これは、だいぶ前に作者が変なテンションで書いてお蔵入りにしたモノを試しに投稿してみたものです。
お蔵入りにした理由は読めば嫌でもわかると思いますが、キャラ崩壊が著しいこと。
特に雷電はヒドイ状態なことになっています。
もし、キャラ崩壊が嫌だったり、ふざけたモノが嫌な方は回れ右してください。
大丈夫という方はどうぞっ！
『黒歴史』
これは雷電が道三の元を訪ねてから宴会の場に返ってきてからのお話。
美濃攻略が成ったその日の夜、稲葉山城では祝勝会として酒宴が開かれた。
祝勝会はみんな酒も入っていることもあり、ドンチャン騒ぎとなっていた。
「サル～～っあんら、六の胸ばかり見てんじゃないわよっ！このエロ猿～～！」
「何言ってんだ信奈っ！ つかお前酒くさっ！！」
「主君に対してなんらのよ、その口の聞き方わぁ～～っ！ 決めた、あんら打ち首よっ！」
「うわぁぁ～～っ！ こんな場所で刀抜くな、あぶねえだろうがぁ！」
宴会が始まってから既に一刻が経っており、信奈をはじめ所々で酒に酔った者が暴れている。
そして雷電は草庵から戻るとすぐに勝家に捕まり、酒豪対決をさせられていた。
「ふぃ～、雷電ろの思ったよりやるなぁ～。だけどまらまらぁ～～」
「それ以上は体に毒だぞ勝家。もう呂律が回らなくなってるじゃないか」
「こんらのは序の口らぁっ！」
「序の口で呂律回らなくなっているだろうに……」
「うるさぁいっ！」
雷電の静止も聞かず、勝家はぐびぐびっと酒を煽り飲んでいく。
仕方なく雷電もそれに合わせて杯を傾ける。
二人は同時に酒を飲み干し、杯を置く。
「まら平気そうらなぁ雷電殿ぉ～～。じゃあもう一杯っ！」
「もういい加減に———」
引き続き飲み続けようと杯に酒を注いでいく勝家を止めようとした雷電だが、彼が止める前に犬千代が酒瓶を取り上げてしまった。
取り上げられた勝家は不満そうに犬千代を睨みつける。
「いぬぅ～～っ！ らんのつもりだぁ、私の酒を返せぇっ！」
「……雷電の言う通り、いい加減にする。勝家は飲みすぎると悪酔いするからこれ以上はダメ」
勝家の恫喝にも毅然とした態度をする犬千代。
だが、それでも勝家は食い下がらずに犬千代に奪われた酒瓶を奪い返そうと暴れだした。
「いくら宴会の場とはいえ、勝家殿には毎度毎度困ったものです。そろそろご自分がお酒に弱いということを自覚して欲しいですね、5点」
「やっぱりあいつ酒に弱いのか。二杯目にして様子がおかしくなったからもしやと思ったが……」
「その上、酔いが過ぎますと手がつけられない暴走をするので、本当にやめていただきたい……」
愚痴をこぼす長秀も酒を飲んではいるが自分の限度というものをわかっているため、ほろ酔い程度でおさまっていた。
正直、長秀が酔った姿を一度見てみたいと考えた雷電は彼女の顔をまじまじと見る。
勝家と争っていた犬千代も長秀の言ったことに同調し頷いていた。
そして、器用に勝家の猛攻から酒瓶を死守しながら犬千代は勝家に関するあることをカミングアウトする。
「……この前は、悪酔いして宴会の場で大暴れした挙げく、全裸になってその場で盆踊り。その後、そのままの姿で町に出ようとしていた」
「「……えっ？」」
犬千代の言葉に雷電、それにじゃれあいの末、信奈の刀を白刃どりをしていた良晴が敏感に反応した。
だが、それ以上に敏感に反応したのは犬千代によって自らの黒歴史を語られてしまった勝家であった。
「うわぁぁっ！ うわああああぁぁぁっ！ いぬぅ～～っ！？」
「……あの時は大変だった」
「はい、いま思いだしてみてもあの収拾をつけた自らの苦労がしのばれます。あの時の勝家殿を抑え込むのにどれほど苦労したことか」
「……しかも、勝家は抑え込もうとしていた長秀の着物をも脱がせようとしていた」
「それは……忘れてください」
「犬千代っ！その話詳しく教えてくれぇっ！」
自らの黒歴史を聞いて酔いも吹っ飛んだんだろう、勝家は青い顔をして「やめてぇ！」「それ以上言わないでぇ！」と懇願していたが、犬千代と長秀は構わず当時の自らの苦労話を続けていた。
周囲の男衆もその時のことを思いだしたのか、盛り上がるもの、前かがみになるものなど反応はさまざまである。
