切り裂きジャック〜乱世を斬る〜   作:東奔西走

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更新ペースがたいぶ乱れてきました(汗)




第九話 相良良晴という男

稲葉山城 二の丸

 

 

 

櫓に登り見張りをしはじめてからどれくらい経ったのだろうか、日はすでに傾き始めている。

結局、義龍たちは稲葉山城を取り戻しには来なかった。

おそらく半兵衛の式神たちが恐ろしくて戻ってこれないのだろう。

 

そう見切りをつけた雷電は櫓から降りて、風呂から上がっているであろう段蔵たちの元へ向かう。

館に入ろうとすると、中から少し深刻そうな面持ちの段蔵、それから半兵衛が出てきた。

雷電に気づくとこちらに駆け寄ってくる。

 

 

「旦那、浅井長政を見ません出した?」

 

「それに安藤の叔父さまもいないんです、くすん」

 

「いや見ていないな。良晴が言うにはその二人は、何か話があるとかで……にしては長いな」

 

「先ほどから探しているんですけど、一向に見つからなく」

 

 

どうやらただ話に行ったというわけでは無さそうだ、どう考えても長すぎる。

最初はそこまで気にしていなかった雷電だが、流石に知らぬふりは出来ない。

半兵衛はすでに目に涙を溜めていて、今にも泣きだしそうである。

 

すぐに段蔵たちと共に雷電も周辺を探し出すが、まったく見つからない。

もう稲葉山城の中にはいないと考えた方が良さそうだ。

「もう夜だ」という段蔵の呟きに雷電と半兵衛が空を見上げる。

探すことに必死になっていて、空が暗くなっていることに気づかなかった。

 

 

「これだけ探していないのだから、城外へ出たようですね。浅井長政がこの子を調略するのが目的なら、おそらく安藤伊賀守は長政によってさらわれたと考えるべきです」

 

 

視線を鼻を赤くさせた半兵衛に向けながら段蔵は苦々しく説明した。

雷電もその考えに同意するように頷く。

そして、もう少し早く気付くべきだったと腰に手を当てながら、軽くこうべを垂れる。

 

そこへ館内を中心に探していた犬千代が走ってやってきた。

その手には手紙が握られている。

 

 

「……城内に置いてあった」

 

 

犬千代はそう言うと雷電にその手紙を手渡した。

雷電は手紙を広げ読みだすが、どうも読めない部分があったため、となりにいる段蔵へ手紙をパスし、読んでもらうことに……。

受け取った段蔵はやや呆れ顔になりつつも手紙の内容を音読しはじめた。

どうやら手紙は半兵衛宛てのようだ。

 

手紙の内容は半分くらいは口説き文句のようなものだったが要約するとこうだ。

守就はやはり長政によって連れ去られており、守就を返してほしければ一人で長良川の中州、墨俣まで来いというものだった、ようは脅迫である。

 

 

「叔父さまが!?大変です……ぐすん、ぐすん」

 

 

手紙の内容を聞いた半兵衛は我慢しきれず泣き出してしまった。

半兵衛の背中を段蔵はさすりながら優しく声をかける。

その姿は妹の面倒をみる姉のように雷電には見えた。

 

 

「もう夜じゃねーかっ!俺いったい何時間失神してたんだ!?」

 

「……やっと起きた」

 

「すっかり忘れていたな……」

 

 

半兵衛のすすり泣く声だけが流れていたその場に、館の中から良晴の目覚めた声が聞こえてきた、かと思えば館の外へ飛び出してきた。

雷電たちを見つけた良晴は、半兵衛が泣いていることに疑問を抱きながらこちらに近づいてきた。

雷電たちは良晴に事情を説明しながら彼にも手紙のことを教える。

聞いた良晴は拳をフルフルと震わせ、長政に対する憤りを露わにした。

 

 

「半兵衛ちゃん、一人で行っちゃだめだぜ、危険だ!」

 

「十中八九、行ったら今度はこの子がさらわれるでしょうね」

 

「ですが行かなければ叔父さまが……、くすん」

 

「……犬千代たちが行って長政を倒せばいい」

 

「だがよ、安藤のおっさんが人質の上、こっちは五人ぽっちだぜ?あっちはこっちを待ち伏せで備えてるだろうし、危険じゃないか?」

 

 

