の腰に帯びている刀に視線を走らせながら思った。

顎に手を当てながらそんな事を考えていると後ろから次郎太がぬぅっと出てきた。

 

 

「おぉ、やはり明智殿であったかっ!」

 

「えっ、次郎太殿っ! なぜあなたがここに?」

 

 

二人の反応に雷電は一瞬「知り合いなのか?」と疑問に思ったが、次郎太は元道三御付きの忍びであり、十兵衛は道三の元小姓であれば不思議ではない、と納得する。

 

 

「某は雷電様の家臣。ここに居てもおかしくはございますまい?」

 

「雷電殿の家臣に、いつの間に……」

 

 

十兵衛はどこか戸惑った様子で雷電と次郎太を見比べ、しばらく落ち着かない様子だった。

 

 

「申し訳ありません雷電殿、急に取り乱してしまい」

 

「いや、気にしないでくれ。それより十兵衛、これからよろしく頼む」

 

「はいっ! "白鬼"と恐れられている雷電殿と共に織田家へ奉公できることを嬉しく思いますっ!」

 

 

元気いっぱいに言い放った十兵衛は「では私はこれにて」と雷電の部屋に背を向けて立ち去って行った。

彼女の姿が遠くなるまで見送っていた雷電に次郎太が耳打ちをしてきた。

 

 

「油断なされてはいけませぬぞ雷電様」

 

「何がだ、次郎太?」

 

「明智殿は確かに純情可憐で可愛らしい女子でござる。しかし、道三様の小姓を務めていたあの女子がそれだけで終わるはずがない、ということでござる」

 

「純情可憐な一面以外にも、他の一面があるということか?」

 

「さようでござります。某、明智殿に骨抜きにされ欠けている相良殿が心配でござる。重ねて申し上げまする。ゆめゆめ油断なされますな雷電様」

 

 

次郎太の忠告を聞いた雷電は、『純情可憐な明智十兵衛光秀』に『(警戒の必要有り)』と無言で追加記録した。

そして、おそらく未だに『純情可憐な十兵衛ちゅん』と信じ込んでいる良晴に心の中で「がんばれ」と一言応援メッセージを送る。

 

 

「しかし誤解をしないで頂きたいのは、明智殿が雷電様へ危害を加える危険性があるというわけではござらぬので、どうか毛嫌いだけなさりませぬよう」

 

「ああ、俺もそんな気はない。ただ警戒をしつつ友好を深めさせてもらう」

 

「はっ、それがよろしいかと。明智殿も根はお優しい女子でござりますので……おそらく……」

 

「……厳重警戒で友好を深めさせてもらう」

 

 

十兵衛の姿が完全に見えなくなると、次郎太も「では、某もこれにて」と姿を消した。

一人になった雷電は、部屋の壁に背を預けるように座り、天井を眺める。

表情の無かったその顔に、次第に笑みが刻まれていく。

 

 

「賑やかになってきたな。信奈の言葉を借りて言えば、家族が増えたわけだ」

 

 

雷電にも家臣ができ、そして可愛らしい後輩(警戒必須?)の十兵衛ができた。

それだけではなく、織田家には多くの者が加わったのだ。

 

しかし、不意に本当の家族であるローズとジョンの顔を浮かぶ。

瞬間、雷電の顔には何とも言えない影が落とされた。

 

 

「早く……帰らないとな」

 

 

そう小さくこぼすと、雷電の頭がゆっくりと下がっていき、そのまま眠りに落ちて言った。

 

 

 

 

 

 

 




又蔵、次郎太、椛。
三人のオリジナルキャラはどうでしたでしょうか?
最初は何らかの武将にしようと思っていたのですが、なかなか見つからず。
結局、完全創作武将となってしまいました。

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