しばらくこの騒ぎは続き、静まるころには勝家は半ば力尽き、良晴は信奈によってボロ雑巾のようになっていた。
シクシクと顔を伏せて泣いている勝家に雷電が近寄り慰めてやろうとした。
その瞬間……
「うわーんっ！こんな辱めをうけて、私は生きていけません。私、腹斬りますぅ！」
いきなりガバッと起き上がると、どこにしまっていたのかその手には小太刀が握られていた。
その顔は大粒の涙を流しており、鼻は真っ赤に染まっている。
相当あの話を掘り起こされるのが嫌だったことがうかがえる。
「えっちょっと六っ！？ 落ち着きなさいってば」
「……勝家、早まってはいけない」
「そうです、一度落ち着きましょう。私たちが言いすぎました、この通り謝ります。ですから落ち着いてください」
流石にこの状況には信奈やその他の者たちも酔いがさめ、どうにか勝家を落ち着かせようとみんなでなだめるが彼女は半べそ状態で聞く耳を持たない。
男衆が何とか勝家を取り押さえようと努力したが勝家が小太刀を持っているということもあり、容易に抑えることができず、最終的に雷電の力も借りて彼女を怪我させることなく事を収めることができた。
「落ち着いたか？ とりあえず危ないからこの小太刀をはなせ」
「う、うぅぅ……ぐすっ」
すすり泣く勝家の声を聞いているとなんともいたたまれない気持ちになってくる。
しかし、このまま彼女を放置するのはいかがなものか……
泣いている勝家にみんなそれぞれ慰めの声をかけるがその言葉がむしろ彼女を惨めにさせてしまう。
女性である彼女にとって家臣団の前で全裸になったなど、まさにトラウマものだろう。
……うん？
……全裸？
その時、雷電はあることを思い出した。
そう、雷電本人の黒歴史を……
「……聞け、勝家」
「ずずずっ、なんでず雷電殿？」
気か付くと雷電は勝家の肩に手を置き、彼女の目を見ながら言葉を続けた。
「あのような過去を暴露されて、恥ずかしくてたまらないかもしれない。半端ではない羞恥心がお前を襲ているかもしれない」
「……」
「だが、勝家っ！ その羞恥心を乗り越えろっ！ 克服するんだっ！ 自らの黒歴史を克服した時、お前の心はもう一段階強くなるっ！」
肩をガッチリと掴んだまま雷電は勝家の目を真正面から見つめ、熱弁している。
勝家も彼の目をまっすぐに見つめていた。
「実はな勝家、……俺もお前のような黒歴史があるんだ」
「雷電殿にも……？」
「ああ、あれは……そう、今から約１０年前のことだった……」
「あれ、何か始まったぞ……」
遠い目をしている雷電にボロボロ状態の良晴がそうこぼした。
「１０年前、俺は敵地に潜入する任務を受けていた。当時の俺はこの時代で言うところの忍のようなものだったんだ、ちなみにこの時の俺の体はちゃんと生身だ。任務の詳しい内容はこの際省くが、俺はその任務の途中で耐え難い恥辱を受ける羽目に……」
遠い目をした雷電が語る話を周りのみんなが聞いていた。
「任務は最初こそは順調に進んでいたんだ。だが、徐々に状況が悪くなっていってな」
ここで一呼吸。
「そして、いろいろあって俺は敵に全裸の状態で拘束されたんだ……」
「あれ、何かいきなり過ぎないかっ！？ そこまでの経緯はっ！？」
「長い上に説明が難しいから面倒なんだ。察しろ」
「えーー……」
いきなりの急展開な話に誰もついてこれておらず、小首をかしげながら話を聞いていた。
ただただ雷電の話がエスカレートしていく。
「拘束されていたこと自体はいい、別にそこは問題ではない。だが何故全裸なんだっ！ 裸にする必要があったのかっ！？ 当時の俺はそういう憤りのようなものを感じる前にただただ恥ずかしかった」
「……あ～何だろう。何ていうか俺の中にあるクールなキャラの雷電さんが崩壊していくな」
「ここまで熱っぽくなっている雷電って何か珍しいわね」
普段が落ち着いたイメージだけに今の雷電の姿は周りのみんなには雷電の貴重な一面に写っているようだ。
そんな周りの視線を知ってか知らずか、雷電の語りはなおも続く。