犬千代は黙したまま、期待を込めた目で雷電を見上げる。

それで良晴も納得したのか、あぁ!と声をあげて手をポンッと鳴らした。

 

 

「そうだ、雷電さんがいれば百人力じゃねえか!これなら長政の野郎をぶっ飛ばしておっさんを助けられる」

 

「だけど、もし長政が旦那のことを知っていたら、今度は警戒して出てこない可能性もあるんじゃない?旦那無駄に名とか知れ渡ってますからね。もしかしたら、近江まで知れてるかも」

 

 

そうなのか?と雷電が段蔵の発言に意外そうな顔をする。

本人はあまり自覚はないようだが、雷電のことは尾張はもちろん、その周辺国まで行商人などを通じて知れ渡っている。

行商人でなくても、間者などを忍ばせている国にはもっと詳細なことが知られてしまっている可能性がある。

 

確かに雷電が同行すれば、半兵衛をさらわれるなんてことにはならないだろうし、伏兵にあっても切り抜けることはできそうだが、警戒されて出てこなければ意味が無い。

そもそもあっちの条件は半兵衛が一人で墨俣まで行くこと。

ぞろぞろと引き連れて行けば、あっちは交渉決裂ということで安藤守就を始末するかもしれない。

とはいえ、半兵衛を一人で行かせるのは危険。

 

そうしてみんなが悩んでいると、半兵衛が控えめに手を挙げてきた。

みんなの視線が一斉に自分へと集まり、一瞬ビクッと身を震わせる。

それでも「あっ、あの……」と自分の言いたいことを伝えようとしていた。

 

 

「どうしたんだ、半兵衛ちゃん?何か言いたいことがあるのか?」

 

「遠慮しないで、このおねぇちゃんに言ってみなよ」

 

 

口ごもる半兵衛に良晴と段蔵が優しく声をかけると半兵衛は俯き加減で語りだした。

 

 

「あの……、皆さん私に同行してくれると言ってくださいますが、それだとこの稲葉山城はどうするのですか?皆さんが同行したら、空になった城を義龍様が取り戻しに来ます。これ以上、美濃攻略に時間をかけられない皆さんにとっては稲葉山城を占拠するほうが重要なのではないですか?」

 

「……確かに、どうしよう良晴?」

 

 

半兵衛の口から語られたのは雷電が気にしていたことだった。

雷電もまた稲葉山城を確保しておいたほういいのでは?と考えていたのだ。

だから先ほどから会話の輪から外れ、ただこの一点を気にしていた。

 

雷電は段蔵にこのことについて聞こうとしたが、明らかに彼女は半兵衛についていく気まんまんなため聞く前から答えは見えてる。

どうやら困っている半兵衛をほっとけないようだ。

 

良晴も彼女同様に半兵衛についていく気らしいが、信奈と長政の結婚を阻止したい彼にとって稲葉山城を放棄するのは、阻止するチャンスを棒にふることと同義だ。

そのことをわかっているのだろうか?

 

 

「相良氏、雷電氏」

 

 

そんなことを考えていた雷電の耳に館の床下から舌足らずな声が微かに聞こえてきた。

良晴も気が付いたようで、二人は顔を見合わせると聞こえてきた床下に近づき、しゃがみこんで下を覗く。

 

 

「五右衛門か、いままでどこにいたんだよ!」

 

「面目ござらぬ。拙者、先ほどまで式神に追い回されて逃げ回っておりまちたゆえ」

 

(五右衛門……。確か良晴の相棒の忍だったか)

 

 

五右衛門とは"石兵八陣"の際に一度、顔と声を確認した程度だが面識はある。

目が赤く、まだ幼女にも思える年齢の女の子だが、忍としての腕は一流。

良晴の話では、この見た目で川賊の川並衆を率いる頭領であるというのだから驚きである。

これも良晴から聞いた話だが、三十文字以上のセリフをしゃべると噛むらしい。

 

その五右衛門は良晴に館に火を点けるなりして半兵衛をここで足止めして安藤守就を見殺しにするよう献策していた。

 

長政に安藤守就を殺された半兵衛は、浅井に恨みを残すことになり、そして義龍は半兵衛は謀反の疑いありとしてこれを用いない。

そうなると自然と半兵衛は良晴に味方する他なくなり、稲葉山城も義龍に奪還されずに済み、美濃は信奈のものとなる。

 

これが五右衛門が考えた策だった。

雷電は純粋にその策に関心していた、それなら半兵衛も稲葉山城も手中に収めることができる。

利益だけを考えればまさに上策だ。

 

そう、利益だけを考えるのであれば……

良晴はそういった人物ではなかった。

 

 

「この俺に二度とそんな献策するな、五右衛門!」

 

 

良晴はこの五右衛門の策を拒否し、断固として安藤守就を助けると声を張った。

策を拒否された五右衛門は怒るわけでも落ち込むわけでもなく、「そう言うと思っていたでござる」とどこか嬉しそうな声をあげ、微笑んだ。

どうやらこの少女は良晴の性格を良く理解しているらしい。

 

そのやりとりを黙って見ていた雷電もつられるように笑みがこぼれた。

 

 

「あの、……良晴さん、雷電さん、どなたとお話されているのですか?」

 

「あぁ、俺の相棒の忍の五右衛門だ、半兵衛ちゃん。俺の友達……っていうか家族だよ」

 

 

良晴はこちらの話のことを半兵衛たちに伝えるために歩いていく。

残された雷電は五右衛門に話しかけようとしたが、先にあちらが口を開いた。

 

 

「まったく、相良氏は何でもかんでも救おうとする。しゅべての実を拾おうとするのはあちゅかまちいでちゅな。そうは思わぬでごぢゃらぬか雷電氏」

 

「……すまん。後半あたりがまったく聞き取れなかったんだが」

 

「うにゅ……。拙者、長台詞は苦手なんでござる」

 

 

長台詞というほど長くはなかったと思うが…、という言葉は心の中だけにとどめておく。

恥ずかしいのか、頬を染めながら黙り込む五右衛門に苦笑いする雷電。

 

一度彼女から視線を外し、良晴たちに移す。

いま良晴は安藤守就を助けることをみんなに伝え、半兵衛に稲葉山城を返すことと謀反は誤解であることを義龍に伝えるための手紙を書くように言っているところだった。

どうやら本当に稲葉山城をあきらめるようだ、……いや、おそらく最終的には奪うつもりなのだろう。

ただ今回は半兵衛のために一度あきらめるだけ、良晴は何もあきらめていない。

 

 

「フフッ、随分と欲張りなやつだな」

 

「しかし、いつかは何かをあきらめねばならぬ時が来るでござる」

 

「いや……おそらくあいつは最後まで何もあきらめないだろうな。あきらめるんじゃなく、最後まで足掻く方を選ぶ、そんな気がする」

 

 

そこで一度口を閉じて言葉を区切る。

良晴の真っすぐな目を見ながら、雷電は口を開きさらに語りだした。

 

 

「すべては救えなくても、良晴のような真っすぐな奴にしか救えない者たちがいる。今は甘い部分が多々あるようだが、それは周りのやつが支えればいい。ああいった人柄の人物は貴重だ。変に現実を見すぎて性根がねじ曲がった奴に比べれば好ましい奴だよ」

 

「随分と相良氏を買っているでごさるな」

 

「買いかぶりだったか?」

 

「ふふっ、どうでござろう」

 

 

五右衛門はうれしそうに目元がゆるませる。

「そういえば」と何かを思い出したような声をあげた雷電は、もう一度屈み五右衛門にあることを尋ねる。

 

 

「さっきの話をする時、なんで俺まで呼んだんだ?」

 

「事前に教えておかねば、館に火をつけて足止めしようが雷電氏によって無理やりにでも突破しゃれかねないと思ったからでごじゃる」

 

「……なるほど」

 

 

やや噛み気味だったが問題なく聞き取れた。

確かに何も事情を知らせないでそんなことをしたら、半兵衛たちを抱えて火の海を飛び越えるなんてことをしでかさないとも限らない。

実際その理由を聞いた雷電自身も納得してしまった。

 

無言で立ち上がると雷電は再度良晴に目を向ける。

視線は良晴に向けている雷電、だがその目は良晴たちを移さずどこか遠くを見ているような感じだった。

その口が微かに動き、ぼそぼそと独り言をしゃべっていた。

 

 

「雷電殿?」

 

 

言葉がまったく聞こえなかった五右衛門は床下から少し這い出てきて雷電に聞き返す。

その五右衛門の頭に雷電は手を置く。

突然のことだったので驚いたのか、手の下から五右衛門の可愛らしい小さな悲鳴が聞こえた。

 