「俺はその拘束を何とかして外し、脱出しようとしたがいくら探しても着るものが無くて、結局、全裸のまま敵地をさまよう羽目になったんだ。俺の歴史上あれほど無様な姿もなかっただろう。その途中で任務の目的が変わってな、俺は脱出ではなく更に敵地の奥へと潜入することになった。もちろん全裸でだ」
「何も身に着けずに潜入任務だなんて、やはり旦那はただ者じゃないですね。私には真似できません……というよりもしたくありません」
いつの間にか段蔵もこの場に加わって雷電の話を聞いていたようで、雷電を称賛、もとい哀れみの含んだ視線で彼を見ている。
「それで、雷電殿はそのあとどうされたのですか？」
「まあそのあとも色々とあって、仲間と合流して自分の装備を手に入れることができた。そして、任務も一応無事に完了した。しかし、そこまでの道中で受けたあの恥辱は忘れられないっ！ 俺はあの任務で何か大切なものを失ったっ！ わかるかこの気持ちがっ！？」
「……途中からよくわからない部分があったけど、雷電が大変な目にあったことはわかった。はむはむ」
「あれ、そういう話だっけ？ なんか違くね？」
酒を飲めない犬千代がういろうをかじる。
だいぶザックリとした内容だったが雷電の言いたい「忘れられない恥辱」という部分だけはみんなわかったようだ。
すべてを語り終えた雷電は杯をぐいっと傾け、酒を煽り飲む。
雷電の過去話が終わった宴会の場になんとも微妙な空気が漂っている中、彼の話を聞いた勝家が拳を震わせながら呟き始めた。
「なんて……なんて壮絶な話なんだ。同じ黒歴史でもここまで差があるだなんてっ！ これがそのまま私と雷電殿の差なのか……。私の話と雷電殿の話では、全裸という言葉の重みさえ……違うっ！！」
「なんか話の趣旨が違ってきてるぞっ！？ つか全裸の重みってなんだっ！？」
「フッ……」
「万千代……明らかに雷電酔ってるわよね、あれ」
「どうでしょうか？ 見た目上酔っているようには見えませんが……とはいえ明らかに様子がおかしいですし、場酔いでしょうか？」
そう語る二人の視線の先には、表面上は何ら変わらない雷電が薄気味悪い笑みを浮かべて勝家の様子を見ていた。
いつもの冷静な表情はどこかへと行ってしまっている。
「家臣団の前で全裸になった程度で恥辱だ何だと恥じていた自分が恥ずかしいよ雷電殿っ！」
「いや六、あれは十分恥じてしかるべきことよ？」
「ただ慰めるはずが何故こんなことに……」
どんどん変な方向へと向かっている勝家を前に頭を抱えだす信奈に長秀だった。
そんな勝家だが、しばらく座したまま悶々としていると急に立ち上がり、決意の表情をあらわにした。
「かくなる上は、私も敵地に全裸で突撃してやるっ！ 雷電殿を超えてやるっ！」
「へっ？ ちょっと待ちなさい六っ！？ 何考えてるのよっ！」
「そうだぜ雷電さんの話に変な影響受けてんじゃねえっ！ 全裸……(は見たいけど)、敵地に突撃なんざ単なる自殺行為だっつーのっ！ つかどこに突撃する気なんだよ。雷電さんも何か言ってくれ、あんたがまいた種だぞコレっ！」
「そうよ雷電、早く勝家をとめっ———」
「よし、行ってこい」
「「煽るなあぁぁぁっ！！」」
「応っ！ 全裸がなんぼのもんじゃあっ！ 鬼柴田をなめるなよ、こらあぁぁっ！」
雷電の煽りの一言に勝家は叫び声をあげ、自らの着物に手をかけながら走り出した。
当然信奈から止めるように言われた家臣団が勝家を止めるために必死に組みかかりにいくが、一度火のついた勝家を止めることは難しかった。
これでは勝家の黒歴史の再現である。
違うところといえば、犬千代と長秀が巻き込まれるのを恐れて、早々に他の部屋へと移動したことだろう。
長秀たちが避難した部屋には既に半兵衛、それに段蔵などがいた。
彼女らも巻き込まれるのを恐れて早々に逃げてきたようだ。
「くすんくすん、ただでさえ皆さんお酒に酔われて怖かったのに何やら雷電さんまで暴走していて……」
「旦那があんなんじゃ、収拾つかないかもね～」
「……お酒の力は恐ろしい。はむはむ」
「雷電殿に限ってはお酒とは限りませんが……」
となりの部屋から騒がしい音を聞きながら避難した者たちは軽いため息をこぼす。
「この騒ぎはいつまで続くのだろう？」と考えた一同はもう一度深いため息をはいた。