 

「良晴はどうやら刀や槍を扱うのはからっきしのようだ。お前がちゃんと守ってやることだ」

 

 

雷電にしては優しい口調でそう語った。

 

この時代の女性たちは非常にたくましいと雷電は最近感じ始めていた。

それは目の前の五右衛門に対しても例外ではなく、この小さい体ですでに戦場に立ち、川賊などを率いているのだから馬鹿にできない。

 

そう感じていたからこそ、先ほどのような言葉をかけたのだ。

もし、五右衛門がこれほどまでに優秀でたくましい人物でなければ、こんな年端もいかない少女に「守ってやれ」などとは言わない、むしろ「守ってやる」と言うところである。

 

だが、頼もしいと感じると共にこの幼さで戦場に立つことになっている彼女たちを見ていると、少年兵時代のことを彷彿とさせる。

 

 

「無論でござる。相良氏を幹とち、拙者はその陰に控える宿木とちて力をあわちぇてともに出世をはたちゅ。我々はそういう約束をちたのでごじゃる!」

 

「……もしかして、(噛むの)わざとやってるのか?」

 

「わざとではごじゃらん!!」

 

 

手の下でとくとくと語る五右衛門だったが、雷電の一言に顔を真っ赤にしてプンプン怒りだし、しまいには胸の前で小さく九字を切るとどこかへと消えてしまった。

気配までもキレイに消えてしまったことに雷電は驚きつつ、忍者ってのは大したもんだな、と関心しながら良晴たちの元へと歩み寄る。

 

あちらの話はちょうど終わっていたらしく、結局全員で墨俣へいくということになった。

相変わらず全く迷いのない目をした良晴に「いいのか?」と一応聞いた雷電だが、予想通り良晴は無言でだがしっかりと頷いた。

もし雷電がいくら異論を唱えようと良晴は自分の考えを変えないだろう。

だが雷電もこれ以上異論を言うつもりは毛頭ないので、この決定に素直に従うことにした。

 

ただ、段蔵が言っていたように雷電を警戒して姿を現さないと困るので、雷電と段蔵は念のため良晴たちとは別行動で墨俣へ行くことになった。

良晴たちは長良川から、雷電たちは木曽川から墨俣へ向かい挟み撃ちにするようにそれぞれ行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

良晴たちよりも先に木曽川沿いに墨俣へと急行している雷電たちは夜陰に乗じて行動していた。

おそらく長良川を筏で下っていく良晴たちの方が先に着くだろう、そして良晴たちを見つけた長政の意識があちらに向いているうちに雷電と段蔵が背後から奇襲し、安藤守就を救出する。

長政が連れている配下の人数によっては相当危険だが、雷電も段蔵も遅れをとるつもりなど無い。

 

良晴たちに協力するというこの行動は本来信奈から命令外の行動、つまり独断専行なのだが、二人とも良晴たちに協力することを良しとしている。

一応先ほど密かに合流した残りの仲間に良晴たちのことや、それに協力することを信奈に伝えに行かせた。

独断専行なのには変わりはないが、何も報告しないよりはマシだろう。

 

相手の待ち伏せを警戒しながらしばらく川に沿って行くと森などが無い開けた場所へと出た。

ここからは先ほどまでいた稲葉山城が見え、今頃は半兵衛の手紙を受け取った義龍が城へと戻っているころだろう。

 

二人はより一層警戒を強めて辺りの捜索を始める……が。

 

 

「……誰もいないな。姿どころか声や足音さえも聞こえない」

 

 

いくら探しても長政や守就どころか、敵の姿もまったく現れない。

周りから聞こえて来るのは川の流れる音や虫の音、あとは自分たちの微かな足音くらいしか聞こえてこない。

そうして探し回っているうちに長良川から急襲していた良晴たちと合流してしまった。

彼らはその場に呆然としており、まだこちらに気づいていない。

 

となりにいる段蔵が額に手を当てながらため息を吐いた。

 

 

「これは一杯喰わされたみたいですね」

 

「墨俣に来ていないとなると、あの色男の狙いは何だ?」

 

 

呆然と立ち尽くしている良晴たちに合流した雷電たちは、犬千代に砂地に記されている文章を見るようにうながされ、二人は顔を突き合わせてその文章を読んだ。

 

長いこと書かれていた文章を要約すると、自分は半兵衛の謀反人の汚名を免れるために裏切り者の役を買って出たという弁明のようなことが書かれており、そして「斎藤家に帰参するのは無理でしょう」「だから近江に参られよ」と誘い文句を書き、最後には安藤伊賀守は我が家臣となった時に返す、と書かれていた。

 

 

「長政の野郎は俺たちを稲葉山城から引きずり出して、織田の美濃攻略を長引かせるつもりだ。あいつの狙いは信奈との政略結婚で織田を吸収することだ」

 

「まんまとあいつに踊らされたわけか。単なる色男というわけでは無さそうだな」

 

 

騙されたことに怒るよりも、むしろ関心している雷電に「関心している場合じゃねえよ!」と良晴にしては少し強めに注意した。

 

 

「はあ……。ここで立ち尽くしていてもしょうがねえ。一度半兵衛ちゃんを菩提山に送り届けよう。もしかしたら城を取り戻した義龍が半兵衛ちゃんを討ちにくるかもしれない」

 

「長政がどこにいるかはわからない以上、そうした方が良さそうね」

 

 

良晴の提案に段蔵が賛同したことにより一行は長良川をさかのぼり、北にある半兵衛の本領、菩提山へと向かうことにした。

 

長良川をのぼるため、筏に乗り北上を開始する。

脳が睡眠を欲していたため、段蔵に何かあればすぐに起こしてくれと一応頼んでから、仮眠をとることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「私も———あなたを天下に輝かせながら、あなたを守っていきたいです」

 

 

半兵衛のその言葉で雷電は浅い眠りから目を覚ました。

雷電は意識をはっきりさせるため、まぶたを何度かパチパチと瞬かせながら声のしたほうへと目を向ける。

そこには半兵衛と良晴が背を向けるように立っていた。

 

 

「ありがてぇ!」

 

 

良晴は悲鳴のような声でそのように言うと、半兵衛に向けて土下座しだした。

何がなんだかわからない雷電は、ただその光景を黙ってみていた。

 

 

「頭をおあげください、我が殿。これからは、殿のために家臣として知略と陰陽術を使ってゆきます」

 

「違う!半兵衛ちゃんは家臣なんかじゃねえ、仲間であり、家族だっ!だから殿なんて呼ばずにいままで通り良晴さんって読んでくれ!」

 

 

そういいながら良晴は何度も何度も頭を下げ、こすりつけていた。

 

二人の会話から雷電は半兵衛が良晴の家臣になることを決心したのか、とようやく状況を把握した。

そして半兵衛の主になったというのに、いまだに頭を下げ続ける良晴の姿が少しおかしく感じ、軽く声を上げて笑う。

雷電は良晴という人物を知れば知るほど、良晴を高く評価した。

女好きで、槍働きはからっきしな奴だが、妙に肝が据わっていて、仲間のためなら命を惜しまない。

それでいて命のやり取りを嫌い、敵であろうと拾える命は拾おうとする欲深さ。

 

 

「ある意味、ンマ二首相に似ているかもな……」

 

 

雷電はかつて自分が高く評価していた人物を思い出す。

アフリカの新興国の首相であったンマ二首相は、各部族間の争いを対話で解決しようと尽力し、それぞれに真摯に話を聞き、可能な限り平等な政策をした人格者。

 

しかし、雷電は護衛対象であったンマ二首相を目の前で殺されてしまった。

今でもその時の自分の非力さを思うと、腹をえぐられるような思いになる。

 

 

(こいつは絶対に死なせはしない)

 

 

今度こそ守りきると心に決めた雷電は、高周波ブレードの柄に手を置く。

 

 

(俺は戦場に快楽を求めるどうしようもない人間だ、俺の手で人を生かすことなどできない。ならば人を生かす役は良晴に任せよう。俺はあいつを守ることで人を生かす)

 

 

雷電はそう自らの剣に誓った。

「一つを守ることで多くを救う」、これが雷電の「一殺多生」に代わる剣の理念になった。

 

半兵衛が良晴に仕えることを誓った傍らで、雷電もまた静かに誓いを立てた。

 

 

 

 

 

 





どうも話を進めるペースが遅い気がする。
書きたい場面は多くあるけど、そこまでが遠い……

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