結局、この騒ぎは日が昇るまで続くこととなり、織田家の間で勝家及び雷電の黒歴史が更新されることとなったのだった。
『NGシーン』
第十三話 蛇 にて。
「これは……」
「
その光景を目にした二人は、しばらく口を閉ざしたまま見入っていた。
岐阜の町を一つのキャンパスとして描き出された一匹の蛇。
蛇はなんとも優し気な目をした可愛らしい姿であり、本来の蛇の恐ろしさなど微塵も感じられない。
「かようなものが岐阜の町に現れるなんて、いったいあれは……」
「道三に向けた信奈のある種の贈り物のようなものだろう。信奈が何やら準備をしていたと良晴から聞いていたんだが、こういうことか」
「道三殿に信奈様がですか？ ……なるほど、『岐阜の町』とはそういうことですか」
信奈が『岐阜の町』と名付けた意味を段蔵は気が付いた。
だが、雷電は気がついていないようで小首をかしげている。
そんな雷電に段蔵は説明を始めた。
「信奈様にとって道三殿は義父。そして、この町の名は『岐阜の町』。岐阜(ぎふ)と義父(ぎふ)をかけているんですよ」
「岐阜と義父……ふふっ、信奈も粋な真似するな。上にいる道三はちゃんと見てるんだろうか？」
「きっと見てますよ。今頃泣いてるかもしれませんよ？」
しばらく二人は岐阜の町に現れた蛇を眺めながら再び酒を飲み交わした。
段蔵の話を聞きながら、雷電はある人物を思い出す。
今は亡き、世界を全面核戦争から救った「伝説の英雄」「不可能を可能にする男」のことを……
そして雷電は彼の言葉を思い出す。
『性欲を持て余す』
「……ん？？？」
「どうかしました旦那？」
「い、いや。何でもない……(聞き間違いだろうか？)」
聞いたことのない変な言葉が頭の中に響いてきた雷電は頭を振り、もう一度彼の姿を思い浮かべる。
思えば彼は多くの言葉を雷電に残していった。
その言葉の多くが雷電を救い、心に響くものであった。
『ダンボールは戦士の必需品だ』
「……いや違う、そうじゃないっ！！その通りだがそうじゃないっ！！」
「うわっ！？い、いきなりどうしたんですか旦那っ？」
またもや考えていた言葉と違うものが出てきて思わず声を出してしまった。
おかげで段蔵を跳ね上がるほど驚かさせてしまった。
「すまない、ちょっと昔のことを思いだしていてな……」
「そ、そうですか。……大丈夫ですか？」
「ああ、大丈夫だ」
軽く深呼吸して心を落ち着かせる雷電。
声を上げたせいで上がっていた心拍数が徐々に落ち着つき、正常に戻る。
そして雷電は空に浮かぶ月を眺めながら過去の彼の姿をゆっくりと思い起こしていく。
思い起こすのは……そう、４年前のころの彼の姿。
４年前の彼はもはや老兵といえるほどに老いていた。
しかし、それでもある使命を持って戦場に立つその姿は雄々しく、猛々しいものがあった。
彼が戦場に立っているビジョンが鮮明に浮かんでくる。
四方八方から銃声が響き渡る中、彼は恐れることなく仁王立ちしていた。
その手には、何やらヘンテコな銃が握られており、彼はその銃を天へと突き出す。
そして、こう叫んだ……
『太陽おおおおぉぉぉぉっ！！！』
「月が……綺麗だな」
「そうですねぇ」
そう言う雷電の瞳は虚ろになっていた。
おかしい、明らかにおかしい。
もっと重要な、大切な言葉があるはずなのにまるで出てこない。
代わりに出てくるのは変な言葉ばかり、声は確かに彼の声なのだが……
あれだけ心に響いていた言葉なのに全然思いだせない。
なんとか捻り出すため、彼との過去を思い出そうと目を瞑り必死に過去をさかのぼる。
思いだせ、思いだせ！ 彼の声を思いだせっ！ と心の中で自分を叱咤した。
『ソ〇モンよ！ 私は帰ってきたぁぁああ！！』
「……戻ってこいスネェェェクっ！！ あんたはいったいどこへ行ってしまったんだあぁぁぁっ！？」
「本当に大丈夫ですか旦那っ！！？」
また違う。
何度試みても彼の言葉を思いだせない雷電は、思わず彼の名を叫びながら悶えた。
ただ悶えるのではなく、頭を抱えた状態で地面に打ち付け始めたのだ。
これには、そばにいた段蔵はおっかなびっくりな状態になったのは言うまでもない。
「旦那、気を確かにっ！ ど、どうしちゃったんですか一体？」
自らの頭をハンマーの如く地面に打ち付けながら「何故思いだせないっ！」と叫ぶ雷電の奇行を段蔵は止めようとするが対処法が全く思い浮かばず、ただただ、あわわわっと立ち尽くしているだけだった。
そんな調子で延々と続くように思えた雷電のヘッドバッドだったが不意に止み、今度は空を仰ぎながらブツブツと呟き始めのだ。
奇行に重なる奇行に段蔵は、雷電が何かとり憑かれたのではと考え出した。
その時である。
———ボッシュウウウウゥゥゥ……
「ええぇぇっ！？ ちょっと旦那、頭から煙がっ！？」
急に雷電の頭から破裂音のような音が鳴ったかと思えば、そこから煙が立ち始めた。
もう何が何だかわからない段蔵は、雷電の肩を鷲掴みにし、脳しんとうが起きるのではというほどの勢いで雷電をゆすり始めた。
完全に脱力状態の雷電の頭は、揺らされるのに合わせて前後に大きく揺れている。
全然元に戻らない雷電にもう段蔵は半泣き状態になっていた。
「旦那、旦那ぁ！」
そう叫び続けてどれくらい経ったころだろうか。
盛大に前後に揺らされていた頭が急にピタッと止まり、ゆっくりとその目線を段蔵へと移したのだ。
その反応に段蔵の表情に安堵の色が広がった。
「旦那！ よかった大丈夫ですか？」
安堵の吐息と共に段蔵がそう聞くが、雷電の顔を見て眉を寄せる。
いまだに瞳が虚ろなままの状態であり、そしてどこか反応が鈍い。
訝しがる段蔵に雷電が彼女の目を射抜きながら不意に口を開いた……
「……性欲を持て余す」
「…………へっ？ ………………………ふぇっ！！！！？」
真顔でとんでも発言をした雷電に段蔵はトマト顔負けの真っ赤な色に顔を染め上げた。
まっすぐに段蔵の目を見てくるその目は、虚ろでありながらキリッと凛々しい。
それだけに先ほどの発言がその表情とまったく釣り合わないのである。
「え、ちょっ、ちょっとあの……えーと。だ、だだだ、旦那？ ななな、ナニヲイッテルンデスカ？」
「……性欲をも———」
「いぃぃぃやぁぁぁぁっ！！」
もはや段蔵の頭はパニック状態へと陥っていた。
そこへ道三の元を後にして下山していた良晴が段蔵の叫び声を聞いてやってきた。
「だ、段蔵さん？ どうしたんだよ大きな声出して、どうかしたのか？」
「さささ、サルの旦那ぁぁぁ！ 旦那が、雷電の旦那がおかしくなっちゃったああぁぁ！」
「へ？ 雷電さんがどうしたって？」
「あ、あれぇ」
そう言いながら彼女が指さした先には、先ほどまで座していた雷電が仁王立ちになって月を見上げていた。
この光景だけを見れば別段変なところはない。
「別におかしなところなんてどこにも———」
「太陽おおおおおおぉぉぉぉぉぉっ！！」
「———重症じゃねえかっ！？」
月を見ながら太陽と叫んでいる雷電を目撃したことで流石に良晴もことの重大さに気が付いた。
いつものクールな姿はどこへやら、今の彼の姿に良晴たちはただただ戸惑う。
「段蔵さん。あんたもしかして雷電さんに何か盛ったの？」
「盛ってないよっ！」
「じゃあ何であんなことになってるんだよ」
「わかんない、本当に急だったんだ。急に変なことブツブツ呟きだして……」
「変なことを呟いて？」
「急に頭を地面に叩きつけはじめて……」
「地面に叩きつけるっ！？」
「そして急に頭が爆発して……」
「頭が爆発っ！！？」
「そしたらあんな状態に……」
「全くもって意味がわからねえ」
説明を受けても全く理解できない良晴は奇行を続けている雷電をただ眺めていることしかできなかった。
「と、とにかく俺たちだけじゃどうにもならないから、助けを読んでこよう。そうだ、そうしよう！ てなわけで助けよんでくる！」
「えっ！ ちょっと待って、あたしも行くっ！ 今の旦那と二人なんて無理っ！」
面倒事はごめんだ、と言わんばかりにそそくさと立ち去る良晴に段蔵も続く。
その場には、なおも奇行を続けている雷電のみが残されてたのだった。
しばらくして、半兵衛を連れてきたことによって判明したことは、この時の雷電は何者かにとり憑かれていたとかいなかったとか……
もし、この話の評判が悪いようであれば消します。
逆に面白いと思っていただけていたら、また書くかもしれません。
感想等、待っています。